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2010年12月 8日 (水)

「第二百三十四話」

『あ』

第二百三十四話
「完全なる手抜き」

「なんすか?」
「なんすかって、待望の新作だよ。」
「まさかですよ?」
「まさか、なに?なんかその鬼気迫る感じ怖いね。」
「まさか先生!これで完成だなんて言いませんよね?」
「完成だよ。」
「ぎゃふん!?」
「完成に決まってるじゃないか。」
「これ、『あ』ですよね?」
「まあ、『あ』でしょうな。『あ』以外のなにものでもないでしょうな。」
「これ、『あ』だけしか書いてませんよ?」
「ええ、『あ』でしょうな。『あ』以外のなにものでもないでしょうな。」
「なんすか?」
「待望の新作だって言ってるじゃないか。ほら、さっさと原稿持って帰って刷って売って金に変えてくれ!」
「はあ!!!?」
「だから、刷って売って金!刷って売って金!刷って売って金!金!金!金!だよ。」
「すいません。ちょっとパニックなんで、整理してっていいですか?」
「いいけど、なるべく手っ取り早く頼むね。」
「『あ』しか書かれていない原稿。」
「そうだね。」
「先生は、これを待望の新作と言った。」
「言ったね。」
「タイトルには、『完全なる手抜き』と書かれている。」
「見落としがちだね。」
「この原稿を出版社に持ち帰り、そして刷る。」
「なるべく多くね。」
「で、売る。」
「あれだね。来年辺り、水面下で進めてたニュージーランドへの永住計画!あれ実行できるね。」
「先生!」
「大丈夫。君もニュージーランドに遊びに来てもいいから、ご招待しちゃいますから。」
「売れるかーっ!」
「ぎゃふん!!?」
「てか、まず印刷まで漕ぎ着けるかーっ!」
「ぎゃっふん!!?」
「つか、出版社に持って帰るかーっ!」
「うっふん!!?」
「うっふん、おかしいでしょ!」
「思い付かなくてさ。めんごめんご。」
「なんすか?」
「ごめんって事だよ。」
「いや、そっちなんすか?じゃなくて、こっちなんすか?」
「君は、そればっかだな!」
「私だって!別のなにか違った事を言いたいですよ!でも、浮かんで来ないんですよ!『あ』って、なんすか!てか、手抜きにもほどがあるでしょ!」
「いや、別に手抜きじゃないよ。」
「手抜きじゃん!『完全なる手抜き』!書いてあるじゃん!手抜きってタイトルにモロ!書いてあるじゃん!」
「タイトルはね。」
「読者なめてんじゃねぇよ!!」
「・・・・・・・・・今、読者なめてんじゃねぇよ。と、おっしゃりました?」
「言いましたよ!もう一度、言いましょうか!」
「いや、一度で結構。では、言わしてもらうがね。読者なめてねぇよ!!」
「なっ!?」
「ご要望なら、何度でも言うけど?」
「結構です!なら、読者をなめてないと、そう、おっしゃるのなら、根拠をお聞かせ下さい!」
「いいよ。」
「お願いします。」
「じゃあさ。まず、君はどうしてこの待望の新作が、読者をなめてると思った?」
「それはもう、見たら分かるじゃないですか!」
「も少し具体的に?」
「まず!100%!いや、200%!いや、5000%!これが出版される事はありませんが!出版されたとしましょう!で、まず読者はタイトルの『完全なる手抜き』を目にする!そして、本をめくると!非常に薄っぺらい本をめくると!めくるとと言うか開くと!中には、『あ』の一文字!先生?これのどこがいったい逆に読者をなめていないのかの、ご説明を!」
「うん。超想像力起爆本。僕は、この待望の新作をそう呼んでいます。」
「ちょう・・・そうぞうりょく・・・きばく・・・ぼん?」
「イエス!では、なぜこの待望の新作を超想像力起爆本と呼ぶのか。」
「待望の新作って言うのやめません?」
「やめません!」
「そうすか。水を差して、すいませんでした。どうぞ、続きを。」
「うむ。読者とは、小説を読む読者とは、漫画や映画とは違い。普遍的で不鮮明な小説上のキャラクターを自己中心的に各々の頭の中で、独自に想像しながら、ストーリーを読み進めてく。」
「キャラクター像を組み立てて、独自にデザインするって事ですか?」
「まあね。どんな顔で、どんな声で、どんな服を着ているのか?少ない小説上の情報を頼りに読者の頭の中で想像してく。なっ!」
「えっ!?終わりすか!?いやいやいや、終われないでしょ!5000歩譲って、先生が言わんとしている事は分かります。ですが、ですがですよ?先生のこれには、登場人物なんて出て来ないじゃないですか!なんせ、『あ』で終わりなんですから!ストーリーもへったくれもありませんよ!」
「は~あ~あ。」
「なにに落胆されているのか意味不明です。」
「あ~あ~の、あ。」
「ふざけてるんですか?」
「ふざけてます。」
「ふざけてた!?ふざけられてたんだ!?って、ふざけないで下さいよ!」
「ふざけてないよ!ふざけているのは、貴様の方だーっ!!」
「情緒不安定ですか?」
「情緒は、安定した事がない事がなによりもの自慢だ!」
「羨ましくない。」
「超想像力起爆本だと言ったろ?今の時代なぁ!」
「時代を斬りますか。世相を斬るんですか。」
「斬るよ!時代でも世相でも爪でも鼻毛でも斬るよ!」
「鼻毛って、ここへ来て鼻毛って、言う?」
「ただな!僕は、鼻毛は抜く派だ!」
「知りませんよ!そんな派!鼻毛の話じゃなくて時代の話をお願いしますよ。」
「いいですか?今の時代ね。読者、馬鹿にしちゃいけませんよ!ええ?ここをこう書いたら、オチが読者にバレないかな?とか、ああ!こう書けば、犯人が最後の最後まで読者に分からないぞ!など、姑息で嫌だねー!そんな物書き。原稿とにらめっこで、人を欺く事ばーっか!」
「なんすか?その一方的な角度からのものの見方は?」
「下らん!!下らんのだよ!!」
「大丈夫ですか?」
「そんな姑息なストーリー展開!読者は、全て想像済みなんだよ!だから、小説を読み終わったあとにだ!想像通りだったと、落胆させてしまうんだよ!」
「作品によりますよ。」
「おい!だったら、今すぐ!ここに、想像通りじゃなかったと!読んだ読者全員がそう感じた作品を持ってこんかーいっ!」
「それは・・・・・・・・・。」
「それはなんだ?ええっ!つまりだ!5000人中4999人が想像を裏切られた作品はあるが!5000人中5000人が想像を裏切られたと言う作品は、この世には存在しない!と言う事でいいのかな?今のそれは!は?」
「確かに、先生のおっしゃる通りですが、しかしですよ?それでも4999人は満足したんですよね?それでいいじゃないですか。だいたい、全ての読者の想像を裏切・・・・・・まさか!?」
「やっと気付いたかな?そう!この待望の新作こそ!5000人中5000人の想像を裏切れる作品なんだよ!グワッハッハッハッハッ!!」
「豪快に笑っているとこ、申し訳ないんですが、宜しいですか?」
「宜しくない!グワッハッハッハッハッ!!」
「宜しれ!!」
「なに?早く金くれ!」
「もう、くれになっちゃってんじゃん!」
「なっちゃうだろ。なっちゃわないの?」
「ちゃわないでしょ。つまり、この『あ』しか書かれていない作品かっこ仮かっことじは、丸投げって事ですか?」
「簡単に言えばそうだけんども!難しく言えば超想像力起爆本だよ!てか、待望の新作だってばよ!」
「『あ』以降のストーリーから登場人物まで、全てを読者の想像に委ねる作品。読者が作品を想像する作品。『完全なる手抜き』。なるほど。5000%読者は、想像を裏切られる。なぜなら、想像通りと思わせるストーリー事態を読者が想像するんだから、裏切られない要素ゼロだ。」
「さあほら、フライトまで時間がないよ?お金ちょーだい!」
「気分は、ニュージーランドですか?」
「まあね。」
「馬鹿もーん!!」
「うわぁ!!?しっかり叱られたっ!!!?」
「しっかり叱るわい!!なにが『あ』だ!なにが『完全なる手抜き』だ!なにが超想像力起爆剤だ!」
「本、本!剤じゃなくて、起爆本だって!」
「うっさい!そんなのどーだっていんだよ!こんなもんを世に出せるかー!小説なめてんじゃねぇぞ!」
「・・・・・・・・・そんな叱らなくてもいいだろ?なめてませんよ。なめてませんって、分かったよ。分かった分かった。分かってるって、ほら!ここの封筒の中にちゃんと待望の新作があるから、落ち着きなさいよ。ちょこっと、ふざけてみただけじゃん。」
「まったく!あるならあるで、ふざけてないで始めからちゃんと渡して下さいよ!無駄に疲れさすのやめて下さって、なんすか?」
「なんすかって、待望の新作だよ。」
「『い』になっただけだろうがー!!」
「更に?」
「更に『完全なる手抜き2』って続編だー!!?」

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