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2010年8月11日 (水)

「第二百十七話」

 商店街の地下にある地下商店街の一番最初にその店はある。

第二百十七話
「水滴屋」

家の水滴部屋の水滴が切れたので、普段は祖父が買いに行っている水滴屋へと僕は、商店会旅行中の祖父の代理を母に頼まれてやって来た。地下商店街は、地上商店街と違って、不思議な店が多く存在している。殆んどの人は、目的が無ければ来る事は無いだろうし、興味本意で立ち寄ったとしても、ここで何かを買うなんて人は、余程の変わり者だろう。だいたい、本来なら僕も後者だ。そもそも、水滴屋の存在理由も分からなければ、水滴部屋の存在理由すら用途不明だ。ただ、僕が生まれるずっと前から水滴部屋は存在していて、祖父母にとってそれは、重要な意味を成しているみたいだ。
「お邪魔しまーす。」
所々、裸電球が切れ掛かっている暗い階段を下り、先も見えない真っ暗な地下商店街だからこそなのか?水滴屋の扉を恐る恐る開けると中は、真っ暗で無数の水滴音が、ただただ鳴り響いていた。
「あのう?」
頼りない通路からの明かりだったが、無いよりかはましだと、僕は扉を片手で押さえながら、居るのか居ないのか分からない店主に呼び掛けた。だけど、返事は無い。
「すいません?」
「扉を閉めんか!」
もう一度呼び掛けた時、暗闇の向こうから聞こえる突然のその大声に驚いた僕は、扉を押さえる手を放してしまった。ゆっくりと閉まる扉、間も無く店内は、真っ暗闇へと本来の姿を取り戻していった。
「大声を出して悪かったね。」
「いいえ。」
よーく聞くと、声の主は年老いた女性の物だった。
「水滴は光に弱くてね。飛沫と音質が変化しちまうんだよ。」
「そうだったんですか。知らなかったもので、失礼しました。」
「ええよ。そんなこったろうと思ったからね。入り方を見てれば分かる。次からは、ちゃーんと気を付けとくれよ。」
「は、はい。」
おそらく常連客は、最低限入れる隙間を作って、扉をすり抜けるようにして入店を試みるのだろう。
「で?ボウヤのような若い珍客が、いったい水滴屋に何の用だい?」
「水滴部屋の水滴が切れたので、買いに来たんです。」
「ほぅ!家に水滴部屋があるとは、これまた若いのに随分と物好きな。」
「あっ、いえ、普段は祖父が買いに来ているんですが、祖父が商店会の旅行に行ってまして、代わりに僕が母に頼まれて来たって訳です。」
「ん?するとボウヤは、グロテスク屋の孫かい?」
「はい。」
「おお!こりゃたまげた!随分と立派な青年になりおってからに、若い頃のグロテスク屋にそっくりだわい。さぞかし女の子にモテモテだろ?」
「いえいえ、そんな事ないですよ。って、水滴屋さんは、僕を知っているんですか?」
「よーく知っとるよ。お前さんが小さい頃、よくグロテスク屋が嫌がるその手を繋いで来たもんだ。で、お前さんが今立っとる辺りでな、お前さんはよーく大泣きしとったよ。」
「そんな事が・・・・・・・・・。」
まさかここに来て、何故か幼い頃から心の奥底に存在する原因不明のトラウマの正体が判明するなんて思わなかった。祖父もよく地下商店街なんかに幼い僕を連れて来ようだなんて思ったものだ。
「グロテスク屋の水滴なら、お代を貰ったら後で配達しとくよ。」
すると、店の奥の方から長い柄杓が姿を現した。おそらくこの中にお金を入れろと言う事なのだろう。僕は、母から受け取った代金丁度のお金を柄杓の中へ入れた。
「ん、丁度だね。」
すると、柄杓はゆっくりと暗闇の中へと姿を消していった。
「あのう?」
「ん?何だい?」
ここで僕は、頭の中に浮かんだ2つの疑問を水滴屋の店主に、ぶつけてみようと思った。
「聞いてもいいですか?」
「何で、お前さんの姿や代金が、真っ暗闇の中、分かったのか?かい?」
「えっ!?」
僕は、まるで心を見透かされたかように、1つ目の疑問を言い当てられ、ただただ驚いていた。
「なーに、簡単なこった。微妙な音の変化や床で弾ける飛沫でな。暗闇の中でもくっきりと、お前さんの姿は見えとるからな。みーんな、水滴が教えてくれる。まあ、色だけは分からんけどな。」
「僕には、何も見えません。」
「そう簡単に水滴は教えてくれんよ。デリケートでワガママで気まぐれだからな。先ずは、水滴部屋で五感を研ぎ澄ますこった。そうすれば、お前さんが聞きたがっとる本当の謎の答えが少しだけ見えてくるかもしれん。」
僕は、ただただ単純に水滴と言う物に興味が湧いた。何と無くだが、祖父母が水滴部屋を大切にしている理由も分かったような気がする。でも、水滴屋の店主が言うように、本当の意味で水滴を知る為には、先ずは水滴部屋へ入ってみなければ何も始まらない。
「今日中に水滴部屋は、使えるようになりますか?」
「夕方までにはな。」
「ありがとうございます。」
「礼は、お代を貰ったこっちが言うもんだ。いつも水滴を買っとくれて、ありがとね。グロテスク屋にも、宜しく伝えとくれ。」
「はい。」
「水滴の壁にぶつかったら、また来るといい。」
「はい!」
僕は、必要最低限に扉を開け、真っ暗闇な水滴屋を出て通路の天井を見上げながら、少しだけニヤニヤしていた。

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コメント

この話大好きです!
水滴部屋家にも欲しい……。

投稿: | 2010年8月22日 (日) 23時41分

水滴屋では、水滴部屋の注文も可能らしいですよ。かなり不気味ですが、近くに足を運んだ時には、ぜひぜひ地下商店街に立ち寄ってみて下さい。

水滴屋だけではなく、その先にもまだまだ面白いお店が見付かるかもしれませんからね。

コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2010年8月23日 (月) 22時49分

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