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2011年6月

2011年6月 1日 (水)

「第二百五十九話」

「死ぬ!?」
「そう!そのオジサンを見た人は、24時間後に必ず死ぬんだってよ!」
洒落たオープンカフェに呼び出して、めでたい話かと思ったら、いつも以上に、世にも奇天烈な話を語り出した友人。そんなんだからこの前の合コンだって、女の子全員途中で帰っちゃうどんでん返しを巻き起こすんだよ。何が見たら24時間後に必ず死ぬオジサンだよ。
「で?そのオジサンは、何なんだ?」
「おおっ!?食い付いたな!」
どうせ俺が聞かなくても話すくせしやがって、だいたいこれを食い付いたって言うなら、コンビニで店員に肉まん下さいって言う事すら、食い付いた事になる。
「殺人鬼なのか?そのオジサンってのは?」
「いやいや、オジサンは、ただ単にジーっとこっちを見てるだけだよ。」
「何だそれ?何でそんなんで24時間後に死ぬんだ?」
「だから!恐いんじゃないか!だからだよ!」
何がいったいそんなに、だから、なのかが理解不能だ。俺にしてみりゃ、この手の話を簡単に信じるコイツの方がよっぽど恐い。
「ガキの都市伝説的な話だろ?下らない。ディテールが甘いんだよ。その手の話はさぁ。何もかもが不明。知りたい情報は、一切分からない。都合のいい、どうとでも解釈出来る、単なる奇天烈な話にすぎないんだよ。」
「言うねぇ!言う言うとは聞いてたけど、ここまでズバッと言えるとは!」
「なら聞くけんども?そのオジサンは、鏡に映った自分の姿を1度も見た事ないのか?オジサンになるまで、自分がどんな容姿なのか分からずに成長したってのか?」
「お前さぁ。オジサンはオジサンだよ。オジサンに幼少期もなけりゃ、これから歳を重ねる事もないんだよ。」
「妖怪か?」
「まあ、妖怪みたいなもんかな。」
「だいたいさぁ。1番の不明点は、そのオジサンの目的は何なんだよ。何で人を死なせなきゃならないんだよ。」
「そこはほら、そうでなきゃ面白くないじゃん!」
「はあああ??」
やれやれ、面白いかつまらないかで殺されてたんじゃ、たまったもんじゃない。
「どう?どうどう?」
「どう?って、見たら24時間後に必ず死ぬオジサンねぇ。」
「で!」
「ん?」
「実は俺な!見ちゃったんだよ!オジサン!」
「じゃあ、死ぬんだ。」
「死ぬ!」
これから死ぬ人間が、こんなに楽しそうに笑うかっつぅの。
「それで?お前は、何でそのオジサンが、見たら24時間後に必ず死ぬオジサンだって分かったんだ?」
「何かさぁ!俺の事をジーっと見てたんだよ!でな!ビビっと来たんだよ!来ちゃった訳だよ!」
「あのなぁ?」
そんなんで死んでんなら、俺は今まで一体何回死んでんだ?
「間も無くです!」
「はあ?何が?」
「だから、俺がオジサンを見てから24時間が経つんだよ!あと1分で俺は死ぬ!」
「御愁傷様です。」
「香典弾めよ!」
「何でだよ!逆に下らない理由で死んだ友人の葬儀に顔出してやった料をくれよ!」
「言うねぇ!言う言うとは聞いて………。」
「ああ、下らない。そう言う死んだフリとか、しょうもないからやめてくんないかなぁ?」
「・・・・・・・・・バレた!」
「早っ!どうせやるなら、あと何回か声掛けたら生き返れよな!」
「・・・・・・・・・。」
「なあ?」
「・・・・・・・・・。」
「いや、もう1回死んでるからさ。」
「・・・・・・・・・。」
「下らなすぎだっつぅの。」
「・・・・・・・・・。」
「満面の笑みで死んだフリするヤツがいるかよ!」
「・・・・・・・・・。」
「お、おい?おいってば!」
「・・・・・・・・・。」
「う、嘘だろ!?」
「・・・・・・・・・。」
そして、友人は死んだ。見たら24時間後に必ず死ぬオジサンに出会って丁度、24時間後に満面の笑みで・・・・・・。

第二百五十九話
「見たら24時間後に必ず死ぬオジサン」

「はあ。」
「おう!大変だったなぁ!目の前でだろ?」
「ああ。」
「まさかアイツが死ぬとはなぁ。何か、嘘みたいだな。」
「本当だよ。」
友人の葬儀の席で、2年振りに出会ったその友人の目は赤く、そして腫れていた。
「そうそう。俺、昨日変なオジサンに会っちゃったんだよな。」
「変な・・・オジサン?」
「そう。駅のホームでさぁ。ただただ、ジーっとこっちを見てるだけなんだけどな。何か気持ち悪くてさ。」
「えっ!?」
「あんまり見てくるから俺さぁ。そのオジサンに近付いて行って、注意してやったんだよ。」
「で?そのオジサンは、何か言ったのか?」
「やけに食い付くなぁ。そんな面白い話でもないぞ?」
「いいから!オジサンは、どうしたんだよ!」
「バカ、大声出すなって。」
「わ、悪い。」
「お前、大丈夫か?何か顔色悪いぞ?相当、疲れてるんじゃないのか?」
「俺の事はいいから、それで?オジサンは?オジサンは、どうしたんだよ。」
「ああ、オジサン?何も言わずに、俺を見ながら去って行ったよ。なっ?面白くも何ともないだろ?ただただ気味が悪かったってだけの話だよ。」
「そうか。・・・・・・ん?」
「どした?」
「いつ見たんだよ!そのオジサン!お前は、何時に見たんだよ!なあ!」
「お、おい。」
「なあ!教えろよ!オジサンを何時何分に見たんだよ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ。どうしたんだよ。」
「いいから言えよ!オジサンを何・・・あ・・・れ・・・・・・。」
「お、おい!しっかりしろ!大丈夫か!おい!どうしたんだ!誰か!誰か救急車っ!」
次に目覚めた時には、病院のベッドの上だった。どうやら俺は、葬儀の最中にぶっ倒れてしまったみたいだ。
「びっくりだよ。急に大声出したかと思ったら倒れちゃうんだもん。みんな心配してたよ?」
「・・・・・・悪い。何か急に目の前が白くなっちゃってさ。」
「いっつも2人で授業中に騒いでたもんね。その大親友が目の前ででしょ?アタシでもショックで倒れちゃうかもだよ。」
「いや、ショックでと言うか・・・・・・・・・なあ?」
「ん?」
「アイツは?アイツ、どうした?」
「・・・・・・・・・。」
「おい!何で黙ってんだよ!」
「・・・・・・・・・。」
「なあ!アイツはどうしたんだよ!」
「・・・・・・・・・あのね?」
「・・・・・・・・・。」
「実は・・・・・・・・・。」
「死んだのか!」
「どうして分かったの!?」
「本当だったんだ。」
「今は、出来るだけショックを与えないようにって、体力が回復したらって、先生にも止められてたんだけどね。やっぱりあれかなぁ?友達って、そう言うの分かっちゃうのかな?」
「・・・・・・違う。」
「えっ?」
「そんなんじゃねぇ!」
「ど、どうしたの急に?ねぇ?変だよ?本当に大丈夫?」
「オジサンだ。」
「オジサン?」
「オジサンなんだよ。カフェでアイツ言ってたんだよ!オジサンを見たって!そのオジサンを見たら24時間後に必ず死ぬって!で、葬儀の時、アイツもオジサンを見たって言ったんだよ!だから死んだんだよ!見たら24時間後に必ず死ぬオジサンを見たからなんだよ!」
「・・・・・・・・・ぷっ!」
「何が可笑しいんだよ!」
「ごめんごめん!だってぇ!オジサン見たら死ぬなら、だったらアタシ、今まで一体何回死んでるの?」
「違うんだ!そうじゃないんだよ!そのオジサンは!普通のオジサンじゃないんだって!」
「普通じゃない?じゃあ、何かしてくるの?」
「いや、その逆だ!オジサンは何もしない!ただ単にジーっとこっちを見てるだけなんだ!」
「ふ~ん。」
「なあ?俺は、真面目に言ってんだぞ!友人2人を亡くしたから頭が変になったんでもない!」
「分かってるよ。」
「2人ともそのオジサンを見て24時間後に死んでんだぞ!」
「じゃあ、あれだ。アタシも間も無く死ぬんだ。」
「えっ!?」
「昨日ね。病室に行く途中にね。見たよ。そのオジサン!」
「み、見た?」
「うん!ただ単にジーっとこっちを見て来るオジサン。な~んか気持ち悪かったなぁ。たぶん変態だね。うん。だってぇ!そんな顔してたもん!」
「間も無くって?」
「えっ?」
「間も無く死ぬって、何時何分だよ!」
「えーと?あっ!あと5秒で、24時間にな・・・・・・・・・。」
「お、おい?おい!おーいっ!!」
身近な人間が短期間で立て続けに3人も死んだ事で、警察は俺を疑い出した。俺は、何度も何度もオジサンの話をしたが、警察は毎度毎度、話を信じちゃくれなかった。信じてくれないどころか、友人同士にはありがちな些細ないざこざやケンカを理由に、気付くと俺は、いつの間にか連続殺人犯に仕立て上げられてた。
「1104番!出ろ!」
何がどうなってこうなったのか?何で友人を不条理に3人も失った俺が、間も無く刑を執行されようとしてるのか?
「1104番。何か最後に言い残す言葉は?」
「・・・で・・・・・・け・・・つう?」
「ん?何?」
「・・・・・・何で、俺だけ普通?」
「何だと?」
「なあ!オジサンどこだよ!どこにいるんだよ!」
「1104番!」
「オジサンは?」
「どうしたんだ!1104番!」
「俺、見てねぇよ!」
「おい!」
「見てないんだよ!なあ!なあってば!」
「静かにしろ!」
「オジサン、関係無いじゃん!」
「執行っ!」

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2011年6月 8日 (水)

「第二百六十話」

「ピーンポーン!」
「やばっ!?」
僕は所謂、物書きだ。毎週毎週、短編小説を書いている物書きだ。物書きなら、誰だって出来る事を、さも誰も真似出来ないような感じで、クオリティーのバランスで、何とか誤魔化し、そして誤魔化し書いている端くれ物書きだ。でたぶん、おそらくきっと、こんな辺鄙な場所にある変わり者の家のドアのチャイムを鳴らしたのは、今週分の原稿を取りに来た出版社の人間に違いない。だから僕は、ゆっくりと歩きながら、どうやって〆切を延ばそうかと、言い訳を考えていた。
「よし!」
ドアの前に立ち、深く呼吸を1回、今回はスタンダードに仮病にしよう!と、固く決意をし、ドアノブに手を伸ばした。
「ガチャ!」
僕がドアを開けると同時に、全身を電気が駆け巡り、意識が遠退いた。

第二百六十話
「ストーリーテラー」

「先生?先生?起きて下さい。先生?」
とても優しく、まろやかで甘い香り漂う若い女性の声で目が覚めた。ここは天国か?と疑ってしまうような。そんな錯覚に陥ってしまうような。目の前の女性は、女神のような。でたぶん、おそらくきっと、僕が椅子に縛り付けられていなくて、地下室の様な場所に居なければここは、天国で、目の前の若い女性は、女神だ。
「おはようございます。先生。」
「お、おはようございます。」
「さて、先生?事は急ぎます。」
「それがちょっと今日は、何だかんだお腹の調子が悪くて・・・・・・・・・。」
間違いなく今は、スタンダードな言い訳をしている場合じゃないけど、今の僕にはスタンダードな言い訳をする事以外、何も出来なかった。
「私が殺しますか?先生が自殺しますか?」
これが究極の2択だとしたら、あまりにも究極すぎる。と言うか僕は、結果的に死ぬって事で、事実上の1択じゃないか!
「ちょちょちょちょっとだけ落ち着こうか。」
「それは、先生の方では?」
「まままままあね。」
とりあえずいきなりこんな状況下で落ち着き払える人間を見てみたいもんだ。
「先生?」
「はい?」
「殺されます?」
「それはちょっとぉ?」
「自殺されます?」
「それもちょっとぉ?」
ピースメーカを向けながら、毒物混入容器を片手に微笑む女神が居たかなぁ?って、ちょっとだけ頭の中を検索してみたけど、ヒットするはずもなかった。
「先生?我が儘もいい加減にして下さい?」
「我が儘って、ちょっと待ちなさいって!状況が状況なんだって!軽くでもいいから説明してもらわないとって!」
「ふ~ん。それもそっか。」
「そうだよ。」
「それで?先生は、何を知りたいのでしょう?」
「まず、君が何者で、目的が何で、どうして僕がこんな事になっちゃってんの!」
「私は、登場人物です。目的は先生の処刑です。先生がこんな事になっちゃってんのは、先生が凶悪な殺人鬼だからです。」
「うん。ごめん。全く意味が分かんないや。そりゃもう全くねっ!」
これはアレだぞ?この展開は、アレに等しいぞ?僕の熱狂的なファンか、僕の作品が酷く気に入らないかのどっちかだぞ?で、まず僕に熱狂的なファンが存在するはずがないから、前者は消えた。そして、僕の作品を酷く気に入らない程の読者もまた存在しないから、後者も消えた。それに何だ?僕を処刑?凶悪な殺人鬼?僕は、凶悪でもなければ殺人鬼でもない。処刑されなきゃならない事だってしていない。
「えっ?誰?」
「先生?質問には、お答えしましたよ?さあ、どちらにします?」
「全然意味不明だよ!君、もしかして僕を誰かと勘違いしてない?してるでしょ!してると思ってたんだよなぁ!」
「いいえ。先生を勘違いするはずがありません。」
「だったら何で僕を凶悪な殺人鬼だなんて言うんだ?」
「だって先生?物語の中でたくさんの登場人物を殺しているじゃありませんか。」
「えっ?」
「理不尽に、不条理に、何よりもいとも簡単に、殺していますよね。」
「どう言う事だ?」
「凶悪な殺人鬼以外、先生を何と表現したら宜しいのですか?」
「それはあくまで、物語上の事で、現実じゃないだろ?」
「私達にしたら、現実ですよ?」
「私達?」
「言いましたよね。私は、登場人物だ、と。」
「バカな!?有り得ない!分かったぞ!夢だな?これは夢なんだな!」
「夢オチだなんて先生?お粗末にも程ってものがあるんじゃありません?」
「あっ!分かったぞ!僕は病気なのか!そうか僕は病気なんだ!」
「病気?まあ、病気と言えば病気なのかもしれませんね?」
「いやっぱり!精神的に参っちゃったんだな?短編小説を書きすぎて!だから、こんな有りもしない幻覚を見ているんだな?」
「いいえ。先生?これは紛れも無く現実です。先生の病気は、平気で物語の登場人物を殺せてしまう事です。」
「何を言ってるんだ!こんなのが現実な訳ないじ」
「バン!」
「ほら、足から血が出ているじゃありませんか?」
「いっ!?」
「それに痛みも。先生?これは現実ですよ?分かってもらえましたか?」
「わ、分かった!分かったから、なっ?もう、こんな事やめるんだ!絶対にやめるべきだ!」
「なぜ?」
「なぜって、人を殺してただで済む訳がないじゃないか!人を殺す事がいい訳ないじゃないか!」
「ふふっ。先生の口からそんな言葉が聞けるなんて、想像もしていませんでした。」
「どう言う意味だ。」
「テメェは登場人物殺しといて!今更命乞いしてんじゃねぇよ!」
「!?」
「と、言う事です。先生?」
「な、なあ?どうすればいいんだ?僕は、いったいどうすればいい!」
「ですから、何度も説明しているじゃありませんか。殺されます?自殺されます?と。」
「死ねばいいのか?僕の死が望みなのか?」
「何ともまあ、お気楽で安直な、そして自分勝手なおつむなんですね?」
「何だって?」
「死ねばいい?僕の死が望み?傲慢で醜いですよ?先生?だって、世の中ってのは!そう言うルールだろうが!いかにも自分が被害者って面してんじゃねぇよ!クソ殺人鬼がよぉっ!さっさとコイツで処刑してやってもいいとこを!わざわざ自殺選ばしてやってるだけ感謝しろよ!グズがっ!」
「・・・・・・何てこった。紛れも無い現実。僕が入ったのか?君が出て来たのか?」
「先生?」
「とにかく明確な事は、君が今回の話のストーリーテラーだって事か。」
「さあ、もう見苦しいのは終わりにして、潔く選択して下さい?私に殺されるのか?自分で死ぬのか?」
「君は、間違っている。」
「はい?」
「選択肢は、必要無かったんだよ。有無を言わさず僕を撃ち殺せば良かったんだ。」
「では、そちらにしますね。」
「でもそれは、出来なかった。ストーリーテラーだからね。事細かな説明がある程度は、必要だったんだよ。せめて、僕が事情を飲み込むぐらいの軽いヤツはね。」
「先生?さようなら。」
「ああ、さよならだ。」
「では!」
「君は、自らの頭を撃ち抜いて死ぬ!」
「えっ?」
「君は、もっと根本的に作者と登場人物の大きな違いを理解しとくべきだった。」
「そんなバカな!?」
「作者が登場人物を殺せても、登場人物は作者を殺せない!いろいろと貴重な体験をありがとう。勉強になったよ。」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「さようなら。」
「バン!」
そして僕はまた、理不尽に不条理に、何よりもいとも簡単に、登場人物を1人殺してしまった。

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2011年6月15日 (水)

「第二百六十一話」

 何が本当に最悪なのか?そこを突き詰めれば突き詰めるほど、辿り着く場所は、最悪だ。そして、最悪が起こる前には必ず人間の欲望と願望を少しだけくすぐる最悪の希望がある。

第二百六十一話
「最悪」

最悪の最悪は、結局のとこ最悪で、最悪の何物でもないってとこがまた、最悪の最悪たる最悪なポイントだ。つまり僕が何を言いたいのかって言うと、最悪は最悪であり、それ以上でもそれ以下でもないって事だ。最悪を感じた瞬間、既に人は最悪であって、そのベクトルは揺るがないし、キャパシティが増える事はない。最悪の中で、もがいてもがいて別の最悪を探したって、それはあくまで別の最悪のケースであり、自分が現在体験している最悪とは、比較する事は出来ない。最悪は、横に並べる事は出来るが、縦に積む事は出来ない。それが最悪ってヤツで、つまり最悪って事だ。それはいったいどう言う意味か?第三者からしてみれば、寝坊の最悪と死ぬ最悪は、比較出来るが、当人は比較出来ないのが最悪の真骨頂。なぜなら、その人にとっての最悪が巻き起こっているからで、比較しようにもどうしても比較しようもないのが現状だ。絶対寝坊したくない人にとっての寝坊は、現状での一番の最悪であり、絶対死にたくない人にとっての死は、現状での一番の最悪であるからだ。
「五分後に死ぬ。」
男は、床に横たわる僕を見下げながらそう言うと、冷ややかに笑った。僕は、男に五分後に死ぬ毒を飲まされた。しかしそれは、僕にとって何ら最悪でもない。むしろ無に等しい。それはなぜか?なぜなら僕は、五分後に死ぬ毒を飲む以前から既に、最悪に侵されているからだ。これは更に何を意味するか?そう、最悪が最悪で上塗り出来る話は、嘘だって事だ。最悪が続く事はある。しかし、最悪中に最悪に侵される事はまずない。仮にもし最悪中に最悪を感じたのであればそれは、一つの最悪が終わりまた新たな最悪が始まっただけの話にすぎない。そう、僕にとっての五分後に死ぬ毒は、最悪の中の単なる出来事に過ぎない。
「せいぜいもがき苦しんで死ぬんだな。」
捨て台詞を吐き捨てて、男は部屋を出て行った。人が死んだ後にも毒で苦しむのならきっと、男の願望も叶うだろう。しかし僕にとっては、三分後に死ぬ毒を二分前に飲んだ事も最悪の中の単なる出来事でしかない。その三時間前に僕が彼女をこの手で殺害した事も、特に最悪でも何でもない。その数分前に罵倒された事も、コーヒーで口の中を火傷した事も、大事なフィギュアを壊された事も、お気に入りのTシャツにコーヒーをこぼした事も、自動販売機のお釣りが出て来なかった事も、コーヒーすらも出て来なかった事も、他人のミスで上司に怒られた事も、家のコーヒー豆がきれていた事も、銃を乱射した事も、今朝目が覚めた事も、それらは大きな最悪の中にいる僕にとっては、その中で巻き起こる何一つとして、最悪ではない出来事の数々だった。
「あと10秒だ!10秒の我慢だ!」
最悪の終わりがまた新たな最悪の始まりなら僕は、この最悪を終わらせてまた新たな最悪に侵されたい。
「・・・・・・・・・リターン・ザ・ワールド!」
僕のエンドレスな最悪は、僕が時間を戻せるこの力を手に入れた日から、始まっているからだ。
「おはよ。」
いつものように彼女は僕を優しい笑顔とキッスで起こしてくれた。
「おはよ。」
今度は、殺さないようにしないと・・・・・・・・・。

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2011年6月22日 (水)

「第二百六十二話」

「間に合った、か。」
急な便意に襲われ私は、公園の公衆便所に駆け込み、3つ並んでいる個室の真ん中に入り、便座に腰を据え、物理的には短き、だが体感時間に置き換えれば長きあの道のりを思い返していた。何度も何度も挫けそうになった。何度も何度もここで終わるのではないのか?と歩みを止めては、空を見上げ涙を堪え、波が過ぎ去るのをただひたすらに待った。そんな馬鹿な!?と、これは嘘だ!?の騙し騙しの連続の繰り返しの中、これで私の人生も、ここで終わりだなと予感させた大きな波がやって来た。だがしかし、しかし私は、勝った。他人から見ればそれは、あまりにも無造作に、とことん無作為に歩いているかのように見えたかもしれない。だがそれは、大いなる間違いだ。私は、己の勘と長年の経験を頼りに、一番近いトイレへの最短ルートを選び、一歩一歩、歩みを進めていたのだ。ただひたすらにトイレで微笑む自分の未来像を想像しながら、信じて歩き続けていたのだ。そして、見付けた。特に偶然でもなければ、単に奇跡でもない。だから、もう一度言わせてもらおう。私は、勝った。今となっては、あの時あの苦しみが、まるで嘘だったかのような安堵感と幸福感に包まれ、私は微笑んでいた。そう、その時が来るまでは・・・・・・・・・。

第二百六十二話
「男の世界」

「コンコン!」
「入ってます。」
「コンコン!」
「入ってます。」
「知ってるよ。」
「えっ?」
それが、ドアを叩く音ではなく、左側の壁を叩く音だと気付くのには、そう時間の掛からない事だった。しかし、確か3つとも空いていたはずなのに、いったいいつの間に男は左の個室へと入って来たのだ?あまりの安堵感と幸福感で、単に私が気付かなかっただけか?しかしそれにしてもなぜ?壁を叩く必要が?だがその答えもまた、時間の掛からない事だった。
「もしかして、紙が無いのか?」
「いいや、紙はたんまりあるな。」
「ならば、何か他のトラブルか?」
「アンタ、気付いてないのな。」
「何の事だ?」
「いやな、俺もな。迷ったんだよ。初対面にも満たない間柄で、いきなりこんな事を言うのもどうだろうって、な。でもな?言わないのもどうだろうって、な。」
「いったい何が言いたいのだ?」
「アンタ、死ぬよ。」
「死ぬ?何を根拠に?君はアレか?人の死が分かると言うのか?それともそうやって、如何わしい物を人に売り付けようとでもしているのか?」
「いや、そんなんじゃないな。そんなんじゃないんだよ。」
「なら、単に君は人を馬鹿にしているだけと言う事か?」
「いやいや、馬鹿にするどころか、俺はアンタを尊敬してるんだよ。」
「初対面にも満たない男を尊敬しているだと?」
「まあな。だから、言おうか躊躇ったんだよ。」
「だから、いったい何を言いたいのだね?これ以上、君の与太話に付き合ってられないから、さっさと言ってくれないか?」
「だから、言ったじゃないか。アンタ、死ぬよってな。」
「理解出来んよ。全く理解出来ん。人を尊敬していると言ったかと思えば、その尊敬している人間に向かって根拠の無い死の宣告をしたりと、君は私を怒らせたいだけなのか?」
「違うな。怒らせたいんじゃなくて、気付かせたいんだよ。」
「何をだね!」
「胸、見てみな。」
「胸?私の胸がいったいどうし!?」
何だこれは!?ナイフが突き刺さっているではないか!?なぜだ?なぜ私の胸にナイフが?どう言う事だ!?
「なっ?アンタ、死ぬよ、だろ?」
「ああ、死ぬよ、だな。」
「やっぱり、言わなかった方が良かったかな。」
「いいや、遅かれ早かれ知る事だ。」
「アンタ、通り魔にあったんだよ。」
「通り魔?」
「でも、正確には、アンタじゃないんだな。」
「どう言う事だ?」
「アンタは、通り魔に襲われそうになった女性を助けようとして、刺されたんだよ。」
「そうだったのか。で!その女性は?」
「無事だよ。俺が警察に通報しといたから、今頃は保護されているだろうな。」
「通り魔は!通り魔はどうしたのだ!君がその場を離れてしまったら、通り魔がまた女性を襲うかもしれないではないか!」
「そう来るとは、な。女性の次は通り魔、自分の事は後回し、か。やっぱりアンタ、凄いな。大丈夫、通り魔は手錠で逃げれないようにしといたから、安心だよ。」
「君は、もしかして警官なのか?」
「あの道は、以前から通り魔が出没しててな。巡回中だったんだよ。そして、目撃した。女性を助けて、胸にナイフを突き刺さされ、そしたらアンタ、次の瞬間には、倒れるんじゃなく、歩き出すんだもんな。驚いたよ。」
「それで、私を追ってここへ?」
「ああ、そう言う事になるな。」
「そうか。」
私は、おそらく胸を刺されたと同時に、便意に襲われのだろう。そして、糞を垂れ流しながら死ぬなど有り得ない事だと、私の世界が判断し、この場へとやって来たのか。
「アンタ、男の中の男だな。」
「いや、男なら誰だってこうしただろう。」
「女の盾になる事は出来ても、糞をしに来るなんて、俺には到底真似出来っこないな。」
「いや、出来るさ。」
「出来るといいな俺も、アンタみたいにな。」
「さてと、これで心置き無く逝ける。少し汚れているが、後の事を頼まれてくれるか?」
「任せとき、な。」
「ありがとう。」
安堵感と幸福感に包まれ微笑みながら男として死ねるなら、ここで十分だ。

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2011年6月29日 (水)

「第二百六十三話」

「安っ!」
「お嬢ちゃん?こりゃ掘り出しもんの物件だよ?今逃したら後悔だよ?」
「でも・・・・・・こんな安いって、何かあったりするんじゃ?前に住んでた人が」
「お嬢ちゃんっ!!」
「はひぃ!」
「何もないさ。何もね。」
「あ、はあ。」
「ただ?」
「ただ?」

第二百六十三話
「何時か何かが起こる部屋」

と、言われてもなぁ。まあ、3ヶ月暮らしてていまだに何も起こらないし、もしかしたらアタシが若いから、おじさんにからかわれただけかもだしね。
「やばっ!」
って、そんな事を考えてる場合じゃない。
「危なっ!」
危うくカレーが吹き零れるとこでしたよ。
「奥さん?」
「えっ?だ、誰!?てか、どっから入って来たの!?つか、なんて格好してんの!?」
「救助隊ですから、救助を必要とされている人がいれば、どっからでも駆け付けますよ。」
ああ、何だ。救助隊の人か。アタシはてっきり幽霊的な、或いは強盗的なもんかと思っちゃったよ。そっかそっか、救助隊の人だったのか。な~んだ。良かったぁ。
「って、良かない!」
「うわあ!?ちょっと落ち着いて下さいよ、奥さん。」
「いやいや、だいたいこんな独り暮らしのお嬢ちゃん捕まえて、奥さんって何なんですか!」
「いやだって、こんな夕食時にカレーを作っているんだから、奥さんでしょ?」
「どんな世界観よ!てか、だいたい山岳救助隊の人が都会のど真ん中で何をしてるの?山、行きなさいよ!山へ!」
「そこに山があるからですか?」
「何で、登山家気分で行くのよ!そこに助けを求めてる人がいるからでしょ!」
「逆に聞きますけどね、奥さん?」
「奥さん言うな!その世界観止めてよね!」
「Aさん。」
「何でやましい事をしていないのに、やましい事をした風に呼ぶのよ!お嬢さんでいいよ!」
「お嬢!」
「おしいっ!さん!だ!さん!何か格が違う!」
「ああああーっ!もう!ちっとも話が先に進まないではありませんか、奥さん!」
「イヤだ・・・・・・ちょっとイライラしないでよ。アタシ!?アタシなの?そんなに難しい事なの?ならもう、奥さんでいいや。」
「んだよコイツ!」
「ああ!!」
「あのですね、奥さん?救助を求めている人が山にいないと、救助したらダメなんですかって言うんですよ!」
「山岳救助隊だからだろ!山岳救助隊が何でもかんでも救助するかよ!だったら、頭の山岳外せよ!」
「先程から奥さんは、山岳救助隊とかスミス&ウェッソンだとか言っていますが。」
「そんなリボルバーな事は言ってません!」
「どうして私を山岳救助隊だと?」
「はあ?だって、山岳救助隊みたいな格好してるじゃないですか!どっからどう見てもでしょ!」
「私は、山岳救助隊などでもなければ、松下村塾の者でもありませぬ!」
「高杉気取りか!そのエア三味線やってる時点で松下村塾の者だからな!ってかじゃあ!アナタはいったいどこの誰なんですか!何者なんですか!」
「私は、眼鏡を掛けている人が眼鏡に苦しめられ、助けを求めている時に颯爽と駆け付ける!眼鏡救助隊です!」
「掛けてねぇよ!」
「掛けてない?そりゃそうですよ、奥さん。救助するのに、眼鏡を掛けていたら、曇って曇って、救助になりません。」
「いや、特定の状況下だけだから!」
「その特定を考慮せず!想定せず!何が眼鏡救助隊ですか!」
「・・・・・・イヤだ。怒らないでよ。てか、何でアタシ?アタシ悪くないじゃん!何で怒られなきゃならないの?」
「おかしな事を言うからですよ。掛けてねぇよ!とか、言うからですよ。」
「アタシが!アタシがよ!このアタシが眼鏡掛けてねぇよ!って事だ!眼鏡に苦しめられてねぇよ!って事だ!だいたい眼鏡に苦しめられるって何なの?何で眼鏡が人を苦しめるの?むしろ眼鏡は、人助けしてるんじゃないの?仮に苦しめられてんなら、掛けなきゃいいじゃん!外せばいいじゃん!って事だ!」
「ああ。」
「ああ。って、呑気に納得してないで、分かったんだったら、さっさと帰ってくんない?」
「甘い!」
「な、何が!?」
「カレーが!」
「何の話?」
「カレーの話です。」
「いやそうじゃなくて、確かに甘口カレーですけど、それにしてもこのタイミングでどうして急にカレーの話なのって事よ。関係ないじゃん!」
「関係ありますよ!」
「何が?」
「奥さんが今、その鍋の蓋を開けたらどうなります?」
「どうもならないでしょ。」
「たちどころに湯気が立ち込めますよね?」
「まあね。でも、どうもならないでしょ。」
「眼鏡が曇るだろうが!そんな眼鏡が曇った状態でジェンガしたら危ないって言っているんですよ!絶対に崩しちゃうぜ!って言っているんですよ!負けちゃうぞ!って言っているんですよ!奥さん!!」
「超超超~特殊な状況下じゃん!ってだから!掛けてねぇよ!眼鏡!してねぇよ!ジェンガ!そして、仮に掛けてたとしても拭きゃいいだけじゃん!眼鏡!」
「心のですよ。」
「はあ?」
「心の眼鏡が曇るって言ってやってんですよ!」
「何を言ってやっちゃってんの?」
「人はね、奥さん。誰しもが心に眼鏡を掛けているものなんですよ。」
「いやちょっと?」
「その眼鏡が曇っていたら、例え晴れ空の下で希望の歌を歌ったとして、誰の心にも響かないんですよ。」
「ちょっと眼鏡救助隊の人?」
「一生遊んで暮らせる大金を手にしたとこで、心の眼鏡が曇っていたら、何も満たされない。何もですよ。」
「ねぇ?」
「運命を共にする生涯のパートナーと道で擦れ違ったとしても、心の眼鏡が曇っていたら、気付く事なく擦れ違うだけなんですよ。」
「いや勝手に何やら語っていい気分に浸るのは、勝手だけど、何で人ん家のカレーを勝手に盛り付けながらなの?」
「辛い!!」
「苦手なら食うな!」
「そして不味い!」
「ぶっ殺すぞ!」
「お、奥さん!何かチョコレート的な物を早く!」
「お前なぁ?」
「死ぬ!」
「死ぬかよ!」
「殺される!」
「人が作ったカレーを毒物扱いすんな!」
「眼鏡曇る!」
「いや、その世界観だけは、意味分かんないから!」
「早く!いいから何か温暖化を止める良い手立てを!」
「何でだ!仮にここでアタシがナイスな提案したとこでどうにかなるのか!」
「心を込めた拍手を贈ります!」
「いらねぇ!」
「奥さん。歴史の影には常に、本には記載される事のない偉大な功績があるのですよ?」
「えっ?今、何の話になっちゃってんですか?」
「知るか!」
「・・・・・・・・・ああ、これね。これが、唖然ってヤツね。なるほど。」
「いいですか、奥さん!眼鏡を曇らすな!です!曇らすなら掛けるな!です!以上!」
「お騒がせじゃん!アンタ、単なるお騒の何者でもないじゃん!」
「最後に握手しましょう!」
「イヤだ。」
「ファンなんです。」
「誰よアタシ!」
「ほら!早く!握手したら、奥さん念願の帰りますですから!さあ!」
「・・・・・・・・・分かったわよ!ほら!」
「じゃあ!」
「って、握手しねぇのかよ!」
次の日、部屋を出て行く事にした。でもきっとこの、何時か何かが起こる部屋では、また違った誰かに、違った何時か何かが起こるんだろなって思いながら、アタシは部屋を出た。

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