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2010年2月

2010年2月 3日 (水)

「第百九十話」

「こんにちは、赤ちゃん?」
「はい、こんにちは。」
「ええーっ!?赤ちゃんが喋っちゃった!?喋っちゃったよ!?」
「いや、お母さん?」
「しかも、お母さんって、言っちゃったよ!?」
「いや、ちょっと?」
「男の子だから大きくなってからいずれは、お母さん、って呼んで欲しかったけど、まだ小さい頃は、絶対にママって呼ばれたかったなぁ!呼ばれたかったのになぁ!だのに!お母さんって言っちゃいましたよ!?」
「じゃあ、ママ?」
「使われた!?気っ!!を使われた!?生後数ヶ月の我が子に、気を使われちゃったよ!?」
「あの、お母さん?先程から、何をそんなに驚いているのですか?」
「何を驚くって!明らかに原因は一つでしょうが!赤ちゃんが喋っちゃうからじゃない!」
「いやでも、そのうち喋るようになるのですから、今喋っちゃっても同じ事じゃないですか?」
「なら、そのうち喋ってよ!そこ気を使ってよ!そこに気を使ってよ!」
「はあ。」
「頃合いよ!何事も頃合いが大事なのよ!頃合いを制する者が!頃合いを制するのよ!」
「あ、はあ。」
「それに喜びは?親としての言葉を教える苦労と、その結果がもたらす喜びは?それにだいたい、その!人はどうせ死ぬんだから今死んだって同じ事だ!理論!何なのよ!」
「まあまあ、確かにお母さんの意見も分かります。でも、喋れちゃうのですもの。喋れちゃったのですもの。それはもう、仕方のない事では?」
「だーかーらーっ!それならそれで、頃合いを見計らって喋ればいいでしょって!それで、あとあとになってから、実は、お母さん。僕は、赤ちゃんの頃から喋る事が出来たのですよ!喋れちゃっていたのですよ!ってな具合に、さらっとカミングアウトすればいいじゃない!」
「いや、しかしですね。頃合いと言われましても、喋れるものは、喋れるのですから、喋りたくなりますよ。それにほら、泣くより喋って伝える方が、何かと便利なのでは?」
「ちょっと待ってよ!。ねぇ?母親的には、赤ちゃんが初めて喋るって、物凄く一大イベントだったのよ?それを何?その成り行きまかせの風まかせな雑なまとめ方!」
「でも、事実ですし。まあ、初めて喋る事で、僕がお母さんを喜ばす事は出来ませんでしたが、いい大学に入って、いい会社に入れば、いいのでしょ?」
「ええーっ!ヤダーっ!それはそれできっと喜ぶと思うけど、生後数ヶ月の我が子の口から聞きたくなかったーっ!何だか今後の親子関係気まずいーっ!」
「まあまあ、そこはほら、近い将来が今やって来たのだと無理矢理納得してもらいましてですね。」
「だから、そのウンコになれば皆同じだ!理論!をやめなさいって言ってるでしょ!それにね。さっき、さらっと喋った方が何かと便利だってぬかしてらっしゃっていましたけどね。それは違うわよ!」
「そうでしょうか?」
「そうかしら?って、そうに決まってるでしょ!赤ちゃんが、何で泣いてるのかしら?ご飯かなぁ?おしめかなぁ?それとも、熱があるのかなぁ?あら?ちょっと待って!?大変っ!凄い熱だわ!すぐにお医者さんに連れて行かなきゃ!あっ!?でも今日は、日曜日!どうしよう?どうしたらいいの?アナターっ!ちょっとアナターっ!我が子が凄い熱出しちゃったのーっ!とか、出来ないのよ?」
「テレビの観すぎではないでしょうか?」
「つまりアタシが言いたいのは!母親でありながら、赤ちゃんの泣き声を聞き分ける事の出来る母親耳を持たない母親になってしまうって事よ!」
「いいではないですか。別に赤ちゃんの泣き声を聞き分けられなくても、そもそもが赤ちゃん十色なわけなのですから。」
「それもそうね。って何よそれ?一匹ゴキブリを見たら数十匹いる!理論!それで、チェックメイトしたつもり?冗談じゃないわ!そうやって理詰めで来るなら来いよ!ほら、来いよ!ほらほら!絶対に返り討ちにしてやっから!」
「いや、これは勝ち負けの話じゃないのでは?それと、ご飯やおしめの話が先程出た次いでに言っておきますが、ミルクなら自分で作る事が出来ますし、おしめも自分で替える事が出来ます。と言うか、自分でトイレに行けますので、わざわざ、お母さんの手を煩わせる心配はありません。ですから、その空いた時間と浮いたおしめ代を、何かお母さんの好きな事へ使って下さい。」
「夢なら覚めてーっ!伝説の手の掛からない子の噂は、ちらほら聞いた事があるけど、まさかその伝説が我が子だったとは!?」
「あっ!それと、お風呂も一人で大丈夫です。」
「夢なら覚めてーっ!!ええーっ!親としての!母親としての赤ちゃんとのスキンシップまさかのゼロ!?アタシの母親としての赤ちゃんへ愛情を注ぐ場もまさかのゼロ!?」
「何を言っているのですか。こうして、僕を健康な体で産んでくれただけで、僕はお母さんから、十分すぎる程の愛情をもらっているのですよ?本当に、本当に心から感謝しています。僕を産んでくれて、ありがとうございました。」
「どういたしましてって、おい!おいおいっ!それはアタシが死ぬ時か、アナタが死ぬ時の言葉だろうが!この状況で、そんな捨て台詞を言われたって、泣けるかーっ!」
「いや別に僕は、お母さんを泣かせようと思って言ったわけではありませんよ。」
「あれ?育児ノイローゼかしら?だってほら?何だか何かと、さっきから赤ちゃんが喋ってる感じがするわ。」
「現実逃避ですか?」
「そうよ!悪い?現実を逃避せずして!如何にこの状況を打破せよと言うだね!!」
「何かに乗り移られましたか?お母さん、いくら現実逃避したとこで、これは紛れもない現実なのですよ?逃避ぜずに立ち向かわずしてどうするのですか!」
「そうよね!もう、この現実をどうこう出来るわけじゃないんだものね!受け入れて、前に突き進むしかないのよね!」
「お母さん!」
「って、でけるかーっ!!摩訶不思議を素直に受け入れられるだけのキャパシティーが欲しいーっ!!」
「お・・・母さん・・・・・・・・・。」
「てか、赤ちゃんが喋っちゃうとか、もうどーでもいい!」
「ヤケクソですか?」
「そうよ?クソ力よ!だってーっ!もうどうしようないんだからーっ!もうどうしようもないじゃーん!これまでの事は、これまで!そう無理矢理に割り切るとしてよ!大事なのはこれからの事よ!」
「そうですね。」
「だから、一つ聞かせて?」
「はい、何でしょうか?」

第百九十話
「つか、何で敬語?」

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2010年2月10日 (水)

「第百九十一話」

 ドアを開けるとそこには、美しすぎる女性が立ってた。話を聞くと、どうやら僕が、どこかで助けた、何かのようで、その恩返しに来たのだって言う。玄関で立ちすぎる話も何だから、僕は美しすぎる女性を部屋に上げて、詳しく話を聞く事にした。因みに、僕の心の中には、不思議すぎるほど下心みたいなものはなかった。それはきっと、たぶんおそらくすぎるぐらい、目の前の美しすぎる女性が、実は何かが恩返しの為に、人間の姿へと化けすぎてるって事を、ギリギリすぎる所で理解しすぎてたからだ。

第百九十一話
「何かの恩返し」

玄関で立ちすぎる話だろうが、リビングで座りすぎる話だろうが、相変わらずすぎるほど、美しすぎる女性は、美しすぎる。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうかなさいましたか?」
「えっ!?」
「大丈夫ですか?」
っと!危ない危ない!見とれすぎてしまった!気を抜きすぎるとヤバイな。ヤバすぎる。持ってかれる。後になって自分は、こんなものに見とれすぎてたのかって、後悔しすぎない為にも、今はギリギリすぎる所で踏ん張りすぎるんだ!その為にも先ずは、何なのかを聞き出すんだ。
「ああ、大丈夫大丈夫。で、恩返しでしたっけ?」
「ええ、そうでございます。」
「う~ん?と、言われてもなぁ?いまいちピンと来ないんだよねぇ?いつどこで、何を助けたんですか?僕は?」
「あの時です。」
「い、いや、もう少し具体的に言ってもらわないと。例えばほら、罠に掛かってたイノシシだとか、トラックに踏み潰されそうだったアリだとか、わんぱくに折られそうだった定規だとか、家にされそうだったダンボールだとか、シャチの餌食になりそうだったクジラだとか、使われないまま捨てられてしまう所だった謎のネジだとか、さ。」
「私は・・・・・・・・・。」
私は?さあ、ほらほら!言ってくれ!言っちゃってくれ!早く僕を、このギリギリすぎる所で踏み止まりすぎてる状態から解放してくれ!ほら!君の正体は?オオカミに食べられそうになってたマスかい?一番先に産み落とされすぎた一番下すぎるウミガメのタマゴかい?それとも、お茶碗の内側の手前側すぎて食べ忘れすぎてるカピカピになりすぎかけそうだったお米粒かい?何かと踏まれる回数の少なすぎるだろう階段の一段目かい?もしくは、あの日の雄のカマキリかい?プレゼントの包み紙かい?あるいは、彩りだけすぎるグリンピースかい?発音される事のなさすぎるアルファベットかい?君は、君は、いったい何なんだい?
「君は?」
「申し訳ございません!」
「はい?」
どうしたんだ?突然、何で謝るんだ?えっ!?ま、まさかの!?まさかのここへ来てのマンションの部屋番を間違ったとかって話じゃないよね?それはちょっとあれだぜ?あれすぎるぜ?やるせなさすぎるほどの話すぎるどころじゃあ、ないぜ?
「本当に申し訳ございません!」
「な、何で謝るんですか?」
「私は、貴方に助けられてここまで来たのですが、実は・・・・・・・・・。」
ほっ!やれやれ、何やらおっちょこちょいすぎる展開に巻き込まれすぎ損な感じが漂いすぎてたけど、何やらそれは僕の考えすぎる考えすぎだったみたいだ。
「実は?」
「実は、ここへ来る途中に、頭を強く打ってしまうと言うトラブルに出くわしまして、貴方に助けらた恩返しをすると言う事以外、自分が何なのか、いったいどこから来たのか、貴方にいつ、どのような形で助けてもらったのか。」
「ま、まさか!?」
「その全ての記憶が無いのです!」
「うわぁっ!!」
って、あまりの想像以上すぎる出来事が巻き起こりすぎて、声が出すぎちゃったよ!ええーっ!ちょっと待ってよ!どうすんの?この気持ちは?僕は何?じゃあ、このギリギリすぎる所で踏み止まりすぎちゃった気持ち、本当は得体の知れない美しすぎる女性なんだって気持ち、それらと所謂な気持ちとの狭間で、いつまで格闘し続けすぎなきゃならなすぎるんだよ!?
「本当に申し訳ございません!でも、恩返しはきちんと致します!私に出来る事があるなら、何なりとおっしゃって下さい!」
ヤバイ!これはヤバすぎるほどにヤバイ展開すぎる!つまりだよ。僕に助けられて、僕に恩返しをしなきゃって記憶以外の記憶がなさすぎるならだよ。自分が帰る所も分からなすぎるわけだよ。で、助けたい症候群すぎる僕がだよ。そんな状況下の美しすぎる女性を放って置くわけがなさすぎるんだよ。て事は、正体不明の僕に恩返しをしたい美しすぎる女性との共同生活がスタートしすぎるわけだよ。そして、記憶が戻らなすぎるまま月日が経つに連れすぎてだよ。共同生活が、同棲生活にいつしか変化しすぎるわけだよ。で、記憶が戻らなすぎるまま月日が経つに連れすぎてだよ。同棲生活が、夫婦生活にいつしか豹変しすぎるわけだよ。更に、記憶が戻らなすぎるまま月日が経つに連れすぎ・・・・・・・・・。ダメだーっ!!それ以上は、いくら想像だからと言って、想像しすぎちゃダメだーっ!!生まれて来た子供の姿が、釣糸が足に絡まりすぎてたカモだとか、ちっちゃくなりすぎた消しゴムだとか、奇抜な色すぎるドロップだとか、雨ざらしだったあのヘンチクリンすぎる像だとか、見るも無惨すぎる公衆便所だとか、って想像しちゃダメだ!これ以上、想像しすぎる事は、危険すぎる!!
「あのう?」
「はい!何でも致しますので、遠慮せずにおっしゃって下さい!」
「そのう?」
「はい!!」
「・・・・・・・・・か。」
「か?」
「か、帰って下さい。」
「えっ!?」
「帰って下さい。」
「しかしそれでは、私の気持ちが!」
「それが何よりもの恩返しです。」
「ですけ」
「いいから!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「早く帰れっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・分かりました。それで貴方に恩返しが出来るのであれば、喜んで帰ります。お世話になりました。」
美しすぎる女性を見送った僕は、玄関の天井を見つめすぎながら、両手の拳を握り締めすぎながら、必死すぎるぐらい納得しすぎてた。
「これでいいんだ。こうする事が一番なんだ。」
声にならなすぎる震えすぎる声を出して、一生懸命すぎるぐらい納得しすぎてた。
「僕は間違っちゃいない。何一つ間違っちゃいないんだ。」
目を閉じると、美しすぎる女性の顔を思い出しすぎそうだったから、涙が頬を伝わりすぎそうだったから、そんなに頑張りすぎなくてもってほど、頑張りすぎた。
「ああーっ!!」
でもやっぱりそれは、人体の構造上、不可能すぎる事で、僕はその場に泣きすぎて崩れすぎた。それは、得体の知れなさすぎる美しすぎる女性だからって、ギリギリすぎる所で踏み止まりすぎてた後悔に苛まれすぎたからじゃない。目を閉じた瞬間、思い出したんだ。あの美しすぎる女性の正体を!彼女は、買い物袋から坂道を転げ落ちすぎるミカンを一緒に拾い集めすぎて上げた時の単なる美しすぎる女性だったって事に・・・・・・・・・。
「恩返しとか言うからぁぁぁぁぁーっ!!お礼って言ってくれなきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!ああーっ!!」

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2010年2月17日 (水)

「第百九十二話」

「村がね!村がね!大変なの!お願い!救って!救世主!!!!!」
少女が、そう星に願った。だから、私は、少女の村を救う事にした。実際に少女の村が、どれほど大変なのかは知らない。具体的に言われてないから。だが、ソレは行ってみれば分かる事。そんな事よりも何よりも大事な事は、だ!少女が泣きながら星に願ったって事。私が少女の村を救う原動力として、これ以上の理由が、果たして必要だろうか?
「いやあ!お待たせしたね。」
その答えは、ノーだ。
「救世主!」
「救世主だよ。」
「来てくれたんだ!」
「来たよ。さあ、私が来たからには、もう凄く安心だ。」
「うん!」
「今から村を凄く救って上げるよ。」
「うん!うん!」
実際に目の当たりにした少女の村の大変さ具合は、私の想像の遥か彼方の更に上のかなり上を行ってた。この時ばかりは、救世主だからって、何でもかんでも救えるもんだろうって思ってる少女の純粋すぎる無垢な価値観に、憤怒だった。わざとではなく、純粋まかせに心の底から信じ願う事が、これほど罪深い事だとは、考えもしなかった事だったよ。だがしかしだ。だがしかし、アレだ。例え今回、この少女の村を救う事で、私が命を落とす事があったとしても、それは少女と交わした村を救うと言う約束を破る事に比べたら、何て事ない、どうでもいい事で、どうだっていい事だ。
「ありがとう!救世主!」
「私は、君の願いで駆け付けたまでだ。本当に村を救ったのは、純粋な心で村を救おうと願った君だよ。」
そんなこんなで私は、少女の村を救った。もしかしたら、笑顔がひきつってたかもしれないし、頭をポンポンってした手が異様なほどに冷たかったかもしれないし、足だってガクガク震えてたかもしれない。顔面蒼白だったかもしれないし、目の焦点すら合ってなかったかもしれないし、声も掠れて裏返ってたかもしれない。でもまあ、ソレは、ソレだ。どうにかこうにか、五体満足で無事に村を救う事と言う少女との約束を守る事が出来たし、これだけは最後に言ってやろうって、村を救ってる半ばぐらいから決めてた気付くか気付かないか程度の純粋さの罪深さについて、少女へアピールする事も満足に出来たし、今回の事で死に直面した時の救世主の直感って凄いんだなって、いやもしかしたら、私だけじゃなくて、一般人の直感も凄いんじゃないのかなって、少しだけ脳にシワを増やす事も出来たし、ここまでは誰が見たって聞いたって、万々歳だ。万々歳以外の何物でもない。万々歳って言葉がこの世になくっても、やっぱり万々歳だ。そう、ソレほどなまでのここまでの万々歳なら、私も家に帰って、今夜はグッスリ眠る事が出来た。だが、私の安眠を邪魔する、私が形振り構わず万々歳出来ない許せない点が一つだけあった。ソレは、少女の無茶振りの願い事でもなければ、死にそうになるぐらいの村の大変な事でもない。問題なのは、今現在。安堵と安息と平穏が入り交じった平和な村で、私に笑顔で感謝するその少女の笑顔が、実際には笑顔ではないって事だ。いやソレは、少女と初めて出会った時からの事かもしれない。

第百九十二話
「救世主は、変な顔」

「あの、さぁ?」
「なあに?救世主?」
「いや、分かってるんだよ。」
「何が?」
「自分でも毎朝、毎朝。毎昼、毎昼。毎夜、毎夜。毎時、毎分、毎秒。分かってるんだよ。嫌が負うにも、アレ?コレ何か違う。何か違うなってのはさ。アレ?コレ何かぽくない。何かぽくないなってのはさ。」
「ぽくない?」
「でもさぁ!誰かがやらなきゃ!誰かがやらなきゃでしょ!誰かが、どこかで救いを求めてるなら!どこからか、誰かが救わなきゃでしょ!」
「救世主?」
「どこかで誰かを救うのって、アレじゃない?気持ちじゃない?心じゃない?ハァー!でしょ?」
「ハート?」
「ノンノンノン、ハァー、ハァー!」
「ハァー?」
「アッメイジィンヌゥッ!だからつまりアレだよ!」
「ん?」
「顔じゃないじゃん!顔で救えないじゃん!顔じゃ救えないじゃん!顔が救うわけないじゃん!えっ?ええっ?顔なの?救う事に必要なのって顔なの?ならアレだ!この村の大変だったのを救うのって、顔が整ってたらアレなの?意外と簡単だったの?ちょいちょいちょ~い!ってすんなりだったっての?簡単に命を落しそうにならずに容易かったの?いやそうじゃないなぁ?ソレは、違うなぁ?違うと思うなぁ?整ってようが、整ってまいが、大変な事の大変さレベルに変わりはないなぁ。そこは、一定だと思うなぁ。一定値を安定して維持してるんだなぁ。じゃっ!やっぱりそうなってくるとさぁ!心じゃない?気持ちじゃない?救いたいと想う事じゃない?そりゃあ、救った結果、残念だったって思うかもしれないよ?そこは否めないよ?でもさぁ。救ったんだから!救ったんですから!救ったんですもの!プラマイ、プラでしょ!そこは!」
「うん!だから、ありがとね!救世主!本当に!本当に!ほんっっっっっとうにっ!村を救ってくれて!ありがと!チュッ!」
私は、己を恥じた。恥じて恥じて恥じまくった。短時間で、こんなにも恥じる事が出来るのかってぐらい恥じた。なぜなら、この少女の純粋な真っ直ぐな気持ちは、あまりにも純粋で、眩いほどに純粋で、ソレは私の想像の遥か彼方の更に上のかなり上の見えない所を行ってたからだ。私は、いったい何を熱弁する事があったんだろうか?少女の目の高さまで腰を下ろし、ちょっとだけ興奮して肩を揺すったりなんかして、しちゃって、いったい何を理解してもらう事があったんだろうか?何も言わずとも既に少女は、全ての事を全て理解してたじゃないか。始めから終わりまで、既に万々歳だったじゃないか。なのに私って救世主は・・・・・・・・・。大恥さらしだ!!救世主失格だ!!
「ありがと!私の救世主よ!本当に、ありがと!」
「うん!また、大変な事になったら、救いに来てね!」
「勿論じゃないか!」
「バイバーイ!」
力一杯、こんな私に手を振る少女を背に、私は止めどなく溢れ出す水が伝わる頬に刻まれた勇気を胸に、村をあとにした。

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2010年2月24日 (水)

「第百九十三話」

 街をしばらくぶらぶらぶらついて、地下にあるいつもの喫茶店に来ていた。アイスコーヒーを飲みながら、どんな話を書こうかって、アイデアを捻り出していたけど
「はぁ。」
出るのは溜め息ばかりで、アイデアは浮かばない。浮かばない時は、どんなに頑張っても浮かばない。浮かぶ時は、何にもしなくたって浮かんで来る。アイデアってのは、物凄く気まぐれで、とんでもなく我が儘なヤツだ。灰皿に溜まる吸い殻とは反比例して、浮かんでは消え、手が届きそうで届かない距離を保ち続けるアイデアと格闘する事、実に3時間。
「ダメかぁ。」
けして無駄な時間を過ごしていた訳じゃない時間だけど、部屋の掃除でもしてれば良かったって考えさせられる時間だ。
「ぼー。」
煙草を吸いながら、しばらく、ぼーっと店内を見渡していた。あそこの電球、何で取り換えないんだ?とか、次来た時には、季節限定メニューでも食べてみようかな?とか、誰が書いたんだか分からないあの絵は、誰が書いたんだ?とかって、干渉に浸っていた。まあ、つまりはどうだっていい事のオンパレードだ。
「ふわぁ~あ!」
そのうち何だか眠くなってきたから、家に帰って昼寝でもしようかなって考えが頭の中を巡った時だった。離れたとこで、Bセットを食べてる一人客のおじさんが視界に入った。眠気眼の寝惚け脳ミソで少しだけ考えた。あのおじさんが、実は物凄い人物だったら?って、もしかしたら、タイムマシーンとか作ってたら?って、そう考えると、ちょっとだけ小汚いおじさんが、少しだけ偉く見えて来るのが不思議でしょうがない。何を一生懸命に見ているのか僕の位置からじゃ、おじさんの手元がよく見えないけど、あれはもしかしたら、タイムマシーンの設計図かもしれない。
「ん?」
なら禁煙席の方で下らない話を展開してる二人客の男達の帽子を被ってない方の男が、さっきから店内の時計をチラチラチラ見しているけど、あの二人は実は、タイムマシーンの設計図を横取りしようとしているのかもしれないぞ?時間を気にしているフリをして、本当は博士の事を気にしているのかもしれないぞ?博士は、相変わらずBセットを食べるのと設計図を見るのに一生懸命で、産業スパイの存在にすら気付いていない。どうする?僕は、どうすればいい?博士に教えた方がいいのか?早く喫茶店から出た方がいいよって、忠告した方がいいのか?でも、出入口近くにいる産業スパイ達に気付かれないように博士が喫茶店を出て行くのは不可能だ。博士が出て行くと同時に産業スパイ達も出て行き、外に待たしてる第三の仲間が乗る車で、博士を拉致してしまうかもしれない。ダメだ。僕の軽率な行動で、大発明が悪の秘密結社の手に渡ってしまうかもしれない。僕はその重圧に堪えながら、この先の人生を歩んで行く自信がない。
「う~ん?」
そうだ!店員に裏口があるかどうかを聞いてみたらどうだ?そこから博士を逃がす事が出来れば、人類滅亡を回避出来る。
「あ・・・・・・・・・。」
目の前を通りすぎた女性店員を呼び止めようとした時、僕の脳ミソの負の思考回路が回転した。仮にもし、もし仮にだよ?あの女性店員すらも悪の秘密結社の一員だったら?博士が毎日のようにお忍びで来る喫茶店に忍び込み、来たるXデーに備えていたら?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
まあ、その確率はかなり低いとは思うけど、低いなりに確率がある時点で、地球の明るい未来の保証は、ない!
「えっ!?」
物凄く低い確率でたけど、女性店員を疑いの眼差しで見ていた僕の負の思考回路が、恐ろしい考えを導き出し、そして辿り着いてしまった。あの女性店員だけじゃなく、他の店員も皆、悪の秘密結社の一員だとしたら?それどころか、博士と僕を除いた喫茶店内にいる人間全員が、悪の秘密結社の一員だとしたら?
「はっ!?」
僕と博士にはもう、逃げる術がない!?どうする?もはや、喫茶店内の人間は、信用出来ないぞ?仮に裏口を発見出来たとこで、店員が悪の秘密結社だとしたら、必ず出口で待ち伏せされている。これじゃあ、殺されに行くようなもんだ。ダメだ。もう、裏口も安全じゃなくなってしまった。ならやっぱり正面突破しかない!僕と博士の二人が無事に逃げられる可能性は低いけど、博士一人だけが無事に逃げられる可能性なら、グッと高まる。
「うん!」
しょうがない。ここにこうして居合わせたのも何かの運命なんだとしたら、僕一人の命で地球が現状維持出来るんだとしたら、構わない!僕の命を賭けて、絶対に博士を悪の秘密結社の魔の手から、逃がしてみせる!
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
こうして目をつぶると、何だかいろんな事を思い出す。家族や友人や未来のお嫁さん、あの頃やあの時の楽しかった事や辛く悲しかった事。これから僕の未来で巻き起こればいいのにな?って事ややり残した夢の続きの事。でも今の僕には、その干渉に長く浸る事は許されない。一秒でも早く博士を悪の秘密結社の魔の巣窟と化したこの喫茶店から逃がさなきゃならないんだ!
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
さあ、時間だ!目を開けたら博士の元へ一直線!後の事は、後の事!とにかく僕に託された使命は、博士の無事脱出!さらば、僕の人生よ!地球の未来に幸あれ!!よっしゃあああああっ!!!
「あれ???」

第百九十三話
「気付けば客は僕一人」

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