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2010年5月

2010年5月 5日 (水)

「第二百三話」

 大雨の次の日の晴れた日の朝。僕は、道に出来た水溜まりをしゃがんで見ていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
すると暫くして、局の人がやって来た。
「こんにちは。」
局の人は、気さくな笑顔で僕に挨拶して来た。
「こんにちは。」
だから僕も水溜まり越しで、挨拶を返した。
「水溜まり局の者です。」
局の人は、水溜まり越しに僕へ手帳を見せた。
「ども。」
それを水溜まり越しに見た僕は、軽い会釈で返した。
「あのう?」
「はい?」
「水溜まり局の者です。」
「はい。それはもう、伺いました。」
「あのう?」
「はい?」
「これからその水溜まりを退治したいので、そこをどいて貰えませんか?」
「はあ・・・・・・・・・。」
水溜まり局。水溜まりを退治する為に発足された機関。でもなぜ?放って置けば自然消滅する水溜まりをなぜあえて人の手で?それに退治って?
「あのう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
きっともうこんな事を、わざわざ疑問に思う人なんていないんだろう。水溜まりを退治するのが当たり前の世界で、当たり前を当たり前じゃないなんて思う程、みんな暇じゃないんだ。
「あのう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
それでも僕は、知りたい。どうして水溜まりを?みんなが忙しいなら、暇な僕が真実を追い求めるのが、当たり前だ。だから、わざわざこんな朝早くから僕は、水溜まりの前で局の人を待っていたんだ。
「あのう?」
「・・・・・・はい?」
「あのう?水溜まりを退治したいので、どいて貰いたいのですが?」
「その掃除機みたいなので、水溜まりを退治するんですか?」
もちろん、僕は水溜まり越しで尋ねた。
「そうです。このBW―T03を使い、一気に水溜まりを退治するのです。」
「BW―T03?」
「バキューム・ウォーター・タイプ03の略です。」
「ああ、なるほど。」
政府が開発した対水溜まり用の武器って事か。水溜まり越しに見る限り、まだまだ他にも色んな武器を装備しているみたいだ。
「すいません。いいですか?どいて貰っても?」
「退治って?退治って何ですか?駆除でも排除でもない。退治。退治って表現じゃなきゃダメな理由は、何ですか?単なる水溜まりですよ?これは?」
「危いっ!!」
「!?」
それは、僕が水溜まりに触れようとした時だった。局の人が発した大きな声で、僕は思わずその手を止めてしまった。
「なに、水溜まりを触ろうとしているのですか!」
「いや、水溜まりだから触ろうとしたんです。」
「これだから、一般の方は困るのですよ!何かが起きてからでは、我々水溜まり局が、なぜ水溜まりを退治しているのかが!分からないではないですか!」
僕は、水溜まり越しに物凄く叱られていた。でも、なぜたかが水溜まりを触ろうとしたぐらいで、こんなに怒られなければならないんだ?
「すいません。でも、水溜まりですよ?水の溜まりですよ?何がそんなに危いんです?何一つ危くないでしょ。」
「何一つ危くない。その考えが一番、危いのです!!」
「何か居るんですか?」
「へ?」
「水溜まりの中に、何か居るんですか?だから、退治なんですか?だから、危いんですか?」
「それだけではありません。例えば、水溜まりの上を車が猛烈なスピードで通ったとしたらどうです?横を歩いていた通行人の方は、バシャアアアって、ずぶ濡れですよね!」
「はい。」
「それだけではありません。躓いて転んだ先に水溜まりがあったならば、バシャアアアって、ずぶ濡れですよね!」
「はい。」
「それだけではありません!その転んだ勢いで、絶対に水に濡らしてはならない機器が鞄やポッケから飛び出し、その先に更に水溜まりがあったならば、バシャアアアって、おじゃんですよね!」
「ええ、まあ。」
「それだけでは済みませんよ!雨上がり、水溜まりのパシャパシャ感を楽しむお子様が!次から次へと水溜まりを経由しながら登下校をしている中!その一つ水溜まりが、誰かの掘った落とし穴だったとしたら?これはもう!バシャアアアって、ずぶ濡れになる事態では済まされないのです!命に関わる問題です!」
「だいぶ特殊なケースですけどね。」
「事は、それだけで済む問題ではないのです!もしも、水溜まりを水溜まりのままに放置していて、その水溜まりを太陽が温め続けたら?水溜まりの水温は、グングン上昇する一方です!グングン上昇し続けたらどうです?その結果、水溜まりはいずれ、ボコボコと熱湯と化してしまうのです!そして、その熱湯と化した水溜まりの上を車が猛烈なスピードで通ったとしたらどうです?横を歩いていた通行人の方は、バシャアアアって、ずぶ濡れって具合では済まされないのですよ!」
「いくらなんでもそれはちょっと・・・・・・・・・。」
「いいですか?何かが起きてからでは!いやぁ、いくらなんでもそれはちょっと・・・・・・・・・デヘへ。では、済まされないのです!あらゆる角度から水溜まりの危険性を考慮し!それを事前に防がなければならないのです!そして、それを行う機関こそが!水溜まり局なのです!」
何よりも熱の入った話を僕は、水溜まり越しに聞かされていた。それでも僕は、建前に騙されるようなヘマはしない。
「何が居るんですか?」
「何も居ませんよ。」
いや、居る!絶対に水溜まりの中に何かが居る!局の人は、僕の最初の質問に対し、それだけではありません。とヘマを言っていた。
「なら、僕の始めの質問、中に何が居るんですか?の答えが、最初からそれだけではありません。は、おかしくないですか?」
「ですからそれは、あくまであらゆる可能性を示唆しての、それだけではありません。ですよ。」
それは、建前だ。完全なる建前だ。なぜなら、局の人が言っている事が全て本音だとして、やっぱり退治と言う表現方法が腑に落ちないからだ。
「退治って?なら、退治って何ですか?何かが中に居るからこその退治って表現なんじゃないんですか?例えばそれは、人を食べてしまう何か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
水溜まり越しの局の人は、黙り込んでしまった。きっとそれがおそらく本音なんだろう、たぶん。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
水溜まりの中には、人を食べる何かが居る。だから、それを水溜まり局の人が、退治している。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・分かりました。すぐ、どきます。」
「えっ!?」
いったい何が水溜まりの中に居るのかは、気になった。でも僕には、なぜ水溜まり局と言う機関が存在しているのか?の存在理由が解決しただけで十分だった。
「帰ります。」
「そうですか。」
水溜まりの中に居る何かを知る必要もないし、それを知ったとこで、どうしようもない。水溜まり局の人が、それらを退治してくれるんなら、それでいい。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ご協力、感謝します。」
明日からまた、当たり前を当たり前に生きる僕には、それはあまりにもどうでもいい話だ。
「じゃあ、退治、頑張っ!?えっ!?」
「あっ!?」
しゃがんだ体勢から立ち上がろうとした瞬間、急な立ち眩みに襲われた僕は、局の人が差し伸べる手を掴み損ね、水溜まりの方へ倒れ込んで行った。

第二百三話
「パクッ!!」

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2010年5月12日 (水)

「第二百四話」

「う~ん?」
マンションの一室、スーツ姿の若い女が、男性の死体を前にウロチョロしたり、腕を組んだり、腰に手を当てたり、髪の毛をグシャグシャしたり、ボーッと天井を見上げたりしていた。
「おい!ミステリーオタク!」
そんな女の一連の行動を一部始終見ていた太っちょ中年刑事が、イライラの頂点からズカズカと女に近付き、声を掛けた。
「あはえ?」
「気の抜けた返事してんじゃねぇよ!ミステリーオタク!」
「す、すいません。」
女は、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝った。
「で?犯人がいったいどんなヤツだか、分かったのか?」
「分かりません。」
女は、顔を上げ、太っちょ中年刑事に素早く何度も首を振った。
「なーにやってやがんだよ!この役立たずミステリーオタクが!」
「やややや役立たず!?お言葉ですが警部!私の仕事は、死者が死に至るまでの経路を辿る事です!犯人を割り出す事ではありません!」
「死者ってなぁ?んなら何か?お前は神の使いか?神父か?シスターか?それとも墓掘り人か?」
「ちちち違いますよ。」
「だよな。お前は、単なるミステリーオタクだもんな。」
「わわわ私は!た、確かにミステリーオタクかもしれませんけど!今!この場ではミステリーオタクじゃありません!死経路捜査官です!」
女は、太っちょ中年刑事の目の前に、手帳を差し出した。
「んなもん!鑑識や監察医に任せときゃいいんだよ!」
「ああ~!」
太っちょ中年刑事は、女の手帳を振り払った。その勢いで、それは、死体の男性の男性シンボルの上へ。
「ミステリーオタクがなぁ!のこのこしゃしゃり出て来て!絵空事の真似事してんじゃねぇよ!」
「かかかか鑑識や監察医に任せていては、初動捜査が出遅れてしまいます!それは結果的に犯人を取り逃がす事に直結してしまいます!だから鑑識や監察医の前に!死経路捜査官の私がこうして死経路を辿っているんです!」
女は、男性シンボルの上に落ちた手帳を取るのに、悪戦苦闘していた。
「他殺か自殺か事故死かなんてのはなぁ!俺でも見りゃ一発で分んだよ!」
「えっ!?そそ、そうなんですか!あぎゃーっ!!」
太っちょ中年刑事の言葉に、驚き振り向いた瞬間、女は手帳ではなく、男性シンボルをおもいっきり掴んでしまった。
「バカ野郎!」
「す、すいません!」
女は、男性シンボルを握った手を素早く放し、手帳を手に取ると素早く立ち上がり、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝った。
「あったり前だろ!刑事、何年やってると思ってんだ!バカ野郎!」
「ああ、そっちのバカ野郎ですか。」
「いいか?オタクと本物とじゃなぁ!経験値が違うだよ!経験値がな!」
「経験値?なるほど!」
女は、太っちょ中年刑事の言葉に納得して、パーの右手に、グーの左手を、ポーンと素早く何度も叩いていた。
「だからなぁ!お前はこの上無く邪魔なんだよ!帰ってミステリー小説でも読んでろ!どけ!」
「おわぁっ!」
そう言うと太っちょ中年刑事は、女を押し退けて、死体の前に屈み込んだ。
「あの、警部?」
「まだ居んのかよ!」
「す、すいません。あの、因みに警部が考えている男性の死経路を聞かせて下さい。」
「なーんーだーとー!」
太っちょ中年刑事は、ゆっくりな口調とゆっくりな速度でゆっくり振り向き、女を睨み見上げた。
「ほほほら、私も一応捜査で来ている訳ですし、そそそそれに、一応報告書も書かなければならないので、けけけ警部の考えと同じなら、それはそれで、ねっ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
太っちょ中年刑事は、怯える女を無言で睨み続け見上げていた。
「むむむ無理にとは、言いません。一応聞いてみただけなので、すすすすいませんでした!帰ります!お疲れ様でした!」
女は、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝り、現場を後にしようとしていた。
「待て!!」
「はひぃぃぃぃ!」
太っちょ中年刑事は、立ち上がり女を呼び止めた。その声に女は驚き、後ろ向きのまま、ピーンと直立不動になった。
「俺も一応刑事だ。一応捜査に来たお前を、そのまま帰す訳にはいかねぇ。だから、一応俺の意見を聞かせてやるよ。」
「ありがとうございます!」
女は、太っちょ中年刑事の方を振り返り、素早く何度もお辞儀をした。
「いいか?耳の穴かっぽじってよーく聞けよ!」
「はい。」
女は、両手の小指で両耳をよーくかっぽじった。
「他殺だ。」
「なるほど。」
「分かったら、とっとと帰ってミステリー映画でも観てろ!ん?おおい!?何のつもりだ!」
女は、太っちょ中年刑事の元へ、スタスタと近付いて行った。
「意見聞いたら帰るって言ったろ!」
「言いました。」
「玄関は、あっちだぞ!」
「知ってます。」
「なら、帰れ!!」
「帰る訳にはいきません!!」
「何だと!?」
「警部の考えが、他殺と聞いたら、私は死経路捜査官として、この場に留まらなければなりません!」
「何を偉そうなこ・・・・・・ちょっと待て!お前まさか、これが他殺じゃないって言うのか!?」
「言います!」
「完全な密室じゃないんだぞ?」
「ええ。」
太っちょ中年刑事は、玄関や部屋中の窓を指差しながら言った。
「裸だぞ?」
「一目瞭然です。」
太っちょ中年刑事は、床を指差しながら言った。
「刃物!」
「包丁ですね。」
太っちょ中年刑事は、床に落ちてる包丁を指差しながら言った。
「自殺か?」
「違います。事故死です!」
「じ、事故死だと!?ふざけんなよ!ミステリーオタク!こっちが真面目に聞いてりゃあ!適当な事をあーだこーだ言いやがって!!」
太っちょ中年刑事は、女のスーツの襟元を両手で掴みながら激怒した。
「あーだこーだ言ってません!」
女は、太っちょ中年刑事のその手を振り払うと、身だしなみを整えながら言った。
「バラバラ死体を前に事故死って言ってるヤツの!いったいどこが!あーだこーだ言ってねぇってんだ!」
太っちょ中年刑事は、床に散らばる男性の体の一部を次々と指差しながら言った。そして、その指は最後に男性シンボルを差していた。
「キャッ!」
太っちょ中年刑事の指を目で追っていた女は、両手で顔を隠した。
「ふざけんな!!ミステリーオタクの戯言に付き合ってられるか!さっさと俺の前から消え失せろ!」
「男性の衣類が部屋の中に無いのはなぜか?」
「はあ?」
「普通、有りますよね。裸なら部屋の中に衣類って、でも、見当たらない。もちろん!クローゼットや脱衣場には、有ります。」
「何をウロチョロしながら喋り出してんだよ!」
「それは、何を意味するのか?」
「はあ?」
「男性が普段、家では裸だったと言う事です!」
「何ぃぃぃ!?」
「次に包丁!警部、見ました?キッチンを!」
「キッチンがどうしたんだよ。って、ウロチョロすんじゃねぇよ!」
「あの調理器具の充実っプリから推測するに、男性はおそらく何か料理に関係する仕事をしている。でなくても、腕はプロ級の料理好きに違いありません!」
「で?おおい!そこは踏むな!」
ウロチョロしながら、女が男性シンボルを踏んだのを見た太っちょ中年刑事は、思わず自分のシンボルを両手で押さえた。
「ではなぜ、キッチンではなくリビングで男性は、死んだのか?」
「殺されたの間違いだろ!って、ウロチョロしないのかよ!」
「つけっぱなしのテレビ!」
「ああ?」
「おそらく男性の死亡時刻と料理番組が放送されてた時刻が一致するはずです!」
「おいおいおい?何か?男は、キッチンで料理中にテレビを観にリビングへ来たのか?裸で?」
「料理中ではありません。正確には、これから料理を始める為に、テレビをつけに来たんです。裸で!」
「どうでもいいが、いい加減にウロチョロしろよ!見るに堪えないだろ!」
「捕捉すると、おそらく冷蔵庫の中の材料と昨日の料理番組のレシピが一致するはずです!」
「そうか!よーく分かった!」
太っちょ中年刑事はそう言うと、床に散らばる男性の死体を踏まないように女に近付き、女の両手肩を掴み、男性シンボルの上から下ろした。
「分かってもらえて、良かったです。」
「勘違いすんなよ?男が裸で包丁持ってリビングに居た経路が分かったって事だ!事故死を認めた訳じゃねぇよ!」
「事故死ですよ?」
「どーやったら事故死で体がバラバラになんだよ!」
「それはですね。えーと?どこにあったっけ?あれ?さっきまであったのになぁ?おかしいなぁ?」
「おい、何を探してんだ?って、やたらめったら放り投げんじゃねぇよ!」
女は、床に散らばる男性の体の中を掻き分けていた。
「あった!!これです!」
そして、目当ての男性の体の一部を手に取り、素早く立ち上がり、太っちょ中年刑事の目の前に差し出した。
「右足?右足が何だ!」
「違います。右足ではなくて、右足の小指です。」
「小指だと?」
「つまりこうです。男性は、キッチンから裸で包丁を手にしながらこのリビングにやって来た。」
「足を棒代わりに使って説明してんじゃねぇよ!」
「そして、テレビをつけた。で、キッチンへ戻る途中で、あそこですあそこ!」
「柱?」
「あの柱に右足の小指をぶつけたんです!そして、持っていた包丁を勢いよく前へ!手放してしまった!」
「はあ?で、何でバラバラになんだよ。つか、投げてんじゃねぇよ!右足っ!」
「分かりませんか?」
「分かるか!」
「あそこ、あそこ、あそこ、あそこ、あっち、あっち、ここ、そこ、そっち、ここ、あそこ、あっち、そっち、ここ、あそこ!」
女は、言葉に合わせて、素早く拾った男性の体の一部を使い、素早く部屋中を差した。太っちょ中年刑事は、その指し示す方向を必死で追い掛けた。
「何やってんだ?」
「手放した包丁が辿った経路です!」
「何だと!?じゃあ、お前!包丁があちこち男を切り刻みながら飛び回ったって言いたいのか!」
「ええ。」
「バカ言ってんじゃねぇよ!」
「私が差した箇所と包丁を調べてもらえば、分かると思います。以上が男性の死経路です!」
「・・・・・・んなバカな!?」
「よって、男性は事故死です!」
「事故死だと?し、信じらんねぇ・・・・・・・・・。」
太っちょ中年刑事が首を揉みながら、バラバラになった死体を見ている横で、女は自分がいつの間にか男性シンボルを手に持っていた事に気付き、あたふたしていた。

第二百四話
「完全事故死」

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2010年5月19日 (水)

「第二百五話」

―MONDAY―

気付くともう月曜日になっていた。目覚めから今日は、何だかチョップ的な事が上手く出来そうな気がしてならなかった。
「よし!」
だからか分からないけど、僕と言う人間は、朝食も半ばに家を飛び出し、チョップ道場へと道場破りに向かった。
「と、遠いな。」
道場破りとは?意気込んでみたものの。僕も生まれて初めて襲われた感情なんで、あんまり詳しくは分からなかった。でも、僕を全力疾走に駆り立てるものは、道場に辿り着けば、きっと道場の人間が懇切丁寧に教えてくれるはずだ!と言う安心感から来る絶対的信頼感によるものだった。
「たのもーっ!」
「何奴!」
「道場を破りに全力疾走でやって来た!え~と?・・・・・・・・・・・・・・・。」
「道場破りかっ!」
「道場破りだ!」
「貴様ーっ!ここをチョップ道場だと分かっての事かっ!」
「当たり前だーっ!」
「で?道場破りって何?」
「えっ!?」
「業者の人?」
「はい?」
「間に合ってます!」
「ああ、はあ、そうですか。」
夕日を見ながら、石を家まで石蹴れるかに、果敢に挑戦しながら、僕はチョップ道場をあとにした。

―TUESDAY―

月曜日の次の日は、火曜日。これは既に、どこの誰が決めたか知らないけれど、僕が地球に誕生する、ずーっと昔から決められているルール。人によったら、月曜日の次の日が、水曜日の場合がある。だけどそれは単に、火曜日を丸1日眠って過ごしただけの事だ。そんな特殊なケースを除いては、やっぱり月曜日の次の日には、やっぱり火曜日がやって来る。でも僕は、考えた。あまりにも月曜日の次の日が火曜日過ぎるから逆に、こんな疑問にさいなまれた。月曜日の次の日が水曜日だったその人は、果たして本当に火曜日を丸一1日眠って過ごしたのだろうか?と。月曜日に眠り、水曜日に目覚めたら、誰もが疑う事なく瞬時に火曜日を丸一1日寝て過ごしたと考える。そして残念がる。更に無駄を悔しがり地団駄する。遂には無念の極みだと、自己嫌悪に陥る。その他諸々に、自分を責め続けて、責め果てたとこで何の迷いも無しに水曜日を過ごし始める。でも、でも本当は、火曜日が本当に、存在していなかったとしたら?月曜日の次の日が、その時だけ本当に水曜日だったとしたら?カレンダーには、火曜日の文字が書かれているけど、その揺るぎない事実が、或いは揺るいでいたとしら?だけど、僕はこうも考えた。例え揺るいだ火曜日が存在したとしても、誰もが何も言わず、無意識にも気にせず、これっぽっちも疑わずに、やっぱり水曜日を、やっぱりに過ごすんだろうな?と。

―WEDNESDAY―

さてと、水曜日か。
「すいません?」
ボクが水曜日を実感しながら公園のベンチに座って日向ぼっこをしていると、目の前で明らかに命を狙われている乙女が話し掛けて来た。
「何ですか?」
「助けて下さい!」
「ボクが?」
「貴方が!」
これでも近所では紳士で通ってるボクは、目の前であからさまに命を狙われている乙女の頼みを聞いて上げる事にした。
「ボクで良ければ、了解しました。」
「ありがとうございます!!」
「あのう?」
「何だ!」
「この人が困ってるんで、命を狙うの止めて上げてくれますか?」
「ダメだ!!」
交渉は、ものの数秒足らずで決裂した。
「すいません。聞いての通り、ボクでは力になれなかったみたいです。」
「そうですか・・・・・・・・・。」
とてつもなくガッカリした乙女にボクは、隣のベンチに座る交渉人を紹介してあげた。
「ありがとうございます!!」
「いえいえ。」
深々と何度もお辞儀する乙女は、程無くして、交渉人の下へ真正面のスナイパーと共に向かった。そしてボクは、再び日向ぼっこに勤しむ事にした。

―THURSDAY―

そうかなぁ?そうなのかなぁ?って、だいたい疑って始まるのが、木曜日の朝だ。
「雨・・・・・・か。」
で、だいたい雨が降るのが木曜日だ。
「今日は、家でおとなしくじっとして過ごすかな。」
で、だいたい独り言が多いのが木曜日で、そもそも外出したからって、暴れないのがボクだ。
「そうと決まれば、さてはて?とりあえず何をしよう?」
ボクは、足の爪を切りながら何をしようか考えていた。ボクは、何かを考えている時、だいたい足の爪を切っている。
「やれやれ・・・・・・・・・はっ!?。」
一悶着あり、やれやれと独り言を呟いていたボクは、重要な事に気が付いた。
「予約!?」
そう、木曜日と言うのは、だいたい何かの予約をするもんだ。予約の予約をするのが火曜日なら、その予約の予約の予約をするのが、木曜日だ。でも、外は雨。内が雨じゃなかっただけ、よしとするか、と不幸中の幸いを噛み締めている場合じゃない。こうしてる間にも刻々と予約の時間が容赦無く迫って来ていた。
「・・・・・・・・・まっ、いっかな。」
こうして、予約をすっぽかすのもまた、木曜日冥利に尽きるところだった。

―FRIDAY―

「ん?ここは?」
気付くとボクは、見知らぬ場所で金曜日を迎えていた。いったいボクの身に何が起きたのか?
「っつ!!」
激痛走る頭を押さえながら、廃墟のアパートらしき一室から一歩外へ場所を移し、月明かりに照らされ薄暗い廊下をボクは、歩いていた。
「・・・・・・・・・。」
階段へ差し掛かった時、ボクはいったい自分の記憶がどこから失われているのかを探りながら、出口へと向かう事にした。
「23時49分・・・・・・・・・。」
まず、腕時計で現在の時間を確認した。
「えっ!?」
2/3階でボクは、驚愕の事実に気付き、思わず足を止めてしまった。いや、実際は動きたくても動けなかった。夕食を食べ、お風呂に入り、夕食の残り半分を食べ終え、再び湯船に浸かりながら、デザートのスイーツを食べ終えたのが、確かお風呂の時計で23時37分!?
「馬鹿なっ!?そんなはずがあるわけない!」
49分引く37分と言ったら、720秒じゃないか!720秒で、ボクは現在に至るって言うのか?720秒でボクは、頭を何かで殴られったぽくて、誰かに廃墟のアパートへ連れて来られたっぽくて、階段の2/3に立ち尽くしてるっぽいって言うのか!?
「・・・・・・・・・。やれやれ、全く金曜日ってのは、1週間の中で、飛びっきり不思議な事が巻き起こりやがる。」
ボクは、歯と歯の間に詰まった季節のフルーツタルトのイチゴの種を爪で、シーハーしながら残りの階段を降りて廃墟のアパートの裏口から外へ出た。
「はあ、帰ったらまた、お風呂かぁ・・・・・・・・・。」
月明かりに照らされた血まみれの自分を見てボクは呟き、相変わらず激痛の走る頭を押さえながら、家路についた。

―SATURDAY―

「はっ!?」
突然ボクは、恋の予感をキャッチした。ビビっと、ビリビリっと、舌に感じたそれはパイナップルの仕業だった。まあ、パイナップルのそれはそれとして、問題は誰がボクに、ボクが誰に、恋をしているのかって事だ。
「前略、恋する誰かさんへ。初めましての突然にこんな事、失礼かもしれませんが、ごめんなさい。」
声に出しながらボクは、人生初のラブレターってヤツをボクに恋する誰かさん宛に書いてしまった。
「よし!」
人生初のラブレターで紙飛行機を折り、ボクは窓の外へ飛ばした。そんな恋心に揺れ動くボクの土曜日は、失恋の涙で飾る土曜日となった。

―SUNDAY―

「シャーアアアアアアアッ!!」
部屋のカーテンをちぎれるぐらいな勢いで開けて外の天気を確かめる事から、ボクの日曜日は始まる。
「おおっ!おおおっ!」
ボクは久しぶりに興奮した。この日を待ってましたかってな具合に!滅多にない最高の洗濯日和に、洗濯しない訳にはいかない!だからボクは、誰が何と言おうが洗濯をする事にした。
「・・・・・・・・・。」
洗濯をしたけど、別に晴れてるって訳じゃない。むしろ天気は、雨だった。と言っても完璧な雨じゃない。ボクは好んで、こんな天気の日曜日を見付けては、洗濯をしている。そうしないと次にいつ洗濯が出来るか分からないからだ。かと言って、洗濯機の中に洗濯物を入れてる訳でもない。更に付け加えるなら、洗濯機も回っていない。でもボクは、洗濯をしている。回り続けてるのは、ボクの頭の中。
「そろそろいいかな?」
ボクは、左耳の耳栓を抜き、左耳を下へ首を傾けた。そして、右耳の耳栓を抜き、脳ミソを一気に脳ミソ乾燥機へ!
「ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドヂャッ!!」
と同時に素早く右耳から昨日届いたばっかりの新しい脳ミソを入れ、素早く首を元の位置に戻した。
「よし!」
脳ミソをしっくりな感じになるよう頭を動かし調節した。
「うん!」
そして、ダラダラと日曜日を過ごした。

第二百五話
「不連続WEEK」

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2010年5月26日 (水)

「第二百六話」

 凄く凄く風の強いぽかぽか陽気な祝日。僕は、桜の花びらが舞踊る並木道を歩いていた。
「ばびゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
すると、現段階での今日一番の風が吹いた。僕は立ち止まり、とっさに目を瞑り、利き腕で顔を覆った。
「えっ?」
風が止み、僕が目をゆっくりと開き、ゆっくりと覆ってた利き腕を下ろすと、そこには見た事もない光景が、それは異様でいて畏怖で、あまりにも異美な光景だった。
「どう言う事だ?」
それは、風が止んだと言うのに、それでも僕を中心に桜の花が渦を巻いて、僕を取り囲んでいた。
「やあ!」
と、次の瞬間、あんなにたくさん渦を巻いていた桜の花が一瞬にして消えたかと思うと、見渡す限りピンクな世界とピンクな少女が僕の目の前に姿を現した。
「君は誰で、ここはいったい何処なんだ?」
まるでこれじゃあ、メルヒェンじゃないか。そんな困惑する僕を見て、ピンクな少女は笑っていた。
「まさか?ここは、桜の世界で、君は桜の妖精?」
「半分だけ正解!」
そう言うとピンクな少女は、また笑った。
「半分?」
「そっ、半分!ここは、桜の世界だけど、ボクは桜の妖精じゃない。」
「妖精じゃない?」
「そっ、ボクは桜の世界の住人!」
「なるほど。」
「そっ、だから半分!」
そして、再びピンクな少女は笑った。だがここで僕は、少女の一人称に疑問を抱いた。
「ボク?君は、女の子じゃないの?男の子だったの?」
ピンクな少女は、首を傾げていた。
「女の子?男の子?ボクは、ボクだよ。」
そう言うとピンクな少女風の桜の世界の住人は、笑った。なるほど、おそらくこの桜の世界では、男女の概念が無いんだ。と、僕はそれと無く納得した。
「あのね。桜の女王様がね。会いたいんだってさ。」
「えっ!?」
桜の女王様だって?何やら元々がメルヒェンなこの状況が、更にメルヒェンに加速して行くぞ?そもそもが、これって本当に現実なんだろうか?本当は今頃、僕はさっきの物凄い風で何らかの事故に巻き込まれてて、病院のベッドの上で眠っているんじゃないだろうか?或いは、何かの下敷きとか?てか、女王様って、男女の概念あるのか?いや、蟻や蜂みたいな事なのか?桜ってそうなのか?とにかくめちゃくそパニックな僕だったが、ピンクな少女風の桜の世界の住人と手を繋ぎ、桜の女王様の待つ、桜の城に向かう事にした。これが、夢だろうが現実だろうが、そうしなければきっと、何にも進まないんじゃないかと思ったからだ。
「聞いてもいいかな?」
「なあに?」
ピンクな世界を歩きながら、僕は桜の城に辿り着くまでの間、少しピンクな少女風の桜の世界の住人に、この世界について尋ねてみる事にした。
「この桜の世界は」
「木の中だよ。桜の木の中!」
「えっ?」
僕の質問が、まるで始めから分かっていたかのようなピンクな少女風の桜の世界の住人の笑顔な答えに、僕は少し驚いた。
「みんな、それ聞くんだね。」
「みんな?」
「そっ、みんな!」
「って事は、何人もの人間が、この桜の世界に来てるって事?」
「そだよ!で、次に聞くのがこうだよ。この世界から出られるのか?」
統計学を用いらなくとも突然、桜の世界に来た人間が、この質問をするのは、目に見えている。
「答えはね。」
そう言って僕の顔色を伺うピンクな少女風の桜の世界の住人の笑顔が、さっきまでの笑顔と少し違った。
「答えは?」
僕は、思わず生唾を飲でピンクな少女風の桜の世界の住人の目を見た。頭の中では、何か考えてはいけないような考えがぐるぐると巡っていた。
「あっ、着いたよ!」
「えっ?」
「ここ、ここが桜の女王様の桜のお城!」
さっきまでの笑顔に戻ったピンクな少女風の桜の世界の住人が指差す目の前には、大きなピンクな城が聳え立っていた。
「さっ、入ろ!桜の女王様が待ってるから!」
「いやでもまだ、さっきの答えを僕は」
半ば強引に、いやかなり強引に僕は、ピンクな少女風の桜の世界の住人に手を引かれ、桜の城の中へと。もちろん城の中もピンクで、ピンクで豪華で、豪華でピンクだった。これは、あまりにも自分のキャパシティとボキャブラリーを越えた状況下に置かれた、とてもチープな僕の感想だ。
「じゃ~ん!この扉の向こうに、桜の女王様がね。待ってるの!」
「ゴックン・・・・・・・・・。」
ピンクな大きな扉を前に生唾ゴックンで冷静さを保とうとしたものの、もはやあらゆる感情やら概念やら思考やらで、しっちゃかめっちゃかな僕の頭の中は、真っ白ケッケッだった。
「じゃ、開けるね。」
「えっ?あ、ああ、お願いします。」
ピンクな少女風の桜の世界の住人は、ゆっくりとピンクな大きな扉を開けた。
「人間よ。」
そして、ピンクな玉座に威風堂々と腰掛けた桜の女王が姿を現した。
「ちこう寄れ。」
その呼び掛けに僕は、ゆっくりと桜の女王の下へ歩みを進めた。
「よくぞ参った人間よ。」
さすがと言うか当たり前と言うか、目の前で見る桜の女王から放たれるオーラは、凄まじかった。
「・・・・・・・・・。」
「ん?どうしたのだ人間よ。リラックスしてよいのだぞ?」
「・・・・・・・・・な、なぜ?」
「ん?もう少し大きな声でないと聞こえぬぞ?」
この直後、僕は死んだ。いや、桜の女王の逆鱗に触れ殺された。なぜ、桜の世界に連れて来られたのか?桜の女王が僕に何を言いたかったのか?どうすれば元の世界へ戻れるのか?殺された今なら、あらゆる疑問が僕の頭の中を巡る。だけど、桜の女王を前にした僕には、何から聞こうか?なんて疑問の選択肢は無かった。ただ一つ、そう、聞きたかったのは、ただ一つだけ・・・・・・・・・。
「人間よ・・・・・・コレ愚かな生き物なり。」

第二百六話
「ブルーな女王」

目が覚めると僕は、桜の花びらが舞踊る並木道に立っていた。風は・・・・・・・・・止んでいた。

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