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2010年11月24日 (水)

「第二百三十二話」

 メルヘンってのは、かなり厄介な仕組みで構成されてて、オオカミがよく登場人物を丸呑みしやがる。だが、オレが厄介だと言いたいのは、オオカミの食べ方の方じゃない。オオカミに丸呑みされた登場人物がオオカミの腹の中で生きてるってトコだ。

第二百三十二話
「オオカミの腹の中」

「ビヒィ!」
「ビヒィ!ビヒィ!って、さっきからうっせぇんだよ!」
「そんなこと言われたってぇ。ボクは子ブタなんだからしょうがないじゃないかぁ。」
「なら、ブヒィ!でいいだろが!ブヒィで!何でビヒィ!なんだよ!」
オレと一緒にオオカミの腹の中にいるのは、何かとオレをイライラさせる先客の子ブタだ。
「ごめんよ。だから、食べないで、オオカミさん。」
「食うか!てか、食えるか!」
そう、オレはおそらくメルヘン史上初となるオオカミに丸呑みされたオオカミ。オオカミがオオカミに丸呑みされるわけがないって思うだろ?だが、これがメルヘンの厄介で面倒臭いとこだ。だいたいの事は、ルール無用のルール上で成立しちまう。仮にメルヘンで出来ない事を知ってるなら、逆に教えて欲しいってもんだ。
「オオカミさん。」
「ああ?」
「ボクたち、このまま死ぬのかな?」
「死ぬわけないだろ?誰かがオオカミの腹を切り裂いて、助けてくれんだよ。メルヘンってのは、そう決まってるもんなんだよ。下らねぇ事を言ってんじゃねぇよ。」
「ごめんなさい!ごめんなさい!だから怒らないで!だからボクを食べないで!」
「だから食わねぇっつってんだろ!」
「本当に?」
「オオカミの腹ん中にいたんじゃなぁ!さすがのオオカミでも!食欲も何もあったもんじゃねぇよ!」
「良かったぁ!じゃあ、ボクたち友だちだね!ビヒィ!」
「ビヒィ!じゃねぇよ!オオカミと子ブタが友達?無理無理、ここはメルヘンの世界だぜ?なれるわけねぇだろ。」
「えっ?ええっ?何で?何で何で?ビヒィ!ビヒィヒィ!何で何で?」
「ああ、うっせぇな!教えてやるよ!オオカミは腹が減ったら子ブタや子ヤギや人間の子どもを丸呑みしちまうからだよ!食い物と友達になれるわけねぇだろ!」
「でも、オオカミさんは、ボクを食べないよ?優しいオオカミさんだよ?」
「オオカミの腹ん中から出たら、オレはオマエを食う!!分かったら、下らねぇ事を言ってねぇで!黙って、猟師か母親が助けに来てくれんのを待ってろ!」
「ねぇ?」
「黙ってろっつってんだろうが!」
「何で猟師かママが助けに来てくれるの?」
「それがメルヘンだ!」
「ママって、オオカミさんのママの事?」
「何でだよ!オマエの母親に決まってんだろ!」
「でも、ボクにはママはいないよ?」
「ああ、そうかよ!そりゃ良かったな!いいから黙っ・・・なにっ!?母親がいないだと!?」
「うん!」
「何だ!何でいないんだ!死んだのか?死んじまったのか?いやいや、そりゃおかしいだろ!そんなのメルヘンじゃないだろ!生きてるんだよな!オマエの知らないどっかで!生きてるんだろ?」
「だとしたら、いないんだよ。」
「何を言ってんだ?何をキョロキョロ辺りを見渡しながら言ってやがんだよ!おいおいおい!勘弁してくれよ?まさかだよな!!まさかだろ?まさかなんだよなオイ!違うって言ってくれ!言ってくれよ?・・・・・・オマエの母親は、このオオカミに食われたのか?」
「うん!で、ボクはママを助けようとしたんだけど、無理だったんだ。ビヒィ!」
「お気楽こいてビヒィって笑ってんじゃねぇよ!」
「だって!だってだって!オオカミさんが助けに来てくれたんだも!」
「助けに来たんじゃなくて、オレもオオカミに食われちまったんだよ!」
「でも、オオカミさんのママか猟師さんが助けに来てくれるんでしょ?」
「なあ?子ブタ!」
「なに?オオカミさん!」
「考えたくないがよ。考えれば考えるほど、それしか浮かばねぇ!どうやらメルヘンの軸の歪みに入り込んじまったみたいだ!」
「メルヘンの軸?」
「メルヘンをメルヘン上でメルヘン状にメルヘン化してるメルヘン軸だ。まあ、簡単に言うなら、メルヘンのようでメルヘンじゃない違う世界にオレ達は迷い込んじまったみたいだ。」
「帰れるんだよね?」
「さあな?」
「えっ!?」
「おかしいと思ったよ。おかしいと思ったんだよ!オオカミがオオカミに食われるなんてよ!何でもっと早く気付かなかったんだ!くそっ!」
「オオカミさん?落ち着いてよ。助」
「助けは来ねぇ!」
「えっ?」
「メルヘン軸から外れた場所にいるオレ達には、助けなんて来ねぇ!このまま、オオカミの血となり肉となり、糞になるだけだ!この場にオマエの母親がいないのがその証拠だ!」
「そ、そんな!?そんなのイヤだ!イヤだよーっ!ビヒィヒィ!!」
「泣くな!」
「だってーっ!せっかくオオカミさんと友だちになれたのにーっ!」
「オマエまだそんな事を言ってやがんのか?ん?ちょっと待てよ?友達?オレとオマエが友達?そうか!よくやったぞ子ブタ!」
「えっ?何が?」
「オレ達のメルヘン軸を元に戻せるかもしれねぇ!助かるかもしれねぇんだよ!」
「ホント!?本当に!?」
「どうせこのままオオカミの腹ん中で死んじまうなら、試す価値はある!」
「じゃあ!ボクとオオカミさんが友だちになって、力を合わせてオオカミのお腹を突き破るんだね!」
「違う。オオカミと子ブタは友達になれない。それがメルヘンだって言ったろ?確かに、ヒントはオレとオマエの友達ってワードだ!だがな。答えは、違う!」
「答えは、なあに?」
「オレがオマエを食っちまうのさ!」
「ええーっ!?」
「聞くんだ子ブタ!オレがオマエを食うって事はだ!そこにメルヘンが発生する!メルヘンが発生しちまえばコッチのもんだ!オマエの母親もメルヘン上に戻る!つまりそれは、オマエを助けにやって来るって事だ!」
「で、でもそれじゃあ!オオカミさんが!」
「まあ、腹を切り裂かれて、代わりに石でもいれられちまうだろうな。」
「そんなのイヤだよ!」
「なあおい!全員が助かるには、これしか方法がないんだ!なーに、石を入れられようがオレは死にゃあしない。それがメルヘンってもんだからな。ただ、このままだと、オレもオマエも死じまうのは確かだ!ママがいなくて寂しくないのか?」
「寂しい。」
「なら、オレに食われな!すぐ、ママに会わせてやるよ。」
「うん。」
「よーし!いい子だ!」
オレは、クルンとした子ブタの尻尾をつまみ上げ、口を大きく開けた。
「ママに会えないのと同じくらいオオカミさんと友達になれないのは寂」
「ゴックン!」
そしてそのまま塩味の効いた子ブタを丸呑みした。すぐにオレは、酷い眠気に襲われた。
「やったぞ、子ブタ。どうやらオレたちは、メルヘンに戻れたみたいだ。」
まったく、今日のメルヘンってのは、いつになく酷く厄介で困ったもんだったぜ。

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