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2010年3月

2010年3月 3日 (水)

「第百九十四話」

「んっ!?んんーっ!?んーっんーっ!」
何だ?何なのだ?私はいったいどうしたと言うのだ?椅子?私は、椅子に縛り付けられているのか?それに?私の視界と嗅覚と言葉の自由を奪うこれは・・・包帯?なぜ?なぜ何だ?
「んーーーっ!!」
誰か、誰か居ないのか?何だ?私は、いったい何に巻き込まれてしまったと言うのだ?どうなってしまったと言うのだ私は!!
「んーっ!んんんんーーーっ!!!」
理解不可能なこの状況下であっても私には、一つだけ明確に100%的中させる事が出来る予想がある。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
それは、私が巻き込まれたこの現状が、確実に雲行きの怪しい嵐の前の静けさだって事だ。何が起こる?これから私の身に、いったいどんなハリケーンが上陸すると言う?いや、違う。そうでは、ない。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
始めから、分かっていたではないか!しかし、私はパニックと言うハリケーンの目の中にそれを紛れ込ませて、故意にその確率を拒んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そう、私の身がどんな悪条件で悪天候な事態に巻き込まれようが、この状況下で、最後に私の身に訪れるのは、死。
「んんーっ!んんっ!んーっ!んーっ!んーーーーーーーっ!!!」
誰か、誰か私を助けてくれ!このままでは、脳ミソが歪んだ快楽殺人鬼に殺されてしまう!
「んんーっんんんんっんんーっ!!」
「うるせぇなぁ。」
「!?」
えっ!?男?
「いい歳したジェントルマンが、取り乱してんじゃねぇよ。孫に笑われっぞ?」
いつから居たと言うのだ?いや、始めからここには私と男が居たのか?なら、この男が私を拉致した張本人!?快楽殺人鬼!?
「んんーっ!!」
殺さないでくれ!お願いだ!
「ルール!」
ルール?
「アンタは、俺の質問に対して、首を縦か横に振る事しか許されない。」
何だって!?しかし、ここで無理に男の要求を拒めば、私は殺される。ここは、男の雲行きと確率を伺いながら、とりあえず質問を受け付けるしかない。
「いいかい?」
「コクリ。」
「OK、なら最初の質問だ。」
「コクリ。」
「明日も天気は、雨か?」
何!?天気だと!?
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうした?」
どう言う事だ?明日の天気を知って、いったいこの男は、どうすると言うのだ?いや、考えるな。山の天気と快楽殺人鬼の心は変わりやすいと言うではないか!ここは、素直に質問に答えるのが無難だ。明日は・・・・・・・・・
「さあ?」
・・・・・・一日中晴れだ!
「フリフリ。」
「晴れって事か?」
「コクリ。」
「雨は、降らない?」
「コクリ。」
「なるほど、洗濯日和ってやつか。」
洗濯日和?ああ、確かにこの一週間で言うなら、明日が唯一の洗濯日和だ。連日の雨で溜まってしまった洗濯物を干すなら、この天気の移り変わりが激しい時期での明日を逃せば、デートに着て行く服に困る事になる。
「じゃあな。」
「?」
えっ?じゃあな?そう言って男は、私の肩を軽く叩き、階段を上る足音と共に、去って行ってしまった。
「んんーっ!!」
何が巻き起こっている!?私は、いったい何に巻き込まれいるのだ?

第百九十四話
「気象予報士の地下室」

「明日は、晴か?」
「フリフリ。」
あの日から、いったいどれぐらいの月日が流れたと言うのだろうか?チューブによる栄養摂取とチューブによる汚物排泄で、私は生かされている。
「雨か?」
「フリフリ。」
毎日毎日、男は私の所へ来ては、明日の天気を聞くだけの日々。
「曇りか?」
「フリフリ。」
ただ、それだけで、ただ、それだけの日々。
「雪か?」
「コクリ。」
私が天気を的中させなければ、男はこの地下室から私を解放してくれだろう。
「じゃあな。」
しかし、それは私が二度と空を見られなくなると言う条件付だ。なぜならば、もしも私が明日の天気をわざと外すようならば、男が私を殺す確率は、100%だからだ。

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2010年3月10日 (水)

「第百九十五話」

「父さんはー!怒っているんだぞー!」
家族団欒の楽しい日曜日のはずだったのに、僕のパパは、寝起き開口一番で、激怒です。あっ、おはようございます。二階の寝室で叫ぶパパの声を、一階の朝食の並ぶテーブルをママと二人で囲んで聞いてる僕は、小学四年生のこの家の長男です。
「パパ、どうしたのかしら?いつになく激怒してるみたいだけど?」
「さあ?」
「そんな事より?」
「分かってるよ、ママ。」
パパの開口一番を不思議に思いながらも、それでも僕とママは、特にそれを気にする事なく、箸を進めてたんだ。
「おはよー!マイ、ファミリー!」
「おはよう、アナタ。」
「おはよう、パパ。」
で、数秒後にパパがドタドタドッタガタガタバーン!って階段を下りて、爽やかな笑顔でやって来たんだけど、鼻血が出てたから、何だか凄く怖いって言うか、不気味。
「ほら、そんなとこで不気味な笑顔なんて作ってないで、アタナも朝食を食べたら?」
「そ、そうだよ。」
「おやおや?何だか今日の朝食は、やけに豪華だな。まるで、誕生日か記念日なみの夕食みたいじゃないか!」
「それがね、パパ。」
「ちょっと!パパには、夕食まで内緒って言ったでしょ!」
いやいや、ママ。朝食で夕食のリハーサルをしといて、やっぱりそれは無理だよ。しかも、パパに、パパには内緒って聞こえる感じで言っちゃってるしさ。小学四年生の技術じゃ誤魔化しきれないよ。
「いただきまーす!」
「召し上がれ!」
「えっ!?」
まるで気にせず、ステーキを頬張っちゃったよ!?ワインもグビグビいっちゃってるし、ええーっ!この状況で、それが出来るって、余程の食いしん坊か、でなきゃ素晴らしく大人な対応だよ。
「で、アナタ?」
「ん?」
「何をそんなに激怒していたの?」
「そうだよ、パパ。」
「おっとそうだ!暢気にステーキ頬張って、ワイングビグビいっちゃってる場合じゃなかった!家は、どうして大家族じゃないんだー!!」
「はあ?」
「パパ?」
「母一人、息子一人、父一人、たったの三人じゃないか!八男九女ぐらいが良かったなー!」
ええーっ!僕が生まれて十年経過してから言う事!?八男九女が理想の人は、今更言わないって!?いや、そもそもそう言うのって、結婚する前にママと話し合うもんじゃないの?あり得ないぐらい口パクパクさせながら白眼むいて驚いてるんですけど!?
「ママ?大丈夫?」
「アナタもそう思っていたんですか!」
ええーっ!僕が生まれて十年経過してから言う事!?八男九女が理想の人は、今更言わないって!?いや、そもそもそう言うのって、結婚する前にパパと話し合うもんじゃないの?あり得ないぐらい口パクパクさせながら白眼むいて驚いてるんですけど!?って、何でパパが驚いてんの!
「パパ?大丈夫?」
って、僕はいったいこの訳の分からない時間を豪華なテーブルを前にして、どう過ごしたらいいの?
「お前、いつ頃からその野望を!」
「野望って!」
「アナタこそ、いつ頃からそんな大それた野望を!」
「だから、大それたって!」
「今朝だ!」
「今朝!?」
「私は、今!」
「今!?」
恐ろしい。とんでもなく恐ろしい事が僕の身の回りで今、起きちゃってるよ!?これはきっと、昨日の夜に大家族を取り上げたドキュメンタリー番組をテレビにかぶり付いて観てたパパが、一晩寝てる間に発酵して熟成された影響で発した開口一番に違いないよ!そして、その影響の影響をモロに受けまくったママで間違いないよ!
「ああ、あのう?パパ?ママ?大家族は、あくまで大家族で、そのう?今から家も大家族ってのは、ちょっと?」
「いや、十六つ子なら一発だ!」
「十六つ子!?」
「そうね!」
「マ、ママ!?」
いやいや、手を取り合って意気投合してるけど、無理だよ!十六つ子って、理屈ですらまかり通ってないんだよ?その辺、大人が二人いて何で分からないの?
「ちょちょちょちょ!十六つ子ってのは、どうかと思うよ?」
「いやなに息子よ!こんな時こそ気合いだ!」
「気合い!?いや、でもママのお腹が破裂しちゃうでしょ!」
「大丈夫よ!こんな時こそママも気合いよ!」
「ええーっ!?」
気合いって、そんなオールマイティーツールじゃないんですけど?絶対不可能を可能にするには、気合いには荷が重すぎるんですけど?
「いいいいやいやいや、例え気合いと気合いで、十六つ子がママのお腹の中に生命を宿したとしてだよ?」
「おおっ!」
「凄いわ!」
「いや、まだ例え話だから!そそそそれにほら?割合は?男女の割合!男女比が八対八になる割合はどうなの?そればっかりは、神様でも無理なんじゃないかなぁ?」
「息子よ!」
「嫌な予感がする。」
「この世に神など存在しない!」
「的中しそう。」
「そう!神様なんて存在しないわ!」
「的中したかも?」
「いいか息子よ!気合いで十六つ子がママのお腹の中に生命を宿した時点で!既に男女比は、八対八だぁぁぁぁ!!」
「よっしゃあっ!!」
「うわぁ・・・・・・・・・。」
ひくよ。ひいちゃうよこの状況。こんな神様より気合いって自己申告な感情を崇め奉ってはしゃぎまくる両親の姿なんて、この家族団欒の日曜日の特別な日に見たくなかったよ。
「安心しろ息子よ!」
「何を?」
「安心して!」
「だから、何を?」
「例え十六つ子が生まれて、八男九女になろうが!お前はこの家の長男だ!」
「はあ?」
「そうよ!永遠にこの家のお兄ちゃんよ!」
「はあああ???」
そりゃそうでしょ!そりゃそうでしょってば!だって長男って別に、長男って称号を賭けて、各家庭で長男決定戦や長男入れ替え戦が毎日毎日、繰り広げられてる訳じゃないもん!なりたくてなれるもんでもないし、やめたいからってやめれるもんじゃないもん!ああーっ!無茶苦茶だ!何もかもが無茶苦茶だよ!
「どうした?息子よ!」
「そんなに髪の毛をグシャグシャってして!」
「ああーっ!もーっ!」
滅茶苦茶だ!これじゃあ今日が滅茶苦茶だよ!訳の分からないパパの開口一番と影響受けやすいママのせいで、大事な大事な家族団欒の日曜日の特別な日が、朝の段階から既に無茶苦茶の滅茶苦茶じゃないか!!

第百九十五話
「僕は既にお兄ちゃん(仮)」

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2010年3月17日 (水)

「第百九十六話」

 長閑。この場所を長閑と表現せずに、いったい何処を長閑と表現したらいいものだろうか?そんな長閑以外の表現を全く受け付けない風景の中に、ポツン、とバス停があり、1日1本のバスを2人掛けの長椅子に座って待つ男が2人、居る。
「内緒ですよ。」
「・・・・・・・・・ええまあ。」
年齢も近い2人は、特に友人でもなければ、知り合いでもない。ただ、この長閑なバス停で一緒にバスを待つ事になった、ただただ、そんな関係の2人。
「あれ?」
「何か?」
「僕の話、信じてませんね?」
「別に、疑ってないですよ。」
2人掛けの長椅子を正面に、向かって右側に座ってるのが、地球の破壊を計画する男で、向かって左側に座ってるのが、地球の破壊を阻止する男だった。
「長閑ですね。」
「ええ。」
「こう、自然と口から長閑って単語が出て来ちゃいますもんね。」
「ええ。」
「でも、残念だなぁ。この長閑もあと少しで無くなっちゃうなんてね。」
緊張感から来るものなのか?それとも高揚感から来るものなのか?地球の破壊を計画する男は、胸に大事そうに抱え込むアタッシュケースを会話中もそうでない時も常に音が出ない程度の力で、リズミカルに弾いてる。
「あのう?私は、別に疑ってないですからね?」
「疑ってないけど信じてはいない!でしょ?」
「・・・・・・・・・かもしれません。」
「ほ~らね!でも、それはあまりにもどうでもいい疑心ですよ。」
「えっ?」
「だってほら、結局はどんなに疑っても、どんなに信用しなくっても、どうしようもない現実は、どうしようもないんですから!」
「そうですね。」
「まっ、そう言う事です!はあ、バスまだかなぁ?でも、つくづく長閑ですよねぇ?前も後も右も左も上も下も!球体的に長閑な場所って、ここぐらいじゃないですか?まあ、言うほどいろんな場所に足を運んでるわけじゃありませんけどね。でも、長閑な場所とそうでない場所、もしも人生の最後を過ごすならどっちがいいかって聞かれたら、やっぱり!長閑な場所を選びますよねぇ?」
「私は別に・・・・・・・・・。」
「ち、違うんですか!?」
「えっ?ええ、死ぬ時は、死ぬ時ですから・・・・・・。」
「まあ、そう言われちゃうとそうなんですけどね、としか言えないんですけどね。」
「すいません。」
「い、いやいやいや、謝らなくてもいいですよ。あっ!知ってます?」
「何をですか?」
「破壊衝動ってあるじゃないですか?」
「ええ。」
「僕が今考えてる破壊衝動ってのは、大きな集合体として、美しい女性を傷付けたくて殺人にまで至る衝動やジョイントフェチのような分解衝動に駆られちゃう衝動とかです。つまり、何かしら完璧で精巧で美的なモノを破壊・分解・木っ端微塵にしちゃいたいような衝動です。ダメ!って言われた事をしちゃうのとか自傷行為や死の美学的なのとは、ちょっと違うんですけどね。」
「欲求ですか?」
「う~ん?」
「違いましたか?」
「いやまあ、欲求に似た欲求です。やってる事は似てるけど、根っこの部分が違うんです。多少!」
「はあ・・・・・・。」
「でっ!でっ!でっ!何が言いたいのかと言うとですね。破壊衝動、特に完璧で精巧で美的なモノを壊したいと言う三拍子揃った欲求、そんなマイノリティなシンドロームの人からしたらですよ?うってつけなんですよ!」
「何がですか?」
「何がって、だから、この地球!がですよ!考えてもみて下さいよ。そんなマイノリティなシンドロームな男がですよ?ある日、目覚めたら、それまで特に当たり前過ぎて気付かなかった地球の美しさに、改めて、いや、初めて気付いてしまったとしたら?」
「初めて?」
「そうです!気付かなかったんですよ!それがあまりにも大きな存在過ぎてね!ほら、歩く行為そのものに対して人は、違和感なんて感じないでしょ?」
「ええ。」
「だから、地球の中で生まれ育った男にしたら、誕生から揺るぎなく存在してた地球の美しさや地球の精巧さなんて、無意識の彼方だったんですよ。」
「無意識。」
「そう!無意識です!でも、その無意識を意識した途端、男の破壊衝動を抑制する枷は、何処かに行ってしまった。いや、そもそもそんな無意識って意識自体に枷なんて初めから存在してなかったのかもしれない。いいですか?とどのつまり、気付いてしまったんですよ。」
「何にです?」
「地球が完璧な球体なんだって事に!それは物理的な事ではなく、感覚的なスフィア!完璧で精巧で美的な地球っ!!」
「スフィア・・・・・・完璧な球体・・・・・・それで、男は?」
「ありったけの破壊衝動をアタッシュケースの中に詰め込んだ!」
アタッシュケースをリズミカルに弾く地球の破壊を計画する男の指は、いつの間にか止まってた。それでもやはり、バス停を球体に包み込む風景は、相変わらず長閑だった。
「アタッシュケース・・・・・・・・・。」
「男にとって計画は、あくまでも地球を木っ端微塵にする事であり、でも?」
「でも?」
「・・・・・・・・・それにしても、バスまだですかねぇ?」
「あのう?」
「にしても、ここはずーっと、それこそ果てしなく長閑ですねぇ?」
「でも、何なんです!」
「えっ!?」
地球の破壊を計画する男が声をあらげて立ち上がると、胸に抱え込んでたアタッシュケースが、地面へと落下して行った。
「やばっ!?」
それを地球の破壊を阻止する男が、空を仰ぐ形で地面スレスレの所で胸に抱え込んだ。
「セーフ!」
「答えて下さいよ!でも、の続きを!」
「ああ、ですから、男にとっての計画とは、あくまでも地球を木っ端微塵にする事であり、でも!それは結果的に人類の滅亡へ繋がる事なんですよ。」
「人類滅亡?」
「そうです。地球が木っ端微塵になれば、人類の滅亡は免れません。気付いてもらえました?」
「ええ。」
「なら、やめません?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「地球の破壊?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まあ、無理にやめ」
「やめます!地球の・・・・・・破壊・・・・・・。」
「良かったぁ!」
地球の破壊を計画してた男は、ゆっくりと長椅子に座り込んだ。そして、地球の破壊を阻止した男は、大事そうにアタッシュケースを胸に抱え込み、長椅子の左側へと安堵の溜め息と共に腰掛けた。こうして長閑なバス停で巻き起こった地球史上最大の危機は、幕を閉じた。

第百九十六話
「守られた平和は、誰も知らない」

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2010年3月24日 (水)

「第百九十七話」

 僕の店は、たくさんの店で賑わう商店街に面した所にはなく、少し分かりづらいかもしれませんけど、僕の店は、商店街を右屋さんから入ってもらって、しばらく歩いて行くと螺旋状の細い曲がり角が見えて来て、その螺旋状の細い曲がり角を曲がってもらって、果てしなく続く螺旋状の細い道を歩いて行くと、その途中にあります。螺旋状の看板が目印です。そこが、僕の店です。

第百九十七話
「スパイラル屋」

「シックなの無いの?」
「シックは一番人気なんで、次回の入荷も未定なんですよ。」
「あら、そう。」
「ベーシックなら、ありますけど?」
「あら、そう。」
もちろん売っている物は、スパイラルです。スパイラル屋ですからね。多種多様なスパイラルを取り扱っています。まあ、どこにでもあるスパイラル専門店ってヤツです。でも、そんじょそこらのスパイラル屋や大手スパイラル店では、売っていない珍しいスパイラルや稀少なスパイラルを取り扱っているのが、他のスパイラル屋と一味も二味も違う所です。
「シックなのがいいのよね。ねぇ?あのケースに入ってるスパイラルって、やっぱり高いの?」
「高いですよ~!」
「いっつもここへ来る度に気になってたのよ。」
「世界に一つあるかないかのスパイラルなんですよ。」
「へぇ~!」
珍しいスパイラルや稀少なスパイラルが、どうしてこんな小さな僕の店にあるのか?それは、僕がスパイラルを求めて、果てしなく世界中を歩き回っているからです。まあ、買い付けとかスパイラル探しってヤツですね。
「って、ないか、はまずいんじゃない?」
「一つだけの稀少価値なスパイラルなんです!」
「本当に?」
「このスパイラル図鑑を見て下さい!」
「あら!」
「スパイラル史でも最古の物だと言われていて、値が付けられないと言われているんです。」
「あら、だったら非売品なんじゃない。」
「チッチッチッ!」
「チッチッチッ?」
「左屋の奥さん!僕をそんじょそこらのスパイラル屋と一緒にしないで下さいよ。スパイラル屋がスパイラルを非売品として店に展示してどうするんですか!それなら始めからスパイラル博物館に寄贈していますよ。僕は、売らない物を店に出すようなエゴイストじゃないんですよ?」
「なら、あれは?」
「もちろん!売り物です!でも、この国の数単位では付けられない値なんですけどね。いや、あのスパイラルに付けられる数単位を保持する国が果たしてあるのかすらも疑問です。」
「高っ!!」
「だから、高いですよ~!って、言ったじゃないですか。」
「本当の意味で値が付けられないって、もはや非売品同然じゃない!」
「買う!って人がいたら、売る!って、心意気が違うんです!」
「いや、だからもはや世界を引き換えにしたとしても買えないんでしょ?」
「はい。まあ、太陽と同額ぐらいかそれ以上ですね。」
「貴方、銀河海賊団なる者達が存在していたら、真っ先に狙われるわね。」
「おおっ!SF~!まあでも、今現在、銀河海賊団なる者達の確認情報が飛び込んで来ていないんで、安心です。」
「それぐらいの事だって言ってるのよ!あのスパイラルは!」
「ああ、なるほど!」
「博物館に寄贈しちゃえばいいじゃない。」
「ダメですよ!売り物なんですから!」
「実質、展示品じゃない!いい?仮に太陽と物々交換してくれって人が来たとしてよ?アンタ、太陽を手に入れて、いったいどうするの?なにが出来るの?」
「まあ、こう、とりあえず少し動かしてみます。」
「なんで太陽がリモートコントロールなのよ!じゃあなに?太陽って、太陽管理人みたいな人がいて、その人が毎日、毎日、リモコンで動かしてるわけ?」
「仮に太陽管理人がいたとしたら、物凄くその資格を取るのって難しいでしょうね。それに、仮に資格が取れたとしても、その先の人生は、一生太陽管理人に捧げないとダメなんでしょうね。僕には、出来ないなぁ。無理だなぁ。」
「仮の上乗せやめてくれる?まあ、いいわ。あのスパイラルが稀少価値なのは分かったわよ。で、シックなのはいつ頃入荷なのか分からないのね。」
「すいません。あっ!」
「どうしたの?」
「そう言えば奥に一つだけ売れ残りのシックなヤツがありました!そうだそうだ!」
「いや、それこそ店頭に置いとくべきじゃない!」
「21時10分専用スパイラルのシックなんですけどね。あまりにも売れ残るんで、もう奥にしまっちゃえって!忘れてた忘れてた!今、持って来ますね!」
「ちょっと待った!」
「はい?」
「いいわ!」
「いい?」
「わざわざ取りに行かなくてもいいわよ。」
「えっ?でも、買って持ち帰らないで、そのまま店に置いとかれるのとかって、凄く困りますよ。やっぱり代金引換で行きましょうよ!ねっ?代引きで!」
「今の話の中のアタシ、なにやってんのよ!それじゃあ、おこずかい上げてるのと同じじゃない!」
「そうなんですよ!」
「そうなんですよ!じゃなくて!買わないわよって事よ!いくらシックだからって、21時10分専用スパイラルって、使い所が分からな過ぎよ!」
「だから、売れ残ってるんですよ。」
「いや、21時10分専用スパイラルを奥にしまって、あの太陽と同額かそれ以上を店に置いとくって、やっぱりアンタ、エゴ展示してんじゃない!」
「違います!あのケースに入っているスパイラルは、売れ残ってるんじゃなくて!買いそびれられ続けているだけです!」
「屁理屈じゃん!」
「屁理屈です!」
「あらま!?あらまよ。出ちゃったわよ。あらまが!で?だいたい、あのケースに入ってるスパイラルって、一体全体どんなスパイラルなの?」
「それがですね。あのケースに入っているスパイラルはですね?」
「なんで、ここに来て耳打ち?」
「いやちょっと、銀河海賊団に聞かれると、あれなんで。」
「あら、そう。」
もし、そんじょそこらで手に入らない珍しいスパイラルや稀少なスパイラルが欲しくなったら、螺旋状の看板が目印の僕の店に来て下さい。でも、すいません。スパイラルを探し求めて世界中を歩き回っているもんで、せっかく足を運んでもらっても、休みかもしれません。でもでも、その時は是非、またの来店を!
「あら、そうっ!!!」

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2010年3月31日 (水)

「第百九十八話」

「人は、人の本質を見抜こうとしない。いや、自分では相手の本質を見抜いたつもりでいる。そう、つもりなんですよ。アタシの言いたい事、分かりますよね?」
「えっ?いやちょっと?」
「見た目や行動、目から入る情報だけでは、本質を見抜こうとしたって、見抜けないんです!それは、本質を見抜けない自分を、見抜いたつもりだって納得させている単なる虚しい行為なだけなんです!いいですか?肝心なのは、発する声なんです!会話の中身ではなく。自分の質問に対して、相手が答える声のトーン、間、語尾、温度、速度、振動、などなどです!それら全てを瞬時に理解し、整理し、分析し、推測し、仮定し、いくつかの答えへと絞り込む!そしてまた次の質問をぶつける!一つの質問で一つの答えを消去する!これを繰り返し、相手の心を丸裸にしていくんです!さあ、そうして辿り着いたそこにあるのは、何です?」
「へっ?」
「本質です!それが人の本質です!粘り強く、根気強く、しかし、迅速に、的確に、それが交渉人に求められる条件なんです!交渉人魂って、ヤツなんです!」
「・・・・・・・・・税務署の職員の方ですよね?」
「ええ、何か?」

第百九十八話
「悪夢の税務調査の巻」

「今の話は?」
「気にしないで下さい。いつもの事ですから。」
「私にしたら、初体験も初体験なんですけど?」
「新食感って、ヤツですね!」
「違います。」
「そんな事より爪屋さん!」
「ネイルサロンです!」
「失礼。えいと、まだ、うちの上司と貴女の税理士さんが来ていないようですが、さて、ガッツリ始めちゃいましょう!」
「へっ?税理士立ち会いでなきゃダメでしょ!しかも、ガッツリって!」
「じゃあ、ソックリ?」
「何が?いや、表現方法の問題でなくて!」
「お父様ですよね?」
「確かに、今から来る税理士は、私の父です。父の会計事務所にお願いしてますからね。」
「じゃあ、ソックリで!」
「意味がですよ!意味が分からないんですよさっきから何かと!個人的にソックリも微妙に嫌だし。」
「初めてですよね?税務調査。」
「はい。」
「そんなもんです。」
「はあ?」
「税務調査とは、意味が分からないもんです。」
「いやいやいや、新人の貴女が言っちゃったらダメでしょ!それだったら尚更、貴女の上司と、私の税理士を待ちましょうよ!」
「接待交際費なんですけどね?」
「前触れ無しに始まった!?」
「いいですか?前触れなんて巻き起こすから、相手に考える時間を与えてしまうんです!質疑応答の準備の隙を与えてしまうんです!前触れなんて、巻き起こさないに越した事ないんです!」
「確かに、じゃなくて、と、とにかく税理士が来るのを待ちまし」
「いくら待っても来ませんよ。」
「へっ?」
「今頃、外では、アタシの上司が貴女の税理士兼お父様をコブラツイストで足止めしている運びです!」
「なんてこった!?」
「おぞましいですよ。いい歳した初老同士の赤パンと黄パン一丁のコブラツイストの掛け合い!」
「いや、そこ驚いてたんじゃなくて!てか、コブラツイストの掛け合いって、父もノリノリみたくなっちゃってんじゃん!」
「まず、この接待交際費から始めましょう。」
「いや、これはもう、何かと、何かに違反してると思うんですけど!」
「毒をもって毒を制す!ある国のもっとも有名なフェイバリット諺です!」
「もっともでもないし、決め台詞でもないし、そもそもある国は、この国だし!」
「時に正義は、悪の悪事を暴くためには、悪以上の悪事を犯さなければならないのですよ!」
「悪、悪って、こんな小さなネイルサロンから税金を搾り取ろうする貴女達の方が悪じゃないですか!」
「毒をもって毒を制するには、毒をもって毒を制するですか。つまりそれは、正義をもって正義を制するって、ヤツですね!」
「へっ?と、とにかく言いたい事はいっぱいあるけど、何よりも顔がとても近いっ!!」
「いいですか?やりますよ!嫌ですとか、お得意の涙腺ユルユル攻撃とか、そんな事したって、お構い無しにやりますからね!」
「お得意って、見たのか!」
「申告書の摘要欄に書きましたよね?」
「書くかー!」
「もう!腹くくって下さいよ!でないと、レフェリーが不在のリング上では、今頃、貴女の税理士兼お父様とアタシの上司の四の字固めのひっくり返し合いですよ?」
「いったい何してんのよ!初老のオッサン二人は!てか、もうこうなったらヤケクソよ!来なさいよ税務調査!」
「ダッシャーッ!」

ラウンド1―接待交際費、消耗品費&新聞図書費―

「まず、何なんですか!この数々の遊具や装飾品!爪屋にゲーム機やらゲームソフトやらマンガやら多種類な雑誌やらDVDやらCDやら装飾品やらが、何故に!故に!こんなに必要なんですか!」
「ネイルサロンだって!そ、それはアレですよ。」
「アレ?アレとは?」
「えーと?だからですね。」
「ん?なるほど!アレですか!お客様に対してのサービスって、ヤツですか。どの様な年齢層の、どの様な趣味をお持ちのお客様が来られても、待たせてる間も、アートの最中も、居心地の良い空間作りからって、ヤツですか!それに、お子様連れのお客様にも対応するって、ヤツですね!この狭い狭い、想像以上に狭い空間を一種のアミューズメントパークの様にするわけですね!」
「そ、そうです!そこのドアからこの狭いネイルサロンに入って来てから、この狭いネイルサロンを出て行くまで!一秒たりともお客さんを飽きさせない!それが私が志すエンターテイメントネイルサロンなんです!」
「ご立派!」
「いやぁ、それほどのものです!」
「でも一つだけ宜しいですか?」
「はい?」
「レシートから察するに、その大量の娯楽用品が一つも、とにかく狭い店内に存在しないのは、何故です?」
「そ、それは、アレですよ!」
「アレ?はっ!?ま、まさか!?」
「お、お客さんにですね。」
「やっぱり!狭くて立地条件の悪いネイルサロンにとって、来て下さるお客様一人一人とは、密な間柄にいなくてはならない!そのためのプレゼント作戦ですね!ただ闇雲にアートをしているわけではなく、その間のお客様との会話のやり取りの中から、趣味嗜好やらを聞き出し、店内にある物ならば、その場で!そうでない物ならば、次回来店時に!狭くて立地条件の悪いネイルサロンならではのリピーター獲得大作戦ですね!」
「大作戦です!」
「そして、中には、飲食関連のお客様もいる!あししげくお店に足を運ぶ、逆客大作戦ですね!」
「大作戦です!」
「しかしですね。どうも腑に落ちない点が一つだけあるんですよ。このペット用品関連のレシートは、何ですか?」
「それは・・・・・・・・・。」
「ああーっ!」
「へっ!?」
「逆もまた真なり!与えるばかりではなく受けとる!例えお金が掛かろうが!例えその先に死が待ち受けていようが!お客様から無理矢理押し付けられた贈り物だろうが!ペットを最期のその時まで精一杯可愛がる!天晴れです!」
「ど、ども。」
「只今改装中状態のこの狭い殺風景なネイルサロンが、次はどの様なエンターテイメントでお客様を楽しませるアミューズメントパークに生まれ変わるのかが!楽しみで仕方ありません!」
「その時は是非!」

ラウンド2―会議費&福利厚生費―

「こっちからも一ついいですか?」
「涙腺ユルユル攻撃は、効きませんよ?」
「泣きません!」
「では、どうぞ。」
「あのう?なぜこの喫茶店のレシートが会議費にならないんですか?」
「ああ、それは一人だからですよ。一人で、会議って?何を会議?それって事業の経費じゃなくて家計費じゃん!って、ノリです。」
「ノリって、でもこれは立派な会議費です!」
「何故です?」
「いいですか?コレはですね。」
「こ、これはもしや!」
「えっ?」
「ああーっ!アタシは、とんでもない勘違いを!」
「勘違い?」
「そうですよね!そうでしたよね!ネイルアート、それはつまり、貴女は一人のアーティスト!クリエイターに休日など存在しない!365日クリエイターなんですよね!これは日頃、定時の事務職に勤しむアタシにとって、盲点でした!しかも!こんな狭い店内では、良いアイデアが浮かんだとしても集中してスケッチなど出来ませんもんね!帳簿を付けようにもお客様に丸見えですもんね!」
「その通りです!」
「でも喫茶店はいいとして、しかしですよ?このコンビニエンスストアやスーパーマーケットでの飲食代は、どう言う事です?これは間違いなく家計費ですよね!」
「違います!!」
「ぎゃふん!!」
「ぎゃふん!?」
「分かっちゃいましたよ!コレはアレですね!」
「ソレです!」
「やっはり!安い給与で働いてくれている爪屋のタマゴであるアルバイトの方々や、この狭い、あまりにも狭過ぎるネイルサロンを影ながら支えてくれている親族や友人の方々への心遣いですね!どうしてもお金では補いきれない部分!いや、あえてお金で補いたくない部分!更に相手が、お金では受け取らない部分!それをこうして、食費や生活用品と形を変え、そこに目には見えないけど、心にツーンとくる感謝と言うスパイスをぶっかけてるんですね!爪の恩返しって、ヤツですね!」
「はい!」

ラウンド3―カピバラ費―

「さて、最後ですけど、ここが今回の調査の最重要ポイントで山場です。カピバラ費って、何なんですか?」
「カピバラ費は、カピバラ費です。」
「はあ?」
「リラクゼーションなんです。私にとって、カピバラは単なる世界最大のネズミじゃなくて、安らぎなんです!あの瞳!あのフォルム!あの動き!あの雰囲気!それはもう!全てがなんです!疲れた体を癒してくれるんです!渇いた脳を潤してくれるんです!折れ掛かった心を支えてくれるんです!本当は店のマスコットとして飼いたいぐらいだけど、何かの条約に反するかもしれないから、今のとこは動物園などで触れ合う程度で我慢してるんです!」
「・・・・・・・・・。」
「とにかくこの狭いネイルサロンが狭くてもネイルサロンとして営めているのは、カピバラのお陰なんです!もはや私じゃなく、カピバラが真のオーナーだと言っても過言じゃないぐらいなんですよ!ソレは!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「その気持ち凄く良く分かります!」
「ありがとう!」
「さて、もっとこうしてギュッと握手を交わしていたい所ですが、アタシはもう行かねばなりません。」
「じゃあ!」
「はい。今回の税務調査は、これにて終了です!」
「ほっ!」
「では、アタシは、最後の大仕事へ!」
「大仕事?」
「ええ、早くレフェリーに戻って、ビッグブーツ、アックスボンボーからのギロチンドロップの黄金パターンから、貴女のお父様がアタシの上司に、スリーカウント取られるのを阻止しなければなりません!!」
「早く行って上げて下さい!!早くっ!!そしてもう、二度と来ないで下さいっ!!!」

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