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2011年5月25日 (水)

「第二百五十八話」

「ガタンゴトン!」
ガタンゴトン、ガタンゴトン、と揺られている。電車に俺は、揺られている。でも電車に乗っているんだ、ガタンゴトンと揺られているのは、妥当だ。これが現実で、この揺るぎない現実の延長線上の現実には、これから俺が、友人の結婚式で友人代表としてスピーチで、いい事を言う今日が待ち構えている。
「ガコンガコン!」
と、鉄橋の上を走る車窓からの風景を見ながら、今大地震が来たら確実に死ぬな。でもまあ、こんな正装で死ねるなら、恥ずかしい姿で死ぬよりマシか。とか、考えている場合ではない!何としても友人代表のスピーチまでに、内容を考えなければならないんだ!いい事、言わねばならんのだい!
「ガタンゴトン!」
やれやれ、それにしても今更ながらのお足元の悪い中、友人代表のスピーチなんて、募金するより簡単だろうなんて、6つ返事で引き受けてしまったのが迂闊だったと気付くなんて、迂闊だったよ。てか、半年も前から考えていると言うのに、全くいい事が思い付かん!つか、アイツとは小学校以来の付き合いって考えれば、俺は30年近く、友人代表のスピーチでの、いい事を思い付いていないって事じゃないか!
「ガタンゴトン!」
ああ、帰りたい。次の駅で降りて、そのまま反対方面の電車に乗って帰りたい。帰ってゲームしたい。ゴロゴロしながらマンガ読みたい。録画しといたドラマ観たい。トイレ行きたい。
「ガタンゴトン!」
だが、俺は男の子だ!男の子が途中で何かを投げ出したら、それはもう!男の子なんかじゃない!
「プシュー!」
だが俺は、望んで男の子に生まれて来た訳じゃない!女の子でもよかった!ただ、元気に生まれて来たいってだけを考えて生まれて来ただけなんだ!こんな窮地に立たされるんであれば、女の子に生まれといたらよかったよ!
「どちらまで?」
「式場までお願いします。」
どうせなら、友人代表のスピーチも、このタクシーの運転手さんに、お願いしたいとこだが、果たしてこのタクシーの運転手さんが、いい事を言えるかどうか?タクシーには乗っても、そんな迂闊な賭けに乗る訳には行かん!
「結婚式ですか?」
「はい。」
「お友達の?」
「はい。」
「友人代表のスピーチとかなさるんですか?」
「えっ!?」
まさか、まさか思いもよらないタイミングで、こんな形でエスパーと出会うとは!?き、奇跡だ!奇跡の無駄遣いだ!
「そうです。」
「私もありますよ。緊張するんですよね。」
緊張します。緊張します。緊張しますとも!仮にもし、友人代表のスピーチで緊張しない友人がいるんだとしたら、そんな奴は友人でもなんでもない!単なる校長先生だ!
「ええ。」
「でもね。友人代表のスピーチなんですから、肩の力を抜いて、常識や形式に囚われずに、友人として精一杯、お祝いして上げればいいんですよ。ほら、友人でなければ掛けて上げれない言葉ってあるじゃないですか。」
し、師匠だ!?まさかこんな形で、人生の道しるべである貴方に出会えるとは!?師匠!!窮地に立たされた時、人は師匠に出会う!まさにその言葉通りじゃないか!見守っていてくれたんですね!いっつも俺をドコからか見守っていてくれたんですね!しかし、師よ。もっともっと窮地の時が、朝まで泣き明かした夜が、俺にはありましたよ?
「そう言うもんなんですかね?」
「きっと結婚される友人も、お客さんらしさを期待しているんじゃないでしょうか?」
「期待、ですか。」
よく聞くのが、震災に遭って家も家族も失った人々や心の病の人々などに対して、頑張れ、と言う言葉は禁句だと聞く。そして、その延長線上には、友人代表のスピーチをする人や弔辞を読む人に対して、期待、と言う言葉もまた、禁句って法則が存在する。それを踏まえて、なぜですか!なぜ、師匠は禁句を言うんですか!禁句を言うぐらいなら、何かいい事を言って下さいよ!
「頑張って下さいね!」
「・・・・・・・・・はい。」
師匠?今の俺は、少しだけ心が病んでます。頑張れ、それもまた禁句です。そして、目の前の式場が一段とでかく見えます。頑張れません師匠。ガクブルです師匠。なぜ、無情にも俺をタクシーから降ろし、1人にしたんですか。このままだと俺は、友人代表のスピーチで、違った意味で泣きそうです。今、大地震が来たら式は中止だな。とか、邪悪な考えが浮かんでは消えて浮かんでいます。本当にこんな俺が、友人代表のスピーチをしてもいいのでしょうか?と言うより以前に、スピーチの内容すら決まっていない俺が、この建物内に侵入してもいいのでしょうか?式の風紀を乱すのではないでしょうか?師匠!俺、とてもじゃないけど、頑張れません!期待に応えられません!いい事、言えません!
「・・・・・・・・・ん?」
頑張れない?頑張れないって俺、まだ何も頑張っていないじゃないか!
「・・・・・・・・・。」
そうか!そう言う事か!頑張れ、を頭の中で、文字で捉えてしまうからダメなんだ!全細胞で受け止めなければダメなんだ!頑張るって事に対して、そもそも限界を決めてしまうからダメなんだ!頑張るに限界は存在しない!そうだったんだよ!だって人は、無意識に生きる行為を頑張っているんだもの!
「・・・・・・・・・。」
いったい誰が、頑張れのメッセージに悪意を込めると言うんだ?頑張れが悪意なら、そうなったらもはや、おはようございます、や、ありがとうございます、すら交わせやしない!それを悪意と捉えてしまう行為こそが!そんな腐った脳ミソの持ち主こそが!悪意の塊じゃないか!頑張れってメッセージを頑張って振り絞って、支えてくれようとしているのに尚、頑張れってメッセージを悪意に感じてしまうのであればなう!
「人間やめちまえ!」
ですよね?そう言う事なんですよね?師匠!期待してるって言葉の裏にも似たような真相が隠されているんですよね?そうなんですよね?そう言う事なんですよね?ありがとうございます!師匠!
「で?お前は、いったい何を叫んで、何をお辞儀してんだ?」
「お、おう!」
こいつは、俺と同じく新郎の友人って立場で、式に出席する友人だ。
「友人代表のスピーチ、期待してるからな!頑張れよ!」
殺す!式のどさくさに紛れて、コイツを殺す!
「おう!」
だいたい、友人代表の称号も無い下等友人の分際で、お足元の悪い中、俺にタメ口とはな。まあ、それはそれで同学年って事で許してやったとしても、まだ友人代表のスピーチで話す、いい事が思い付かない俺を馬鹿にした事は許せん!友人って事で、殺すのは勘弁してやるが、式のどさくさに紛れて絶対、ドロップキックしてやるからな!
「行こうぜ!」
「お、おう!」
吠え面かくなよ!ゴミムシめ!
「あっ!ちょっと俺、トイレ行ってから行くよ。」
「緊張してんのか?」
「アハハハ。」
「じゃあ、先に行ってっから!」
「おう!」
あんにゃろう!下等友人のくせして上から目線で、憶測だけで、ニヤニヤしながら人を便所虫扱いしやがって!絶対!式のどさくさに紛れて、ブレーンバスターも喰らわしてやるからな!グズめ!
「ガチャ!」
大だ!大!緊張してんは確かだが!大したいのも事実なんだよ!緊張から来る尿意じゃなく!揺れから来る便意だ!いったい俺が、ここに来るまでに、どんだけの揺れで刺激されたと思ってんだ!
「ブリブリブリブリ!」
しかし、あの下等友人も、まさかのまさかで、まだ俺が友人代表のスピーチを1文字も思い付いてないとは、思い付いていまい!ブハハハハハハ!!ざまあみやがれ!人間モドキめ!
「ブリブリブリブリ!」
とか、強気でいられるのも、そろそろ限界だな。
「ブリブリブリブリ!」
どう時間的に逆算して見積もっても、俺が大を終えてトイレから出たら、すぐ式は始まる!この場で、いい事が浮かばなければ俺は、ガクブルの棒立ちの裏声で友人代表のスピーチを迎える事になってしまうぞ!そんなテロ行為はあってはならない!何がなんでも!
「ブリブリブリブリ!」
何がなんでも、ここで見付けなければ!いい事、見付けなければ!
「ブリブリブリブリ!」
見付けて、友人代表のスピーチで、言わねば!いい事を!
「ブリブリブリブリ!」
いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事いい事!
「いーっ事ーっ!!!」
「ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリバフッ!」

第二百五十八話
「カブトガニの血は青いんです!」

「・・・・・・・・・あ、ありがとうございました。新郎の御友人による・・・・・・な、何とも感動的な素晴らしい・・・ス、スピーチでございました。続きまして・・・・・・・・・」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

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