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2011年5月18日 (水)

「第二百五十七話」

 マンションの1室のリビングの上下左右丁度ど真ん中に、直径30センチのその穴は開いていた。
「遅いなぁ。約束の時間を1時間も過ぎてるぞ?」
困り果てた様子で、住人の男は、真っ黒な穴と腕時計を交互に見ながら、ソファーに寝転がり、溜め息混じりの独り言を何度も呟いていた。
「ピーンポーン!」
「来たっ!」
と、その時、チャイムが鳴り、住人はソファーから飛び起き、玄関へと一目散に向かった。

第二百五十七話
「穴屋封印堂」

「いやぁ。なかなかどうして、立派な穴が開いたもんですね。」
「参りましたよ。朝起きたらコレですもん。まさかリビングに穴が出来るだなんて思いませんでしたよって、ちょっと穴屋さん?1時間も待ったんですけど?」
「申し訳ない!言い訳するつもりじゃないけど、前の歯磨き屋さんとこの穴に手こずってしまってね!本当に申し訳ない!」
「まあまあ、それなら仕方ないですけどね。」
「本当は、2度寝です!」
「おもいっきり!堂々と言い訳してるじゃないですか!と言うよりむしろ嘘付いてんじゃないですか!」
「アハハ!いやいや、しっかし見れば見るほど立派に開いちゃいましたね!」
「塞がります?」
「チッチッチッ!御依頼人?」
「御依頼って!」
「この道ウン10年の私に塞げない穴なんてありませんよ!それが封印堂!」
「何で職歴をうやむやにするのか深くは追求しませんけど、とにかく宜しくお願いしますよ。」
「イッサー!!!」
「元気過ぎっ!」
「始めに確認なんですが、この穴を発見した時に、覗いたり大きな声で、おーい!出てこーい!とか言ってないですよね?」
「覗きましたけど、声は掛けてません。」
「穴の中に何も投げ入れてませんよね?」
「はい。」
「分かりました。」
「あのう?」
「何か?」
「穴の中に向かって何か叫んだり、何か投げ入れたりしたら、何か起こるんですか?」
「まあ、ある日の突然に・・・って!ネタバレ、ネタバレ!」
「ネタバレってなんですか?」
「ネタがバレる事です!」
「いや、そっちを尋ねてるんじゃなくて!」
「まあ、私の勝手なオマージュですから。」
「オマージュって何ですか!オマージュって!」
「ごめんちゃ~い!」
「ふざけてます?」
「トンでもない!」
「なら、オマージュなんかしてないで、早いとこ塞いじゃって下さいよ!」
「イッサー!!!」
「元気過ぎだって!」
「さてと!」
「あっ、そうだ!あのう?」
「何ですか?」
「前々から気になってたんですけど、穴って、何が原因で出来ちゃうんですか?」
「穴虫!」
「穴虫?」
「穴虫ってのがいて、その穴虫が空間を喰って作られる。」
「何か、洋服みたいですね。へぇ、穴虫かぁ。」
「いや、私もね。洋服の穴を見た時に思い付いたんですよ!」
「はあ?」
「で、穴虫ってのは、いったいどんな姿形なんだろ?って考えてたんですけどね?寝ちゃいました!」
「今日じゃん!2度寝の原因ソレじゃん!良かったですよ!誰かに話す前に真相が聞けて!」
「正直に話しますとね?穴がなぜ、こうした空間に出来てしまうのかの答えに対して、明確な結論は出てないんです。」
「謎?ですか?」
「謎、ですよ。ただ?」
「ただ?」
「物凄く迷惑だなって結論は出てます!」
「ごもっとも!?ごもっともな結論ですよ!そしてそれは、学者以前に誰もが出せる結論だ!」
「でも、穴について面白い説を説いてる人がいるんですよ。」
「どんな?」
「穴は全ての根元である!」
「根元?」
「穴により宇宙が始まり、地球が誕生し、人類が作られた。そして、おそらく穴により宇宙は終わる。」
「そんなまさか!?だって単なる穴ですよ?宇宙が始まり宇宙が終わるって!有り得ないですよ!」
「でもどうです?仮にもし、穴がなければ?呼吸も出来ないし、排泄も出来ない。そしてなぜ我々人類は、そもそも穴に頼った日常生活を送るんです?それは遺伝子レベルで穴の存在が組み込まれているからなんですよ。ほら、世の中の穴が全て塞がってしまったと考えてもみて下さい?この世は終わりです。我々人類、いや全ての生物は穴の恩恵を受けていると同時に、穴に支配されていると言っても過言ではない。」
「いやだなぁ穴屋さん!そんな真剣な顔しちゃって!お、大袈裟だなぁ!」
「大袈裟なんかじゃないです。人間は皆!穴から生まれて来るではありませんかーっ!」
「大きな声で穴に向かって下ネタかよ!って、待って下さい?その説を説いたって人って?」
「勿論!」
「アンタかよっ!」
「面白かったでしょ?」
「面白かないですよ!ちょっと信じちゃったじゃないですか!」
「チップちょ~だい!」
「いやもう、絶対ふざけてますよね?」
「ちょっとね!」
「ふざけちゃってんじゃん!早く穴を塞いで下さい!」
「いや、御依頼人が質問して来るからさぁ。僕は、それにサービスのつもりで面白おかしく答えただけなのになぁ。」
「確かに質問したましたけど、分からないなら分からないって言ってくれればいいじゃないですか。サービスいらないですよ。」
「イッサー!!!」
「だから元気過ぎっ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「チラチラ見たって、もう何も質問しませんよ?」
「チエッ!」
「正々堂々と悔しがりましたね。なんなら席外そうかって考えてたんですけどね。」
「それだけは止めて!」
「な、何ですか!?」
「何処にも行かないで!」
「なぜ?抱き付きますか?」
「だって1人になって、穴に吸い込まれそうにでもなってしまったら!誰が助けるんですか!」
「だったら、始めの電話の段階で!そのルールを警告すべきでしょ!」
「ああ!」
「ああ!じゃないですよ!終わるまでここにいますから、とにかくしっかり抱き付くの止めて下さい!」
「イッサー!!!」
「鼓膜がっ!」
「10秒で終わらすよ!」
「早っ!」
「何処の穴屋よりも早く!それが封印堂!」
「はいはい。って、何ですか?その特大サイズの注射器は!?」
「特大サイズの注射器ですよ。これぐらいの穴になると、特大サイズの注射器ぐらい使わないと吸い込みきれないぐらいんですよ。」
「吸い込む?」
「まあ、穴屋の数だけ穴の処理の方法はありますけどね?うちはやっぱりコレ!それが封印堂!」
「やっぱりって・・・。ま、まあ、お願いします。」
注射器の中へ吸い込まれた穴が、いったいその先どうなるのか?その質問を必死で飲み込んだ住人が見守る中、間も無くしてマンションの1室のリビングのど真ん中にあったその穴は、綺麗さっぱり無くなった。

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