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2010年10月27日 (水)

「第二百二十八話」

 俺は今、夢の中にいる。そして、夢の中を逃げ回っている。
「くそっ!ここにも!」
「はっはっはっは~!」
俺に銃口を向け殺意に笑うダンディーなコイツは、黒い帽子に黒いスーツなニヒルなヒットマン。そう、俺はヒットマンから逃げ回っている夢を見ていた。

第二百二十八話
「至る所にヒットマン」

 夢の中で起きた瞬間から悪夢は始まった。こんもりと異様に盛り上がった布団の中からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
飛び起きてトイレに逃げ込むと便座に座るヒットマン。
「はっはっはっは~!」
俺は、今にも銃口から発射されそうな弾丸に恐怖し、無我夢中で逃げた。夢の中ってのは不思議な構造をしてるもんで、玄関へと続く廊下が異様に長かった。フルマラソン級に走り疲れた俺は、カラカラになった喉を潤そうと、一先ず冷蔵庫へ手を伸ばした。するとそこにはヒットマン。
「はっはっはっは~!」
冷蔵庫のドアを勢いよく閉め、俺はすぐ横にある蛇口を捻った。
「はっはっはっは~!」
蛇口からは、水ではなくヒットマン。驚いた俺が尻餅を付いた瞬間、場面は喫茶店へと移った。目の前のテーブルの上には、アイスコーヒー。相変わらず喉がカラカラな俺は、ストローへと口を近付けた。
「はっはっはっは~!」
ストローの中からは、ヒットマン。俺は、アイスコーヒーのグラスを手に取り、壁に投げ付け、喫茶店の出口へと駆け出した。
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
通り過ぎる客の全てがヒットマン。
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
通り過ぎる店員の全てがヒットマン。
「はっはっはっは~!」
つまりが、喫茶店内の俺以外が全てがヒットマン。俺は、地下にある喫茶店の出口を抜け、階段を駆け上がり、地上へと出た途端に場面は映画館へと移り変わった。そこで俺は、恋愛映画を観ていた。クライマックスシーンで、女性が立ち去る男性を呼び止めていた。後ろ姿でピーンと来てはいたが、案の定、振り向いた男性は、ヒットマン。
「はっはっはっは~!」
そんなヒットマンに向かって駆け寄り抱きつく女性も、やっぱりヒットマン。
「はっはっはっは~!」
何が悲しくてダンディーなヒットマン同士のダンディーなキスシーンを見なきゃならないんだ。と思っているうちに、スクリーンにはfinの文字。そして、スピーカーからはヒットマンの笑い声。
「はっはっはっは~!」
と、共にエンドロールには全てヒットマンの文字。ここで俺は、事の重大さに気が付いた。照明が点いた時、館内はヒットマンで埋め尽くされてんじゃないか?と。それを思い付いた時には、もう館内の照明が徐々に明るくなって来た時だった。
「えっ!?」
館内には、俺一人だった。呆然とする中、館内に清掃員が入って来た。
「はっはっはっは~!」
ヒットマンだった。無我夢中で逃げる俺だったが、何だろう?このヒットマンが出て来た時の妙な安心感は?と考えていたら、場面は診察室に移っていた。もちろんドクターは、ヒットマン。
「はっはっはっは~!」
レントゲン写真もヒットマン。カルテにもヒットマンの文字だらけで、ナースもヒットマン。
「はっはっはっは~!」
腕を捲った俺に刺そうとするドクターヒットマンの注射器の注射針の中からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
ドクターヒットマンの手を振り切り、俺は診察室を出た。
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
廊下には、ギブスのヒットマン。点滴のヒットマン。松葉杖のヒットマン。真っ青なヒットマン。手術室へと運ばれて行くヒットマンを運ぶヒットメン。無我夢中で走る俺が気付いた時には、場面は何かの行列だった。
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
もちろん、行列に並ぶ俺の前と後ろには、ヒットマン。そして、行列に並ぶ老若男女なヒットマン。でも基本的にダンディーだから気味が悪い。ゆっくりだが、行列は進んで行く。けど、この行列が何の行列なのかは、全く不明だった。
「はっはっはっは~!」
勇気を出して後ろのヒットマンに聞いてみても銃口を向けて笑うだけで、話にならない。俺は、ただただ夢のルールに従い、行列の先頭になるまで並んでなきゃならなかった。
「はっはっはっは~!」
前のヒットマンの耳の穴からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
その耳の穴のヒットマンの鼻の穴からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
その耳の穴のヒットマンの鼻の穴のヒットマンの銃口の中からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
その耳の穴の鼻の穴の銃口のヒットマンの帽子の隙間からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
その耳の穴の鼻の穴の銃口の帽子のヒットマンの耳の穴からヒットマン。以降は、ずっと耳の穴からヒットマン。肉眼では見えないくらいになった先っぽのヒットマンを眺めながら俺は、むしろアッチからコッチだったらって考えたら、思わず笑いが込み上げて来た。そんな下らない考えを張り巡らしている間に、いつの間にか俺は、行列の先頭に立っていた。
「やっぱりか。」
店の看板には、ヒットマンの文字。いったい何の店なのかと、中に入るとヒットマンが迎えてくれた。
「はっはっはっは~!」
どうやら、定食屋のようだったが、あんなに行列だったのに、客は俺一人だった。とりあえず席に付きメニューを見たが、メニューは全て料金に至るまでヒットマンだった。
「はっはっはっは~!」
仕方無くヒットマンを注文した。笑いながら店の右奥へと消えて行ったヒットマンを見送ると、すぐに左奥からヒットマンが現れたのに、俺は驚いた。
「はっはっはっは~!」
ヒットマンのお盆には、丼と味噌汁とお新香が乗っていた。嫌な予感はしたが、俺は丼の蓋を開けた。だが、期待とは裏腹に丼の中身はカツ丼だった。お腹が減っていた俺は、箸でカツを一切れつまみ上げた。
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
「はっはっはっは~!」
ご飯が全てヒットマンだった。あまりの異様すぎる光景に、箸もカツも床に落としてしまった俺は、急いで丼に蓋をした。すると殺気を感じた俺が味噌汁に目をやると、味噌汁の中からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
更に、お新香の下からヒットマン。
「はっはっはっは~!」
もうとにかく店を出ようとヒットマンを呼び、会計をしてもらおうとポケットから取り出した財布を開けるとヒットマン。
「はっはっはっは~!」
俺は財布を投げ捨て、急いで店を出た。その瞬間、場面は再び自宅へと移り変わった俺は、風邪を引いていた。
「イックション!!」
「はっはっはっは~!」
と、クシャミをすればヒットマン。
「ジュルルルー!」
「はっはっはっは~!」
と、鼻をかんだティッシュを開いてみればヒットマン。薬を飲んで寝ようと、薬に手を伸ばし瓶の説明書きを見ると、ヒットマン3錠の文字。中には、黒い錠剤かのように体を丸めたヒットマン。
「はっはっはっは~!」
ふと、隣を見ると消化に良さそうな食べ物をお盆に乗せたヒットマン。
「はっはっはっは~!」
テレビから流れるニュース番組のキャスターはヒットマン。コメンテーターもヒットマン。天気予報士もヒットマン。明日の天気は、どこもかしこもヒットマン。
「はっはっはっは~!」
ドアの隙間からヒットマン。窓の向こうにもヒットマン。天井からもヒットマン。押し入れの中にもヒットマン。ソファーに座るヒットマン。読書するヒットマン。真剣な表情でニュースを観ているヒットマンに、ちょっかい出すヒットマン。踊るヒットマン。歌うヒットマン。黄昏るヒットマン。泣くヒットマンを笑うヒットマン。それを怒るヒットマン。焦るヒットマン。照れるヒットマン。悔しがるヒットマン。一際大声で笑うヒットマン。爽やかなヒットマン。セピアなヒットマン。白いヒットマン。ロボットヒットマン。やる気のないヒットマン。とにかく、至る所にヒットマン。
「はっはっはっは~!」
なるほどな。
「はっはっはっは~!」
そうか。
「はっはっはっは~!」
俺は、ヒットマンだらけの夢を見ているんじゃない。
「はっはっはっは~!」
そう、夢の中までもヒッ
「バン!!」
「はっはっはっは~!」

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