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2011年6月29日 (水)

「第二百六十三話」

「安っ!」
「お嬢ちゃん?こりゃ掘り出しもんの物件だよ?今逃したら後悔だよ?」
「でも・・・・・・こんな安いって、何かあったりするんじゃ?前に住んでた人が」
「お嬢ちゃんっ!!」
「はひぃ!」
「何もないさ。何もね。」
「あ、はあ。」
「ただ?」
「ただ?」

第二百六十三話
「何時か何かが起こる部屋」

と、言われてもなぁ。まあ、3ヶ月暮らしてていまだに何も起こらないし、もしかしたらアタシが若いから、おじさんにからかわれただけかもだしね。
「やばっ!」
って、そんな事を考えてる場合じゃない。
「危なっ!」
危うくカレーが吹き零れるとこでしたよ。
「奥さん?」
「えっ?だ、誰!?てか、どっから入って来たの!?つか、なんて格好してんの!?」
「救助隊ですから、救助を必要とされている人がいれば、どっからでも駆け付けますよ。」
ああ、何だ。救助隊の人か。アタシはてっきり幽霊的な、或いは強盗的なもんかと思っちゃったよ。そっかそっか、救助隊の人だったのか。な~んだ。良かったぁ。
「って、良かない!」
「うわあ!?ちょっと落ち着いて下さいよ、奥さん。」
「いやいや、だいたいこんな独り暮らしのお嬢ちゃん捕まえて、奥さんって何なんですか!」
「いやだって、こんな夕食時にカレーを作っているんだから、奥さんでしょ?」
「どんな世界観よ!てか、だいたい山岳救助隊の人が都会のど真ん中で何をしてるの?山、行きなさいよ!山へ!」
「そこに山があるからですか?」
「何で、登山家気分で行くのよ!そこに助けを求めてる人がいるからでしょ!」
「逆に聞きますけどね、奥さん?」
「奥さん言うな!その世界観止めてよね!」
「Aさん。」
「何でやましい事をしていないのに、やましい事をした風に呼ぶのよ!お嬢さんでいいよ!」
「お嬢!」
「おしいっ!さん!だ!さん!何か格が違う!」
「ああああーっ!もう!ちっとも話が先に進まないではありませんか、奥さん!」
「イヤだ・・・・・・ちょっとイライラしないでよ。アタシ!?アタシなの?そんなに難しい事なの?ならもう、奥さんでいいや。」
「んだよコイツ!」
「ああ!!」
「あのですね、奥さん?救助を求めている人が山にいないと、救助したらダメなんですかって言うんですよ!」
「山岳救助隊だからだろ!山岳救助隊が何でもかんでも救助するかよ!だったら、頭の山岳外せよ!」
「先程から奥さんは、山岳救助隊とかスミス&ウェッソンだとか言っていますが。」
「そんなリボルバーな事は言ってません!」
「どうして私を山岳救助隊だと?」
「はあ?だって、山岳救助隊みたいな格好してるじゃないですか!どっからどう見てもでしょ!」
「私は、山岳救助隊などでもなければ、松下村塾の者でもありませぬ!」
「高杉気取りか!そのエア三味線やってる時点で松下村塾の者だからな!ってかじゃあ!アナタはいったいどこの誰なんですか!何者なんですか!」
「私は、眼鏡を掛けている人が眼鏡に苦しめられ、助けを求めている時に颯爽と駆け付ける!眼鏡救助隊です!」
「掛けてねぇよ!」
「掛けてない?そりゃそうですよ、奥さん。救助するのに、眼鏡を掛けていたら、曇って曇って、救助になりません。」
「いや、特定の状況下だけだから!」
「その特定を考慮せず!想定せず!何が眼鏡救助隊ですか!」
「・・・・・・イヤだ。怒らないでよ。てか、何でアタシ?アタシ悪くないじゃん!何で怒られなきゃならないの?」
「おかしな事を言うからですよ。掛けてねぇよ!とか、言うからですよ。」
「アタシが!アタシがよ!このアタシが眼鏡掛けてねぇよ!って事だ!眼鏡に苦しめられてねぇよ!って事だ!だいたい眼鏡に苦しめられるって何なの?何で眼鏡が人を苦しめるの?むしろ眼鏡は、人助けしてるんじゃないの?仮に苦しめられてんなら、掛けなきゃいいじゃん!外せばいいじゃん!って事だ!」
「ああ。」
「ああ。って、呑気に納得してないで、分かったんだったら、さっさと帰ってくんない?」
「甘い!」
「な、何が!?」
「カレーが!」
「何の話?」
「カレーの話です。」
「いやそうじゃなくて、確かに甘口カレーですけど、それにしてもこのタイミングでどうして急にカレーの話なのって事よ。関係ないじゃん!」
「関係ありますよ!」
「何が?」
「奥さんが今、その鍋の蓋を開けたらどうなります?」
「どうもならないでしょ。」
「たちどころに湯気が立ち込めますよね?」
「まあね。でも、どうもならないでしょ。」
「眼鏡が曇るだろうが!そんな眼鏡が曇った状態でジェンガしたら危ないって言っているんですよ!絶対に崩しちゃうぜ!って言っているんですよ!負けちゃうぞ!って言っているんですよ!奥さん!!」
「超超超~特殊な状況下じゃん!ってだから!掛けてねぇよ!眼鏡!してねぇよ!ジェンガ!そして、仮に掛けてたとしても拭きゃいいだけじゃん!眼鏡!」
「心のですよ。」
「はあ?」
「心の眼鏡が曇るって言ってやってんですよ!」
「何を言ってやっちゃってんの?」
「人はね、奥さん。誰しもが心に眼鏡を掛けているものなんですよ。」
「いやちょっと?」
「その眼鏡が曇っていたら、例え晴れ空の下で希望の歌を歌ったとして、誰の心にも響かないんですよ。」
「ちょっと眼鏡救助隊の人?」
「一生遊んで暮らせる大金を手にしたとこで、心の眼鏡が曇っていたら、何も満たされない。何もですよ。」
「ねぇ?」
「運命を共にする生涯のパートナーと道で擦れ違ったとしても、心の眼鏡が曇っていたら、気付く事なく擦れ違うだけなんですよ。」
「いや勝手に何やら語っていい気分に浸るのは、勝手だけど、何で人ん家のカレーを勝手に盛り付けながらなの?」
「辛い!!」
「苦手なら食うな!」
「そして不味い!」
「ぶっ殺すぞ!」
「お、奥さん!何かチョコレート的な物を早く!」
「お前なぁ?」
「死ぬ!」
「死ぬかよ!」
「殺される!」
「人が作ったカレーを毒物扱いすんな!」
「眼鏡曇る!」
「いや、その世界観だけは、意味分かんないから!」
「早く!いいから何か温暖化を止める良い手立てを!」
「何でだ!仮にここでアタシがナイスな提案したとこでどうにかなるのか!」
「心を込めた拍手を贈ります!」
「いらねぇ!」
「奥さん。歴史の影には常に、本には記載される事のない偉大な功績があるのですよ?」
「えっ?今、何の話になっちゃってんですか?」
「知るか!」
「・・・・・・・・・ああ、これね。これが、唖然ってヤツね。なるほど。」
「いいですか、奥さん!眼鏡を曇らすな!です!曇らすなら掛けるな!です!以上!」
「お騒がせじゃん!アンタ、単なるお騒の何者でもないじゃん!」
「最後に握手しましょう!」
「イヤだ。」
「ファンなんです。」
「誰よアタシ!」
「ほら!早く!握手したら、奥さん念願の帰りますですから!さあ!」
「・・・・・・・・・分かったわよ!ほら!」
「じゃあ!」
「って、握手しねぇのかよ!」
次の日、部屋を出て行く事にした。でもきっとこの、何時か何かが起こる部屋では、また違った誰かに、違った何時か何かが起こるんだろなって思いながら、アタシは部屋を出た。

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