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2011年3月 9日 (水)

「第二百四十七話」

 フリーライターをしている私がその薬の噂を耳にしたのは、3週間前の事でした。その後の取材で掴んだ噂の薬があるとされるその街の商店街は、私が訪れたどの街の商店街よりも不思議で、でもその不思議に対して、不思議と違和感を感じさせないところがまた、不思議と言うか、とにかくライターとしてこう書いてしまうのは失格なのかもしれませんが、言葉では上手く言い表せない、不思議だけど普通な商店街だったんです。
「うわぁ~。ちょっと、嫌だなぁ。出ないよね?お化け的なの?」
地上の商店街は、不思議だけど普通。しかし、地下の商店街は、違っていました。所々、裸電球が切れ掛かっている暗い階段を下り、先も見えない真っ暗な地下商店街の入り口に立つと、何だか背筋に寒気のようなものを感じました。そう、不思議で不気味。そんな表現がお似合いでした。
「水滴屋?」
電球がまるでスポットライトのように照らす所々剥げて辛うじて地下商店街入り口と読める床に書かれた文字を跨ぐと、すぐに水滴屋と言う看板の文字が私の目に飛び込んで来ました。
「水滴を売ってる?って事なのかなぁ?」
少し、いや、かなり好奇心を揺さぶられましたが、今はそれどころではないと、目当てのお店へと歩みを進めました。しばらく好奇心を揺さぶられながら歩くと、目的のお店がその姿を現しました。

第二百四十七話
「万能薬屋」

「まんま、なんだ。」
ボロボロの看板の文字を見て、私はガセネタを掴まされたのだと確信しました。それでもとりあえず理不尽に怖い思いまでしてここまで来たんだからと、私は店の中へ入りました。
「すみませーん。えっ!?」
一瞬、私は次元の違う空間へ来てしまったのかと、自分の目を疑いました。扉を挟んで外は暗黒の世界。店の中は真っ白な世界。
「ん?お客さんとは珍しいな。」
そして、カウンターの向こうで、汚い汚い白衣を纏った60代ぐらいの太った男性が、完全にサイズ違いの眼鏡を掛けて、私を迎えてくれました。
「あのう?私、こう言う者です。」
「ほう!フリーライター?で?そのライターさんが何の用なんだい?」
「こちらのお店に、万能薬があると聞いて伺ったのですが。」
「お嬢ちゃん?」
「お、お嬢ちゃん!?」
「店の看板、見た?」
「ええ。」
「で?ボロっちぃ看板には何て?」
「万能薬屋、と。」
「うちの店には、万能薬しか置いてない。なぜだか分かるかい?」
「いいえ。」
「お嬢ちゃん。本当にライターさんなのか?」
「ええ、一応これでもライターです。フリーですが。」
「疎いねぇ。疎い。万能薬以外の薬が置いてない理由なんて、万能薬以外の薬を置く必要がないからに決まってるじゃないか。」
「それはつまり、万能薬で、どんな病気も治せると言う事ですか?」
「だから、万能薬って言うんだろ?違うのか?」
鼻息をあらげて得意気に話す店主でしたが、それはあまりにも突飛で、次元違いな話で、私は信じられませんでした。いや、始めから万能薬なんて薬の存在自体を信じていませんでした。なぜなら、店主の言う事が本当であるなら、どうして世界中で今も尚、不治の病で苦しんでいる人達がいるのでしょうか?そうなんです。まるで筋が通っていないんです。
「本当に万能なんですか?」
「お嬢ちゃん?疑ってるのかい?」
「正直、疑っています。いえ、このお店の万能薬を疑っているのではなく、私は万能薬の存在自体を疑っています。」
「はあ~あ。」
店主は、大きな溜め息を吐き、頭を掻いて、完全にサイズ違いの眼鏡を外し、目頭を押さえ、再び完全にサイズ違いの眼鏡を掛けて、私を見た。
「なら、お嬢ちゃんは、どうしてこんな場所まで、わざわざ訪ねて来たんだい?万能薬の存在自体を疑ってんなら、そんなネタ、無視してしまえばいいじゃないか。」
「そ、それは・・・・・・・・・。」
「うん。まあ年甲斐もなくわしも随分と意地悪な質問をしてしまったね。まあ、あれだ。ほら、人は頭で完全否定しても完全否定しきれない。そこに希望があるからな。で、逆に完全肯定も出来ない。そこに絶望があるからだ。まっ、哲学的な話は置いといて、あれだろ?あってもいいなぁ?って、思っただけなんだろ?簡単な話、一種の好奇心ってやつだな。」
「・・・・・・・・・。」
確かに、店主の言ってる事も当たっています。世界に万能薬が流通していないのは、それを人々が受け入れようとしないのからかもしれない。そんな魔法の様な希望の薬があればいいなと思っていても実際には確実に存在しない絶望で完全否定している。目の前に万能薬を突き付けられたとしても、その万能薬で病気が治ったとしても、きっとそれを万能薬だとは、認めないのではないでしょうか?ユニコーンやドラゴンのように、万能薬もまた、想像上の延長線上にのみ存在していて、現実には存在しない。頭で分かっているけど、それは同時に頭で分かっていないと言う事なのかもしれません。
「見えていないんだろ?」
「見えていない?」
「店内にある万能薬の事さ。店に入って来た時のお嬢ちゃんの表情で分かってたけど、店の中が真っ白に見えてるんじゃないのかい?ん?正解だろ?」
「まさか!?」
「まあ、それが正常なのかもしれないが、わしからしてみれば、随分とまあ、贅沢な話だよ。」
「贅沢?それはどう言う意味ですか?」
「現実に存在する万能薬をあえて否定しながら生きる生き方の事さ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
私は、言い返す言葉が見当たらなかった。頭の中が、あまりにも憶測の域を越えなかったんです。万能薬が見えない。でも、果たして本当にそんな現実が存在しているのか?それともただ単に、店主が私の事をからかっているだけなのか?きっと、この話は平行線を辿るだけだと思い私は、最後に1つだけ質問をして店を出る事にしました。
「万能薬って、何色なんですか?」
「色?そんなの決まってるだろ?万能薬は、黒だよ。」
私は、真っ白な店内を見渡し言葉を失いました。そして、言い様のない虚脱感と恐怖感にさいなまれながら、店主に別れを告げ、店を後にしました。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
真っ暗な地下商店街を歩きながら私は、確かこの地下商店街に来る途中、おいしい珈琲を淹れる喫茶店があったのを思い出し、そこで少し頭の中を整理してから家へ帰る事にしよう。そう思いました。それは、美味しい珈琲でも飲んで、少し気持ちを落ち着かせないと、とてもじゃないけど眠れそうになかったからです。

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コメント

この商店街って今までに何度か出てきましたよね?好きです。
第二百四十七話も好きです。冒頭からつかまれるし内容もいいなぁ。

投稿: 水晶 | 2011年3月23日 (水) 03時20分

バレたか!?

ってまあ、とっくにお気づきでしたよね。

はい!お察しの通り、この商店街は何度も出てきてます。そして!これからも何度もでてきます!

何度も出てきているので、今回は少し視点を変えた主人公から商店街を紹介してみました。

コメントありがとうございました。

投稿: PYN | 2011年3月23日 (水) 22時10分

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