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2011年2月16日 (水)

「第二百四十四話」

  私は、物書きだ。だから、書いてる途中にその作品が消失してしまうと言うハプニングにもめげない。だったら、消失する前の作品よりも遥かに面白い作品を書いてやろう!と言う闘志がみなぎるばかりだ。ゴホンッ!さて、こんな物書きの端くれの私でも、他人が私の作品を読んで、いったいどのような感想を抱くのかは、気になる。まあ、微々たるもんだがね。まあ、微々たるもんの中でも物凄くだが、気になる。だから、私はマンションの隣人に、私の作品を読んでもらおうと閃いた。でもって、次いでにもし良かったら感想なんかを聞いちゃおうとも閃いた。これはもう、押さえきれない欲求と言うかもう、訳の分からないゴリ押しの訪問販売以下の下衆な閃きだ。いやむしろ、物書きが物書きを主人公とする作品を、漫画家が漫画家を主人公とする作品を、ミュージシャンがミュージシャンを主人公とする作品を、画家が画家を主人公とする作品を、などなどのような作品を作る時点で私は、下衆を超えた下衆以下の卑怯者で卑劣者だ。だから、こんな物書きが物書きを主人公とする作品を二度と書くまいと、頼まれても書いてやるまいと、明日から始めるダイエット心の如く胸に強い野心を抱きながら、私は隣人のチャイムを鳴らした。
「ビィィィィィィィィィィィィィィィ!」
隣人が、いったいどのような感想を述べるのか?そんな事は、微塵も考えちゃいなかったが、そんな事を微塵も考えちゃいけない事は、閃いていた。
「はい。」
「あのう?」
大きく全開に開いたところには、隣人が立っていた。しかし、その男の後に見える光景を目にした時、私の時間が止まった。それは全ての業務を中断してでも、例えそれが地球存亡の危機を免れる為の業務を中断してでも、そこに全神経が、全細胞が、注目を集めてしまうには、男の後に見える光景はあまりにも価値があり過ぎた。何もかもがどうでよくなり、ましてや下衆な私が持って来た下衆な作品なんて、ましてやそれを読んだ隣人の感想なんて、その鉄の扉に比べたら、どうでもいいの中のどうでもいいだった。その鉄の扉には、大きな文字で、秘密基地。そう書かれていた。
「何か用でしょうか?」
「・・・・・・・・・。」
訪ねたのは私だが、尋ねられたのは私だった。頭の中を冷静にしようと思えば思う程、パニックへと誘われて行く事だけは、物凄く鮮明に理解していた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?だ、大丈夫です。少し立ち眩みがしただけですので、ご心配なく。」
「そうですか。」
聞くか?聞いてしまうか?秘密基地って何ですか?って、聞いてしまおうか?いやでも待てよ?目撃者理論を考えてみろ。殺人を目撃した目撃者は、どうなる?えっ?どうなるんだ?殺人犯に殺される。そう、目撃者は、理不尽に殺される。殺人を目撃しただけだと言うのに、その目撃した殺人を誰かに言うか言わないかの目撃者の意思とは無関係に、殺人犯の自分勝手な強迫観念により、不条理な死を遂げる。なら、私はどうだ?どうなんだ?秘密基地って何ですか?って、聞かずに、聞かずに知らんぷりか?そこまでか?私は、そこまで下衆なのか?いいや、違います。私は、そんな男ではありません。秘密基地。それは、男のロマン!秘密基地。それは、男の憧れ!それを目と鼻の先にして、例えそれを知ってしまったと知られて、地球上から抹殺される事を恐れて、この命を惜しむ程、私は腐っちゃいませんよ!秘密基地に比べたら、こんな命なんて代物は、あまりにも無価値!そう、始めから私の選択肢の中には、無意識レベルからして聞かない選択肢なんて存在しないのです!!
「あのですね?私、物書きなんですよ。実は。」
「そうだったんですか!」
「ま、まあ。あまり売れてないんで、知らないのも当然だと思うんですけ秘密基地って何ですか?」
「えっ?」
「えっ?」
「ひみ?」
「で、それでですね?大した事じゃないんですけどね?もし良かったらなんですけどね?もしも良かったら、私の作品を読んでもらって、更にもし良かったらなんですけどもね?もしも良かったら、感想なんかを聞かせてもらえればと閃いて訪ねて来たら、まさかお隣さんとこに、秘密基地があるなんて、と。」
「そうですか。」
「そうなんです。」
「なら、読ませてもらいます。それに、感想もちゃんと。あっ、でも僕、ストレートにものを言っちゃうタイプですけど、いいんですか?」
「構いません。その方が私も素直に受け止められるので、是非!」
「では。」
「どうぞ。」
「どうも。」
「で、秘密基地って?」
ここは、あくまでも冷静でなければならない。けして相手を刺激しちゃいけない。ゆっくりと、一歩一歩踏み出すんだ。焦りは禁物だ。如何なる場面、如何なる状況下であろうが、焦りは死を招く。ここは、もう腹を決めるんだ!だってもう後戻りは出来ないんだから!出来るとすれば、後悔のみだ!ああ、それと後退りも出来るか。いや、後退りなんてしてたまるか!さあ?さあさあ!どうなの?秘密基地!
「秘密基地です。」
「なるほど。」
なるほどじゃない!本当は、物凄くなるほどじゃないけど、この胸の高まりを相手に悟られたらダメだ。何でダメなのかもうよく分からないけど、何かダメだ!命なんてとは思ったものの、何事もなく、この場を立ち去れるなら、それはそれに越した事ない。
「ほら、秘密基地って、男の憧れじゃないですか。だから、作ったんです。」
「作った?」
「はい。作りました。」
「憧れですか。分かりますよ。その気持ち!」
「ですよね!秘密基地の中で地球征服を考えるのって、まさに至福の時なんですよ!」
「征服?」
「ええ、どんな風に地球を征服してやろうか?どんなタイミングで地球を征服してやろうか?果たして地球を征服した後の自分は?秘密基地の中で、もうそんな事を考えているだけで、一日が終わってしまうぐらいですよ。もう面白くて!面白くて!仕方ないです!」
「それは、素晴らしいですね。」
「はい!」
私は、ネガティブ思考の持ち主だ。何で消しゴムで?何でアップルパイで?何でコーンポタージュスープで?何でそこまでネガティブに思考出来るんだって程、ネガティブ思考の持ち主だ。しかし、しかしね。しかしだよ?それでもやっぱり、秘密基地って言うのは、地球の平和を守る正義の味方の、そっち方向の秘密基地だと考えてた。だから、下地にその思考ありきの命いらない発言だったんだ。でもまさか、隣人が悪者で、更に今日が私にとっての最終回になるとは、閃きもしなかった。仲間になる選択肢もあるだろうが、悪者の仲間になるぐらいだったら、始めから物書きなんてしていない。物書きは、いい者じゃなければならない。いいや、せめて私だけでも、端くれ物書きの私だけでも!唯一無二のいい者じゃなければならない!そして、いい者とは最期の最期まで、いい者じゃなければならない。それが物書きなんだな!
「・・・・・・・・・。」
「そんな好きなら、お隣さんも絶対に作った方がいいですよ!秘密基地!本当は僕、いい者用の秘密基地が欲しかったんですけどね。入荷未定だったし、すぐ欲しかったんで、まあ悪者用でもいいかって、即買いしちゃったんです。今すぐって話じゃなかったら、絶対!いい者用がオススメです!」
「へ?そゆ事?」

第二百四十四話
「秘密基地(悪者用)」

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