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2010年2月17日 (水)

「第百九十二話」

「村がね!村がね!大変なの!お願い!救って!救世主!!!!!」
少女が、そう星に願った。だから、私は、少女の村を救う事にした。実際に少女の村が、どれほど大変なのかは知らない。具体的に言われてないから。だが、ソレは行ってみれば分かる事。そんな事よりも何よりも大事な事は、だ!少女が泣きながら星に願ったって事。私が少女の村を救う原動力として、これ以上の理由が、果たして必要だろうか?
「いやあ!お待たせしたね。」
その答えは、ノーだ。
「救世主!」
「救世主だよ。」
「来てくれたんだ!」
「来たよ。さあ、私が来たからには、もう凄く安心だ。」
「うん!」
「今から村を凄く救って上げるよ。」
「うん!うん!」
実際に目の当たりにした少女の村の大変さ具合は、私の想像の遥か彼方の更に上のかなり上を行ってた。この時ばかりは、救世主だからって、何でもかんでも救えるもんだろうって思ってる少女の純粋すぎる無垢な価値観に、憤怒だった。わざとではなく、純粋まかせに心の底から信じ願う事が、これほど罪深い事だとは、考えもしなかった事だったよ。だがしかしだ。だがしかし、アレだ。例え今回、この少女の村を救う事で、私が命を落とす事があったとしても、それは少女と交わした村を救うと言う約束を破る事に比べたら、何て事ない、どうでもいい事で、どうだっていい事だ。
「ありがとう!救世主!」
「私は、君の願いで駆け付けたまでだ。本当に村を救ったのは、純粋な心で村を救おうと願った君だよ。」
そんなこんなで私は、少女の村を救った。もしかしたら、笑顔がひきつってたかもしれないし、頭をポンポンってした手が異様なほどに冷たかったかもしれないし、足だってガクガク震えてたかもしれない。顔面蒼白だったかもしれないし、目の焦点すら合ってなかったかもしれないし、声も掠れて裏返ってたかもしれない。でもまあ、ソレは、ソレだ。どうにかこうにか、五体満足で無事に村を救う事と言う少女との約束を守る事が出来たし、これだけは最後に言ってやろうって、村を救ってる半ばぐらいから決めてた気付くか気付かないか程度の純粋さの罪深さについて、少女へアピールする事も満足に出来たし、今回の事で死に直面した時の救世主の直感って凄いんだなって、いやもしかしたら、私だけじゃなくて、一般人の直感も凄いんじゃないのかなって、少しだけ脳にシワを増やす事も出来たし、ここまでは誰が見たって聞いたって、万々歳だ。万々歳以外の何物でもない。万々歳って言葉がこの世になくっても、やっぱり万々歳だ。そう、ソレほどなまでのここまでの万々歳なら、私も家に帰って、今夜はグッスリ眠る事が出来た。だが、私の安眠を邪魔する、私が形振り構わず万々歳出来ない許せない点が一つだけあった。ソレは、少女の無茶振りの願い事でもなければ、死にそうになるぐらいの村の大変な事でもない。問題なのは、今現在。安堵と安息と平穏が入り交じった平和な村で、私に笑顔で感謝するその少女の笑顔が、実際には笑顔ではないって事だ。いやソレは、少女と初めて出会った時からの事かもしれない。

第百九十二話
「救世主は、変な顔」

「あの、さぁ?」
「なあに?救世主?」
「いや、分かってるんだよ。」
「何が?」
「自分でも毎朝、毎朝。毎昼、毎昼。毎夜、毎夜。毎時、毎分、毎秒。分かってるんだよ。嫌が負うにも、アレ?コレ何か違う。何か違うなってのはさ。アレ?コレ何かぽくない。何かぽくないなってのはさ。」
「ぽくない?」
「でもさぁ!誰かがやらなきゃ!誰かがやらなきゃでしょ!誰かが、どこかで救いを求めてるなら!どこからか、誰かが救わなきゃでしょ!」
「救世主?」
「どこかで誰かを救うのって、アレじゃない?気持ちじゃない?心じゃない?ハァー!でしょ?」
「ハート?」
「ノンノンノン、ハァー、ハァー!」
「ハァー?」
「アッメイジィンヌゥッ!だからつまりアレだよ!」
「ん?」
「顔じゃないじゃん!顔で救えないじゃん!顔じゃ救えないじゃん!顔が救うわけないじゃん!えっ?ええっ?顔なの?救う事に必要なのって顔なの?ならアレだ!この村の大変だったのを救うのって、顔が整ってたらアレなの?意外と簡単だったの?ちょいちょいちょ~い!ってすんなりだったっての?簡単に命を落しそうにならずに容易かったの?いやそうじゃないなぁ?ソレは、違うなぁ?違うと思うなぁ?整ってようが、整ってまいが、大変な事の大変さレベルに変わりはないなぁ。そこは、一定だと思うなぁ。一定値を安定して維持してるんだなぁ。じゃっ!やっぱりそうなってくるとさぁ!心じゃない?気持ちじゃない?救いたいと想う事じゃない?そりゃあ、救った結果、残念だったって思うかもしれないよ?そこは否めないよ?でもさぁ。救ったんだから!救ったんですから!救ったんですもの!プラマイ、プラでしょ!そこは!」
「うん!だから、ありがとね!救世主!本当に!本当に!ほんっっっっっとうにっ!村を救ってくれて!ありがと!チュッ!」
私は、己を恥じた。恥じて恥じて恥じまくった。短時間で、こんなにも恥じる事が出来るのかってぐらい恥じた。なぜなら、この少女の純粋な真っ直ぐな気持ちは、あまりにも純粋で、眩いほどに純粋で、ソレは私の想像の遥か彼方の更に上のかなり上の見えない所を行ってたからだ。私は、いったい何を熱弁する事があったんだろうか?少女の目の高さまで腰を下ろし、ちょっとだけ興奮して肩を揺すったりなんかして、しちゃって、いったい何を理解してもらう事があったんだろうか?何も言わずとも既に少女は、全ての事を全て理解してたじゃないか。始めから終わりまで、既に万々歳だったじゃないか。なのに私って救世主は・・・・・・・・・。大恥さらしだ!!救世主失格だ!!
「ありがと!私の救世主よ!本当に、ありがと!」
「うん!また、大変な事になったら、救いに来てね!」
「勿論じゃないか!」
「バイバーイ!」
力一杯、こんな私に手を振る少女を背に、私は止めどなく溢れ出す水が伝わる頬に刻まれた勇気を胸に、村をあとにした。

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