« 「第二百十一話」 | トップページ | 「第二百十三話」 »

2010年7月 7日 (水)

「第二百十二話」

「時間よ・・・止まれ!」
出勤のため、朝、家を出るとそこには、隣の奥さんが、時間を止めようとしていた。
「おはようございます。」
「時間よ・・・ん?あら?お隣の旦那さん!グッモ、グッモ!これから出勤?」
「ええまあ、今日は朝一で会議なので、いつもより早めに家を・・・・・・。」
「そう!それは大変ね!」
僕は、隣の奥さんの方が、よっぽどだと、よっぽど大変だと、よっぽど思った。
「ええまあ。」
「頑張ってね!行ってらっしゃい!」
「ああはあ。」
「時間よ・・・」
「あ、あのう?隣の奥さん?」
「ん?お隣の旦那さん、ごめんなさいね。今ちょっと、忙しいのよね。そりゃもう、忙しくて忙しくて、暇に見えちゃうほどね!」
僕は、完全に後者だと、強く思った。
「その事なんですけど?もしかして隣の奥さん、時間を止めようとしていませんか?」
「あらやだ!分かっちゃった?恥ずかしいわ!」
これで分からない人を、逆に見てみたいもんだ。
「ええまあ。」
「さっきからやってるけどあれね!全然ダメね!まるで、止まる気配すら無いわね!」
いったい隣の奥さんの身に、何が起きたと言うんだ?どんな情報操作を駆使すれば、人をここまで時間って代物が止められる代物だと思い込ませる事が出来ると言うんだ?更に、それが実現可能クラスまで達するほどの図々しいまでの神経の持ち主に至るまで、どんな人生を歩めば成長出来ると言うんだ?
「・・・・・・・・・。」
「お隣の旦那さん?」
「えっ!?ああ、すみません。つい、考え事をしてしまいました。」
「考え事?もしかして、時間の止め方についての考え事!」
「えっ?」
「だってほら、お隣の旦那さん!私の事を見て、すぐさま時間を止めようとしてるって気付いたものね!で?何か思い付いちゃったかしら?時間を止める方法とやらを!因みに私はね。こう考えたわ!時間よ、と、止まれ!の間の取り方が問題じゃないかって考えてるのよ!どう?いい線行ってる?」
隣の奥さんを見ていると、人はもしかしたら、鼻と口以外でも呼吸が可能なんではないのか?僕は、少しだけそんな考えを巡らせていた。しかも、間だけでの問題で時間が止まるなら、世の中いつも大パニックだ。いやむしろ毎日が大パニック過ぎて、大パニックではない場合が、むしろ大パニックじゃないか。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「お隣の旦那さん?」
「ああ、すみません。また、考え事をしていました。でも、間の間隔で時間を止められると言うのは・・・・・・そもそも時間と言う代物が止められる代物なのかと言う問題なんでは?」
「・・・・・・・・・止まれ!」
聞いてない・・・・・・・・。
「ダメね。どうしてなのかしら?どうして止められないのかしら?もしかしらもう、私には・・・・・・・・・。」
「隣の奥さん?」
いつも陽気な、陽気と言う言葉を辞書で調べたなら、隣の奥さんのような、みたいに活用方法として例文に載っているんじゃないかってほどの隣の奥さんのこの落胆っぷり!?もしかしら・・・・・・もう、私には?まさか!?以前までは、時間が止められたと言う事なのか?確かに、時間を止められたら、止められている間、止められているんだから、止められている側には、止められていた事にすら気付く事なんて不可能だ!そんな!?隣の奥さんが本当に時間を?まさかな。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「時間を止められる力が無いのかしら?」
「やっぱり!?」
「やっぱり??」
「いえ、すみません。こっちの話です。それより隣の奥さん!隣の奥さんが、昔は時間を止められる力を持っていたと言う話は、本当なんですか!」
「あらやだ!」
「その話、詳しく聞かせてもらえませんか?いつ、どこで、どんな時、時間を止めたんですか!」
「あのね。話は、私が子供の頃まで遡るのね。そう、あれは約50年前!」
「ゴクリ!」
僕は、生唾を飲んだ。事が事なら、僕の生きているこの世界は、意図的に作られた世界。仮に隣の奥さんの時間を止められる力が、代々受け継がれている能力だとしたら?そもそもが、時間の操作によって遥か昔から歴史は誰かの脚本によって作られて来た。誰だ?いったい誰がそんな事を?誰、じゃない!隣の奥さんの力だけで、世界の全ての歴史を作れるのか?いや、奥さんの力だけじゃ無理だ!きっと裏には、何か大きな組織が存在していて、意図的な歴史を作り上げているんだ!そして、おそらく時間を止められる力を持つ人間は、隣の奥さんだけじゃないはず!・・・・・・待てよ!まさか、時間を止められる力を持つ人間を!?世界の規模が膨れるにつれ、能力の持ち主が一人では足りなくなった事を組織は、オリジナルからコピーを大量生産する事で解消した!なら、隣の奥さんはオリジナルではなくて、コピー?いや、コピーのコピーのコピーの、そのまたコピーの出来損ないに違いない。でなければ、こんなとこで主婦なんて陽気にしていられる訳がない。組織は、何らかの方法で記憶を消し去り、記憶を植え付け、不要なコピーを世間に送り出した。しかし、何かのきっかけで封印されていた隣の奥さんの昔の記憶と能力が、徐々に戻り出した!待て待て待て!記憶が戻った隣の奥さんは、どうなる?そして、その隣の奥さんの正体に気付いた隣の旦那さん、つまり僕はいったいどうなる?どうなるもこうなるも!組織は、間違いなく必ず消しにやって来る!!隣の奥さんも、その隣の旦那さんも、その家族もろとも世界から抹殺するためにやって来る!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まあ、それで今朝に至るわけなのよ!」
「えっ!?」
き、聞き逃した!!いや違う!?隣の奥さんが、無意識に時間を止め
「えっ!?」
「あらやだ!話に夢中になり過ぎて、もうお昼じゃない!買い物に行かなきゃだわ!じゃあ、お隣の旦那さん、会議頑張ってね!グッバ、グッバ!はあ、こんな時、時間が止められたらいいのにねぇ。瞬間移動、使えたり、透明人間とかにもなりたいわぁ。やれやれ、夢見がちな主婦は辛いわぁ。」
「・・・・・・・・・・・・。」

第二百十二話
「そして僕の時間は止まった」

|

« 「第二百十一話」 | トップページ | 「第二百十三話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/35668544

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百十二話」:

« 「第二百十一話」 | トップページ | 「第二百十三話」 »