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2010年12月15日 (水)

「第二百三十五話」

無事に帰れると思う。だから、人は自宅の扉を開け、外へ出るんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は靴紐を結びながら、今日もそんな事を考えていた。いや、むしろこの考えは、考えなんて呼べるような考えなんかじゃない。普通、人は自宅から外へ出る時、こんなことは考えちゃいない。ましてやそれが、単なる買い物なら尚の事だ。無事に帰れるどころか、無事に帰れて当たり前の無意識クラスの考えだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
まさか自分が、今日、死ぬ、だなんて思っちゃいない。でもやっぱり、それが当たり前で、それが普通な思考回路だ。何ら問題ない。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
しかしそれは、僕が心配し過ぎなのか?他の人が安心し過ぎなのか?正しいのがどっちなのかまでは、分からない。ただ一つだけ分かるのは、目の前の扉を開け、戦場へ行くのと買い物に行くのとで、僕の気持ちは、僕の考えは、何ら揺るぐ事なんてないって事だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
外へ一歩足を踏み出した途端、僕は命を失うかもしれない。僕が、高い高い生の確率に身を置いて扉の外へ出て行くのか、低い低い死の確率に身を置いて扉の外へ出て行くのか、辿り着く結果はもちろん同じだ。じゃあ、何で僕は靴紐を結びながら、こんな事を考えてるのか?それは、僕がそれほど生を信用しちゃいないからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
裏切るのは、死の方じゃない。それはいつも、生の方だ。事故、事件、病、全て死って言う死へ、死が引っ張ってるみたいな感じだけど、それは違う。その全ては、僕らに対する生の裏切りだ。そう、生は前触れも予兆もなく、僕らを裏切る。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
たかが買い物だけど、たかがコーヒー豆を買いに行くだけだけど、靴紐を結び終え、扉の外へ出た瞬間、隕石が直撃しないって保証はない。通り魔に襲われないって保証はない。心臓麻痺にならないって保証はない。つまり、生には絶対的な保証なんてないんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
別に僕は、皆が僕みたいな考えで毎日、毎日、自宅から外へ一歩足を踏み出して欲しいって事を言いたいんじゃない。そんな覚悟で靴紐を結んで欲しいって事じゃないんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ただ、こんな事を考えながら、扉を見詰めて、その先の生の裏切りを見据えて、靴紐を結ぶ人間もいるんだって事を知ってて欲しいだけなんだ。ただ、それだけなんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・よし!」
でも、それでも、こうして靴紐を結び終えた僕が、自宅の扉を開け、外へ出ようとするのは、やっぱり迂闊に生を信頼してるからかもしれない。何だかんだで、やっぱり死を軽視してるからかもしれない。
「えっ!?」
何だ?フラフラしてきたぞ!?目の前も急に暗くなって来た!?
「えっ!?」
まさか!?まさかまさか!!?僕は、生に裏切られてるのか!?迂闊だったよ。扉の外へ出る前に裏切られるだなんて!?
「や、やばい・・・・・・。」
意識が、意識が遠退いてく・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
こ、これが死って奴なのか!生からの裏切り!生からのギフト!死!!
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
まだだ!まだ僕は死なない!コーヒー豆を、コーヒー豆を買いに行かなきゃ!コーヒー豆を買いに行くんだ!僕は、今からコー
「バタン!」

第二百三十五話
「ただの風邪でした」

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