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2010年11月

2010年11月 3日 (水)

「第二百二十九話」

 古い廃屋な古い地下牢な場所。
「貴方、誰?」
20代前半の女。
「お前こそ、誰だ?」
30代前半の男。
「ねぇ?その人、死んでるの?」
「死んでるだろ?普通・・・・・・。」
そして、横たわる無数のナイフが突き刺さった60代前半の男。
「いやあああああああ!!!」

第二百二十九話
「密室」

「・・・・・・・・・黙れ。」
「だ、黙れって、目の前に死体があるのよ!」
「冷静になれよ。」
「冷静になれって!冷静になれるわけな・・・・・・・・・。」
女は無言になり、男を見た。
「何だよ。」
「まさか、貴方が殺したんじゃ!」
「はあ?」
「だってそうでしょ!アタシじゃないもん!だいたい、アタシこの人知らないし!貴方・・・。」
再び女は無言になり、男を見た。
「どうした?」
「ねぇ?知ってるなら教えて!」
「知ってるならな。」
「アタシは、誰?」
「その様子だと、俺が誰なのかは、教えてもらえそうもないな。」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!これって、まさかその・・・・・・・・・。」
「記憶の・・・喪失。」
「それ!!」
「一時的なのか知らないが、俺達は記憶を喪失してるみたいだ。つまり、この男を殺したのは、俺ではなく、お前かもしれないって事だ。」
「アタシなはずないじゃない!」
「なぜ断言出来る?記憶を喪失してるのに・・・・・・・・・・・・・・・。」
男は無言になり、女を見た。
「な、何よ!」
「だが、こうも考えられる。」
「はい?」
「この男が、俺達を殺そうとしていた。」
「はあ??じゃあ、なんで死んでるのよ!」
「鈍い奴だな。」
「何ですって!」
「逆に俺達が殺したんだよ。正当防衛って奴だ。」
「なるほどね!・・・・・・って、ちょっと待って!逆の逆に、アタシ達がこの男の人を殺そうとして殺したって事も考えられるって事?」
「なら、見事に成功だな。」
「冗談はやめてよ!」
「お前が言い出したんだろ?それに、冗談かどうかは、分からないだろ?本当は今頃、どこかのレストランで祝杯を挙げてたかもしれないんだぞ?」
「でも!それって憶測だし推測じゃない!」
「ああ、そうだ。全くその通りだ。全てがな。」
「全て?」
「ああ、とにかく俺が言いたいのはな。記憶を喪失してる俺達には、無限のシチュエーションが考えられるって事だ。そして、現段階では、そのどれもが憶測や推測の域を越えられないって事だ。」
「それってもしかして?アタシ達が恋人同士とか?ってのもアリ?」
「純粋に愛し合ってる仲かもしれないな。」
「とても笑えない、凄く面白いジョークね。」
「試しにキスでもしてみるか?何か思い出すかもしれないぞ?」
「思い出さなかったら、貴方の事、おもいっきりブッ飛ばすわよ?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「もう1つ、可能性がある。」
「可能性?」
「俺達3人共が被害者だって可能性だ。」
「誰かに監禁されてるって事?」
「ああ、そして故意に記憶を喪失させられた。」
「まあ、それもアリかもね。寧ろ妥当?」
「だったら話は早い!」
「えっ?どうする気?」
「出るんだ。」
「出る?ここから?」
「そうだ。」
「どうやって?」
「はあ、やっぱり俺達は、恋人同士じゃないみたいだ。安心したよ。」
「何の話よ!」
「俺は、お前みたいな鈍い女が嫌いみたいだ。」
「どう言う意味よ!」
「いいか?どうやって出るかって?あのドアから出るに決まってるだろ?」
「はあ、良かった。ホント、アタシ達は恋人同士じゃないみたい。」
「何?」
「アタシ、貴方みたいに後先考えずに突き進むタイプの男って、大っ嫌いみたい!」
「何だと!俺のどこが後先考えてないって言うんだ!」
「アタシ達、記憶が無いのよ?もしも、この場所へ故意に逃げ込んでいたとしたらどうするつもり?」
「逃げ込んだ?」
「ええ、そうよ。例えば、何かから身を隠す為にとかね。」
「何かから?殺人鬼からか?」
「殺人鬼からとは限らないわ。謎の病原菌とか、ゾンビとか・・・・・・あと・・・・・・。」
「下らない。映画の観すぎだ。病原菌やゾンビだったら、男の死体の意味が分からない。これは、明らかに人の手によって殺されてる。」
「先入観。」
「何だと?」
「アタシ達が目覚めた時に、ここに3人いたからって、始めからアタシ達3人が共に行動していたとは限らないわ。たまたまアタシ達が逃げ込んで来た場所に、死体があったのかもしれないじゃない。」
「つまりこう言いたいのか?俺達は、病原菌やゾンビみたいな訳の分からない代物から逃げてて、偶然ここへ辿り着いた。そして、そこにはたまたま死体があった。更に、なぜか2人して記憶を喪失して目覚めた。」
「そう。」
「全く下らない。俺は、そんなお前の妄想の産物に付き合ってられないね。」
「待って!」
「まだ何か妄想すんのか?」
「おかしいと思わない?何で、アタシがこんな発想を持ってるのか?そこ変だと思わない?」
「それは、こう言う異常な状況下で、思考が変になってんだろ?いや、お前の場合、元から変なのか?」
「いちいち頭に来る事を言ってくれちゃうわね!なら貴方の言う通り、第3者の存在があるとして、その第3者は、アタシ達が目覚めてるってのに、どうして何もして来ないの?それとも、こんな馬鹿げたやり取りを楽しんでるっての?つまり!貴方の言う第3者の存在こそが妄想なのよ!アタシの発想は、きっと記憶の断片なのよ!」
「第3者の方が妄想で、病原菌やらゾンビの方が本当だとしよう。でもな。まずは、何かしら外部と接触しなけりゃ、話が進まないだろ?とにかくドアを開けて外の様子を伺う。」
「待ちなさいよ!」
「いいか?仮に病原菌だとしたら、こんな場所じゃ、とっくに俺達は感染して死んでる。だから、その考えは捨てろ。それと、死体と俺達が無関係だって発想もだ。どう考えたって無関係に結び付ける方が難しい。それともう1つ!」
「まだあるの!?」
「俺は、最初の考えを捨ててない。」
「最初の考え?」
「俺達のどちらかが、殺人鬼だって考えだ。」
「ああ、それね。アタシは、100%貴方が怪しいと思うけどね。」
「いずれにせよ。記憶を取り戻す前に、俺達は別行動をした方がいい。でなけりゃ突然、お前が俺を殺すかもしれないし、俺がお前を殺すかもしれないからな。」
「つまり、ここを出た方が安全って事?」
「ああ、そうだ。何かから身を隠してるとしても、こんな場所にいたんじゃ、発見された時に身動きがとれない。どの角度から考えてみても、ここから出る方が安全って事だ。」
「ねぇ?」
「何だ?」
「その理論は分かったわ。でも、根本的な質問していい?」
「言ってみろ。」
「あのドアに、鍵が掛かってたら?」
「その時は、俺達が逃げ込んで来たって可能性が無くなるだけだ。そして、いまだに第3者の存在が無い以上、俺は、お前の記憶の喪失を疑う!」
「えっ?ちょ、ちょっと何を勝手な考え言っちゃってんのよ!」
「俺は、俺の記憶の喪失は分かるが、お前の記憶の喪失が本物かどうかまでは分からない。つまり、第3者はお前だって事だ。」
「それが勝手な考えだって言ってんのよ!アタシは、ちゃんと記憶喪失よ!」
「どうだか?」
「アタシにしてみれば、今の話をそっくりそのまんま貴方に返すわよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
男と女は、しばらく無言で互いを見ていた。
「とにかく、その話はドアが開くか開かないかを調べてみてからだ。」
「・・・・・・・・・オッケ。」
男は女の返事を聞き立ち上がると、ドアへと歩き出した。そして、ドアの前まで来ると、ドアノブに手を掛けた。
「・・・・・・・・・ゴクリ。」
男は唾を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・ゴクリ。」
女も唾を飲み込んだ。
「行くぞ。」
「いつでもどうぞ?」
「ガチャッ!」
「開いたわ!」
「よし!逃げ!?えっ!?」
「えっ!?」
「プシュー!!」
「ガスだ!!」
「な、何!?どう言う事なのよ!?」
その時だった。どこからともなく部屋中にガスが立ち込め、男も女もその場に倒れ込んでしまった。そして、その光景を会場の大画面で観ていた観客達は、ある者は歓喜し、ある者は激怒していた。すると、壇上に1人のタキシード姿の40代前半の男が現れた。
「ええ、皆様!第6ステージの結果も!第4、第5ステージ同様!ドアを開けて脱出をする!と言う結果になりました!間も無く第7ステージが開始されますが!ここでオッズの変更をお知らせ致します!皆様!よーくお聞き下さい!ドアを開けて脱出する2倍!男が女を殺す5倍!女が男を殺す7倍!相討ち15倍!プロポーズ101倍!その他58倍!さあ!第7ステージ開始まで残り15分です!お早めにお賭け下さいっ!」

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2010年11月10日 (水)

「第二百三十話」

「じゃあ、僕から話そうかな。」
彼を仮に、Aと呼ぼう。
「てか、いっつもアンタからなんじゃない?」
彼女を仮に、Bと呼ぼう。
「まあまあ、誰から話し始めたって同じなんだからいいじゃないですか。」
そして、彼を仮にCと呼ぼう。
「でもでも、他のメンバーを待たないで始めちゃっていいわけ?」
Bは、言った。
「まあ、そのうち来るんじゃなくって?来たら来たで、他の話をすればいいのですから、まさか?話を1つだけしかご用意していないおっちょこちょいは、いらっしゃらないと思いますが?」
更に彼女を仮に、Dと呼ぼう。
「じゃあ、僕から話すね。確か今日のお題は、真実、だったよね。」
Aは、言った。
「そのとおりですわ。」
Dは、言った。
「さあさあ、もったいぶらずに始めちゃって下さい!」
Cは、言った。
「真実・・・・・・。」
Aは、ゆっくりと語り始めた。
「実は、僕。未来から来たんだ。」
「うっそ~!」
「シー!人が話し終わるまで、黙って聞いているのが此処でのルールですよ。」
「は~い。」
Aの話をBが遮り、それをDが注意し、それにBが答えた。
「信じられないかもしれないけど、僕はタイムマシーンに乗ってこの時代に来た未来人なんだ。」
Aは、言った。
「ちょっといいですか?」
Cは、言った。
「何だい?」
Aは、言った。
「証明出来ない真実ってのは、嘘になります。嘘は、お題から外れます。お題から外れるって事は、です。この会から除名されるって事になります。」
Cは、言った。
「もちろん、それは分かってるよ。」
Aは、言った。
「では、証明してもらえますか?」
Cは、言った。
「ここに7枚の封筒がある。これらの中には、これから1週間の間で、ニュースに取り上げられる大きな事件をタイムマシーンで見て来て書いた紙が入ってる。これをメンバーの誰でもいいから誰か7人が厳重に保管しといてよ。で、次回の時に内容が外れてたら、僕は除名でいいよ。」
Aは、言った。
「な~んだ。次回までのお預け的な話か~。アンタ、そう言う次回に繋ぐようなイライラする話、多いよ?」
Bは、言った。
「遊び心って言って欲しいな。」
Aは、言った。
「まあでも、貴方のその余裕な感じが、未来人である事を証明しているように思えなくもないですわね。」
Dは、言った。
「まあね。タイムマシーンで除名されてない自分の姿を見たからね。で?次は誰?」
Aは、言った。
「では、わたくしが話します。」
Dは、言った。
「OK~!」
Bは、言った。
「実は、わたくし、不老不死なんです。今年で丁度、1万歳になります。」
Dは、言った。
「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ。未来人の次は大昔人ですか?いくらなんでも不老不死をどう証明するんです?」
Cは、言った。
「1万歳を証明する事は、少し難しいかもしれませんが、不死だけならこの場で簡単に証明出来ますわ。」
Dは、言った。
「自殺するって事?」
Aは、言った。
「わたくしの手にあるのは、小型の爆弾です。今から自爆します。」
Dは、言った。
「じ、自爆!?」
Bは、言った。
「心配なさらないで下さい。威力は、わたくしが木っ端微塵になる程度ですから、では参ります。」
Dは、言った。
「マジ~!」
Bは、言った。
「ボム!」
間も無くして爆発音と共に部屋中に、いろいろ飛び散った。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
そして、部屋中が沈黙に包み込まれた。
「いやいやいや、本当に自爆しちゃいましたよ!?」
そんな中、Cが口を開いた。
「不死じゃなかったら一大事だね。」
Aは、言った。
「笑ってる場合じゃないし!これって、マジヤバくない?」
Bは、言った。
「マジヤバくないですわよ。」
Dは、言った。
「・・・・・・本当に不死だった!?」
Cは、言った。
「なんなら、もう一度やってみましょうか?」
Dは、言った。
「いい!いい!分かったから!自爆は、もう勘弁して!」
Bは、言った。
「そうですか。では、次は誰ですか?」
Dは、言った。
「んじゃあ、お口直しのスイーツ的なアタシ!」
Bは、言った。
「スイーツねぇ・・・・・・。」
Aは、言った。
「何か?」
Bは、言った。
「何も。」
Aは、言った。
「んじゃっ!アタシね!」
Bは、言った。
「宜しくお願いします。」
Cは、言った。
「実は、アタシね。魔法使いなの!テへッ!」
Bは、言った。
「テへッ!じゃないですよ!テへッ!じゃ!」
Cは、言った。
「いや、真実みたいだよ。」
Aは、言った。
「そうみたいですわ。」
Dは、言った。
「2人して何を言ってるんです。」
Cは、言った。
「なら、どうして僕らは、宙に浮いてるの?」
Aは、言った。
「何ですと!?」
Cは、言った。
「だ~から!魔法使いだって言ったじゃ~ん!」
Bは、言った。
「これは、信じざるを得ないですね。って、ちょっと!ゆっくり降ろして下さいよ!」
Cは、言った。
「疑った罰よ!で?次は、アンタの番でしょ?」
Bは、言った。
「私?ああ、そうらしいですね。まだ他のメンバーも来てないみたいですしね。」
Cは、言った。
「お願いしますわ。」
Dは、言った。
「で、どんな真実?」
Aは、言った。
「くんだらないのだったら、蛙に変えるから!」
Bは、言った。
「実は私、死神なんです。」
Cは、言った。
「さっきから人の事を、とやかく言ってるくせして、アンタが1番厄介じゃん!どうやって証明する気なのよ!」
Bは、言った。
「まさか、僕らを殺したりしないよね?」
Aは、言った。
「わたくしは、殺してくれるなら、それは逆にとっても助かりますわ。」
Dは、言った。
「さすがに仲間を殺したりは、しませんよ。」
Cは、言った。
「なら、どうやって証明すんの?」
Bは、言った。
「私の顔、ガイコツなんです。見てもらえば1発なんです。」
Cは、言った。
「また随分と、典型的な。」
Aは、言った。
「しかしそれは、残念ながらルールとして認められませんわ。」
Dは、言った。
「ああ、そうでしたね。」
Cは、言った。
「はいーっ!除名ーっ!」
Bは、言った。
「除名って!ちょっと待って下さいよ!だったら、だったらこう言うのはどうでしょう?ガイコツな私の顔を触ってみると言うのは?そしたら、ガイコツだって分かると思いますよ!」
Cは、言った。
「・・・・・・・・・いいですわ。そうしましょう。」
Dは、言った。
「うわ!死神って本当に存在するんだ。」
Aは、言った。
「きも~!!!」
Bは、言った。
「きもって言わないで下さい!」
Cは、言った。
「ほぉ!本当に死神とはのぅ。さて次は、わしが話そうかのぅ?」
彼を仮に、Eと呼ぼう。
「いつの間に!?」
Cは、言った。

第二百三十話
「暗闇会」

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2010年11月17日 (水)

「第二百三十一話」

 80年以上、地球に優しくしてきた老婆が今、小さな公園のベンチに座る僕の膝の上に頭を乗せて横たわり、この地球上からその命を消滅させようとしている。
「エコさん!しっかりして下さい!エコさん!」
僕がエコ氏と初めて出会ったのも、この小さな公園だった。
「憶えていますか?ここは、貴方と初めて会った場所です。」
「忘れる訳ないじゃないですか!」
8年前の10月23日。この小さな公園で、地下鉄が通る度に地面から振動が伝わるこの小さな公園で、僕は1つだけしかないベンチに座って小説を書いていた。するとそこにエコ氏が現れ、地球に優しくし始めたのだった。そんなエコ氏の姿を見て、僕は気付くと声を掛けていた。始めは、他愛ない会話だった。天気の話や政治の話や物価の話や、そんなどうでもいいような会話からだった。しばらくして僕は、なぜそんなに地球に優しくするのかをエコ氏に尋ねると、エコ氏は笑って頷くだけだった。明確な答えを貰えなかったが、それはそれで僕の中では何かしら明確めいていたような気がする。その後は、2人でベンチに座り、定期的に訪れる振動を感じながら、エコ氏がこれまでに行ってきた地球に優しい活動や誰でも簡単にできる地球に優しくする方法や地球に優しくする裏技や10倍楽しくなる地球に優しくするコツや今からでも遅くはない地球に優しいライフスタイルや1歩先を行く地球に優しくする極意などを、エコ氏は50歳以上も下の僕に対しても、地球に優しくするのと同じぐらい優しく丁寧に語ってくれた。
「アタシはね。本望です。地球に優しくしてきて、最期までこうして地球に優しく出来る事が・・・・・・。」
「何を言っているんですか!もっともっと生きて!もっともっと地球に優しくしなきゃダメじゃないですか!エコさん!まだまだ地球は、エコさんの優しさを求めているんです!」
8年と言う月日が長いか短いかは、分からない。分からないが、エコ氏と過ごしたこの8年間は、僕にとって深く充実した大切な8年であったのは確かだ。人と言うのは、ここまで地球に優しくできるものなのか。人と言うのは、これほどまでに地球を優しく思う事ができるのか。人と言うのは、こんなにも地球に優しさを与える事ができるのか。人と言うのは、このレベルまで地球に優しい人になれるのだろうか。そんなエコ氏の姿に僕は、母なる大地を見たような気がする。
「いいえ。もう、十分です。アタシは、この境地に達する事だけを人生の目標にし、地球に優しくしてきました。そして今、やっとその境地に達する事が出来たのです。」
「・・・・・・エコさん。」
「こんなアタシの為に泣いて下さるのですね。貴方は、とてもお優しい方です。貴方のような方に、出会えてよかった。」
「僕もです・・・僕もですよ!エコさん!」
「さようなら。」
「さようなら。・・・・・・エコさん。」
そして、エコ氏は僕の膝の上で死んだ。その笑顔をけっして忘れない為、僕は最期の最期の瞬間まで、瞬きせずに見続けた。空気に溶け込むように、太陽の光に霞むように、優しい笑顔は、いつの間にか僕の膝の上から消えてなくなってしまった。80年以上も地球に優しくし続けてきたエコ氏の境地とは、なんとも地球に優しい死に方だった。

第二百三十一話
「エコ氏のエコ死」

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2010年11月24日 (水)

「第二百三十二話」

 メルヘンってのは、かなり厄介な仕組みで構成されてて、オオカミがよく登場人物を丸呑みしやがる。だが、オレが厄介だと言いたいのは、オオカミの食べ方の方じゃない。オオカミに丸呑みされた登場人物がオオカミの腹の中で生きてるってトコだ。

第二百三十二話
「オオカミの腹の中」

「ビヒィ!」
「ビヒィ!ビヒィ!って、さっきからうっせぇんだよ!」
「そんなこと言われたってぇ。ボクは子ブタなんだからしょうがないじゃないかぁ。」
「なら、ブヒィ!でいいだろが!ブヒィで!何でビヒィ!なんだよ!」
オレと一緒にオオカミの腹の中にいるのは、何かとオレをイライラさせる先客の子ブタだ。
「ごめんよ。だから、食べないで、オオカミさん。」
「食うか!てか、食えるか!」
そう、オレはおそらくメルヘン史上初となるオオカミに丸呑みされたオオカミ。オオカミがオオカミに丸呑みされるわけがないって思うだろ?だが、これがメルヘンの厄介で面倒臭いとこだ。だいたいの事は、ルール無用のルール上で成立しちまう。仮にメルヘンで出来ない事を知ってるなら、逆に教えて欲しいってもんだ。
「オオカミさん。」
「ああ?」
「ボクたち、このまま死ぬのかな?」
「死ぬわけないだろ?誰かがオオカミの腹を切り裂いて、助けてくれんだよ。メルヘンってのは、そう決まってるもんなんだよ。下らねぇ事を言ってんじゃねぇよ。」
「ごめんなさい!ごめんなさい!だから怒らないで!だからボクを食べないで!」
「だから食わねぇっつってんだろ!」
「本当に?」
「オオカミの腹ん中にいたんじゃなぁ!さすがのオオカミでも!食欲も何もあったもんじゃねぇよ!」
「良かったぁ!じゃあ、ボクたち友だちだね!ビヒィ!」
「ビヒィ!じゃねぇよ!オオカミと子ブタが友達?無理無理、ここはメルヘンの世界だぜ?なれるわけねぇだろ。」
「えっ?ええっ?何で?何で何で?ビヒィ!ビヒィヒィ!何で何で?」
「ああ、うっせぇな!教えてやるよ!オオカミは腹が減ったら子ブタや子ヤギや人間の子どもを丸呑みしちまうからだよ!食い物と友達になれるわけねぇだろ!」
「でも、オオカミさんは、ボクを食べないよ?優しいオオカミさんだよ?」
「オオカミの腹ん中から出たら、オレはオマエを食う!!分かったら、下らねぇ事を言ってねぇで!黙って、猟師か母親が助けに来てくれんのを待ってろ!」
「ねぇ?」
「黙ってろっつってんだろうが!」
「何で猟師かママが助けに来てくれるの?」
「それがメルヘンだ!」
「ママって、オオカミさんのママの事?」
「何でだよ!オマエの母親に決まってんだろ!」
「でも、ボクにはママはいないよ?」
「ああ、そうかよ!そりゃ良かったな!いいから黙っ・・・なにっ!?母親がいないだと!?」
「うん!」
「何だ!何でいないんだ!死んだのか?死んじまったのか?いやいや、そりゃおかしいだろ!そんなのメルヘンじゃないだろ!生きてるんだよな!オマエの知らないどっかで!生きてるんだろ?」
「だとしたら、いないんだよ。」
「何を言ってんだ?何をキョロキョロ辺りを見渡しながら言ってやがんだよ!おいおいおい!勘弁してくれよ?まさかだよな!!まさかだろ?まさかなんだよなオイ!違うって言ってくれ!言ってくれよ?・・・・・・オマエの母親は、このオオカミに食われたのか?」
「うん!で、ボクはママを助けようとしたんだけど、無理だったんだ。ビヒィ!」
「お気楽こいてビヒィって笑ってんじゃねぇよ!」
「だって!だってだって!オオカミさんが助けに来てくれたんだも!」
「助けに来たんじゃなくて、オレもオオカミに食われちまったんだよ!」
「でも、オオカミさんのママか猟師さんが助けに来てくれるんでしょ?」
「なあ?子ブタ!」
「なに?オオカミさん!」
「考えたくないがよ。考えれば考えるほど、それしか浮かばねぇ!どうやらメルヘンの軸の歪みに入り込んじまったみたいだ!」
「メルヘンの軸?」
「メルヘンをメルヘン上でメルヘン状にメルヘン化してるメルヘン軸だ。まあ、簡単に言うなら、メルヘンのようでメルヘンじゃない違う世界にオレ達は迷い込んじまったみたいだ。」
「帰れるんだよね?」
「さあな?」
「えっ!?」
「おかしいと思ったよ。おかしいと思ったんだよ!オオカミがオオカミに食われるなんてよ!何でもっと早く気付かなかったんだ!くそっ!」
「オオカミさん?落ち着いてよ。助」
「助けは来ねぇ!」
「えっ?」
「メルヘン軸から外れた場所にいるオレ達には、助けなんて来ねぇ!このまま、オオカミの血となり肉となり、糞になるだけだ!この場にオマエの母親がいないのがその証拠だ!」
「そ、そんな!?そんなのイヤだ!イヤだよーっ!ビヒィヒィ!!」
「泣くな!」
「だってーっ!せっかくオオカミさんと友だちになれたのにーっ!」
「オマエまだそんな事を言ってやがんのか?ん?ちょっと待てよ?友達?オレとオマエが友達?そうか!よくやったぞ子ブタ!」
「えっ?何が?」
「オレ達のメルヘン軸を元に戻せるかもしれねぇ!助かるかもしれねぇんだよ!」
「ホント!?本当に!?」
「どうせこのままオオカミの腹ん中で死んじまうなら、試す価値はある!」
「じゃあ!ボクとオオカミさんが友だちになって、力を合わせてオオカミのお腹を突き破るんだね!」
「違う。オオカミと子ブタは友達になれない。それがメルヘンだって言ったろ?確かに、ヒントはオレとオマエの友達ってワードだ!だがな。答えは、違う!」
「答えは、なあに?」
「オレがオマエを食っちまうのさ!」
「ええーっ!?」
「聞くんだ子ブタ!オレがオマエを食うって事はだ!そこにメルヘンが発生する!メルヘンが発生しちまえばコッチのもんだ!オマエの母親もメルヘン上に戻る!つまりそれは、オマエを助けにやって来るって事だ!」
「で、でもそれじゃあ!オオカミさんが!」
「まあ、腹を切り裂かれて、代わりに石でもいれられちまうだろうな。」
「そんなのイヤだよ!」
「なあおい!全員が助かるには、これしか方法がないんだ!なーに、石を入れられようがオレは死にゃあしない。それがメルヘンってもんだからな。ただ、このままだと、オレもオマエも死じまうのは確かだ!ママがいなくて寂しくないのか?」
「寂しい。」
「なら、オレに食われな!すぐ、ママに会わせてやるよ。」
「うん。」
「よーし!いい子だ!」
オレは、クルンとした子ブタの尻尾をつまみ上げ、口を大きく開けた。
「ママに会えないのと同じくらいオオカミさんと友達になれないのは寂」
「ゴックン!」
そしてそのまま塩味の効いた子ブタを丸呑みした。すぐにオレは、酷い眠気に襲われた。
「やったぞ、子ブタ。どうやらオレたちは、メルヘンに戻れたみたいだ。」
まったく、今日のメルヘンってのは、いつになく酷く厄介で困ったもんだったぜ。

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