« 「第二百話」 | トップページ | 「第二百二話」 »

2010年4月21日 (水)

「第二百一話」

 夕日が沈みかけて来た通りに面する住宅街。
「バタン!」
そこに佇む一軒の家の前に黒い車が止まり、中から黒いコートを着た黒いスーツの男が黒い手袋をはめた手に黒い小包を持ち、風に吹き飛ばされないように黒い帽子を反対の黒い手袋をはめた手で押さえ、黒い車から出て来た。
「タッタッタッ!」
男は、通りから玄関へと続く道を小走りに、そして数段ある階段を一気に駆け上がった。
「ビィィィィィィィィィィ!」
チャイムを鳴らしてしばらくすると、中から白髪の男性が現れた。その老人は、男を暖炉のある部屋へと招き入れ、男をソファーに座らせると、グラスに入れたウォッカを男の前のテーブルの上に置き、自分は手にしたグラスと共に、暖炉の前のロッキングチェアに座った。
「ここは天国だな。」
男は、ウォッカを一口飲み、そう言うと、黒い小包をテーブルの上に置き、再びウォッカを一口飲んだ。
「私は、5時半と言ったつもりだが?」
老人はロッキングチェアに揺られながら、ウォッカを一口飲むと、暖炉の上の置き時計を見ながら呟いた。
「ああ、だからほら、時間通りだろ?」
男は、ウォッカの入ったグラスとは反対の黒い手袋をはめた手で髪の毛をクシャクシャしながら、ウォッカの入ったグラスを持った黒い手袋をはめた手で暖炉の上の置き時計の方へ伸ばして言った。
「やれやれ、確かにこの時計は、5時半丁度を指している。」
「時間通りだ。」
「いや、今5時半丁度と言う事は、君が私の家を訪れた時には、5時28分~5時29分ぐらいだと言う事だ。」
そう言うと老人は、ゆっくりとウォッカの入ったグラスを口に運んだ。
「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。遅刻して文句を言われるんならまだしも、少し早く来て文句を言われたんじゃあ、ジョークにもならないぜ?とにかく小包は、届けた。俺は、帰らしてもらうぜ。ごちそうさま。」
そう言って男がグラスをテーブルの上に置き、立ち上がろうとした瞬間、男は老人の異変に気付いた。
「お、おい!?そりゃいったい何のジョークだ?」
「ジョーク?ジョークでこんなもんを人に向けると思うか?」
老人のそれは、ショットガンだった。
「ま、まあまあ、落ち着いてくれよ。少し早く来た事は謝る。なっ?悪かったよ。ほら、こうして小包はちゃんと届けたんだ。頭を吹き飛ばされる程の事じゃないだろ?」
「どうやら君は、何も分かっちゃいないようだな。君が5時半に来なかった時点で、私にしたらもはや小包の事など、どうでもいいのだよ。」
「はあ?」
「君の上司に、何も言われなかったのか?」
「ボスに?」
「そうだ。」
「5時半に、小包をアンタの家へ持って行けと言われただけだが?」
「だけど、君は5時半に来なかった。」
「だからちょっと待ってくれよ!5時29分だろうが、5時31分だろうが、小包を届けた事には、変わりないだろ?お、おい!?何やってんだ!?」
老人は、ショットガンを構えながら、ゆっくりと男に近付くとテーブルの上にある黒い小包を手に取り、暖炉の中へと投げ込んだ。
「言っただろ?君が5時半に来なかった時点であの小包には、もう意味がないと。」
「俺を騙したのか?それとも・・・・・・俺を試す何かなのか?そもそも小包は、何でもなかったってのか!」
「いや、あの小包の中には、この世界を震撼させる事が出来る程の重要なモノが入っていた。」
「お、おい!?訳が分からねぇよ!だったら何で燃やしちまうんだよ!」
「君は、とても頭が悪いようだな。」
「何だって!?」
「終わったら、少し君の上司に文句の一つでも言ってやらないといけないな。」
「ま、待て!終わったらって、それって俺を殺すって事か?」
「この状況がジョークでない以上、必然的にそうなるだろうな。」
「ふざけるな!!俺は、ちゃんと小包を届けたんだ!!殺される覚えはない!!」
「全く君には、呆れるよ。覚えがない?私がこれだけ言っているのにか?」
「小包よりも5時半がそんなに重要なのかよっ!」
「もちろん。」
「ア、アンタおかしいよ。頭がどうかしちまってんだよ!」
「人生最期の時だと言うのに、やはり頭の悪い君からは、下らない最期の言葉しか聞けなかったようだな。」
「何だと!?」
「さあ?もういいかな?私もいろいろと暇ではないのでね。」
「だいたい俺を殺してみろ!!アンタ、ただじゃ済まないぜ?」
「本当に頭の悪い奴だな。言っただろ?少し君の上司に文句の一つでも言ってやらないといけないな、とな。」
「まさか!?いや、出来っこない!アンタみたいな老人が組織と戦うなんてな!」
「それは君の上司の出方次第の結果で、何も君が心配する事ではない。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・ハハッ!ホント笑えるジョークだったよ!いやホント、寒さも吹き飛んじまったよ!」
「何度言ったら分かるんだ。ジョークでこんなモノを人に向ける程、私はジョークを知らない訳じゃない。」
「殺れるはずがねぇ!アンタにそんな度胸なんてありゃしない!」
「度胸の問題ではない。5時半に君が来なかった事で、始めから決まっていた結末だ。」
「殺れるもんなら殺ってみやがれ!!俺は、もう帰らしてもう!!こんな頭のイカれた老人なんかにこれ以上、付き合ってられねぇよ!!」
「君は、私を誰だと思っているのだね?」
「知るかっ!!」

第二百一話
「スーパー頑固じじぃ」

「ズダーン!!!」
銃声と共に、男の頭は、胴体を残し、跡形もなく吹き飛んだ。老人は、手にしていたショットガンを男の股の上に投げ付けると、暖炉の上に置いておいたウォッカの入ったグラスを手に取り、ロッキングチェアに揺られながら、5時52分を指す置き時計を見つめ、ゆっくりグラスを口へと運んだ。

|

« 「第二百話」 | トップページ | 「第二百二話」 »

コメント

こんばんは、です!今日は、ほんっとうにありがとうございました!
初リンクいただきましたのは、ブログ始めて以来の最高のプレゼントです!
今後とも、よろしくお願い申し上げます。

MASSIVE

投稿: MASSIVE | 2010年4月22日 (木) 23時31分

いえいえ、こちらこそたくさんのコメントやリンク、感謝ですよ!

こちらこそ、これからも宜しくお願いします。

投稿: PYN | 2010年4月23日 (金) 00時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/34122417

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百一話」:

« 「第二百話」 | トップページ | 「第二百二話」 »