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2011年3月23日 (水)

「第二百四十九話」

 俺は、しくじった。
「まさか俺みたいなドジな奴がもう一人いたとはな。」
「それは、私も同じ事だよ。」
「違いねぇ。はっはっはっはっはっ!」
「はっはっはっ!」
暢気に笑っていたが、これはとてもじゃないが、笑える状況なんてもんじゃなかった。俺は、しくじったんだ。それはもう、どうしようもなく、救いようもねぇ、しくじり方だ。
「怪我は、大丈夫なのかい?」
「ああ、どうって事ねぇ。右足が折れちまっただけだ。」
「そうか。」
「そっちは、どうなんだ?」
「私も同じだ。」
夜間の奇襲作戦。作戦名『雷雨の稲光』をしくじり、西側の奴等から逃げてる最中に俺は、崖から足を滑らし、右足をしくじり、必死に足を引き摺りながらやっとの思いで辿り着いた山小屋は、電気が通ってねぇと来たらもう、しくじる事は後はもう、何一つ無いだろうと、夜明けまで少し眠ろうとした時、山小屋の中で人の気配を感じた。
「私は、東側が奇襲を仕掛けてくると言う伝令を伝えに行く途中、崖から足を滑らしてね。この様さ。」
暗闇の小屋の中に居たのは、西側の兵士だった。だが、今思えばこれら全てのしくじりなんてもんは、これっぽっちのしくじりにもならねぇ。
「俺は、夜間の偵察中、崖から落ちた。」
「どうやら、お互い災難だようだな。」
「東側より、あの崖の方がよっぽど厄介ってもんだ。」
「はっはっはっ!そうかもしれないな。」
「はっはっはっはっはっ!」
だから俺は、自分を西側の兵士だと偽った。小屋が暗闇のしくじりは、これでチャラになったって事でいいかもしれねぇ。暗闇でなきゃ、この偽りは通用しない。もし、電気が通ってたら東側の夜間迷彩を着た俺は、小屋に入った時点で撃ち殺されてたとこだ。だが、祝杯をあげるには早すぎた。暗闇のしくじりがチャラになったと同時に、俺のタイムリミットが、夜明けまでと決定しちまったからだ。
「こんな時に、こんな事を言ったら、あれなんだが、暇潰しにいいかい?」
「いいねぇ。暇潰し!俺でよければ相手になるよ。」
選択肢は、いくつかあった。いくつかあるから、選択肢なんだが、まあこのチョイスをしくじったら、おそらく俺は、クソ美味くもないランチにはありつけないだろうって思った。
「つくづく思うんだよ。何がどうなって、こんな戦争が起こってしまったんだろうとね。」
「地球大戦か。」
「昨日まで当たり前の日常を過ごしてたかと思ったら、次の日突然、地球を東西に分けての戦争が始まってしまった。」
選択肢の1つは、夜明け前に俺が小屋を出て行くってヤツだ。単純明快の様でだが、なかなかどうして、問題が山積みだった。足の負傷がなければ、雨の中を一目散に走って逃げればいい話だが、そもそも足を負傷してなきゃ、こんな小屋に立ち寄ったりなんてしてねぇって話をしたら元も子もねぇな。それに大問題なのは、俺が小屋を出て行こうとした時、西側の兵士が一緒に小屋を出る確率が高いってヤツだ。つまりこの選択肢は、しくじる選択肢だった。
「どっか、俺達の知らないとこで、俺達の知らないお偉いさん同士が大喧嘩して、地球に東西真っ二つのボーダーラインを引いちまった。下らねぇ。」
「全くだ。ある日突然、何の恨みもない知らない人間を撃ち殺さなければならない。ある日突然、仲の良かった友人に銃を向けられなければならない。」
「ああ、下らな過ぎる。それに、こんな戦争が無ければ俺達が崖から足を滑らす事もなかったんだからな。」
「はっはっ!それもそうだな。だけど、君と出会えた。」
「どうせ会うなら、酒場で一杯おごってもらいたかったもんだぜ。」
「足が治ったら、おごらしてもらうよ。」
「約束だぞ?」
「約束だ。」
「はっはっはっはっはっ!」
「はっはっはっ!」
「・・・・・・・・・この戦争は、西側が勝っても東側が勝っても喜ぶのは、そのどっかのどっちかのお偉いさん達だけで、俺達みたいな無意味に、自分の意思とは関係無く、戦争させられてる兵士は、勝っても負けても悲しむだけだ。」
「ああ、全くその通りだよ。」
選択肢の1つは、夜明け前までに、この西側の兵士を撃ち殺すってヤツだ。暇潰しの会話の最中に、いろいろと知恵を絞ってみたが、おそらくこのチョイスがベストだった。だが、チョイスがベストだろうが、実行してしくじったら間違いなく俺は撃ち殺される。それでも俺を西側の兵士と信じ込んでる気の毒な西側の兵士を撃ち殺すのには、あまりにも容易い状況で環境だった。そう、しくじりたくてもしくじりようもない・・・・・・。
「もうすぐで、夜が明ける。私は、朝日が昇るのを見るのが好きでね。しかし、どうやら今日は見れそうにないみたいだ。」
殺らなきゃ殺られる。これが戦争ってヤツだ。
「バーン!!」

第二百四十九話
「東側の兵士」

俺は、しくじった。俺が今までにしくじって来たと感じて泣いたり悔しがったり憤怒や反省を繰り返したのがバカみたいだって、笑えてくるぐらいにだ。稲光で一瞬、照らされた光景を前に、撃ち殺すなんて選択肢が、戦争のせいで脳ミソが腐っちまったせいなのか?それこそこれぞ人間の本能ってヤツなのか?を少しだけ考えちまった。ついでに、こうも少しだけ考えた。別に、戦争の事なんて今はどうでもよかったじゃねぇか!ってな。まあ、全部が今更ってとこなんだがよ。
「なんだよ。こんなんだったら、夜明けまで暇潰ししてりゃあよかっ・・・・・・たよ。」
だが、しくじったのは、俺だ。目の前で涙を流す西側の兵士を偽ってた東側の兵士は、しくじっちゃいねぇ。

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