« 「第百八十七話」 | トップページ | 「第百八十九話」 »

2010年1月20日 (水)

「第百八十八話」

「ワオ~ン!」
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?
「ワオ~ン!」
そして、そ眼下にそびえ建つマンションの6階の1室では、なにやら大変な事態が巻き起こっていたのである。
「どうすればいいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
座り込んで髪の毛をグシャグシャにして嘆く女。この女、勘違いで男を殺してしまった女である。
(おいおいおいおい、マジかよ!?)
その女の目の前に横たわる男。この男、勘違いで女に殺されてしまった男である。
「何でよ!?何でこうなっちゃったのよぅ!!」
(それはこっちの台詞だ!このアホ女!)
幽霊は本当に存在するのか?その真相は定かではないがしかし、この場合、横たわる男は今、人間と幽霊の狭間に位置している。いわば、もう間も無く本当の死を迎える存在である。つまりそれは、意識のみの塊なのである。
「マズイよね、マズイよね。やっぱ、やっば警察に通報しなきゃだよね。」
(当たり前だ!しっかり法で裁かれろ!アホ女!)
1つモヤモヤする疑問を解消しておこう。
「ワオ~ン!」
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?ではなく、何故、勘違いで女が男を殺してしまったのか?何故、勘違いで男が女に殺されてしまったのか?である。簡潔に説明するならば、発端はこうである。女が仕事から帰宅して来ると、部屋に男が居て、男が寝室から出てくると、部屋に女が居たのである。そして、あまりの恐怖状態に女は、勇猛にも果敢にも男へ飛び掛かり、男は、勇猛果敢に女に飛び掛かかられ、首を絞め絞められ、殺し殺されてしまったのだ。
(何が腹立つって、あれだよ!こう言った場合、普通は近場にあった鈍器のような物を手に取っての撲殺だろ?それを何で!何で鬼の形相からの絞殺なんだよ!このアホ女!)
「ダメダメ!撲殺ならまだしも!勘違いで絞殺しちゃいましたぁ。テヘッ!は、ないない!通用しないって!」
(果てしなくアホ女か!絞殺だろが、撲殺だろが、刺殺だろが、爆殺だろが、勘違いで隣の部屋に入って来て勘違いで人殺しした女が、テヘッ!で許されるか!!何を逃げ道を模索しちゃってんだよ!)
そう、そもそもは、部屋を勘違いした女から始まった勘違いだらけの出来事なのだ。
「てか、これって普通に逃げちゃえばいくない?」
(いや、いくないだろ!この国の警察なめんなよ?だいたい其処ら中に指紋べったしだろ!)
「あ、ダメだ!指紋がべったしだ!勘違いして部屋に入って来てからも、しばらく勘違いで、いつもみたいに生活しちゃったもん。至るところに指紋べったしだよ。拭き取るには、掃除専門の方達をお呼びしなきゃだよ。」
(仕事から帰って来て、寝室から着替えてリビングに来たら、寛いでテレビ観てんだもんなぁ。一瞬だけ、俺の方が勘違いしたのかと思っただろうが!このアホ女!)
「あっ!」
(何だ!?)
「そうよ!」
(どうした?)
「そうそう!あったまよい!」
(何が!)
「これならアタシが殺した事にはならないわよ!」
(だから、何がだ!てか、ならないわけならないだろって!)
「すんばらしいわ!!」
(おい!!)
「画期的だわ!!」
(こら!!)
「ナイスアイデア!!」
(だから、何なのかを言えってば!!)
「あっ、でも無理かぁ。」
(何が?)
「無理だよなぁ。」
(だから、何がだよ!)
「てか、完全に無理だよぉぉぉ!」
(ふん!どうせあれだろ?アホな考え巡らせてたんだろ?きっと第一発見者にでもなって、それで指紋の問題を解決でもしようとしたんだろ?アホめ!首を締めた手形が、びったんこなんだよ!)
「経済的に、無理だよなぁ。」
(経済的?経済的って何だよ!)
「この男をバラバラにして部屋の壁に埋めたとしても、その後、ここの部屋を買い取れるほど、今のアタシに経済的な余裕ないもんなぁ。」
(おいおいおい!こりゃ、とんでもなく果てしなくアホだな。アホと言うか、悪魔かこの女は!危うく経済的に余裕があったら、俺はバラバラにされて壁の中だったのかよ!もういいから、観念して早く警察に連絡しろよ!)
「ああっ!!」
(今度は何だよ!)
「襲われた事にすればいいんだよ!」
(はあ???)
「無理矢理この男に部屋に連れ込まれて!」
(ああ???)
「アタシが襲われそうになった所を!」
(おおおおおおおおおおおい!?)
「無我夢中で抵抗した結果!首を絞めて殺しちゃった事にしちゃえばいいんだよ!どう?」
(俺に聞くなよ!?会話出来んなら、迷わず答えはNOooooooだ!!)
「そうよ!帰宅して鍵を開けてる最中に、実家から送って来た果物をお裾分けしたいとかなんとかって声を掛けられて、部屋に入ったら、用意するまでリビングでテレビでも観て寛いでて下さいなんて言われて、まんまと寛いでると、背後から襲われた。で、正当防衛!よし!!」
(よし!!じゃねぇよ!ちょっと待てアホ女!俺はなにか?タイプでもない女を襲った事になるのか?タイプでもない女を襲って逆に殺された男になるのか?タイプでもない女に勘違いで殺されただけじゃなく、死後もずーっと親戚一同にタイプでもない女を殺したって事で迷惑掛けなきゃならないってのか?ふざけんな!!)
「あっ、ダメだ!こんなタイプでもない男に声掛けられて、ノコノコ部屋に上がり込むようなアタシじゃない!いくら罪を逃れる為とは言え、それはアタシのプライドが許さないわ!!」
(そりゃこっちの台詞だ!!アホ女!!)
夜も深まる頃、犬は何故に夜空へと向かって吠えるのか?
「ワオ~ン!」
それはおそらく、犬に聞かなければ分からない。ならばそれは、物語にも同じ事が言える。クライマックスがどうなるのかは、物語に聞かなければならないのである。
「ワオ~ン!」
それはつまり、物語を読み進めると言う単純な作業にも似た行為である。ではでは、この勘違いで始まった勘違いだらけの物語のクライマックスを、物語に聞いてみようではないか。
「ガチャ!」
「えっ!?」
(えっ!?)
突然、扉が開いたかと思うと、足音は2人が居るリビングへと、真っ直ぐ近付いて来る。
「だ、誰!?」
(まさか!?警察?いや、警察なわけない。)
「警察じゃないわよね。だったら?」
(なら?)
「(誰!?)」
息を殺し、足音の主を待つ2人。
「ドサッ!」
「な、何じゃ!?」
リビングに入るなり、大きな旅行カバンを床に落とす老紳士。この老紳士が、足音の主である。
「お隣さんとお隣さんが、何でワシの部屋におるんじゃ!?」

第百八十八話
「601号室の男と603号室の女」

|

« 「第百八十七話」 | トップページ | 「第百八十九話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/32884211

この記事へのトラックバック一覧です: 「第百八十八話」:

« 「第百八十七話」 | トップページ | 「第百八十九話」 »