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2010年5月12日 (水)

「第二百四話」

「う~ん?」
マンションの一室、スーツ姿の若い女が、男性の死体を前にウロチョロしたり、腕を組んだり、腰に手を当てたり、髪の毛をグシャグシャしたり、ボーッと天井を見上げたりしていた。
「おい!ミステリーオタク!」
そんな女の一連の行動を一部始終見ていた太っちょ中年刑事が、イライラの頂点からズカズカと女に近付き、声を掛けた。
「あはえ?」
「気の抜けた返事してんじゃねぇよ!ミステリーオタク!」
「す、すいません。」
女は、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝った。
「で?犯人がいったいどんなヤツだか、分かったのか?」
「分かりません。」
女は、顔を上げ、太っちょ中年刑事に素早く何度も首を振った。
「なーにやってやがんだよ!この役立たずミステリーオタクが!」
「やややや役立たず!?お言葉ですが警部!私の仕事は、死者が死に至るまでの経路を辿る事です!犯人を割り出す事ではありません!」
「死者ってなぁ?んなら何か?お前は神の使いか?神父か?シスターか?それとも墓掘り人か?」
「ちちち違いますよ。」
「だよな。お前は、単なるミステリーオタクだもんな。」
「わわわ私は!た、確かにミステリーオタクかもしれませんけど!今!この場ではミステリーオタクじゃありません!死経路捜査官です!」
女は、太っちょ中年刑事の目の前に、手帳を差し出した。
「んなもん!鑑識や監察医に任せときゃいいんだよ!」
「ああ~!」
太っちょ中年刑事は、女の手帳を振り払った。その勢いで、それは、死体の男性の男性シンボルの上へ。
「ミステリーオタクがなぁ!のこのこしゃしゃり出て来て!絵空事の真似事してんじゃねぇよ!」
「かかかか鑑識や監察医に任せていては、初動捜査が出遅れてしまいます!それは結果的に犯人を取り逃がす事に直結してしまいます!だから鑑識や監察医の前に!死経路捜査官の私がこうして死経路を辿っているんです!」
女は、男性シンボルの上に落ちた手帳を取るのに、悪戦苦闘していた。
「他殺か自殺か事故死かなんてのはなぁ!俺でも見りゃ一発で分んだよ!」
「えっ!?そそ、そうなんですか!あぎゃーっ!!」
太っちょ中年刑事の言葉に、驚き振り向いた瞬間、女は手帳ではなく、男性シンボルをおもいっきり掴んでしまった。
「バカ野郎!」
「す、すいません!」
女は、男性シンボルを握った手を素早く放し、手帳を手に取ると素早く立ち上がり、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝った。
「あったり前だろ!刑事、何年やってると思ってんだ!バカ野郎!」
「ああ、そっちのバカ野郎ですか。」
「いいか?オタクと本物とじゃなぁ!経験値が違うだよ!経験値がな!」
「経験値?なるほど!」
女は、太っちょ中年刑事の言葉に納得して、パーの右手に、グーの左手を、ポーンと素早く何度も叩いていた。
「だからなぁ!お前はこの上無く邪魔なんだよ!帰ってミステリー小説でも読んでろ!どけ!」
「おわぁっ!」
そう言うと太っちょ中年刑事は、女を押し退けて、死体の前に屈み込んだ。
「あの、警部?」
「まだ居んのかよ!」
「す、すいません。あの、因みに警部が考えている男性の死経路を聞かせて下さい。」
「なーんーだーとー!」
太っちょ中年刑事は、ゆっくりな口調とゆっくりな速度でゆっくり振り向き、女を睨み見上げた。
「ほほほら、私も一応捜査で来ている訳ですし、そそそそれに、一応報告書も書かなければならないので、けけけ警部の考えと同じなら、それはそれで、ねっ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
太っちょ中年刑事は、怯える女を無言で睨み続け見上げていた。
「むむむ無理にとは、言いません。一応聞いてみただけなので、すすすすいませんでした!帰ります!お疲れ様でした!」
女は、太っちょ中年刑事に素早く何度もお辞儀をして謝り、現場を後にしようとしていた。
「待て!!」
「はひぃぃぃぃ!」
太っちょ中年刑事は、立ち上がり女を呼び止めた。その声に女は驚き、後ろ向きのまま、ピーンと直立不動になった。
「俺も一応刑事だ。一応捜査に来たお前を、そのまま帰す訳にはいかねぇ。だから、一応俺の意見を聞かせてやるよ。」
「ありがとうございます!」
女は、太っちょ中年刑事の方を振り返り、素早く何度もお辞儀をした。
「いいか?耳の穴かっぽじってよーく聞けよ!」
「はい。」
女は、両手の小指で両耳をよーくかっぽじった。
「他殺だ。」
「なるほど。」
「分かったら、とっとと帰ってミステリー映画でも観てろ!ん?おおい!?何のつもりだ!」
女は、太っちょ中年刑事の元へ、スタスタと近付いて行った。
「意見聞いたら帰るって言ったろ!」
「言いました。」
「玄関は、あっちだぞ!」
「知ってます。」
「なら、帰れ!!」
「帰る訳にはいきません!!」
「何だと!?」
「警部の考えが、他殺と聞いたら、私は死経路捜査官として、この場に留まらなければなりません!」
「何を偉そうなこ・・・・・・ちょっと待て!お前まさか、これが他殺じゃないって言うのか!?」
「言います!」
「完全な密室じゃないんだぞ?」
「ええ。」
太っちょ中年刑事は、玄関や部屋中の窓を指差しながら言った。
「裸だぞ?」
「一目瞭然です。」
太っちょ中年刑事は、床を指差しながら言った。
「刃物!」
「包丁ですね。」
太っちょ中年刑事は、床に落ちてる包丁を指差しながら言った。
「自殺か?」
「違います。事故死です!」
「じ、事故死だと!?ふざけんなよ!ミステリーオタク!こっちが真面目に聞いてりゃあ!適当な事をあーだこーだ言いやがって!!」
太っちょ中年刑事は、女のスーツの襟元を両手で掴みながら激怒した。
「あーだこーだ言ってません!」
女は、太っちょ中年刑事のその手を振り払うと、身だしなみを整えながら言った。
「バラバラ死体を前に事故死って言ってるヤツの!いったいどこが!あーだこーだ言ってねぇってんだ!」
太っちょ中年刑事は、床に散らばる男性の体の一部を次々と指差しながら言った。そして、その指は最後に男性シンボルを差していた。
「キャッ!」
太っちょ中年刑事の指を目で追っていた女は、両手で顔を隠した。
「ふざけんな!!ミステリーオタクの戯言に付き合ってられるか!さっさと俺の前から消え失せろ!」
「男性の衣類が部屋の中に無いのはなぜか?」
「はあ?」
「普通、有りますよね。裸なら部屋の中に衣類って、でも、見当たらない。もちろん!クローゼットや脱衣場には、有ります。」
「何をウロチョロしながら喋り出してんだよ!」
「それは、何を意味するのか?」
「はあ?」
「男性が普段、家では裸だったと言う事です!」
「何ぃぃぃ!?」
「次に包丁!警部、見ました?キッチンを!」
「キッチンがどうしたんだよ。って、ウロチョロすんじゃねぇよ!」
「あの調理器具の充実っプリから推測するに、男性はおそらく何か料理に関係する仕事をしている。でなくても、腕はプロ級の料理好きに違いありません!」
「で?おおい!そこは踏むな!」
ウロチョロしながら、女が男性シンボルを踏んだのを見た太っちょ中年刑事は、思わず自分のシンボルを両手で押さえた。
「ではなぜ、キッチンではなくリビングで男性は、死んだのか?」
「殺されたの間違いだろ!って、ウロチョロしないのかよ!」
「つけっぱなしのテレビ!」
「ああ?」
「おそらく男性の死亡時刻と料理番組が放送されてた時刻が一致するはずです!」
「おいおいおい?何か?男は、キッチンで料理中にテレビを観にリビングへ来たのか?裸で?」
「料理中ではありません。正確には、これから料理を始める為に、テレビをつけに来たんです。裸で!」
「どうでもいいが、いい加減にウロチョロしろよ!見るに堪えないだろ!」
「捕捉すると、おそらく冷蔵庫の中の材料と昨日の料理番組のレシピが一致するはずです!」
「そうか!よーく分かった!」
太っちょ中年刑事はそう言うと、床に散らばる男性の死体を踏まないように女に近付き、女の両手肩を掴み、男性シンボルの上から下ろした。
「分かってもらえて、良かったです。」
「勘違いすんなよ?男が裸で包丁持ってリビングに居た経路が分かったって事だ!事故死を認めた訳じゃねぇよ!」
「事故死ですよ?」
「どーやったら事故死で体がバラバラになんだよ!」
「それはですね。えーと?どこにあったっけ?あれ?さっきまであったのになぁ?おかしいなぁ?」
「おい、何を探してんだ?って、やたらめったら放り投げんじゃねぇよ!」
女は、床に散らばる男性の体の中を掻き分けていた。
「あった!!これです!」
そして、目当ての男性の体の一部を手に取り、素早く立ち上がり、太っちょ中年刑事の目の前に差し出した。
「右足?右足が何だ!」
「違います。右足ではなくて、右足の小指です。」
「小指だと?」
「つまりこうです。男性は、キッチンから裸で包丁を手にしながらこのリビングにやって来た。」
「足を棒代わりに使って説明してんじゃねぇよ!」
「そして、テレビをつけた。で、キッチンへ戻る途中で、あそこですあそこ!」
「柱?」
「あの柱に右足の小指をぶつけたんです!そして、持っていた包丁を勢いよく前へ!手放してしまった!」
「はあ?で、何でバラバラになんだよ。つか、投げてんじゃねぇよ!右足っ!」
「分かりませんか?」
「分かるか!」
「あそこ、あそこ、あそこ、あそこ、あっち、あっち、ここ、そこ、そっち、ここ、あそこ、あっち、そっち、ここ、あそこ!」
女は、言葉に合わせて、素早く拾った男性の体の一部を使い、素早く部屋中を差した。太っちょ中年刑事は、その指し示す方向を必死で追い掛けた。
「何やってんだ?」
「手放した包丁が辿った経路です!」
「何だと!?じゃあ、お前!包丁があちこち男を切り刻みながら飛び回ったって言いたいのか!」
「ええ。」
「バカ言ってんじゃねぇよ!」
「私が差した箇所と包丁を調べてもらえば、分かると思います。以上が男性の死経路です!」
「・・・・・・んなバカな!?」
「よって、男性は事故死です!」
「事故死だと?し、信じらんねぇ・・・・・・・・・。」
太っちょ中年刑事が首を揉みながら、バラバラになった死体を見ている横で、女は自分がいつの間にか男性シンボルを手に持っていた事に気付き、あたふたしていた。

第二百四話
「完全事故死」

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コメント

「一様」って何でしょう?「一応」のこと?

投稿: | 2010年5月13日 (木) 11時14分

ごめんなさい。
「一様」って、「一応」のことでした。

訂正させてもらいました。ありごとうございました。

投稿: PYN | 2010年5月13日 (木) 20時58分

先日コメントした者です。
言葉の繰り返しがおもしろい部分なので、とても気になってしまったのです。

全話読ませていただきました。
これからも楽しみにしています。

投稿: | 2010年5月21日 (金) 17時31分

コメントありがとうございました。
先日は、とても助かりました。

全話読破ありがとうございます。景品とか小旅行とかありませんが、これからもガシガシ書かせてもらいます!宜しくお願いします。

投稿: PYN | 2010年5月22日 (土) 00時38分

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