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2010年8月25日 (水)

「第二百十九話」

 俺は、殺し屋だ。今回のターゲットは、目の前に座る老紳士だ。なぜ、ターゲットと共に青空の下、カフェでコーヒーを満喫しているのか?答えは簡単だ。俺が殺し屋で、老紳士がターゲットだからだ。
「キミの仕事は?」
「ちょっと人には言えない仕事をしてます。」
「人に言えない仕事?面白い。犯罪絡みかね?それとも政府の人間かね?」
「実は、宇宙人を捕まえて解剖しているんです。」
「あのUFOの!?ミステリーサークルの宇宙人かね!?」
「宇宙人だけじゃない。あらゆる超常現象を研究しているんです。政府の人間です。」
「本当に宇宙人は存在していたんだな!」
「さあ?どうですかね?本当に存在してたら、会ってみたいものです。宇宙人やドッペルゲンガー、それに死神とかにもね。」
「何を言っているのだ?」
「ははっ!ジョークですよ。政府の人間なんかではありませんよ。害虫駆除の仕事です。宇宙人の襲撃ではなく、この街を害虫から守ってるんです。それで、貴方は何を?」
「わしか?わしは、単なる老人だ。こうして昼下がりをオープンカフェで、日がな一日を過ごす暇を持て余している単なる老人さ。」
「ははっ!平和で何よりです。」
「本当だ。」
と、老紳士は惚けたジョークを抜かしてるが、トンでもない。こうして誰かに莫大な報酬の殺しの依頼をされてんだ。単なる老人なはずがない。
「毎日、ここへ?」
「ああ、午後はこうして毎日ここへ来ては、コーヒーを飲みながら人間観察をしているよ。」
「人間観察?それは面白い趣味ですね。」
「ああ、とても面白いよ。何よりも金が掛からない。最高の趣味だよ。」
「そうですね。」
「同じように見えても、やはり人間は、ひとりひとり違う。個性が無いように見えて、個性があるものさ。それに、それぞれ人は、言えないような事情を巧妙に隠し持っている。それを見付けた時の幸福感に勝るモノはない。」
「人には言えないような事情?ですか?」
「うむ。そうだな?例えば、あそこに座っているカップルを見なさい。」
「はあ。」
「別れる。」
「え?」
「あんなに仲良くしているのに?なぜ?そう、思ったのか?かな?」
「はい。」
「しかし、毎日ここへ来て人間観察をしているわしには分かる。彼女の方は、そうでもなさそうだって事がな。」
「どう、分かるんですか?」
「いいか?彼女をよく見ろ。微妙にだが、イラついている。彼が一定の距離に近付くたびに、彼女の口元と目尻は緊張している。好きじゃないのさ。本当にそんな事まで分かるのか?って顔をしているようだが、そんな事まで分かってしまうんだよ。こうして毎日毎日、人間を観察しているとな。」
「なるほど。素晴らしいです。超能力と言っても過言じゃありませんね。」
「超能力?ふははっ!そうだな。人間を観察していれば、その人間の細かな癖や仕草からある程度の心と行動を読み取る事が出来る。一種の超能力かもしれんな。」
「或いは、一種のマジック!」
「人間観察にトリックは存在しないさ。」
「ええ、確かに人間観察事態にトリックは、ありません。ただ、向ける方向によっては、そこにトリックを作り出す事は出来ます。」
「面白い。聞かせてもらおうかな?」
「簡単な話です。彼女は、このカフェのウェイターと付き合っている。」
「大胆な発想だ!」
「ははっ!これはC級ラブコメ映画の脚本ではありませんよ。人間観察です。彼女がしてるペンダント、随分と歪な形をしていると思って見てました。一見、ティアーのようだけど、違います。ウェイターがしているペンダントと合わせるとどうです?ハートになる。貴方は、カップルだけを僕に注目させ、別れると言った。しかし、毎日このカフェに通う貴方だ。彼女とウェイターの関係を知らないはずがない。全体から一部を切り取って僕に見せたに過ぎません。これは、巧妙なマジックです。」
「ふはははははっ!素晴らしい!実に素晴らしい人間観察だ!」
「いいや、ウェイターがたまたまカップルのテーブルに行ったから分かっただけですよ。」
「うむ、合格だ。」
「合格?何の事です?」

第二百十九話
「さて、殺し屋クン?」

「何だと!?」
「分からないかね?キミほどの人間観察を持つ殺し屋でも?」
「・・・・・・・・・そうかなるほどな。あのカップルもあのウェイターもアンタのお仲間って訳か。罠か?」
「罠?ふははっ!いったい何の罠だと言うのかな?まさか、殺してもわしには何の特もないキミを殺す為の罠だと?ジョークだよ!スパイシーなジョークさ!おっと?妙な考えはやめたまえよ?因みに、カップルとウェイターだけではなく、このカフェにいる人間、全てわしの部下だ。」
「ふざけた話だ。」
「そうでもない。これはビジネスだ。」
「ビジネス?」
「ああ、殺しの依頼をお願いしたい。」
「なぜ?」
「それはジョークかね?殺し屋が依頼主の事情を知る必要があるのかね?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「で?ターゲットは?」
「うむ。殺して欲しい人間は、実はキミと同業ふぁふぁ。」
「面白い。引き受けよう。だが、その前に外れた入れ歯をはめてくれるか?」

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