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2010年12月29日 (水)

「第二百三十七話」

「よし!この店にするか!」
「カランコロンカラン!」
そう言うと中年の男は、商店街のど真ん中にあるグロテスク屋の向かって右隣の店へと入った。

第二百三十七話
「おいしい珈琲を淹れる喫茶店」

男が喫茶店に入ってから数分が経過していた。
「マスター?」
「何ですか?マスター。」
「いや、そりゃ何か私にも眠れる才能が眠っているかもしれないけれども、何かのマスターかもしれないけれども、現段階では単なるお客さんだよ。まあ現段階ではね。」
「左様ですか。」
「でも、次ここへ来た時には、何かのマスターかもしれないよ?」
「お待ちしております。」
「うん。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・さてと、帰って部屋の掃除でもし・・・でなくて!違うよ、マスター!私は、マスターに文句があったんだよ!」
「文句ですか?」
「そうですよ!文句ですよ!」
「では、お伺い致します。」
「私がね。この喫茶店に入ろうと思ったのは、看板に『おいしい珈琲を淹れる喫茶店』って書かれていたからなんだよ。でも、マスター!ヘイ、マスター!スゲェまずいじゃないか!飲めたもんじゃないじゃないか!」
「お客さん?お言葉ですけど僕は、コーヒーには自信があるんです。だけど、コーヒー以外のものについては、正直あまり自信がありません。もし、お口に合わないのであれば、申し訳ありません。としか、言い様がありません。」
「そっか。なら仕方がないね。って、コーヒーだから!私飲んでるこれ!コーヒーだから!マスターご自慢のコーヒーですから!しかもそもそもこの喫茶店には!コーヒー以外のメニューがありませんから!更に更にマスターの言ってる事、喫茶店のマスターとしてと言うか飲食店の経営者として、根本的に間違ってるからね!ねっ!」
「!?」
「いやいやいや、マスター?メチャクチャ驚愕してますけどね?私は、今後のマスターの為に是非とも言いたい!」
「!?」
「このコーヒーレベルなら、看板にあんな事を書いちゃ駄目だよ。客の期待値のハードルがグッと上がっちゃうからさ。でも、そのハードル分を差し引いたとしても、やっぱりこのコーヒーは考えものだよ。」
「!?」
「この味でお金貰っちゃ駄目だよ。それは駄目ですよ。これは、個人的な味覚云々のレベルじゃないからよ?死ぬ!って感じちゃったもんね。毒!って認識しちゃったもんね。」
「!?」
「悪い事は言わないからさ。マスター?一回店を閉めてだね。もう一度、修行し直してから、また店を開いた方がいいよ。」
「!?」
「驚愕もうよくない?いつまで驚愕してんの!」
「すいません。寝てました。」
「じゃあさあ?それはつまり、私の話を聞いてなかったって事?」
「はっ!?お客さん!?いつの間に!?ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっえっ??どっから?どの段階から居眠り?誤魔化し加減がダイナミックだよ!病院で診てもらった方がよくない?レベルだよ!で、コーヒーしかないんだから注文聞くのおかしいでしょって!」
「喫茶店ジョークですよ。」
「喫茶店ジョークってなに!?つか、何がジョーク?どの辺りがジョーク?このクソまずいコーヒーが?それとも驚愕が?或いは、この店の存在事態が?」
「お客さんがです。」
「私?私がジョーク?まあね。確かに、ジョークだったのなら、どれほど良かった事かって思い出は、百や二百ではない人生だったよ。って、ほっとけ!私の人生なんか今は、関係ないでしょうが!こっちが真面目にマスターの為を思って言ってるんだから、ふざけちゃ駄目だよ。」
「はい!」
「いいよ別に、大きな声で返事しなくてもさ。」
「はい!」
「二人しか居ないんだから、いちいち手を上げて発言権を得ようとしなくてもいいよ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・はい、マスター。面倒臭いな。」
「クリスマスプレゼントの件ですけど、やっぱり僕は」
「ちょちょちょちょちょ!何その件!その件、私知らないよ?私その案件、知らない。なに急にびっくりするような事を言ってんの!」
「シーズンだったので、つい。」
「仮にクリスマスシーズンだとしても、私にクリスマスプレゼントをお願いするのおかしいでしょ!お門違いでしょ!」
「サン・・・タ・・・クロー」
「スじゃないよ!要素ゼロだよ!」
「チエッ!」
「何で正式にガッカリされなきゃならないんだよ!ガッカリしてるのは、看板を信じて店に入っちゃった私の方だよ!」
「お客さん!店の看板に嘘偽りは一切ございません!」
「・・・・・・・・・何なの?その自信?どっから湧き出て来るの?嘘と偽りしか書かれていないじゃないか!!じゃあ、何なんだよ!このクソまずいコーヒーは!!」
「果たして、本当にそうでしょうか?」
「何気取りだ!」
「お客さんの言う通りでしょうか?」
「探偵気取りか?ちょっと目障りだから、止まって話してくれないかな?仮に動いて話したいんだったら、小刻みな早足じゃなくて、ゆっくり歩いてくれないかな?で、顔だけ常に私の方へ向けているのもやめてくれないかな?」
「『おいしい珈琲を淹れる喫茶店』と!確か看板には、そう書かれている。間違いありませんね?」
「それは、私がマスターに聞きたいぐらいだよ。」
「間違いありませんね?」
「ごり押しも甚だしいね。そうですよ。マスターの言う通りです!看板には『おいしい珈琲を淹れる喫茶店』と書かれています!」
「そらみたことか!」
「何が?私は今、いったいどんな状況下なの?何みたことかになってるの?」
「看板に嘘偽りはないってことかな状況下ですよ。」
「まずいじゃん!マスター、これ飲んでみなよ!」
「嫌ですよ。まずいもん。毒かと思うもん。」
「まずいんじゃん!!分かってんじゃんか!!」
「いやいやいや、分かりますよ。コーヒーのおいしいまずいが分からなかったら、おいしい珈琲を淹れる喫茶店のマスターなんて勤まりませんよ。」
「なら、勤まってないじゃん!」
「お客さんは、僕が淹れたコーヒーを飲んだ事ないから、そんな事をおっしゃってるんですよ。」
「じゃあ、これは何!このクソまずいコーヒーは、何なんだよ!」
「死が脳裏を過る程にクソまずいコーヒーですよ。飲めば分かるでしょ?」
「マスター、貴方はさっきっから何を言ってんの?ねぇ?マスター?おじさんに、もっと分かりやすく説明してよ。」
「そうやってね。物事を一方的な角度からしか捉えられないのが、お客さんの悪い所ですよ。」
「何で初対面のマスターに、そんな事を言われなきゃならないんだ!」
「つまりこうです!」
「また、探偵気取りか?」
「コーヒーは、二種類存在する。」
「はい!?」
「おいしく淹れたコーヒーと、お客さんに出すまずいコーヒー。いいですか?つまり『おいしい珈琲を淹れる喫茶店』の看板に、嘘偽りなんてないんです!僕の淹れるコーヒーは、メチャクチャおいしいんです!!」
「・・・・・・・・・はい。」
「はい、お客さん!」
「単純な疑問なんですけど?じゃあ、何でわざわざまずいコーヒーを客に出すの?」
「だからそれは、この喫茶店が、おいしい珈琲を淹れる喫茶店だからですよ!おいしい珈琲を飲ませる喫茶店じゃないからですよ!以上!Q.E..D.!」
「いったい何の証明を終了なさった?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「殴っても?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「痛いから嫌です。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
喫茶店内には、珈琲のいい香りと時計が時刻を刻む音が、ゆっくりと漂っていた。

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