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2011年6月 8日 (水)

「第二百六十話」

「ピーンポーン!」
「やばっ!?」
僕は所謂、物書きだ。毎週毎週、短編小説を書いている物書きだ。物書きなら、誰だって出来る事を、さも誰も真似出来ないような感じで、クオリティーのバランスで、何とか誤魔化し、そして誤魔化し書いている端くれ物書きだ。でたぶん、おそらくきっと、こんな辺鄙な場所にある変わり者の家のドアのチャイムを鳴らしたのは、今週分の原稿を取りに来た出版社の人間に違いない。だから僕は、ゆっくりと歩きながら、どうやって〆切を延ばそうかと、言い訳を考えていた。
「よし!」
ドアの前に立ち、深く呼吸を1回、今回はスタンダードに仮病にしよう!と、固く決意をし、ドアノブに手を伸ばした。
「ガチャ!」
僕がドアを開けると同時に、全身を電気が駆け巡り、意識が遠退いた。

第二百六十話
「ストーリーテラー」

「先生?先生?起きて下さい。先生?」
とても優しく、まろやかで甘い香り漂う若い女性の声で目が覚めた。ここは天国か?と疑ってしまうような。そんな錯覚に陥ってしまうような。目の前の女性は、女神のような。でたぶん、おそらくきっと、僕が椅子に縛り付けられていなくて、地下室の様な場所に居なければここは、天国で、目の前の若い女性は、女神だ。
「おはようございます。先生。」
「お、おはようございます。」
「さて、先生?事は急ぎます。」
「それがちょっと今日は、何だかんだお腹の調子が悪くて・・・・・・・・・。」
間違いなく今は、スタンダードな言い訳をしている場合じゃないけど、今の僕にはスタンダードな言い訳をする事以外、何も出来なかった。
「私が殺しますか?先生が自殺しますか?」
これが究極の2択だとしたら、あまりにも究極すぎる。と言うか僕は、結果的に死ぬって事で、事実上の1択じゃないか!
「ちょちょちょちょっとだけ落ち着こうか。」
「それは、先生の方では?」
「まままままあね。」
とりあえずいきなりこんな状況下で落ち着き払える人間を見てみたいもんだ。
「先生?」
「はい?」
「殺されます?」
「それはちょっとぉ?」
「自殺されます?」
「それもちょっとぉ?」
ピースメーカを向けながら、毒物混入容器を片手に微笑む女神が居たかなぁ?って、ちょっとだけ頭の中を検索してみたけど、ヒットするはずもなかった。
「先生?我が儘もいい加減にして下さい?」
「我が儘って、ちょっと待ちなさいって!状況が状況なんだって!軽くでもいいから説明してもらわないとって!」
「ふ~ん。それもそっか。」
「そうだよ。」
「それで?先生は、何を知りたいのでしょう?」
「まず、君が何者で、目的が何で、どうして僕がこんな事になっちゃってんの!」
「私は、登場人物です。目的は先生の処刑です。先生がこんな事になっちゃってんのは、先生が凶悪な殺人鬼だからです。」
「うん。ごめん。全く意味が分かんないや。そりゃもう全くねっ!」
これはアレだぞ?この展開は、アレに等しいぞ?僕の熱狂的なファンか、僕の作品が酷く気に入らないかのどっちかだぞ?で、まず僕に熱狂的なファンが存在するはずがないから、前者は消えた。そして、僕の作品を酷く気に入らない程の読者もまた存在しないから、後者も消えた。それに何だ?僕を処刑?凶悪な殺人鬼?僕は、凶悪でもなければ殺人鬼でもない。処刑されなきゃならない事だってしていない。
「えっ?誰?」
「先生?質問には、お答えしましたよ?さあ、どちらにします?」
「全然意味不明だよ!君、もしかして僕を誰かと勘違いしてない?してるでしょ!してると思ってたんだよなぁ!」
「いいえ。先生を勘違いするはずがありません。」
「だったら何で僕を凶悪な殺人鬼だなんて言うんだ?」
「だって先生?物語の中でたくさんの登場人物を殺しているじゃありませんか。」
「えっ?」
「理不尽に、不条理に、何よりもいとも簡単に、殺していますよね。」
「どう言う事だ?」
「凶悪な殺人鬼以外、先生を何と表現したら宜しいのですか?」
「それはあくまで、物語上の事で、現実じゃないだろ?」
「私達にしたら、現実ですよ?」
「私達?」
「言いましたよね。私は、登場人物だ、と。」
「バカな!?有り得ない!分かったぞ!夢だな?これは夢なんだな!」
「夢オチだなんて先生?お粗末にも程ってものがあるんじゃありません?」
「あっ!分かったぞ!僕は病気なのか!そうか僕は病気なんだ!」
「病気?まあ、病気と言えば病気なのかもしれませんね?」
「いやっぱり!精神的に参っちゃったんだな?短編小説を書きすぎて!だから、こんな有りもしない幻覚を見ているんだな?」
「いいえ。先生?これは紛れも無く現実です。先生の病気は、平気で物語の登場人物を殺せてしまう事です。」
「何を言ってるんだ!こんなのが現実な訳ないじ」
「バン!」
「ほら、足から血が出ているじゃありませんか?」
「いっ!?」
「それに痛みも。先生?これは現実ですよ?分かってもらえましたか?」
「わ、分かった!分かったから、なっ?もう、こんな事やめるんだ!絶対にやめるべきだ!」
「なぜ?」
「なぜって、人を殺してただで済む訳がないじゃないか!人を殺す事がいい訳ないじゃないか!」
「ふふっ。先生の口からそんな言葉が聞けるなんて、想像もしていませんでした。」
「どう言う意味だ。」
「テメェは登場人物殺しといて!今更命乞いしてんじゃねぇよ!」
「!?」
「と、言う事です。先生?」
「な、なあ?どうすればいいんだ?僕は、いったいどうすればいい!」
「ですから、何度も説明しているじゃありませんか。殺されます?自殺されます?と。」
「死ねばいいのか?僕の死が望みなのか?」
「何ともまあ、お気楽で安直な、そして自分勝手なおつむなんですね?」
「何だって?」
「死ねばいい?僕の死が望み?傲慢で醜いですよ?先生?だって、世の中ってのは!そう言うルールだろうが!いかにも自分が被害者って面してんじゃねぇよ!クソ殺人鬼がよぉっ!さっさとコイツで処刑してやってもいいとこを!わざわざ自殺選ばしてやってるだけ感謝しろよ!グズがっ!」
「・・・・・・何てこった。紛れも無い現実。僕が入ったのか?君が出て来たのか?」
「先生?」
「とにかく明確な事は、君が今回の話のストーリーテラーだって事か。」
「さあ、もう見苦しいのは終わりにして、潔く選択して下さい?私に殺されるのか?自分で死ぬのか?」
「君は、間違っている。」
「はい?」
「選択肢は、必要無かったんだよ。有無を言わさず僕を撃ち殺せば良かったんだ。」
「では、そちらにしますね。」
「でもそれは、出来なかった。ストーリーテラーだからね。事細かな説明がある程度は、必要だったんだよ。せめて、僕が事情を飲み込むぐらいの軽いヤツはね。」
「先生?さようなら。」
「ああ、さよならだ。」
「では!」
「君は、自らの頭を撃ち抜いて死ぬ!」
「えっ?」
「君は、もっと根本的に作者と登場人物の大きな違いを理解しとくべきだった。」
「そんなバカな!?」
「作者が登場人物を殺せても、登場人物は作者を殺せない!いろいろと貴重な体験をありがとう。勉強になったよ。」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「さようなら。」
「バン!」
そして僕はまた、理不尽に不条理に、何よりもいとも簡単に、登場人物を1人殺してしまった。

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