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2010年12月22日 (水)

「第二百三十六話」

「ぎゃあああああ!!」
何処かの境内に、剣士の最後の一人の断末魔が響いた。羽ばたくモズ達を見上げながら、数十人の剣士達の屍の中心に立つ剣士は、紅の刀を鞘へ。
「隠れていないで出て来たらどうだ?」
剣士がそう言うと、神木の後ろから、男が姿を現した。
「いやあ、素晴らしい。素晴らし過ぎです。バッ!バッ!ズバッ!と、十と五人もの剣士達をアッと言う間ですからね。しかも知ってました?この剣士達、結構名の知れた人達なんですよ?」
男は、話ながらゆっくりと中心に立つ剣士へと近付いて行った。
「お主、どうやらこの者達の仲間ではないようだな。」
「タコ!」
「なに?」
「黒い着物で紅の刀を素早く振るう剣士。その腕が、まるでタコの様に八つに見える事から付いた、貴方のアダ名です。」
「だから、どうした?」
「ええ、まあ、だから、どうした?ですよね。それは、勝手にこっち側が付けた事ですからね。あっ、そうそう。一応、この剣士達は、僕の仲間みたいなもんです。雇い主が違うだけで目的は同じのね。」
「お主、名は?」
「ウツボです。」
「タコを喰らうか。」
「ええ、まあ。」
「笑えん冗談だ。」
「あら?ここに来る間に、随分考えた冗談だったんですけどね。ダメでしたか。」

第二百三十六話
「タコとウツボ」

「それで?どうするんだ?」
「はい?」
「わざわざ待っていたのだろ?私とこうして一対一になるのを。」
「バレてましたか。」
「そんな禍々しい殺気を放たれたら、嫌でも分かるってものだ。」
「これでも押さえてた方なんですけどね。」
「私は、いつでも構わないぞ?」
「カラクリ師。」
「なに?」
「ほら、剣士とか忍とか肩書きがあるじゃないですか。僕の場合は、それがカラクリ師なんです。」
「商人か?」
「まあ、普段は街で子供達を相手に玩具を売ってますけどね。」
「お主、何者だ?」
「だから、カラクリ師ですってば。これ、僕が作った鉄砲です。」
男が懐から鉄砲を取り出すと、剣士へ向けた。と同時に剣士は、刀に手を掛けた。
「この距離では、お主の腕が先に土の上に落ちる事になるぞ?」
「知ってます。鉄砲の形をしてますけど、先っちょから鉛の弾が出るんじゃないんですよ。」
そう言うと男は、鉄砲を握った腕を空へ向けた。
「何をするつもりだ。」
「いいですか?」
そして、引き金を引いた。すると鉄砲の先からは、鉛の弾ではなく、火が出た。
「何をしている!」
「いや、何をしているって、僕の作品を見てもらおうと思っただけですよ。これ、凄くないですか?凄く便利な物だと思いませんか?」
「確かに、便利だ。」
「ですよね!ですよね?」
「だが。」
「だが?」
「鉄砲である必要性が見出だせん。あまりにも物騒過ぎる。そんな物を向けられたら、すぐに斬られるかもしれん。もっと安全な物から火を出すようにすればよいではないか。」
「ああ、まあ、そうなんですけど、冗談ですよ。冗談。相手を笑わす為の冗談な逸品なんですよ。」
「笑えん。」
「の様ですね。もし、欲しいなら、お安くしときますけど?」
「いらん。」
「ですよね。」
「お主、私を殺しに来たのではないのか?違うのか?」
「いや、まあ、殺しに来たんですけど、どうせなら次いでに商売でもしとこうかなって、思っただけです。」
「で、何を仕掛けた?」
「はい?」
「何を仕掛けたと聞いているのだ。」
「な、何も仕掛けてませんよ。」
「なるほど、あくまで阿呆を気取るのだな?」
「阿呆を気取る?なんかそれ、ちょっと素敵な冗談ですね。」
「間合い。」
「はい?」
「ならなぜ、詰めぬ?それは、詰める必要がないからであろう。もしくは、それ以上私の近くに寄れば、自分も巻き添えを喰らう。」
「参ったな。全てお見通しなんだもんな。答えは両方です。もし、貴方がその場から一歩でも動いたら、貴方の体は木っ端微塵です。で、この間合いは僕が巻き添えを喰わない安全な距離です。」
「爆発すると?」
「ええ、まあ、そうです。この季節は、落ち葉が凄いですからね。和尚が掃除をサボってたお陰で、簡単に仕掛けられました。まあ、ただ、舞い落ちて来る葉が、踏めば爆発する代物だなんて、誰も思わないでしょうけどね。けど、貴方はさすかですよ。タコさん。だってほら、普通なら僕が鉄砲を取り出して向けた時に、踏み込んで来るじゃないですか。」
「お主の敗北は、私の前に姿を表した事だ。」
「はい?」
「勝利を悟り、姿を現したつもりだろうが、それは違う。仮に、お主が姿を現さなかったのなら、或いは私は木っ端微塵になっていたに違いない。しかし、お主は、どうしても私に敗北感と共に、己の満足感を満たす為、己の存在を知らしめたかった。それとも?単に下らない冗談を聞かせたかっただけか?」
「何を言ってるんですか?」
「斬られていないとでも?」
「はい?」
「腕だ。」
「腕?」
「確かに、この間合いでは、私は一歩踏み出さなければ、お主を斬る事は不可能だ。ただ、鉄砲を手にした左腕を前に出したとしたらどうだ?」
「まさか!?」
「私の間合いだ。」
「馬鹿な!?」
「見誤ったな。」
「嘘だ!貴方は、嘘を付いている!確かあの時、貴方は!間違いなく斬るのを躊躇った!」
「タコ。」
「タコ?」
「お主達は、私をそう呼んでいるのだろ?腕が八つに見える。果たして、その私の本気の太刀をカラクリ師に見えるかな?」
「嘘だ!嘘だ!」
「それ以上、動くな、ウツボ。次に振動を与えれば左腕が土の上に落ちるぞ?タコがウツボの腕を喰らったのでは、笑えん冗談にもならんだろ?なに、心配はいらん。医者に縫合してもらえば、簡単に治る。ただ、その場を動いた瞬間、お主の左腕は、土の上に落ち、大量に血が流れ出て、命までも落とす事になる。」
「は、はったりだ!!」
「それは、動けば分かる事。」
「・・・・・・・・・・・・・・・…。」
「和尚が落ち葉を掃除しに来るのを気長に待つ事だな。さらばだ、ウツボ。」
そう言うと剣士は、剣士達の屍の上を次々と飛び移り、境内から去って行った。
「墨を吐いて逃げられた・・・・・・・・・か。」
一人、境内に残された男は、神木から舞い落ちる葉を、ただただ見ながら呟いていた。

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