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2010年1月27日 (水)

「第百八十九話」

「何なんですか!」
「いや、俺に言われてもだよ。警察は、国が決めた法律に則って動いてるだけだからよ。」
「ふざけんな!!」
「まあまあまあ、落ち着いて落ち着いて、何も死刑になる訳じゃないんだ。こうして取り調べを受けて、後は3日間の検査にパスすれば、晴れて無罪なんだからよ。」
「無罪?僕は何の罪も犯しちゃいないんだ!早く僕を家に帰してくれ!」
「俺もそうしてやりたいがな。そう簡単には、行かないんだよ。」
「何なんですか!さくらんぼ罪って!」

第百八十九話
「チェリー」

「だから、何度も言ってるだろ。さくらんぼが、こう2つ繋がってて、それを左から食べたからだってよ。」
「だから!何で繋がってるのを左から食べただけで逮捕なんですか!左から食べたら逮捕で、右から食べたら逮捕じゃないって、何なんですか!」
「無罪とは言ったが正確には、まだ逮捕じゃねぇよ。重要参考人だ。で、検査に引っ掛かっちまったら、逮捕だ。」
「同じ事です!」
「少し落ち着いたらどうだ?そんな怒鳴りっぱなしじゃ、喉渇くだけだぞ?」
「こんな理不尽な状況で!落ち着いていられますかっての!」
「まあな。」
「だいたい!さくらんぼ罪なんて聞いた事もないですよ!」
「・・・・・・・・・。」
「何で黙るんですか!」
「いや、まあな。」
「何ですか!何かあるなら言って下さい!もし納得出来る説明なら、その時は僕も、素直に重要参考人として検査に応じますよ!」
「本当だな?本当に、素直に検査に応じるな?」
「ええ、その代わり納得出来たらです!」
「・・・・・・・・・分かった。」
「お願いします。」
「そもそも、さくらんぼ罪ってのは、公表されてない裏の法律なんだよ。」
「裏の法律!?」
「まあ、その辺は詳しく言えないんだが、さくらんぼ罪の他にも、同じような裏の法律が、まだまだあるんだ。でだ、お前さんが気になってる、なぜ左から食べたらってとこだがな。」
「・・・・・・・・・。」
「ある年から、人間が殺人を犯す確率をあらゆる観点から事前に予測する財団が結成されたんだ。」
「殺人を予測する!?」
「まあ、人間の行動心理や過去の殺人犯のデータや家族構成や生い立ちや、まあ、とにかく色々かき集めて分析調査して、人が殺人を犯す確率、つまり殺人指数を弾き出すんだ。」
「まさか!?」
「人間が、どんな行動をすれば、それが近い将来、殺人を犯す事に繋がるのか。長年の研究で、その財団は見事そのメカニズムを作り上げちまったんだよ。信じられないかもしれないがな。」
「ええ、とても信じがたいです。」
「だが、お前さんが、ここにいるって事が、その事実を証明しちまってるんだよ。でだ、その殺人予測の人間の行動パターンの中の1つに、2つ繋がりのさくらんぼを左から食べるってのがあるんだよ。」
「ちょっと待って下さいよ!」
「おいおいおい、いいか?俺に言われてもだからな?これは、お前さんが考えも及ばない程の規模で動いてる計画なんだ。お前さんが、ある男に拳銃を突き付けられて、引き金を引く瞬間、お前さんは、男が自分を殺すつもりだと初めて理解する。そこで時間を巻き戻してみると、男は左からさくらんぼを食べていたって訳だ。」
「そんな馬鹿な!?」
「世の中ってのは、そんな馬鹿なって事が、自分の知らないとこで巻き起こっちまってんだよ。無意識殺人、殺人予知、潜在殺人指数、人間の真本能、人によって呼び方はさまざまだ。まあ、財団が付けた正式な名称が長くて難しから、俺らみたいな者は、覚えられないってのが、現状なんだがな。」
「待って下さい。」
「納得出来ないか?まあ、俺らも納得出来てないんだから、そりゃ仕方ない。」
「これは、もはや納得出来る出来ないのレベルじゃないんでしょ?」
「まあ、そう納得するのが1番だな。考えようによっちゃあ、あれだぞ?殺人を犯す前にここに連れて来られて、お前さんは幸運だったじゃないか。」
「僕が納得出来ないのは、この殺人予測の行動学じゃありません。なぜですか?なぜ、僕が部屋で1人でさくらんぼを左から食べていた事が、分かったんですか?」
「・・・・・・・・・。」
「まさか!?人間、1人1人を監視するシステムが実行されているって言うんですか!いくらなんでも、それはやり過ぎた!!」
「・・・・・・・・・。」
「すいません。刑事さんに言ってもですよね。」
「まあな。もしかしたら、俺ら警察の知らないとこで、人間を1人1人監視するシステムが秘密裏に別の意図で行われてるかもしれないな。だが、殺人予測の場合は違う。詳しくは言えないが、対象物には色々と細工がしてあるんだ。で、その信号をキャッチした財団が、警察に通報して来るって訳だ。」
「そうですか。」
「お前さんが、ここに連れて来られのも、さくらんぼを左から食べた時に、規定の数値を越えただけであって、何も、さくらんぼを左から食べた人間が全て連れて来られたりする訳じゃない。たまたま、数値を越えた最後が、さくらんぼ罪だってだけの罪名だ。」
「検査って、僕はいったい何をされるんです?」
「まあまあまあ、そう怯えなくたって大丈夫だ。何も脳をいじくったり、人体実験をしたり、洗脳したりして、別人にしちまう訳じゃないんだ。ただカウンセリングを受けて講習を受ける簡単なもんさ。お前さん、部屋の掃除をした事あるだろ?」
「ええ。」
「それと同じだ。部屋にこびりついた汚れや溜まった埃が殺人数値で、掃除機や洗剤がカウンセリングや講習って訳だ。まあ、簡単に言えば、数字を0にクリアして社会に戻すって訳だ。」
「なら!」
「ああ、再びお前さんがここにやって来る事もありえるだろうな。」
「・・・・・・そうですか。」
「そう落ち込む事もないだろう。さっきも言ったが、本当に殺人を犯しちまったら、死刑かもしれないんだぞ?」
「そうですね。」
「さてと、そろそろ取り調べを終わりにするか。」
「はい。」
「その前に、何だか喋り過ぎて喉がカラカラだ。お前さんもコーヒーでいいか?」
「はい。」
「ガチャッ!!」
「警部!」
「ああ、彼とコーヒーを飲んだら、引き渡しの手続きを始めるよ。」
「その必要はありません。」
「どう言う訳だ?」
「警部、貴方を重要参考人として取り調べします。」
「何だと!?」
「罪名は、さくらんぼ罪の30代後半の重要参考人の男とコーヒーを一緒に飲もうとした罪です!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

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