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2010年8月 4日 (水)

「第二百十六話」

 男達が立ち上がり、互いの頭を狙って銃口を向けていた。なぜ、こんな状況になっているのか?気になる所だが、この際それはどうでもいい事だ。気にしても仕方の無い事だ。いや、気にしたとこで、行き付けの酒場に来て、カウンターに座り酒を注文した所で出くわした私には、むしろ到底関係の無い事だ。この酒場に来て、こんな光景を目の当たりにしない日の方が珍しい。そう考えながら、私は目の前に置かれた安い酒を一口胃袋へ流し込んだ。
「小僧?死にたくなければ、玩具をしまいなさい。」
と、ヒゲのガンマンが言ったかと思えば、若いガンマンも負けてはいなかった。
「アンタの方こそ、その豪華な飾りをしまったらどうだ?」
こいつは驚いた。よく見たら2人ともデッド・オア・アライブの賞金首ではないか。もしここに保安官が居たら腰を抜かすぞ?それに、よく観察してみれば、いろいろと背景が見えて来たぞ?テーブルを見る限り2人は、おそらくインディアンポーカーでもしていたのだろう。で、負けた方が相手に因縁を付けた。或いは、どちらかがイカサマをした。ここまでに至る経緯は、まあ、きっとそんな所だろう。しかし、この珍しくない光景の珍しい状況では、2人を止める事の出来る者などいないだろう。
「何が可笑しい?小僧?私が撃たないとでも思っているのか?」
「いいや、思っちゃいないさ。ただ、撃たないじゃなくて、撃てないんじゃないか?と。」
所詮、銃もダイナマイトと同じ道を辿ったか。こんな光景を毎度のように見せ付けられたら、誰もが考える事だ。そして、酒場に居る誰もが、どちらかの死で、この皮肉な決闘が幕を閉じると直感しているのだろう。賭け事が原因の決闘を賭け事にし始めている光景が、それを示唆している。それを当人達が気付いていない事が、微々たる救いだ。ならばこの際、私もこの賭けに乗ってみようではないか。まあ、私の場合、金を賭けるのような馬鹿な真似はしない。
「命を粗末にするものではない。幸福とは、生きてこそ得られる美酒。」
ヒゲのガンマンには、幸福。
「アンタ、牧師か?アンタが、オレに幸福をご馳走してくれるなら、オレはアンタを撃って、自由をプレゼントしてやるよ。」
若いガンマンには、自由。私は、この2つをそれぞれに賭ける事にしよう。ヒゲのガンマンが生き残れば、私の人生は、これから幸福へ、若いガンマンが生き残れば、私の人生は、これから自由へ、と向かう。生きる事が幸福で、死が自由のような極論めいた哲学を2人は述べているようだが、それは違う。幸福とは、愛であり、恐怖であり、概念上の規制である。自由とは、孤独であり、希望であり、時間概念に縛られない事である。死で何かを得られるのであれば、それは自由ではなく、永遠だ。幸福も自由も、生きているからこそ成立する空間である。2つには、メリットがあり、デメリットがあり、交わる事はない。まあ、私の哲学など、2人にとってはどうでもいい事だ。とにかく私は、共存不可能な互いのベクトルが互いに向いているこの相反する反発し合う空間のどちらかに身を置きたいだけだ。
「自由?私は、自由など必要ない。愛する者と日々を過ごせるだけで、それだけで良いのだよ。」
「喜びは倍、悲しみは半分ってヤツか?人の感情は、金じゃねぇんだ。増えもしなけりゃ、減りもしない。幸福に支配されて、その幸福を失う恐怖に怯えながら暮らす日々に、何の意味がある?」
「夢や希望と偽りの言葉を並べながら、孤独と戦うよりかは、遥かにマシだと思うが?」
「幸福が邪魔して身動きがとれなくなっちまった奴がほざくな。あいにくオレと孤独とは、親友だ。」
「ならその親友に伝えてくれるか?本当は、幸福を望んでいるのだろう?とな。」
「オッサン?そいつは、オレのセリフだ。」
何て事だ。今日は、驚きの連続だ。だいぶ、かいつまんでいるものの、2人の会話が進むに連れ、それは私の哲学と合致している。ハピネス・イズ・チェイン、フリーダム・イズ・ロンリー。縛られてこそ得られる幸福、孤独だからこそ得られる自由。幸福だからこそ欲する自由、自由だからこそ欲する幸福。2つの空間を行き交う事が出来るのは、満足感のみ。その自己満足が幸福の中の自由となり、自由の中の幸福となる。だがその全ては、偽り。確実に本物ではない。ただ、突き付けられた正論に立ち向かう力も、暴かれた本質を受け入れる力も、残念ながら人は持ち合わせていない。満足感に満足している事の方が、知らないフリをして騙され続けている事の方が、その方が、実に快適で心地好い。生きてくうえでのタブーがあるとすればそれは、幸福と自由の正体を探求し追求する事なのかもしれない。しかし私は!そんなタブーを犯してでも知りたいのだ!生きている以上、人である以上、その答えに辿り着
「「バーン!!」」
気付くとヒゲのガンマンも若いガンマンも額から血を流し、酒場の床に倒れていた。私がタブーを犯そうと目論んだ事への神の啓示なのだろうか?単なる偶然の積み重ねによる必然なのだろうか?まあ、どちらにせよ私は、見事に賭けに負け、幸福も自由も得る事が出来なかった。得たモノと言えば、2人分の賞金だけだった。

第二百十六話
「賞金稼ぎ」

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