« 「第二百六十話」 | トップページ | 「第二百六十二話」 »

2011年6月15日 (水)

「第二百六十一話」

 何が本当に最悪なのか?そこを突き詰めれば突き詰めるほど、辿り着く場所は、最悪だ。そして、最悪が起こる前には必ず人間の欲望と願望を少しだけくすぐる最悪の希望がある。

第二百六十一話
「最悪」

最悪の最悪は、結局のとこ最悪で、最悪の何物でもないってとこがまた、最悪の最悪たる最悪なポイントだ。つまり僕が何を言いたいのかって言うと、最悪は最悪であり、それ以上でもそれ以下でもないって事だ。最悪を感じた瞬間、既に人は最悪であって、そのベクトルは揺るがないし、キャパシティが増える事はない。最悪の中で、もがいてもがいて別の最悪を探したって、それはあくまで別の最悪のケースであり、自分が現在体験している最悪とは、比較する事は出来ない。最悪は、横に並べる事は出来るが、縦に積む事は出来ない。それが最悪ってヤツで、つまり最悪って事だ。それはいったいどう言う意味か?第三者からしてみれば、寝坊の最悪と死ぬ最悪は、比較出来るが、当人は比較出来ないのが最悪の真骨頂。なぜなら、その人にとっての最悪が巻き起こっているからで、比較しようにもどうしても比較しようもないのが現状だ。絶対寝坊したくない人にとっての寝坊は、現状での一番の最悪であり、絶対死にたくない人にとっての死は、現状での一番の最悪であるからだ。
「五分後に死ぬ。」
男は、床に横たわる僕を見下げながらそう言うと、冷ややかに笑った。僕は、男に五分後に死ぬ毒を飲まされた。しかしそれは、僕にとって何ら最悪でもない。むしろ無に等しい。それはなぜか?なぜなら僕は、五分後に死ぬ毒を飲む以前から既に、最悪に侵されているからだ。これは更に何を意味するか?そう、最悪が最悪で上塗り出来る話は、嘘だって事だ。最悪が続く事はある。しかし、最悪中に最悪に侵される事はまずない。仮にもし最悪中に最悪を感じたのであればそれは、一つの最悪が終わりまた新たな最悪が始まっただけの話にすぎない。そう、僕にとっての五分後に死ぬ毒は、最悪の中の単なる出来事に過ぎない。
「せいぜいもがき苦しんで死ぬんだな。」
捨て台詞を吐き捨てて、男は部屋を出て行った。人が死んだ後にも毒で苦しむのならきっと、男の願望も叶うだろう。しかし僕にとっては、三分後に死ぬ毒を二分前に飲んだ事も最悪の中の単なる出来事でしかない。その三時間前に僕が彼女をこの手で殺害した事も、特に最悪でも何でもない。その数分前に罵倒された事も、コーヒーで口の中を火傷した事も、大事なフィギュアを壊された事も、お気に入りのTシャツにコーヒーをこぼした事も、自動販売機のお釣りが出て来なかった事も、コーヒーすらも出て来なかった事も、他人のミスで上司に怒られた事も、家のコーヒー豆がきれていた事も、銃を乱射した事も、今朝目が覚めた事も、それらは大きな最悪の中にいる僕にとっては、その中で巻き起こる何一つとして、最悪ではない出来事の数々だった。
「あと10秒だ!10秒の我慢だ!」
最悪の終わりがまた新たな最悪の始まりなら僕は、この最悪を終わらせてまた新たな最悪に侵されたい。
「・・・・・・・・・リターン・ザ・ワールド!」
僕のエンドレスな最悪は、僕が時間を戻せるこの力を手に入れた日から、始まっているからだ。
「おはよ。」
いつものように彼女は僕を優しい笑顔とキッスで起こしてくれた。
「おはよ。」
今度は、殺さないようにしないと・・・・・・・・・。

|

« 「第二百六十話」 | トップページ | 「第二百六十二話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/40220176

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百六十一話」:

« 「第二百六十話」 | トップページ | 「第二百六十二話」 »