« 「第二百五十四話」 | トップページ | 「第二百五十六話」 »

2011年5月 4日 (水)

「第二百五十五話」

 住宅街の誰かん家、その地下室に
「弾切れだ。」
警察官と
「僕の方もです。」
ビジネスマンがいた。

第二百五十五話
「愛と英雄とゾンビと」

「で?逃げながら何て叫んでたんだ?」
「だから、僕は家に帰ります!と!」
「武器も無いのにか?」
「ええ。」
「外はゾンビだらけなのにか?」
「ええ。」
「お前も死ぬかもしれないし、ゾンビになるかもしれないのにか?」
「ええ!そうです!」
「アホか?」
「ええ、アホです。いつもの様に会社から帰って来たら、街中がゾンビだらけになってた。」
「定番だな。」
「ゾンビが僕の隣にいた女性を襲い。その襲われた女性もゾンビになった。」
「ド定番だ。」
「家には、愛する妻と娘と生まれたばかりの息子がいるんです!」
「その女ゾンビから助けてやったのは、俺だ。おっと、勘違いしないでくれよ?別に感謝してくれって、恩着せがまし事を言ってるんじゃない。俺は、警察官だ。命懸けで命を守る警察官だ。助けたのは、当然で自然な必然だ。何が言いたいのかって言うとだ。アレだ。見す見すアンタを死なせるような事は出来ないってこった。」
「助けてくれた事や銃を与えてくれた事は、心から感謝してます。だけど、分かって下さい!家族が心配なんだ!」
「んな事は分かってるさ。十分にな。」
「だったら、お願いだ!行かせてくれ!頼む!」
「今、この街で何が起こってるかなんて、誰も分からねぇ。専門家、まあゾンビの専門家が居るのか知らないが、とにかく専門家の意見は当てにならねぇ。政府や自治体なんてのは、更に当てにならねぇ。それ以前に街じゃあ、何もかもが機能してねぇ。」
「何が言いたいんです?」
「何で街がこんなんなったのか?どうすりゃゾンビんなっちまった人間が元に戻るのか?それとも戻らないのか?ゾンビが何で、どう感染するのか?疑問は山積みだ。だがなぁ?アレだ。そんな疑問満載ん中でも高い確率で言えんのは、アンタの家族の生存確率が無情に低いってこった。」
「それでも!それでも家族の安否を知りたいのが現実ってもんだ!」
「ダメだ。」
「なっ!?」
「そう言う現実の方が間違ってんだ。」
「貴方には家族がいないのか!愛する者がいないのか!」
「ああ、いない。」
「えっ!?」
「何も驚く事はないだろ?俺は、命懸けで命を守る警察官だ。平等に命を守るって事は、特定を作っちゃならないってこった。仮にもしも、俺に愛する者がいたとして、それがアンタに襲い掛かったあの女ゾンビだとしたら、俺は絶対に発砲を躊躇った。確実に救える命が目の前にあるのにだ。なのに俺は、躊躇わず発砲を躊躇った。誰もが想定外と言う事態を想定しながら俺は、命懸けで命を守る警察官って道を選んだ。アンタを家に向かわせる事は、確実に危険で、無駄死にするだけだ。もちろんそれは、2人で向かったとしてもその確率に何ら変化はない。」
「立派ですね。」
「それは、アレか?皮肉か?」
「皮肉なんかじゃなく、本気で尊敬出来るぐらい心からそう思ってます。貴方の様な志の警察官がいる街に住んでる事を僕は、誇りに思う。貴方は、この街の英雄だ。」
「そうか。それは何よりもの言葉だ。」
「だけど、その考えは悲しすぎる。とても・・・・・・孤独だ。」
「命懸けで命を守るってのは、悲しくて孤独なもんだ。」
「愛って言うのは、理屈じゃない。低い生存率を信じて、命懸けで奔走するんです。愛する者の為なら自分が犠牲になったって構わない!たぶんきっと、そんなもんです!」
「クソだな。」
「僕がしようとしてる事をどんな風に貴方に言われようが、僕の気持ちをどんなに踏みにじられようが、僕は決して貴方に怒りを感じたりはしない。それは僕が、ゾンビから助けてもらった時から、そしてこれから先も、貴方を尊敬し感謝し続けるからです。なぜなら、ここに辿り着くまでに貴方は、その志し通り僕を命懸けで守ってくれたからです。ゾンビからも倒れてきた廃材からも自分の身を省みず犠牲にして、助けてくれたからです!」
「当たり前の事をしただけだ。誉められた事じゃない。」
「そんな貴方からしてみれば、本当に物凄く小さな事かもしれない!理解出来ないミクロの世界かもしれない!命懸けで命を守りたいと言う貴方からしてみれば、卑怯者で自分勝手な行動かもしれない!だけど僕は!愛する家族の元へ行きたいんだ!せめて自分の愛する家族だけでも、と!神に祈ってしまうんだ!奇跡を信じてしまうんだ!みんな貴方の様に強くはないんです!」
「ああ、アレだな。本当に愛は下らねぇ。下らな過ぎだな。みっともなくて意地汚い、どこまでも自己中心的だ。何て矛盾した、どこまでも果てしなく邪魔な感情ってこった。」
「ええ、その通りです。」
「危険と感じたらいいな?アンタの志しとは関係無く引き返す!」
「えっ?」
「愛にひた走るアンタみたいなカッコ悪い人間がいるからこそ、アレだ。俺がカッコ良くいれるってこった。それに、そんなクソバカは止めたって止め様もないってのは、理解してる。」
「無駄死にするかもしれないんですよ?」
「これは、あくまで確率が低い想定の話だがな。アンタの愛する家族が、愛する英雄の到着を涙を堪えながら、恐怖に怯えながら、必死に信じて待ってるとしたらだ。」
「・・・・・・・・・。」
「そこへ俺が、このちっぽけな世界の英雄を命懸けで連れて行かないって理由は、無いだろ?」
「ありがとう・・・・・・本当にありがとう・・・・・・・・・。」
「その言葉をアンタの愛する下らない家族からも聞きたいもんだ。」
「・・・・・・・・・ありがとう。」
「だが、これだけは言っとくぞ?もし、アンタの愛する家族がゾンビになってたら、俺は躊躇わずに殺すからな。」
「ええ、でもその時は僕も一緒お願いします。」
「ダメだ。」
「なぜですか!」
「命懸けで命を守るのが俺の仕事だ。」
「でも!愛する家族がいくらゾンビになってたからと言って、それを殺そうとする貴方を僕は殺してしまうかもしれません!」
「構わん!」
「えっ!?」
「そん時は、躊躇わず殺れ!」
「そ、そんな!?」
「愛する者達と共に逝くのか、愛する者達を心に宿して生きるのか、愛する者達を命懸けで守るのか、それを決めるのは、アンタ自身だ。それがアンタの選んだ道だろ?」
「ええ、ええそうです。」
「最終確認だ。いいか?全てがハッピーエンドとは限らねぇ!それでも愛する家族の元へ行くんだな?」
「はい!」
「さてと、なら先ずは何か武器になりそうなもんを探さないとな。」
「ん?奥に部屋が!」
「こ、これは!」
その後、地下室の奥の部屋から銃器コレクターだった誰かん家の主のコレクションを手にし、警察官とビジネスマンは、目的地へと向かった。街中をさ迷う大量のゾンビと必死に戦いながら、普段なら数十分の距離を数時間掛け、無事目的地へと辿り着いた。そこで警察官は、襲い掛かるビジネスマンの愛する家族を撃ち殺し、それを止めようとするビジネスマンに撃ち殺された。そして、ビジネスマンもまた自分の頭を撃ち抜き自殺した。それから更に数時間後、ナパーム弾投下により、大量のゾンビが徘徊する街は、地図上からその姿を完全に消し、そして更にその78年後にまた、街は完全な姿を取り戻す事となる。

|

« 「第二百五十四話」 | トップページ | 「第二百五十六話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/39595527

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百五十五話」:

« 「第二百五十四話」 | トップページ | 「第二百五十六話」 »