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2011年2月 9日 (水)

「第二百四十三話」

  最果ての街、欲望の街、逆転の街、人の数だけ、この街の呼び名がある。そして俺は、この街を、糞の溜まり場と呼んでいる。

第二百四十三話
「スリーティーズ・シティ」

「RIN!RIN!RIN!RIN!RIN!」
深夜2時、ホテルの電話が鳴った。電話が鳴って、いい事が起きたためしがない。それでも電話ってのは出なきゃ鳴り続けるから、うっとおしい逸品だ。きっと電話を作ろうと考えたヤツは、相当のいじめっこか、かなりのいじめっこに違いない。
「GACHA!」
「誰だ?」
相手が誰だって関係ない。どうせ、いい事なんて起きないんだ。ただ、相手が誰かは知っておかなきゃと、思っただけだ。
「やっぱりここだと思ったわ。」
だが、状況は変わった。今回ばかりは、どうやら相手を知らない方が良かったみたいだ。電話の向こうの微かに聞き覚えのある女の声。女ってのは、いつも極上の厄介事をギフトする最上級のいじめっこだ。しかもそれが、微かに聞き覚えのある女なら、5倍。更に、電話の向こうの女が泣いていたなら、そりゃもう無限大だ。
「人違いだ。」
だから俺は、丁重にお断りし、受話器を置き、糞みたいな現実より遥かにましな夢の世界へ戻ろうとした。あと、数ミリでヘブンへ行けるとこで、受話器の向こうから女が呪いの言葉を泣き叫んだ。
「待って!お願いだから切らないで!!」
これで俺は、地獄行きが決定した。俺は、静かに受話器を耳へ戻した。ここで少し、俺の話をしよう。俺は、この糞の溜まり場で生まれ、糞の溜まり場で育ち、糞の溜まり場で暮らしている。もちろん、ちゃんとした自宅もある。なら、なぜこうして、同じ街のホテルを転々としているのか?答えは簡単だ。こうした厄介事に巻き込まれない為だ。家に居たんじゃ、電話だけでなく、訪問者って面倒臭いいじめっこがたまにやって来る。ホテルに逃げ込んだ俺へ厄介事をギフトするのは、俺の居場所を知る1部の親しいいじめっこの仕業だ。更にここで、簡単に受話器の向こうの女の話をしよう。女は、6年間付き合ったのち3年前に別れた女だ。そんなに広くないこの街で、今の今まで出会わなかった奇跡を少しだけ神に感謝をしとこう。そして、今回の電話の内容が厄介事じゃなかった時には、朝一番で教会に行き、改めて心から感謝しよう。
「何の用だ?」
「人を・・・殺しちゃったの。」
決まりだ。朝一番でこの街にある教会を全て、ぶっ壊してやる。
「で?」
「どうしたらいい?」
どうしたらいい?どうしたらいい?だと?この街の人間は、人を殺したらまず、警察に行くって考えが無いから糞なんだ。
「誰を殺したんだ?」
「旦那よ。」
結婚してた事実を初めて知り、お祝いの言葉でもギフトしてやろうかと思ったが、その相手がもうこの世に居ないんじゃ意味が無いと思って、やめた。
「で?」
「だから!どうすればいいの!」
どうしたいんだ?なんてこの女と無駄な文字数を費やして会話をしたいとも思わなかった。女は、旦那の死体を処分したがっている。で、選りにも選って、その厄介事を俺にギフトしてきやがった。まあ、この女と結婚して、俺が死体にならなかっただけ良かったと、今は思う事にしよう。そんな糞みたいな事でも考えてなきゃ、俺が救われない。話を本題に戻そう。妻が夫を殺した場合、その罪から逃れるのは、至難の業だ。警察は、執拗に妻を疑う。靴の裏についたガムの様に、靴の中に入り込んだ小石の様に、執拗にだ。つまり、このケースは最悪だって事だ。
「どう、殺した。」
「撃ち殺したわ。」
「何でだ?」
「ショットガンよ。」
最悪の上乗せだ。こんなんだったら、旦那を殺す前に電話をしてくれれば、とさえ思えてきた。だが、まだ逃げ道はあった。それは、殺した場所だ。キッチンやリビングやベッドルームじゃなく、湖畔や山奥って贅沢な事は言わない。せめて室内ではなく、屋外であれと神に祈った。
「どこで撃ち殺した?」
「リビングよ。」
薄々勘づいてはいたが、これでようやく確信した。神は、この世に存在しない。500%警察の執拗な追跡からこの女を救い出す事が、これで不可能となった。
「おめでとう。」
だから俺は、ここでお祝いの言葉をギフトしてやった。
「おめでとう?何が、おめでとうよ!ふざけないでよ!どうしたら私が殺した事にならないかを聞きたいのよ!」
人は、自分が思った事や考えた事が、全て自分の思い通りになると思った時が、人の終わりだ。ましてや人を殺しといて、人を殺してない事に出来ると思ったら、それはもう糞以下だ。息も臭くなり、見栄えも茶色くなり、そして蝿がたかり出す。リビングに飛び散った血肉を綺麗に掃除して、旦那を豚に喰わせたとこで、女は確実に警察に捕まる。精神錯乱や過剰防衛でも、女は確実に警察に捕まる。あらゆる方向、あらゆる角度、あらゆる計算、どれも辿り着く答えは同じだ。女は確実に警察に捕まる。1つだけ女が確実に警察に捕まらない方法があるが、この女が自ら死を選ぶ事はないだろう。あったら、俺に電話するなんて糞みたいな考えが浮かんで来ないからだ。
「諦めたらどうだ?」
「何を?何を諦めろって言うの?貴方は、私が警察に捕まってもいいと思ってんの?」
警察に捕まって悪いって考えが浮かばないって言葉が口から出掛けたが、今年1番の努力で飲み込んだ。
「ゲフッ!」
「・・・・・・ねぇ?誤って子供が撃っちゃったってのはどう?」
結婚して、おまけに子供まで居たとはな。こう言う糞みたいな親が居るから、この街の糞みたいな連鎖は止められないんだ。そう考えると、女はまさにこの街そのものだ。
「歳は?」
「2歳よ。」
2歳の子供が、本気で誤ってショットガンをぶっぱなせると思ってる頭だから、人なんて殺しちまうんだ。血肉を綺麗に掃除して、旦那を豚に喰わせて、家を焼き払ったとこで、女は確実に警察に捕まる。真実を隠蔽するには、女とよく通ったステーキ屋の肉を噛みきる以上にエネルギーを使う事を、女は知らない。いや、女だけじゃなく、多くの人間は知らないだろう。だから、人を殺す以上に、人が嘘を付くって行為は難しいんだと、学校で教えるべきだ。まあ、教えたとこで、この糞の溜まり場の糞どもが、糞の脳味噌で理解出来るはずもないとは思うが、それでもやらないよりかは、やったほうがましだ。そんな事より、本題に戻って、とりあえず鼻の中をさ迷う取れそうで取れないこの鼻糞みたいな疑問を解決しとこう。
「なぜ、刑事の俺に電話を?」
「決まってるじゃない!刑事だからよ!」
何もかもが間違いだらけのこの糞の溜まり場で、糞にまみれて生きてきたわりには、どうやら女と別れた俺の考えだけは、間違ってなかったようだ。だから今日の夕食は、贅沢にいこう。
「分かった。俺が行くまで何も触るな。」
「ありがとう。早く来てね。」
「GACHANN!」
で、女がこの街で俺を選び、俺と付き合ったって選択肢もあながち間違ってなかったんだって事にもしとこう。とりあえず俺は、どうやって子供に母親が父親殺しの犯人だって事実を告げるのがベストなんだろうかと考えながら、やっぱり朝1番で教会に行く事を決め、ホテルをあとにした。

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コメント

「逸品」「6年年間」はタイプミスなのか意図して使われた言葉なのか読みながら悩んでしまい、そこで作品の世界から現実に引き戻されました。洒落た作品なのに残念。

投稿: 水晶 | 2011年2月14日 (月) 04時34分

「素晴らしくうっとおしい発明品」のようなニュアンスを込めて「逸品」は、ひねくった表現で意図して使いました。けど「6年年間」は完全に僕のミスです。読み返しが足りませんでした。

反省です。

トホホ・・・せっかく作品の世界に引き込めたと言うのに・・・本当に申し訳ないです。

修正しましたので、良かったらもう一度読んでみて下さい。

コメントありがとうございました。そして、助かりました。

投稿: PYN | 2011年2月14日 (月) 20時56分

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