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2011年5月

2011年5月 4日 (水)

「第二百五十五話」

 住宅街の誰かん家、その地下室に
「弾切れだ。」
警察官と
「僕の方もです。」
ビジネスマンがいた。

第二百五十五話
「愛と英雄とゾンビと」

「で?逃げながら何て叫んでたんだ?」
「だから、僕は家に帰ります!と!」
「武器も無いのにか?」
「ええ。」
「外はゾンビだらけなのにか?」
「ええ。」
「お前も死ぬかもしれないし、ゾンビになるかもしれないのにか?」
「ええ!そうです!」
「アホか?」
「ええ、アホです。いつもの様に会社から帰って来たら、街中がゾンビだらけになってた。」
「定番だな。」
「ゾンビが僕の隣にいた女性を襲い。その襲われた女性もゾンビになった。」
「ド定番だ。」
「家には、愛する妻と娘と生まれたばかりの息子がいるんです!」
「その女ゾンビから助けてやったのは、俺だ。おっと、勘違いしないでくれよ?別に感謝してくれって、恩着せがまし事を言ってるんじゃない。俺は、警察官だ。命懸けで命を守る警察官だ。助けたのは、当然で自然な必然だ。何が言いたいのかって言うとだ。アレだ。見す見すアンタを死なせるような事は出来ないってこった。」
「助けてくれた事や銃を与えてくれた事は、心から感謝してます。だけど、分かって下さい!家族が心配なんだ!」
「んな事は分かってるさ。十分にな。」
「だったら、お願いだ!行かせてくれ!頼む!」
「今、この街で何が起こってるかなんて、誰も分からねぇ。専門家、まあゾンビの専門家が居るのか知らないが、とにかく専門家の意見は当てにならねぇ。政府や自治体なんてのは、更に当てにならねぇ。それ以前に街じゃあ、何もかもが機能してねぇ。」
「何が言いたいんです?」
「何で街がこんなんなったのか?どうすりゃゾンビんなっちまった人間が元に戻るのか?それとも戻らないのか?ゾンビが何で、どう感染するのか?疑問は山積みだ。だがなぁ?アレだ。そんな疑問満載ん中でも高い確率で言えんのは、アンタの家族の生存確率が無情に低いってこった。」
「それでも!それでも家族の安否を知りたいのが現実ってもんだ!」
「ダメだ。」
「なっ!?」
「そう言う現実の方が間違ってんだ。」
「貴方には家族がいないのか!愛する者がいないのか!」
「ああ、いない。」
「えっ!?」
「何も驚く事はないだろ?俺は、命懸けで命を守る警察官だ。平等に命を守るって事は、特定を作っちゃならないってこった。仮にもしも、俺に愛する者がいたとして、それがアンタに襲い掛かったあの女ゾンビだとしたら、俺は絶対に発砲を躊躇った。確実に救える命が目の前にあるのにだ。なのに俺は、躊躇わず発砲を躊躇った。誰もが想定外と言う事態を想定しながら俺は、命懸けで命を守る警察官って道を選んだ。アンタを家に向かわせる事は、確実に危険で、無駄死にするだけだ。もちろんそれは、2人で向かったとしてもその確率に何ら変化はない。」
「立派ですね。」
「それは、アレか?皮肉か?」
「皮肉なんかじゃなく、本気で尊敬出来るぐらい心からそう思ってます。貴方の様な志の警察官がいる街に住んでる事を僕は、誇りに思う。貴方は、この街の英雄だ。」
「そうか。それは何よりもの言葉だ。」
「だけど、その考えは悲しすぎる。とても・・・・・・孤独だ。」
「命懸けで命を守るってのは、悲しくて孤独なもんだ。」
「愛って言うのは、理屈じゃない。低い生存率を信じて、命懸けで奔走するんです。愛する者の為なら自分が犠牲になったって構わない!たぶんきっと、そんなもんです!」
「クソだな。」
「僕がしようとしてる事をどんな風に貴方に言われようが、僕の気持ちをどんなに踏みにじられようが、僕は決して貴方に怒りを感じたりはしない。それは僕が、ゾンビから助けてもらった時から、そしてこれから先も、貴方を尊敬し感謝し続けるからです。なぜなら、ここに辿り着くまでに貴方は、その志し通り僕を命懸けで守ってくれたからです。ゾンビからも倒れてきた廃材からも自分の身を省みず犠牲にして、助けてくれたからです!」
「当たり前の事をしただけだ。誉められた事じゃない。」
「そんな貴方からしてみれば、本当に物凄く小さな事かもしれない!理解出来ないミクロの世界かもしれない!命懸けで命を守りたいと言う貴方からしてみれば、卑怯者で自分勝手な行動かもしれない!だけど僕は!愛する家族の元へ行きたいんだ!せめて自分の愛する家族だけでも、と!神に祈ってしまうんだ!奇跡を信じてしまうんだ!みんな貴方の様に強くはないんです!」
「ああ、アレだな。本当に愛は下らねぇ。下らな過ぎだな。みっともなくて意地汚い、どこまでも自己中心的だ。何て矛盾した、どこまでも果てしなく邪魔な感情ってこった。」
「ええ、その通りです。」
「危険と感じたらいいな?アンタの志しとは関係無く引き返す!」
「えっ?」
「愛にひた走るアンタみたいなカッコ悪い人間がいるからこそ、アレだ。俺がカッコ良くいれるってこった。それに、そんなクソバカは止めたって止め様もないってのは、理解してる。」
「無駄死にするかもしれないんですよ?」
「これは、あくまで確率が低い想定の話だがな。アンタの愛する家族が、愛する英雄の到着を涙を堪えながら、恐怖に怯えながら、必死に信じて待ってるとしたらだ。」
「・・・・・・・・・。」
「そこへ俺が、このちっぽけな世界の英雄を命懸けで連れて行かないって理由は、無いだろ?」
「ありがとう・・・・・・本当にありがとう・・・・・・・・・。」
「その言葉をアンタの愛する下らない家族からも聞きたいもんだ。」
「・・・・・・・・・ありがとう。」
「だが、これだけは言っとくぞ?もし、アンタの愛する家族がゾンビになってたら、俺は躊躇わずに殺すからな。」
「ええ、でもその時は僕も一緒お願いします。」
「ダメだ。」
「なぜですか!」
「命懸けで命を守るのが俺の仕事だ。」
「でも!愛する家族がいくらゾンビになってたからと言って、それを殺そうとする貴方を僕は殺してしまうかもしれません!」
「構わん!」
「えっ!?」
「そん時は、躊躇わず殺れ!」
「そ、そんな!?」
「愛する者達と共に逝くのか、愛する者達を心に宿して生きるのか、愛する者達を命懸けで守るのか、それを決めるのは、アンタ自身だ。それがアンタの選んだ道だろ?」
「ええ、ええそうです。」
「最終確認だ。いいか?全てがハッピーエンドとは限らねぇ!それでも愛する家族の元へ行くんだな?」
「はい!」
「さてと、なら先ずは何か武器になりそうなもんを探さないとな。」
「ん?奥に部屋が!」
「こ、これは!」
その後、地下室の奥の部屋から銃器コレクターだった誰かん家の主のコレクションを手にし、警察官とビジネスマンは、目的地へと向かった。街中をさ迷う大量のゾンビと必死に戦いながら、普段なら数十分の距離を数時間掛け、無事目的地へと辿り着いた。そこで警察官は、襲い掛かるビジネスマンの愛する家族を撃ち殺し、それを止めようとするビジネスマンに撃ち殺された。そして、ビジネスマンもまた自分の頭を撃ち抜き自殺した。それから更に数時間後、ナパーム弾投下により、大量のゾンビが徘徊する街は、地図上からその姿を完全に消し、そして更にその78年後にまた、街は完全な姿を取り戻す事となる。

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2011年5月11日 (水)

「第二百五十六話」

「ポッポポッポーッ!」
汽笛を鳴らしながら、汽車は桜並木を通り、トンネルの中へと姿を消して行った。
「相変わらずだなぁ。」
「あの気の抜けた汽笛を聞くとまた、1週間が始まったんだと、実感しますね。」
「ええ、と同時にあのズッコケな汽笛を次に聞けるのがまた、1週間後なんすよねぇ。」
「そうですね。」

第二百五十六話
「汽車は7日に1本」

「駅長。」
「誰がエキオサだゴラッ!」
「どんなトリッキーなツッコミですか!確かに駅長をエキオサとも読めますけど、エキチョウと言いました!エキオサと言う訳がないんだまず!んで、キャラ変わりすぎでしょ!」
「何ですか?」
「何事も無かった感が勇ましい。いやあ、暫く駅も暇ですね。」
「そうですね。なら、こんな遊びはどうです?」
「ん?遊びすか?」
「汽車の未来形を考えるんです。」
「未来形?」
「ええ、この先、汽車はいったいどんな風に進化して行くのか?未来の汽車を想像するんです。」
「面白そうですね。やりましょうか!」
「ではまず、サブキャラから、何かありますか?」
「サブキャラって、こんなに主役と同じぐらい会話するサブキャラ居ますかねぇ?そうですねぇ?まず、あの煙は無くなるんじゃないですか?」
「ゴラッー!!!」
「な、何ですか!?」
「私もサブキャラだーっ!」
「どんなトリッキーな新事実ですか!って、どうしたんすか!」
「キミが、明日みたいな事を言っているからですよ!」
「明日!?」
「いいですか?私が言っている未来形と言うのは、もっともっともっーと、先の未来の話ですよ!」
「いやそのルール知らなかったし!だったら、駅長から言って下さいよ。」
「そうですねぇ?おそらく、おそらくですよ?」
「はい。」
「亜空間転移装置の技術向上により、汽車はワープするんじゃないんでしょうか?更にですよ?更に時空間転移装置の開発が進み、時空間をも自由に移動出来たりするんじゃないんでしょうか?」
「駅長?」
「はい。」
「それは、何千年先の未来の話ですか?何々転移装置って単語がチラホラさも現状で開発されてる体で話してますけど、無いでしょ!そんなん!」
「あるでしょ!年末頃には、小型時空間転移装置が発売されると私は!週刊掃除機で読みましたけど!」
「汽車の未来形の話すんのに、駅長まで同時に同未来へ、ブッ飛んでっちゃってどうすんですか!だいたい、何で駅長の未来では、掃除機に時空間転移装置を付けるんですか!しかも週刊って、掃除機がそんなに重宝されつつ!片やタイムマシーンが完成されつつある未来なんて僕は認めない!」
「キミが認めようが認めまいが、定められた運命は変えられないんですよ。まあ、2億年経てばキミも嫌でも分かります。」
「遠っ!?考えてた以上に遠っ!?生きてるかっ!」
「遠い?確かに、2億年先の未来は遠いです。しかしどうでしょう?2億年後のタイムマシーンが完成されている未来からしてみれば、2億年前にやって来るなんてのは、隣人に醤油を借りに行くよりも簡単な話です。」
「じゃあ何ですか?その2億年先の未来から汽車でやって来た人間が、未来の技術を提供してくれたり、2億年後の未来に僕や駅長を連れて行ってくれるって話ですか?」
「それはダメです!」
「何でですか!」
「未来の時間法では、過去へ現在や未来の情報を提供してはならない。過去や未来の人間を時空間移動させてはならないと!そう定められているからです!なぜなら、そうなぜならば!そうしなければ、歴史が変わってしまうからです!」
「あのう?」
「分かっています!キミの言いたい事は!確かにそれで全てが悪い方へと流れが変わってしまうとは、断言出来ません。より良く流れが変化するかもしれません。しかし!しかしですよ!歴史を人の手で殺めて良いものではないんです!」
「いや、これっぽっちも分かってないじゃないですか僕が言いたい事を!何ですか?歴史を人の手で殺めちゃいけないとか?時間法とか?駅長!僕らは汽車の未来形の話をしてるんですよね?SF小説の話を考えてるんじゃないですよね?何をそんなに熱く語っちゃってんですか!」
「駅長だけに?」
「はあ?」
「1人で突っ走っちゃったっ、てか!」
「てか、じゃないですよ!てか、じゃ!全然面白くないですから!」
「空、飛びますね。」
「何を言ってんです?」
「汽車、空飛びますね。」
「ああ、物凄く強引に話を戻したんですね。」
「どうです?」
「空、ですか?飛びます?空。」
「空、飛びますよ!じゃなきゃキミ!宇宙海賊や宇宙怪獣と我々人類は!いったいどうやって戦って行けばいいと言うんですか!」
「ええっ!?今度はそっち路線ですか!?いやでも駅長?宇宙海賊や宇宙怪獣が居たとして、地球に攻撃を仕掛けて来たとしてですよ?何もわざわざ汽車で戦わなくたっていいんじゃないすか?だったら、何かスーパーロボット的なモノを戦わせましょうよ。」
「私だって!出来れば地球侵略を目論む外敵と!スーパーロボットとを戦わせたいですよ!しかしね!しかしだよキミ!今は、汽車の話をしているんですよ!」
「どんな縛りですか!」
「だからさぁ。汽車がスーパーロボットに変形するってのはどうです?」
「優しい微笑み!」
「どうします?汽車がそのまま変形すんのと、複数の汽車が合体すんのと、迷いますねぇ!」
「少年かっ!その目の輝きは!てか、外敵が来て、汽車が出動するなら分かりますけど、その場で汽車が変形や合体したら、乗客の皆さんはどうすんですか!」
「先生来たっ!」
「修学旅行かっ!誤魔化し方までトリッキーすぎですよ!」
「じゃあ!どんな進化をすればいいんですか!」
「何で怒ってるんすか?だから、空を飛ぶとかワープとかまではいいんですよ。そっから余計な時空間転移装置やら宇宙海賊やらが出て来ちゃうからダメなんすよ。あくまで汽車だけの事を考えないと。」
「ああっ!」
「そんな典型的な納得の仕草する人、現実世界でお目に掛かれるとは思いませんでしたよ。」
「燃料が地球に優しくなりますね。」
「急に現実的!?まあでも、その辺からかもしれませんね。地球に優しいと言うならやっぱり、自然エネルギーですかね?クリーンエネルギーって言うヤツですか?」
「汽車型掃除機です!」
「まさかのここへ来ての汽車と掃除機が繋がるとは!?って、ゴミを燃料に走るのは分かりますけど、汽車型掃除機って、掃除機じゃないですか!」
「まあしかしアレですね。ゴミを燃料って考えは非常に宜しいですが、やはり排出される物質の事も、もっと考慮した方が、私は宜しいかと?」
「何か僕の意見みたいになってません?でも駅長?何かを燃料にする以上、何かを排出するのは、避けられませんよ?」
「ある!!」
「そんなメチャクチャ胸張って断言出来るエネルギーありましたっけ?」
「念動力!」
「はあ?」
「簡単な話ですよ。人の念動力で汽車を動かせばいいだけの話です。」
「物凄く難しすぎる話ですよ。」
「なぜですか?我々が放つエネルギーですよ?これはある意味!自然のエネルギーすらも必要としない無エネルギー!超クリーンエネルギーで!超自家無限エネルギーではないですか!!」
「その握りこぶしは、いったいどっから来るのでしょう?使えればね!念動力使えればそうでしょうよ!けど使えません!悲しいかな我々人類は念動力を使えないのです!だからこそ、何かのエネルギーに頼っているのですよ!」
「えっ?キミ、念動力使えないの?」
「使えませんよ!駅長だって使えないでしょ!」
「使えてたら今頃スターですよ!念動力御殿ですよ!」
「いや逆ギレ具合がトリッキーすぎでしょ!」
「もうつまりあれですね。汽車は、汽車って事ですね。」
「元も子もない事をサラッと言ってしまう感が勇ましい。って、駅長?」
「何ですか?」
「そんなこんなで、そろそろ木星から旅客型スペースシップが到着する時間です。」
「いつの間にやらそんなに経っていましたか。」
「みたいですね。」
「さてと、では重力安定装置の準備を!」
「了解です!」

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2011年5月18日 (水)

「第二百五十七話」

 マンションの1室のリビングの上下左右丁度ど真ん中に、直径30センチのその穴は開いていた。
「遅いなぁ。約束の時間を1時間も過ぎてるぞ?」
困り果てた様子で、住人の男は、真っ黒な穴と腕時計を交互に見ながら、ソファーに寝転がり、溜め息混じりの独り言を何度も呟いていた。
「ピーンポーン!」
「来たっ!」
と、その時、チャイムが鳴り、住人はソファーから飛び起き、玄関へと一目散に向かった。

第二百五十七話
「穴屋封印堂」

「いやぁ。なかなかどうして、立派な穴が開いたもんですね。」
「参りましたよ。朝起きたらコレですもん。まさかリビングに穴が出来るだなんて思いませんでしたよって、ちょっと穴屋さん?1時間も待ったんですけど?」
「申し訳ない!言い訳するつもりじゃないけど、前の歯磨き屋さんとこの穴に手こずってしまってね!本当に申し訳ない!」
「まあまあ、それなら仕方ないですけどね。」
「本当は、2度寝です!」
「おもいっきり!堂々と言い訳してるじゃないですか!と言うよりむしろ嘘付いてんじゃないですか!」
「アハハ!いやいや、しっかし見れば見るほど立派に開いちゃいましたね!」
「塞がります?」
「チッチッチッ!御依頼人?」
「御依頼って!」
「この道ウン10年の私に塞げない穴なんてありませんよ!それが封印堂!」
「何で職歴をうやむやにするのか深くは追求しませんけど、とにかく宜しくお願いしますよ。」
「イッサー!!!」
「元気過ぎっ!」
「始めに確認なんですが、この穴を発見した時に、覗いたり大きな声で、おーい!出てこーい!とか言ってないですよね?」
「覗きましたけど、声は掛けてません。」
「穴の中に何も投げ入れてませんよね?」
「はい。」
「分かりました。」
「あのう?」
「何か?」
「穴の中に向かって何か叫んだり、何か投げ入れたりしたら、何か起こるんですか?」
「まあ、ある日の突然に・・・って!ネタバレ、ネタバレ!」
「ネタバレってなんですか?」
「ネタがバレる事です!」
「いや、そっちを尋ねてるんじゃなくて!」
「まあ、私の勝手なオマージュですから。」
「オマージュって何ですか!オマージュって!」
「ごめんちゃ~い!」
「ふざけてます?」
「トンでもない!」
「なら、オマージュなんかしてないで、早いとこ塞いじゃって下さいよ!」
「イッサー!!!」
「元気過ぎだって!」
「さてと!」
「あっ、そうだ!あのう?」
「何ですか?」
「前々から気になってたんですけど、穴って、何が原因で出来ちゃうんですか?」
「穴虫!」
「穴虫?」
「穴虫ってのがいて、その穴虫が空間を喰って作られる。」
「何か、洋服みたいですね。へぇ、穴虫かぁ。」
「いや、私もね。洋服の穴を見た時に思い付いたんですよ!」
「はあ?」
「で、穴虫ってのは、いったいどんな姿形なんだろ?って考えてたんですけどね?寝ちゃいました!」
「今日じゃん!2度寝の原因ソレじゃん!良かったですよ!誰かに話す前に真相が聞けて!」
「正直に話しますとね?穴がなぜ、こうした空間に出来てしまうのかの答えに対して、明確な結論は出てないんです。」
「謎?ですか?」
「謎、ですよ。ただ?」
「ただ?」
「物凄く迷惑だなって結論は出てます!」
「ごもっとも!?ごもっともな結論ですよ!そしてそれは、学者以前に誰もが出せる結論だ!」
「でも、穴について面白い説を説いてる人がいるんですよ。」
「どんな?」
「穴は全ての根元である!」
「根元?」
「穴により宇宙が始まり、地球が誕生し、人類が作られた。そして、おそらく穴により宇宙は終わる。」
「そんなまさか!?だって単なる穴ですよ?宇宙が始まり宇宙が終わるって!有り得ないですよ!」
「でもどうです?仮にもし、穴がなければ?呼吸も出来ないし、排泄も出来ない。そしてなぜ我々人類は、そもそも穴に頼った日常生活を送るんです?それは遺伝子レベルで穴の存在が組み込まれているからなんですよ。ほら、世の中の穴が全て塞がってしまったと考えてもみて下さい?この世は終わりです。我々人類、いや全ての生物は穴の恩恵を受けていると同時に、穴に支配されていると言っても過言ではない。」
「いやだなぁ穴屋さん!そんな真剣な顔しちゃって!お、大袈裟だなぁ!」
「大袈裟なんかじゃないです。人間は皆!穴から生まれて来るではありませんかーっ!」
「大きな声で穴に向かって下ネタかよ!って、待って下さい?その説を説いたって人って?」
「勿論!」
「アンタかよっ!」
「面白かったでしょ?」
「面白かないですよ!ちょっと信じちゃったじゃないですか!」
「チップちょ~だい!」
「いやもう、絶対ふざけてますよね?」
「ちょっとね!」
「ふざけちゃってんじゃん!早く穴を塞いで下さい!」
「いや、御依頼人が質問して来るからさぁ。僕は、それにサービスのつもりで面白おかしく答えただけなのになぁ。」
「確かに質問したましたけど、分からないなら分からないって言ってくれればいいじゃないですか。サービスいらないですよ。」
「イッサー!!!」
「だから元気過ぎっ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「チラチラ見たって、もう何も質問しませんよ?」
「チエッ!」
「正々堂々と悔しがりましたね。なんなら席外そうかって考えてたんですけどね。」
「それだけは止めて!」
「な、何ですか!?」
「何処にも行かないで!」
「なぜ?抱き付きますか?」
「だって1人になって、穴に吸い込まれそうにでもなってしまったら!誰が助けるんですか!」
「だったら、始めの電話の段階で!そのルールを警告すべきでしょ!」
「ああ!」
「ああ!じゃないですよ!終わるまでここにいますから、とにかくしっかり抱き付くの止めて下さい!」
「イッサー!!!」
「鼓膜がっ!」
「10秒で終わらすよ!」
「早っ!」
「何処の穴屋よりも早く!それが封印堂!」
「はいはい。って、何ですか?その特大サイズの注射器は!?」
「特大サイズの注射器ですよ。これぐらいの穴になると、特大サイズの注射器ぐらい使わないと吸い込みきれないぐらいんですよ。」
「吸い込む?」
「まあ、穴屋の数だけ穴の処理の方法はありますけどね?うちはやっぱりコレ!それが封印堂!」
「やっぱりって・・・。ま、まあ、お願いします。」
注射器の中へ吸い込まれた穴が、いったいその先どうなるのか?その質問を必死で飲み込んだ住人が見守る中、間も無くしてマンションの1室のリビングのど真ん中にあったその穴は、綺麗さっぱり無くなった。

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2011年5月25日 (水)

「第二百五十八話」

「ガタンゴトン!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン、と揺られている。電車に俺は、揺られている。でも電車に乗っているんだ、ガタンゴトンと揺られているのは、妥当だ。これが現実で、この揺るぎない現実の延長線上の現実には、これから俺が、友人の結婚式で友人代表としてスピーチで、いい事を言う今日が待ち構えている。
「ガコンガコン!」
と、鉄橋の上を走る車窓からの風景を見ながら、今大地震が来たら確実に死ぬな。でもまあ、こんな正装で死ねるなら、恥ずかしい姿で死ぬよりマシか。とか、考えている場合ではない!何としても友人代表のスピーチまでに、内容を考えなければならないんだ!いい事、言わねばならんのだい!
「ガタンゴトン!」
やれやれ、それにしても今更ながらのお足元の悪い中、友人代表のスピーチなんて、募金するより簡単だろうなんて、6つ返事で引き受けてしまったのが迂闊だったと気付くなんて、迂闊だったよ。てか、半年も前から考えていると言うのに、全くいい事が思い付かん!つか、アイツとは小学校以来の付き合いって考えれば、俺は30年近く、友人代表のスピーチでの、いい事を思い付いていないって事じゃないか!
「ガタンゴトン!」
ああ、帰りたい。次の駅で降りて、そのまま反対方面の電車に乗って帰りたい。帰ってゲームしたい。ゴロゴロしながらマンガ読みたい。録画しといたドラマ観たい。トイレ行きたい。
「ガタンゴトン!」
だが、俺は男の子だ!男の子が途中で何かを投げ出したら、それはもう!男の子なんかじゃない!
「プシュー!」
だが俺は、望んで男の子に生まれて来た訳じゃない!女の子でもよかった!ただ、元気に生まれて来たいってだけを考えて生まれて来ただけなんだ!こんな窮地に立たされるんであれば、女の子に生まれといたらよかったよ!
「どちらまで?」
「式場までお願いします。」
どうせなら、友人代表のスピーチも、このタクシーの運転手さんに、お願いしたいとこだが、果たしてこのタクシーの運転手さんが、いい事を言えるかどうか?タクシーには乗っても、そんな迂闊な賭けに乗る訳には行かん!
「結婚式ですか?」
「はい。」
「お友達の?」
「はい。」
「友人代表のスピーチとかなさるんですか?」
「えっ!?」
まさか、まさか思いもよらないタイミングで、こんな形でエスパーと出会うとは!?き、奇跡だ!奇跡の無駄遣いだ!
「そうです。」
「私もありますよ。緊張するんですよね。」
緊張します。緊張します。緊張しますとも!仮にもし、友人代表のスピーチで緊張しない友人がいるんだとしたら、そんな奴は友人でもなんでもない!単なる校長先生だ!
「ええ。」
「でもね。友人代表のスピーチなんですから、肩の力を抜いて、常識や形式に囚われずに、友人として精一杯、お祝いして上げればいいんですよ。ほら、友人でなければ掛けて上げれない言葉ってあるじゃないですか。」
し、師匠だ!?まさかこんな形で、人生の道しるべである貴方に出会えるとは!?師匠!!窮地に立たされた時、人は師匠に出会う!まさにその言葉通りじゃないか!見守っていてくれたんですね!いっつも俺をドコからか見守っていてくれたんですね!しかし、師よ。もっともっと窮地の時が、朝まで泣き明かした夜が、俺にはありましたよ?
「そう言うもんなんですかね?」
「きっと結婚される友人も、お客さんらしさを期待しているんじゃないでしょうか?」
「期待、ですか。」
よく聞くのが、震災に遭って家も家族も失った人々や心の病の人々などに対して、頑張れ、と言う言葉は禁句だと聞く。そして、その延長線上には、友人代表のスピーチをする人や弔辞を読む人に対して、期待、と言う言葉もまた、禁句って法則が存在する。それを踏まえて、なぜですか!なぜ、師匠は禁句を言うんですか!禁句を言うぐらいなら、何かいい事を言って下さいよ!
「頑張って下さいね!」
「・・・・・・・・・はい。」
師匠?今の俺は、少しだけ心が病んでます。頑張れ、それもまた禁句です。そして、目の前の式場が一段とでかく見えます。頑張れません師匠。ガクブルです師匠。なぜ、無情にも俺をタクシーから降ろし、1人にしたんですか。このままだと俺は、友人代表のスピーチで、違った意味で泣きそうです。今、大地震が来たら式は中止だな。とか、邪悪な考えが浮かんでは消えて浮かんでいます。本当にこんな俺が、友人代表のスピーチをしてもいいのでしょうか?と言うより以前に、スピーチの内容すら決まっていない俺が、この建物内に侵入してもいいのでしょうか?式の風紀を乱すのではないでしょうか?師匠!俺、とてもじゃないけど、頑張れません!期待に応えられません!いい事、言えません!
「・・・・・・・・・ん?」
頑張れない?頑張れないって俺、まだ何も頑張っていないじゃないか!
「・・・・・・・・・。」
そうか!そう言う事か!頑張れ、を頭の中で、文字で捉えてしまうからダメなんだ!全細胞で受け止めなければダメなんだ!頑張るって事に対して、そもそも限界を決めてしまうからダメなんだ!頑張るに限界は存在しない!そうだったんだよ!だって人は、無意識に生きる行為を頑張っているんだもの!
「・・・・・・・・・。」
いったい誰が、頑張れのメッセージに悪意を込めると言うんだ?頑張れが悪意なら、そうなったらもはや、おはようございます、や、ありがとうございます、すら交わせやしない!それを悪意と捉えてしまう行為こそが!そんな腐った脳ミソの持ち主こそが!悪意の塊じゃないか!頑張れってメッセージを頑張って振り絞って、支えてくれようとしているのに尚、頑張れってメッセージを悪意に感じてしまうのであればなう!
「人間やめちまえ!」
ですよね?そう言う事なんですよね?師匠!期待してるって言葉の裏にも似たような真相が隠されているんですよね?そうなんですよね?そう言う事なんですよね?ありがとうございます!師匠!
「で?お前は、いったい何を叫んで、何をお辞儀してんだ?」
「お、おう!」
こいつは、俺と同じく新郎の友人って立場で、式に出席する友人だ。
「友人代表のスピーチ、期待してるからな!頑張れよ!」
殺す!式のどさくさに紛れて、コイツを殺す!
「おう!」
だいたい、友人代表の称号も無い下等友人の分際で、お足元の悪い中、俺にタメ口とはな。まあ、それはそれで同学年って事で許してやったとしても、まだ友人代表のスピーチで話す、いい事が思い付かない俺を馬鹿にした事は許せん!友人って事で、殺すのは勘弁してやるが、式のどさくさに紛れて絶対、ドロップキックしてやるからな!
「行こうぜ!」
「お、おう!」
吠え面かくなよ!ゴミムシめ!
「あっ!ちょっと俺、トイレ行ってから行くよ。」
「緊張してんのか?」
「アハハハ。」
「じゃあ、先に行ってっから!」
「おう!」
あんにゃろう!下等友人のくせして上から目線で、憶測だけで、ニヤニヤしながら人を便所虫扱いしやがって!絶対!式のどさくさに紛れて、ブレーンバスターも喰らわしてやるからな!グズめ!
「ガチャ!」
大だ!大!緊張してんは確かだが!大したいのも事実なんだよ!緊張から来る尿意じゃなく!揺れから来る便意だ!いったい俺が、ここに来るまでに、どんだけの揺れで刺激されたと思ってんだ!
「ブリブリブリブリ!」
しかし、あの下等友人も、まさかのまさかで、まだ俺が友人代表のスピーチを1文字も思い付いてないとは、思い付いていまい!ブハハハハハハ!!ざまあみやがれ!人間モドキめ!
「ブリブリブリブリ!」
とか、強気でいられるのも、そろそろ限界だな。
「ブリブリブリブリ!」
どう時間的に逆算して見積もっても、俺が大を終えてトイレから出たら、すぐ式は始まる!この場で、いい事が浮かばなければ俺は、ガクブルの棒立ちの裏声で友人代表のスピーチを迎える事になってしまうぞ!そんなテロ行為はあってはならない!何がなんでも!
「ブリブリブリブリ!」
何がなんでも、ここで見付けなければ!いい事、見付けなければ!
「ブリブリブリブリ!」
見付けて、友人代表のスピーチで、言わねば!いい事を!
「ブリブリブリブリ!」
いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事!
「いーっ事ーっ!!!」
「ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリバフッ!」

第二百五十八話
「カブトガニの血は青いんです!」

「・・・・・・・・・あ、ありがとうございました。新郎の御友人による・・・・・・な、何とも感動的な素晴らしい・・・ス、スピーチでございました。続きまして・・・・・・・・・」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

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