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2011年2月23日 (水)

「第二百四十五話」

「どうも。」
「警察の方で?」
「はい。」
それは、電話の声から想像した大柄な男とは違い、随分と痩せた男だった。
「わざわざこんな夜遅く来ていただいて、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、これが仕事ですから、専門のね。だから、気にしないで下さい。夜の小学校だろうが、例え廃墟だろうが、例えトンネルだろうが、例えミステリーサークルの畑だろうが、例え謎の足跡がある雪山だろうが、いつでもどこでも駆け付けるのが、超常現象課ですから!」

第二百四十五話
「超常現象課 file019ー幽霊調査ー」

さっそく私は、男を連れ、幽霊が出現する場所へ向かう事にした。
「しかし、驚きましたよ。警察に電話したら、まさかちょ、超じゃ?ちゃう常?」
「超常現象課です。」
「そうでした!そうでした!こういった事件を専門に扱うとこがあるなんて、長年生きてきましたけど、知りませんでしたよ。」
「先生は、どう思いますか?」
「ええ、始めは、生徒達の単なる噂話か悪戯だと思いました。でもここ数ヶ月で、あまりにも目撃情報が多くて、で、もしもこれが幽霊ではなく、不審者の類いだったらと考えたら、生徒達に被害が及ぶ前にと思いまして、警察の方へ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「はい?」
「名前ですよ。名前。」
「名前?さあ?生徒達や学校関係者に聞いても、目撃された男の名前は、分かりませんでした。それ以前に皆、初めて見る顔だと。」
「幽霊の名前じゃなくて、超常現象課!です。」
「超常現象課が何か?」
「先生?超常現象課ですよ?超常現象課!」
「は、はあ。超常現象課が?」
「正直、やけにダサくないですか?と言うかですよ?まんまじゃないですか。超常現象を専門に扱うから、超常現象課って!犬を飼うから犬って名前を付けちゃうようなもんですよ!まったく、どんな超常現象よりも超常現象ですよ!」
「わ、分かりやすくていいんじゃないのでしょうか?」
「確かに、確かに分かりやすいです!でも、何て言うんですか?果たして分かりやすいだけでいいんでしょうか?例え分かりにくくても、もっとこう、カッコいい名前があると思うんですよね!いや、カッコいい名前を付けるべきなんですよ!」
「はあ、例えば?」
「例えばですか?」
「はい。そうおっしゃるぐらいなら、何か候補でもと。」
「先生!よくぞ聞いて下さいました!」
「まあ、何と無く話の流れ的に、まあ。」
「ジャック・ラッセル・テリア!」
「ジャッ、ジャクラル?」
「ジャック・ラッセル・テリア!です。略して、JRTです!」
「それは、どう言う意味です?」
「犬種ですよ。」
「犬種?」
「意味はありません。ただ響きがカッコいいからです。ジャック・ラッセル・テリア、カッコよくないですか?」
「ああ、はあ。」
「でもね。上が絶対に認めてくれないんですよ!それ、どう思います先生?」
「単なる教師が警察の方に意見するのも、あれですから。」
「違います。」
「はい?」
「幽霊の正体です。」
「ああ、そっちのどう思いますか?でしたか。」
「こんな事を言ってしまうと、先生や子供達の夢をぶち壊してしまうみたいで申し訳ないんですが、幽霊は存在しません!」
「えっ!?ではやはり、不審者の仕業ですか?」
「あっ!誤解させちゃいましたね。」
「誤解?」
「幽霊は、存在しますよ。いやこれはマジで!です。」
「あのう?おっしゃってる意味が少し難しくて分からないのですが?」
「簡単に言いますと、幽霊とは人間が死んでからなるもんじゃないんですよ。だから、いわゆる皆さんが言う幽霊は、存在しないんです。」
「妖怪みたいな存在って事ですか?」
「河童とかひとつ目小僧みたいな?」
「え、ええ。」
「どろたぼうや朧車みたいな?」
「は、はい。」
「面白いですね、先生!それは、かなり新しい考えですよ。幽霊族と言う人間に非常によく似た存在ですね。でも、でもでも、でも、残念ながら、幽霊は100%人間です。」
「では、存在するのでは?」
「もちろん!存在します!けど、人は死んだら、残念ながらそれまでです。炭素です。灰です。だったら幽霊って何なんだよ!何を言ってんだよこの刑事!ってなりますよね?」
「い、いえそんな事は。」
「ご安心下さい。幽霊の正体は、これです。」
「テープレコーダー?ですか?」
「そうです!正確には、磁気です!」
「磁気?」
「空気中に磁気が漂っているのは、知ってます?」
「まあ。」
「更に、今のこの時代、機械化により、磁気はあらゆるところに存在します。昔みたいに、磁場の強い場所だけでなく、こうした大都会の小学校にも強い磁気がね。」
「はあ。」
「ピンと来てませんね?」
「すいません。」
「では更に、ピンと来ない話をしちゃいますね。」
「えっ?」
「先生は、記憶についてどう思います?」
「記憶?」
「生物だけの特殊な能力だと思いますか?」
「ええ、まあ。」
「では、これは何ですか?」
「テープレコー、まさか!?」
「そのまさかの現象が巻き起こっているんです!磁気テープのように、地面が建物が車が服がガードレールがトンネルが水が、などなどなどが!人の死を記憶し再生しているんです!」
「で、ですけど!」
「幽霊は、意思で動く!ですよね?」
「ええ、人の死を再生しているだけなら、その場に死体があるだけなんじゃないのでしょうか?」
「そうですよ。もちろん!」
「いやでも!」
「地面や建物は、死体の状況をリピートで再生し続けてるだけです。それが、動いて襲って来たり話し掛けて来たり着いて来たりするのは、人間の先入観です。」
「先入観?」
「錯覚です。」
「錯覚!?」
「人間の脳は、錯覚には逆らえません。錯覚を認識してしまった段階で負けです。そもそも今の我々には、幽霊と言う先入観が既に頭の中に存在します。考えてもみて下さい?実際、その場に無惨な死体があるのと、幽霊とでは、どちらと出会いたいですか?目が覚めて、ベッドを見下ろす知らない女性が生身の人間なのと、幽霊なのとでは、どちらが本当に心から安心できますか?」
「そ、それは。」
「死体より幽霊、見知らぬ生身の人間より幽霊、そうであって欲しいと思う人間の錯覚なんですよ。精神的ダメージへの防御です。そのイメージの選択肢が幽霊しかないだけの話なんですよ。」
「で、でも全ての人に見える訳じゃないですよね?」
「え~と、あれ何て言ったっけなぁ?ほら、文字が色で見える人がいるじゃないですか!何て言いましたっけ、そう言うの?」
「すいません。分からないです。」
「部屋に帰れば分かるんだけどなぁ。ま、まあまあまあいいですよ。今回は関係ないんで、とにかく文字が色で見える人がいるんです。」
「はあ。」
「そう言う事です。」
「はい?」
「だから、磁気テープを再生してる映像も見える人と見えない人がいるんです!って事です。」
「それはなぜですか?」
「分かりません。」
「えっ?」
「さすがにそこまでは分かりませんよ。病気みたいなもんなのか。晴れ男や雨女、みたいなもんなのか。それか、何か特殊な条件下で発動するのか?まあほら、幽霊が見える人より、問題なのは、幽霊を見せてる場所なんですから、ねっ!」
「そ、そうなんですか?では、この小学校の幽霊も?」
「まあ、十中十で、磁気テープの再生です。」
「では、どうやって解決するんですか?」
「逮捕します!」
「逮捕?」
「ええ、これでも刑事ですからね。」
「どうやって逮捕するんですか?」
「これですよ。」
「テープレコーダー?」
「これ実は、ただのテープレコーダーではないんですよね。簡単に説明すると、リピート再生をこのテープレコーダーにダビングするんです。吸い取っちゃうんです!で、おしまい。幽霊さよなら!です。」
「ま、まさか!?」
「まあ、見てのお楽しみって事で!あっ、そうだ!先生の感想を是非ともお聞きしたいですね。」
「今の話ですか?にわかに信じ難いです。」
「違いますよ。」
「はい?」
「やっぱり、ほら、こう言うのって、コンビの方がよくないですか?」
「何の話でしょうか?」
「超常現象課ですよ。だって、映画やドラマとかでも必ず意見の対立し合うコンビじゃないですか?だから、ほら、口うるさいとか熱血漢とか、やたらとプロファイリングな女性刑事などが相棒に居た方が、よくないですか?」
「そ、そうですか?」
「絶対にそうですよ!あっ、でも、やっぱり、熱血漢な熱い人はちょっと苦手かもしれませんね。でも、かと言って冷静な女性もちょっと」
「刑事さん!刑事さん!」
「は、はい?」
「着きましたよ。」
「・・・・・・ボイラー室ですか。」
「ええ。開けますよ?」
「いきなり襲って来たりしませんよね?」
「襲うって、それは錯覚だって刑事さんが先程言ってたじゃありませんか。」
「いくら錯覚でも痛みは伴いますから、ほら知ってます?お湯だと言って水を掛けても、人って火傷するんですよ?」
「・・・・・・開けても宜しいですか?」
「正直、ここまでとは思いませんでした。」
「はい?」
「実際に体験してみなきゃ分からないもんですね。」
「今度は、いったい何の話ですか?」
「幽霊の話ですよ?たぶん、正門の前では、私を待ってる大柄な先生が居ると思います。」
「わしには、先程から刑事さんがおっしゃっている事が、全く理解出来ませんよ。」
「70年も経てば顔も名前も知る人なんて学校関係者の中からは、居なくなって当然です。ここ最近で購入した特殊な機械、同時期頃から多発した幽霊目撃情報、怪談話の宝庫な小学校、独り歩きする不確かで不鮮明な事実がねじ曲げられたボイラー室事故。だからもう、いいですよね?ダビングを始めちゃっても?この距離からでも十分なんで、だってほら、扉を開けたら貴方の全身が焼けただれた死体が再生されてる訳じゃないですか。三日前から決めてたんですよ。今日は、雑誌で見た駅前のあの店のあのハンバーグ食べようってね。あとこれ、余談なんですけどね。正門からボイラー室までの私の一部始終を陰から見てたら、かなり面白かったと思いますよ?だって、延々と私は独り言を言いながら歩いてたんですからね。錯覚でもなかったら、こんな長時間私の話に耳を傾ける比較的肯定的な人なんていませんよ。」
「何をおっしゃ」
「っているのかが、さっぱりですよ!ですよね?では、逮捕します。」
そして、私がスイッチを入れると、ボイラー室の中から痩せた男がテープレコーダーの中へ吸い込まれていった。

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