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2010年6月 2日 (水)

「第二百七話」

 商店街のど真ん中にその店はグロテスクに佇んでいる。見た目も店内の商品も、そして店主も全てがグロテスクな店。

第二百七話
「グロテスク屋」

「今日は、何テスクをお探しで?」
「何テスクって、グロテスクしかないでしょ。この店には・・・・・・・・・。」
この会話のやり取りを40分以上前からしている。していると言ったら、僕も一緒になって、店主との会話を楽しんでいる感じがするけど、そんな事は断じてない!店主がしつこく話し掛けて来るから、仕方なく相手をしているだけであって、楽しい訳がない!本当は、ゆっくりとじっくりと母へのプレゼントを選びたいのが理想だ。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「だから、グロテスクだってば!」
ただ、そうそう甘くはないのが現実。他のグロテスク屋に行く事も考えたけど、パスポートの申請を待つほど、僕に余裕はなかった。僕に余裕と言うか、今日行って今日帰って来れるなら、それに越した事はない。けどそれは、物理的に無理な事。だったら僕は、我慢するしかない。何かを達成する為には、時に我慢が強いられる。我慢の果ての幸福ほど、幸福以上の幸福なものはないと、皇帝も言っていたじゃないか!僕はその皇帝の下に仕えていた事もなければ、そんな皇帝が本当に存在していたのかさえも知らない。だけど、今は我慢をするしかない!それはもう、我慢を我慢するぐらいの勢いで!って事は知っている。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「グロテスクだ!」
こんなに鬱陶しい思いをするぐらいなら、母へのプレゼントを他の物にしようかとも考えた。でも、母が食事中にあれほどまでに、グロテスクな物について楽し気に、そしてこの日を意識しながら話していた顔を思い出すと、やっぱりプレゼントはグロテスクな物以外には考えられない。そして、何よりも再びあんな悪夢のような晩餐を家族が体験しない為にも、長男である僕が何としても母へグロテスクな物をプレゼントしなければならない!
「今日は、何テスクをお探しで?」
「仮にグロテスク以外があるなら出してみろ!」
店に入って40分以上経つけど、いまだに僕は、店にも商品にも、何よりも店主のグロテスクさに慣れる事が出来ない。こんな機会でもなかったら、きっと足を運ぶ事すらなかったと思うグロテスク屋。そう考えると母に感謝だし、母にグロテスクな物の良さを吹き込んだ隣の店のおばさんをぶっ飛ばしてやりたいとも思った。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「どっかにスイッチ付いてんの?」
これでよく商店街の振興組合の組合長が勤まるもんだ!大人になって、仮に僕が父の店を継いだ時には、絶対に引き摺り下ろしてやる!!そりゃもう絶対にだ!!
「今日は、何テスクをお探しで?」
「だいたい、何かしながらの!ながら会話をやめろ!聞くならまず!そのグロテスクな本越しの!グロテスクなメガネ越しの!グロテスクな上目遣いをやめろ!!」
さっさと!さっさとプレゼントを選んで!帰ろう!グロテスクさに堪えられないとかじゃなくて!この鬱陶しさに堪えられない!よし!これにしよう!中高年に大人気ってグロテスクな貼り紙にグロテスクな文字で書かれたグロテスクな棚のグロテスクな物にしよう!そうしよう!
「今日は、何テスクをお探しで?」
「グロテスクだバカ!」
14、15、16、17、全17グロテスク色か。迷うなぁ?どうしよう?さすがに例の悪夢の晩餐の時に、母も好きなグロテスク色までは言ってなかったからな。普通はピンク系とか白系が無難だけど、そんな常識が通用しないほどだもんな。このグロテスク色はなぁ。いったいどんな素材で、いったいどんな配合をすれば、こんな色が出せるんだって感じだもんな。それをグロテスクな店主が作っているんだって考えると、ナノ凄いなって思うもんな。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「うっさいっ!!」
誉めたらこれだ。だから、大人は嫌だよ。反面教師にすら値しないグロテスクな店主は、ほっとくてしてだよ。本当にどうしようか?でも待てよ?根本的にだよ?母は、グロテスク初心者な訳なんだし、どれでもいいっちゃ、いいんだよな。グロテスクを収集している訳じゃないんだから、グロテスク色がかぶる事もないし、そもそもグロテスク色が分からない訳なんだから、何でもいいんだよ。とりあえずグロテスクな物なら何でも・・・・・・・・・。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
無視だバカ!よし!だったら、これにしよう!とりあえずこのグロテスクな物にして、もっと欲しくなった時は、次は自分で買いに行ってもらおう。よし!決めた!これだ!
「これ、ください!」
「今日は、何テスクをお探しで?」
「これだって!ああ、あとプレゼント用に包装お願いします。出来ればリボンとかも。」
「今日は、何テスクをお探しで?」
「だってそれ、普通に答えても返って来るのって、それなんでしょ?」
「今日は、何テスクをお探しで?」
「ほら。あのう?包装無いならないでいいですから、お会計お願いします。」
「今日は、何テスクをお探しで?」
そして僕は、グロテスクな包装とグロテスクなリボンの付いたグロテスクなプレゼントとグロテスクなポイントカードと商店街の福引券を持って、グロテスク屋を出て行こうとした。
「今日は、何テスクをお探しで?」
「ありがとございました!だろ!!」

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