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2010年2月 3日 (水)

「第百九十話」

「こんにちは、赤ちゃん?」
「はい、こんにちは。」
「ええーっ!?赤ちゃんが喋っちゃった!?喋っちゃったよ!?」
「いや、お母さん?」
「しかも、お母さんって、言っちゃったよ!?」
「いや、ちょっと?」
「男の子だから大きくなってからいずれは、お母さん、って呼んで欲しかったけど、まだ小さい頃は、絶対にママって呼ばれたかったなぁ!呼ばれたかったのになぁ!だのに!お母さんって言っちゃいましたよ!?」
「じゃあ、ママ?」
「使われた!?気っ!!を使われた!?生後数ヶ月の我が子に、気を使われちゃったよ!?」
「あの、お母さん?先程から、何をそんなに驚いているのですか?」
「何を驚くって!明らかに原因は一つでしょうが!赤ちゃんが喋っちゃうからじゃない!」
「いやでも、そのうち喋るようになるのですから、今喋っちゃっても同じ事じゃないですか?」
「なら、そのうち喋ってよ!そこ気を使ってよ!そこに気を使ってよ!」
「はあ。」
「頃合いよ!何事も頃合いが大事なのよ!頃合いを制する者が!頃合いを制するのよ!」
「あ、はあ。」
「それに喜びは?親としての言葉を教える苦労と、その結果がもたらす喜びは?それにだいたい、その!人はどうせ死ぬんだから今死んだって同じ事だ!理論!何なのよ!」
「まあまあ、確かにお母さんの意見も分かります。でも、喋れちゃうのですもの。喋れちゃったのですもの。それはもう、仕方のない事では?」
「だーかーらーっ!それならそれで、頃合いを見計らって喋ればいいでしょって!それで、あとあとになってから、実は、お母さん。僕は、赤ちゃんの頃から喋る事が出来たのですよ!喋れちゃっていたのですよ!ってな具合に、さらっとカミングアウトすればいいじゃない!」
「いや、しかしですね。頃合いと言われましても、喋れるものは、喋れるのですから、喋りたくなりますよ。それにほら、泣くより喋って伝える方が、何かと便利なのでは?」
「ちょっと待ってよ!。ねぇ?母親的には、赤ちゃんが初めて喋るって、物凄く一大イベントだったのよ?それを何?その成り行きまかせの風まかせな雑なまとめ方!」
「でも、事実ですし。まあ、初めて喋る事で、僕がお母さんを喜ばす事は出来ませんでしたが、いい大学に入って、いい会社に入れば、いいのでしょ?」
「ええーっ!ヤダーっ!それはそれできっと喜ぶと思うけど、生後数ヶ月の我が子の口から聞きたくなかったーっ!何だか今後の親子関係気まずいーっ!」
「まあまあ、そこはほら、近い将来が今やって来たのだと無理矢理納得してもらいましてですね。」
「だから、そのウンコになれば皆同じだ!理論!をやめなさいって言ってるでしょ!それにね。さっき、さらっと喋った方が何かと便利だってぬかしてらっしゃっていましたけどね。それは違うわよ!」
「そうでしょうか?」
「そうかしら?って、そうに決まってるでしょ!赤ちゃんが、何で泣いてるのかしら?ご飯かなぁ?おしめかなぁ?それとも、熱があるのかなぁ?あら?ちょっと待って!?大変っ!凄い熱だわ!すぐにお医者さんに連れて行かなきゃ!あっ!?でも今日は、日曜日!どうしよう?どうしたらいいの?アナターっ!ちょっとアナターっ!我が子が凄い熱出しちゃったのーっ!とか、出来ないのよ?」
「テレビの観すぎではないでしょうか?」
「つまりアタシが言いたいのは!母親でありながら、赤ちゃんの泣き声を聞き分ける事の出来る母親耳を持たない母親になってしまうって事よ!」
「いいではないですか。別に赤ちゃんの泣き声を聞き分けられなくても、そもそもが赤ちゃん十色なわけなのですから。」
「それもそうね。って何よそれ?一匹ゴキブリを見たら数十匹いる!理論!それで、チェックメイトしたつもり?冗談じゃないわ!そうやって理詰めで来るなら来いよ!ほら、来いよ!ほらほら!絶対に返り討ちにしてやっから!」
「いや、これは勝ち負けの話じゃないのでは?それと、ご飯やおしめの話が先程出た次いでに言っておきますが、ミルクなら自分で作る事が出来ますし、おしめも自分で替える事が出来ます。と言うか、自分でトイレに行けますので、わざわざ、お母さんの手を煩わせる心配はありません。ですから、その空いた時間と浮いたおしめ代を、何かお母さんの好きな事へ使って下さい。」
「夢なら覚めてーっ!伝説の手の掛からない子の噂は、ちらほら聞いた事があるけど、まさかその伝説が我が子だったとは!?」
「あっ!それと、お風呂も一人で大丈夫です。」
「夢なら覚めてーっ!!ええーっ!親としての!母親としての赤ちゃんとのスキンシップまさかのゼロ!?アタシの母親としての赤ちゃんへ愛情を注ぐ場もまさかのゼロ!?」
「何を言っているのですか。こうして、僕を健康な体で産んでくれただけで、僕はお母さんから、十分すぎる程の愛情をもらっているのですよ?本当に、本当に心から感謝しています。僕を産んでくれて、ありがとうございました。」
「どういたしましてって、おい!おいおいっ!それはアタシが死ぬ時か、アナタが死ぬ時の言葉だろうが!この状況で、そんな捨て台詞を言われたって、泣けるかーっ!」
「いや別に僕は、お母さんを泣かせようと思って言ったわけではありませんよ。」
「あれ?育児ノイローゼかしら?だってほら?何だか何かと、さっきから赤ちゃんが喋ってる感じがするわ。」
「現実逃避ですか?」
「そうよ!悪い?現実を逃避せずして!如何にこの状況を打破せよと言うだね!!」
「何かに乗り移られましたか?お母さん、いくら現実逃避したとこで、これは紛れもない現実なのですよ?逃避ぜずに立ち向かわずしてどうするのですか!」
「そうよね!もう、この現実をどうこう出来るわけじゃないんだものね!受け入れて、前に突き進むしかないのよね!」
「お母さん!」
「って、でけるかーっ!!摩訶不思議を素直に受け入れられるだけのキャパシティーが欲しいーっ!!」
「お・・・母さん・・・・・・・・・。」
「てか、赤ちゃんが喋っちゃうとか、もうどーでもいい!」
「ヤケクソですか?」
「そうよ?クソ力よ!だってーっ!もうどうしようないんだからーっ!もうどうしようもないじゃーん!これまでの事は、これまで!そう無理矢理に割り切るとしてよ!大事なのはこれからの事よ!」
「そうですね。」
「だから、一つ聞かせて?」
「はい、何でしょうか?」

第百九十話
「つか、何で敬語?」

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