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2010年9月 8日 (水)

「第二百二十一話」

「いやあ、どうやら噂は本当だったようだな。」
「噂?いったい何の噂だ?」
「凄く冷静な男の噂だよ。」
「凄く冷静な男?」
「知っているかね?知り合いの爬虫類学者に聞いたんだが、人間は本能的に蛇を恐怖するらしい。だがどうだ?君は、そんなに沢山の蛇を前にしてもなお、冷静に私と会話している。これが、噂が噂でない何よりもの証拠だとは思わないかね?」
「確かに、アンタの言う通り、それは何よりもの証拠かもしれないな。だけど、いったいどこに、アンタが言う沢山の蛇がいるんだ?」
「これは驚いた!実に素晴らしい!」
「喜んでる意味がさっぱりだ。」
「いやはや、この状況下で蛇が存在しない事に気が付くとは、もはや君は生まれ持っての冷静野郎だ!」
「どの、状況下だ?」
「しかし、どんな人間も銃を向けられれば、冷静でなどいられるはずがない。さあ?どうするかね?私に命乞いでも試してみるかね?それとも?」
「アンタの目的は何なんだ?何が狙いだ?」
「取り引きか。まあ、妥当な選択肢だな。」
「取り引きじゃない。ボーッと突っ立ってるだけのアンタへの単なる質問だ。」
「これは想像以上の冷静っぷりだ!銃を向けられていない事をこんなにも早く見破られるとはな。君の冷静さは天才的だ。」
「何の茶番だ?」
「茶番!!?君は、これが茶番だと!そう言いたいのかね?」
「他に思い付きもしない。」
「君は、何も分かっちゃいない!これが茶番と言うのならば!世の中全てが茶番そのものだ!いいか私は!・・・・・・・・・っと。」
「どうしたんだ?」
「ふふっ!危うく君の冷静な口車に乗せられてしまうとこだったよ。そうやって相手の冷静さを欠くような発言をして、私を陥れようとしても無駄だ。茶番か。なかなかのチョイスだったよ。」
「・・・・・・・・・。」
「お礼に一つだけ、凄く冷静な男の君に、教えて上げようではないか。私と君が先ほど口にしたディナーの中には、隠し味として毒が混ざっていた。そうだな?あと10分以内に、私の持つこの解毒剤を飲まなければ、君は苦しみの果て絶命する。もちろん、私は一足先に解毒剤を飲ませてもらったがな。」
「まったく話が見えないな。俺をどうしたいんだ?命乞いをさせないのか?」
「違う!私は、そんなチープな人間などではない!ただ、君の冷静さを間近で見たいだけだ。さあ?どうする?これは今までとは違うぞ?確実に訪れる死だ。冷静ではいられまい!」
「言ってる事とやってる事が、どうも矛盾してるようだが?俺の冷静さを見たいと言うわりには、アンタは俺が慌てる様を望んでる。」
「或いは、心の奥底では、生涯冷静な君のそれを望んでいるのかもしれないな。さあ!茶番はおしまいだ!どうする?凄く冷静な男よ!この解毒剤を飲まなければ死ぬぞ!」
「ただただ、ボーッと突っ立ってるアンタに一つ言わせてもらえるなら、俺はアンタとディナーを共にした覚えはない!」
「そ、それは、毒の存在も解毒剤の存在も同時に否定すると言う訳か?」
「結果的にそうなるかもな。」
「死を目前としてもなお、衰える事のない冷静さ!いや、むしろ逆に冷静さが冴え渡ってさえいる!噂を遥かに上回る男だ!感服だよ。」
「俺がいつ、死を目前とした?なあ?いい加減、目的を教えてくれないか?今日は水曜日だ。いろいろと忙しいんだよ。こんな下らない茶番に付き合ってる暇なんてないぐらいにな。」
「何て事だ!!?この状況下でなお、曜日を気にするだけの余裕があるとはな。何か逆に、その冷静過ぎる冷静さに気分が悪くなってしまうよ。」
「なら、病院に行きな。用件がないならないで、俺は帰らせてもらうからな。じゃあな。」
「待て!!」
「まだ何かあるのか?」
「ある!!取って置きがな!!」
「取って置きだと?」
「ああ、そうだ!君の体内に、時限装置式の爆弾を仕掛けさせてもらったのだよ!嘘だと思うのならば!上着を脱いで胸の手術痕を見たまえ!」
「・・・・・・・・・貴様っ!」
「ふははははっ!さあ、どうする?あと5分もすれば君は、木っ端微塵だ!爆弾を停止する方法は、ない!!終わりだ!終わりなのだよ!命乞いも冷静な判断も、もはや関係の無い事なのだよ!凄く冷静な男よ!!!」
「ふざけやがって!」
「その逆上っぷりを見れば分かるよ。もはや冷静でなどいられないと言う事がな。では、死ぬ前に手短に話をして上げようではないか。簡単な話だ。実に簡単で、呆気ないぐらいのな。要するに、君のその凄く冷静な力を我が国は恐れた。だから、君を確実に消す事にしたのだ。それだけの事だ。では、私もそろそろ退散するかな。爆発に巻き込まれでもしたら事だ。」
「いったいどこに手術痕があるんだ!!」
「何だと!!!?」
「我が国がどうだとか、これ以上、そんな訳の分からない事に付き合ってる暇なんてないんだよ!水曜日は凄く忙しいんだ!ええっ?分かったか?忙しいんだ!俺は帰る!!」
「そんな馬鹿な!?ここまでの冷静な男だなどと聞かされていな・・・・・・水曜日?水曜日と言ったか!今日は木曜日ではないのか!」
「そうだよ!今日は忙しい水曜日だ!!じゃあな!ボーッと突っ立ってるだけの男!」
「・・・・・・・・・どうりで何もかも。」

第二百二十一話
「凄く焦る男」

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