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2010年2月24日 (水)

「第百九十三話」

 街をしばらくぶらぶらぶらついて、地下にあるいつもの喫茶店に来ていた。アイスコーヒーを飲みながら、どんな話を書こうかって、アイデアを捻り出していたけど
「はぁ。」
出るのは溜め息ばかりで、アイデアは浮かばない。浮かばない時は、どんなに頑張っても浮かばない。浮かぶ時は、何にもしなくたって浮かんで来る。アイデアってのは、物凄く気まぐれで、とんでもなく我が儘なヤツだ。灰皿に溜まる吸い殻とは反比例して、浮かんでは消え、手が届きそうで届かない距離を保ち続けるアイデアと格闘する事、実に3時間。
「ダメかぁ。」
けして無駄な時間を過ごしていた訳じゃない時間だけど、部屋の掃除でもしてれば良かったって考えさせられる時間だ。
「ぼー。」
煙草を吸いながら、しばらく、ぼーっと店内を見渡していた。あそこの電球、何で取り換えないんだ?とか、次来た時には、季節限定メニューでも食べてみようかな?とか、誰が書いたんだか分からないあの絵は、誰が書いたんだ?とかって、干渉に浸っていた。まあ、つまりはどうだっていい事のオンパレードだ。
「ふわぁ~あ!」
そのうち何だか眠くなってきたから、家に帰って昼寝でもしようかなって考えが頭の中を巡った時だった。離れたとこで、Bセットを食べてる一人客のおじさんが視界に入った。眠気眼の寝惚け脳ミソで少しだけ考えた。あのおじさんが、実は物凄い人物だったら?って、もしかしたら、タイムマシーンとか作ってたら?って、そう考えると、ちょっとだけ小汚いおじさんが、少しだけ偉く見えて来るのが不思議でしょうがない。何を一生懸命に見ているのか僕の位置からじゃ、おじさんの手元がよく見えないけど、あれはもしかしたら、タイムマシーンの設計図かもしれない。
「ん?」
なら禁煙席の方で下らない話を展開してる二人客の男達の帽子を被ってない方の男が、さっきから店内の時計をチラチラチラ見しているけど、あの二人は実は、タイムマシーンの設計図を横取りしようとしているのかもしれないぞ?時間を気にしているフリをして、本当は博士の事を気にしているのかもしれないぞ?博士は、相変わらずBセットを食べるのと設計図を見るのに一生懸命で、産業スパイの存在にすら気付いていない。どうする?僕は、どうすればいい?博士に教えた方がいいのか?早く喫茶店から出た方がいいよって、忠告した方がいいのか?でも、出入口近くにいる産業スパイ達に気付かれないように博士が喫茶店を出て行くのは不可能だ。博士が出て行くと同時に産業スパイ達も出て行き、外に待たしてる第三の仲間が乗る車で、博士を拉致してしまうかもしれない。ダメだ。僕の軽率な行動で、大発明が悪の秘密結社の手に渡ってしまうかもしれない。僕はその重圧に堪えながら、この先の人生を歩んで行く自信がない。
「う~ん?」
そうだ!店員に裏口があるかどうかを聞いてみたらどうだ?そこから博士を逃がす事が出来れば、人類滅亡を回避出来る。
「あ・・・・・・・・・。」
目の前を通りすぎた女性店員を呼び止めようとした時、僕の脳ミソの負の思考回路が回転した。仮にもし、もし仮にだよ?あの女性店員すらも悪の秘密結社の一員だったら?博士が毎日のようにお忍びで来る喫茶店に忍び込み、来たるXデーに備えていたら?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
まあ、その確率はかなり低いとは思うけど、低いなりに確率がある時点で、地球の明るい未来の保証は、ない!
「えっ!?」
物凄く低い確率でたけど、女性店員を疑いの眼差しで見ていた僕の負の思考回路が、恐ろしい考えを導き出し、そして辿り着いてしまった。あの女性店員だけじゃなく、他の店員も皆、悪の秘密結社の一員だとしたら?それどころか、博士と僕を除いた喫茶店内にいる人間全員が、悪の秘密結社の一員だとしたら?
「はっ!?」
僕と博士にはもう、逃げる術がない!?どうする?もはや、喫茶店内の人間は、信用出来ないぞ?仮に裏口を発見出来たとこで、店員が悪の秘密結社だとしたら、必ず出口で待ち伏せされている。これじゃあ、殺されに行くようなもんだ。ダメだ。もう、裏口も安全じゃなくなってしまった。ならやっぱり正面突破しかない!僕と博士の二人が無事に逃げられる可能性は低いけど、博士一人だけが無事に逃げられる可能性なら、グッと高まる。
「うん!」
しょうがない。ここにこうして居合わせたのも何かの運命なんだとしたら、僕一人の命で地球が現状維持出来るんだとしたら、構わない!僕の命を賭けて、絶対に博士を悪の秘密結社の魔の手から、逃がしてみせる!
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
こうして目をつぶると、何だかいろんな事を思い出す。家族や友人や未来のお嫁さん、あの頃やあの時の楽しかった事や辛く悲しかった事。これから僕の未来で巻き起こればいいのにな?って事ややり残した夢の続きの事。でも今の僕には、その干渉に長く浸る事は許されない。一秒でも早く博士を悪の秘密結社の魔の巣窟と化したこの喫茶店から逃がさなきゃならないんだ!
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
さあ、時間だ!目を開けたら博士の元へ一直線!後の事は、後の事!とにかく僕に託された使命は、博士の無事脱出!さらば、僕の人生よ!地球の未来に幸あれ!!よっしゃあああああっ!!!
「あれ???」

第百九十三話
「気付けば客は僕一人」

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