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2011年7月

2011年7月 6日 (水)

「第二百六十四話」

「あのう?もう帰ってもいいですか?」
「ダメ!ダメ!ダメだよ!」
「これはもう、違法ですよ!拉致監禁ですよ!警察、呼びますよ!」
「はい、どうしました?って、本官が一人二役しなきゃならなくなるから、それは勘弁してくれ。」
「だったら!早く僕を家に帰して下さいよ!」
「だから!さっさと本官の質問に真面目に答えてくれたら、すぐにでも帰すと言ってるだろ!」
「ちゃんと僕は、真面目に答えてるし!そもそも何で僕は理不尽に交番なんかに連れて来らんなきゃならないんだ!」
「夜中に、挙動不審で住宅街にいたら、大抵はこうなるんだよ。」
「僕は、飼ってた蟻が逃げ出したから、捜してただけですよ!」
「別に本官は、誰が何を飼おうが、そこに犯罪の臭いがしない限り、自由だと思ってるよ。むしろ蟻をそこまで大事に考えている君のような青年を素敵だとすら思ってるよ。だが、君の次の質問に対する答えで、本官の中の何かがこの男をこのまま家に帰してはいけないと、警告したんだよ。」
「私情捜査だ!」
「なら、今一度、君に質問しよう。」
「どうぞ?」
「君の職業は?」
「ミイラ男です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・何か?」
「何か?じゃなくてさ。逆に何なの?」
「はい?」
「職業だよ?」
「ああまあ、確かにミイラ男が職業かと言われたら、職業ではないかもしれません。でも僕は、ミイラ男以外、生まれてから他にした事がありません。格好つけた言い方かもしれないですけど、職業ミイラ男。これが僕です。」
「職業人間。みたいな事か。」
「そうです。分かってもらえて良かったです。さっきは声をあらげたりしてすみませんでした。それじゃあ僕は、蟻を捜さなければならないんで、ここで失礼します。」
「ちょちょちょちょちょ!待ちなさい!話は全然終わってないんだよ。」
「名前の事ですか?それもさっきから言ってますけど、ミイラ男はミイラ男であって、名前は無いんです。父は父ミイラ男だし、母は母ミイラ男だし、姉は姉ミイラ男だし、叔父は叔父ミイラ男です。姉からすれば僕は、弟ミイラ男で、母からすれば父は、夫ミイラ男で、叔父からすれば姉は、姪ミイラ男なんです。誰もがミイラ男で、各視点により呼び方が変わるだけなんです。それがミイラ男ってもんなんです。」
「普通じゃん!!」
「はい?普通?」
「Tシャツにジーパンでサンダルじゃん!」
「あ、はあ。」
「いやいやいやいや!すっとぼけんのもいい加減にしろよ!」
「何がです?」
「包帯だろ?ミイラ男と言ったら、包帯グルグル巻きだろ?」
「夜中ですよ?」
「はあ?」
「寝るのにわざわざ礼服着る人間がいますか?海水浴に毛皮のコート着て行きますか?そのミイラ男=包帯グルグルって、勝手な人間のイメージを持ち出すな!!」
「・・・・・・・・・こりゃたまげた。うん。びっくりだ。そこまでして、そんな必死になってまで、素性を知られたくないって事か。いやあ、天晴れだよ。」
「はい?」
「とにかくだ。君をこのまま帰す訳には、ますますいかなくなったって事だよ。」
「ちょっと待って下さいよ!」
「ん?盗みか?まさか殺人な訳ないよな。まあ、何にせよ。今晩は、ここに泊まってもらうとしよう。」
「ふざけるな!!」
「どっちがだ!!」
「!?」
「何がミイラ男だ!何が母ミイラ男だ!何が海水浴に毛皮のコートだ!次から次へデタラメぶっこきやがって!本官を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「馬鹿になんてしてません!」
「だいたいミイラ男の包帯の下は、見るもおぞましい姿だろうが!それをそんな爽やかな感じでいやがってからに!」
「いやだからそれは勝手な人間のイメージで!」
「黙らっしゃい!イメージなんて問題じゃないんだよ!君の態度が問題なんだ!」
「分かりました。」
「よし!だったら今すぐ!本官の質問に真面目に答えるか!ここで朝まで頭を冷やすかを選べ!」
「撃って下さい。」
「何だと?」
「その銃で僕の頭を撃ち抜いて下さい。」
「そそそそんな事、出来る訳がないだろ!」
「大丈夫です。ミイラ男は不死身ですから、頭を撃ち抜かれたって、どうって事ありません。」
「出来ないと言ってるだろ!」
「僕がミイラ男だと信じてもらえる方法は、これしかありません。さすがに頭を撃ち抜かれても生きていたら、貴方もミイラ男だと、認めざるを得ないですよね?」
「そりゃあ、そうだが、そんな馬鹿な真似が本官に出来る訳がないだろ!万が一、いや一が一にそんな無茶苦茶出来る訳がない!」
「だったら!僕は帰りますよ。」
「ダメだ。」
「なら!」
「それはもっとダメだ!一先ず朝になったら帰すと言ってるんだから、今日はおとなしく泊まっていきなさい!」
「嫌です!」
「なっ!?」
「だってきっと、また同じ出来事が起これば、僕はここへ連れて来られて、こんな屈辱を受けなければならないんでしょ?だったら今この場で、はっきりさせましょうよ!」
「ちょっと!やめなさい!」
「貴方が出来ないと言うなら!僕が自分で証明してみせます!銃を貸して下さい!」
「馬鹿な事をするんじゃない!」
「馬鹿な事?これは馬鹿な事ではありません!」
「やめるんだ!分かった!分かったから!ミイラ男だと認める!家に帰りたけりゃあ、帰っていい!」
「もう!そう言った問題を通り越した問題なんですよ!ここで僕がミイラ男である事を証明しなければ!僕は、ミイラ男としてこれからの人生を後悔しながら生きていかなければならないんです!」
「お、おい!!」
「これで分かりますよ。そして、数秒後には貴方のイメージが音を立てて崩れる事でしょう。」
「ま、待て!早まるんじゃない!本官は君をミイラ男だと認めてるんだよ!」
「もう、遅いです。」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「パーン!」

「・・・・・・馬鹿な事を!」
「ぐはっ!」
「お、おい!しっかりしろ!」
「なっ!?そんな・・・・・・馬鹿・・・・・・な・・・・・・。」
「もう喋るな!今すぐ考古学者を呼んでやるからな!」
「えっ?こ・・・考古・・・・・・・・・。」
「悪かった!本官が少しお灸を据えようと、ふざけすぎた!すまない!」
「はあ・・・・・・?えっ!?この・・・・・・銃・・・・・・そんな・・・そん・・・・・・な・・・・・・・・・。」
「おい!目を開けるんだ!おい!ミイラ男!!」

第二百六十四話
「対ミイラ男用ハンドガン」

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2011年7月13日 (水)

「第二百六十五話」

今度の舞台は、大海原!
「最悪だわ!」
最悪だと叫ぶ女。
「まあ、落ち着けって!なっ?」
落ち着けとなだめる男。
「バッカじゃない!これが落ち着いていられる?」
「でも、落ち着かなきゃどうしようもないだろ?」
故障したクルーザーは爆発寸前。
「落ち着いたってどうしようもないのよ!」
「おい!やめろ!」
「放して!」
「死にたいのか!」
「死にたくないわよ!でもここにいたら確実に死ぬのよ!だったら泳いであの島まで行くしかないじゃない!」
数十メートル先に浮かぶ戦慄の無人島。
「鮫に喰われたいのか!」
海中には巨大な人喰い鮫の群。
「喰われないわよ!」
「喰われるだろ!」
待つのは死か?
「喰われないようになってんのよ!」
「どっから来るんだその自信!」
それとも生還か?
「とにかく行くしかないのよ!」
果たして男女の運命は?
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
至高のノンストップサバイバルアドベンチャーサスペンスミステリーホラー待望の続編!

第二百六十五話
「絶対生還5」

この夏アナタは、想像以上のどんでん返しの目撃者となる!

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2011年7月20日 (水)

「第二百六十六話」

「記憶喪失!?」
「そうなんだよ!」
待ち合わせの喫茶店に、2時間も遅れて来た友人は、向かいの席に座るなり、アイスロイヤルミルクティーを注文したかと思ったら、実に斬新な言い訳を言い放った。
「いや、もっと別の言い訳があったろ?ってか、素直に謝ればいいだろ?」
「いやいや、何か謝ったら俺の負けじゃん。」
「負けとかって、何?勝ち負けじゃないじゃん。」
「確かに、確かに記憶を喪失したのは、俺だよ。それはもう、どう弁解しようが弁解出来ないよ。でもだよ?果たして本当に俺が悪いんだろうか?いや、遅刻した事にスポットを当てるなら、確実に俺が悪いよ。でも、例えば俺が喫茶店に来る途中で事故に遭ったとしたらどうだろう?もちろん、事故に遭ったのは、俺だしそれによって遅刻が生じたんだから、悪いよ。ただその場合、謝るべきなのだろうか?建前で悪いんだけど本音では悪くない俺が謝るべきなんだろうか?」
「ま、まあ言わんとしようとしてる事は何と無く分かるよ。」
「また急に熱中症で倒れて病院で治療したから遅刻した俺は、謝るべきなのだろうか?いやむしろ!それでも喫茶店へ来た事を感謝すべきなんではなかろうか?お前は俺に、ありがとう。と、言うべきなんじゃなかろうか?」
「何でだよ!無茶苦茶もいいとこだろ!だいたいお前が遅刻した理由は、事故でもなければ、病気でもないだろ?」
「そうだよ。記憶喪失ですけど?でも、事故や病気に全く引けを取らない理由だろ?いやむしろ俺は!その上を行っていると思うぞ!」
「何、お前?謝りたくないの?」
「違うよ!謝りたくないんじゃなくて、謝らなくてもいい事に謝らなければならない事が嫌なだけだ。」
「あ、そう。俺だって謝らなくてもいいなら、謝って欲しいだなんて思わないよ。でも、謝って済むなら、素直に謝ればいいんじゃないかって思うぞ?」
「同意見だ!」
「握手とかいいから!」
「で?これからどうする?とりあえずバッティングセンターか?」
「いやちょっと待てよ。この流れで、その流れは、歪だろ?」
「そうかなぁ?俺は、一週間前にお前から連絡があった時から、久しぶりに行こうと思ってたけどなぁ?バッティングセンター!」
「なあ?なあなあ?ズバリ言っちゃうけどさぁ?嘘なんだろ?記憶喪失。」
「あのなぁ?どこの世界に嘘で記憶喪失を持ち出す奴がいんだよ!」
「ここにいんじゃん!てか来てんじゃん!ちゃんと待ち合わせの喫茶店に来ちゃってんじゃん!」
「来たよ?待ち合わせの喫茶店に来たら、悪いの?じゃあ、何?待ち合わせの場所って、何なの?」
「ええーっ?言ってる事が滅茶苦茶なの気付いてないの?何で記憶喪失の人間が、一週間前に待ち合わせ場所に決めた喫茶店の記憶があるんだよ!」
「無いよ。」
「なぬっ!?」
「ぶっちゃけ、無いよ。お前が誰かの記憶も、自分が誰かの記憶も無いよ!けど、この喫茶店を一週間前に待ち合わせ場所に友人と決めた記憶だけはあるんだよ!ここに来たら何か記憶が戻るんじゃないかって、微かな希望を胸に必死で何もかも分からない状態で、やっと辿り着いた事をなぜ!感謝しないんだ!」
「もう言ってる事が、記憶を取り戻したいんだか、感謝されたいんだか、分かんないよ。」
「両方だ!!」
「欲張り!?てか普通、注文するか?記憶喪失の奴が必死になって、ようやく友人がいる喫茶店に辿り着いて、開口一番アイスロイヤルミルクティーって言うか?とにかくバッティングセンターに行こうとするか?」
「そうなんだから、仕方ないだろ?」
「いやもう、言おうよ!ごめんって、言っちゃおうよ!それで全てが丸く収まるんなら、言っちゃえよ!気分よく行こうぜ!バッティングセンターへ!」
「こしあんかと思って食ったらつぶあんだったのとは訳が違うんだぞ?そう簡単に謝れるかってんだ!」
「何を言ってる訳?」
「お前こそ記憶喪失の友人に対してあまりにもだろ!こっちは記憶を喪失してんだから、もっと優しくしろよな!」
「逆ギレ加減が凄まじいな。だいたい、今のお前からしてみれば、初対面の俺とよくこんなエキサイト出来るな。」
「今の俺には、そうする事しか出来ないからな。友人と思わしき人物に出来るだけ心配掛けたくないからな。気丈だよ!俺は!」
「いやもう、だいぶ最初の段階で、アイスロイヤルミルクティーの単語の次に記憶喪失って単語を耳にしちゃってるからね。いいから謝れって!別に怒ってないし、謝ればそれでいいんだからさ。」
「そんなに謝って欲しいのか?」
「いや、そうじゃないけど、2時間も待って何もないんじゃ、アレだろ?」
「何、アレって?そこ肝心だよ?そこはっきり言ってくんなきゃだよ?何ですか?何なんですか?アレって!」
「突っ掛かるなってば!だから、こっちはさ。2時間も待たされた訳なんだし、ごめんの一言でもあっていんじゃないのかなぁ?って事だよ。」
「じゃあ、無表情でいい?」
「何でだよ!」
「記憶喪失だからだよ。」
「今まで感情豊かに話してたじゃん!何で急に謝る時だけ無表情?」
「あれ?お前、髪切った?」
「なんて古典的な誤魔化し方だよ!って、記憶喪失の奴が、絶対にしちゃダメな誤魔化し方だろ!」
「実はな。」
「何だよ急に真面目な顔付きになって。」
「本当の俺は今、病院のベッドの上なんだ。」
「はあ?」
「待ち合わせの喫茶店に来る途中でさ。小型セスナ機に衝突されて、意識不明なんだ。けど、どうしてもお前に会いたくてさ。お前とバッティングセンターに行きたくてさ。魂だけ来ちゃったんだよ。」
「嘘、ヘタクソか!もう小型セスナ機との事故が本当だとしてもだよ!病院のベッドの上で意識不明が本当だとしてもだよ!魂が開口一番アイスロイヤルミルクティー注文するかよ!」
「するよ!アイスロイヤルミルクティー大好きなんだから!注文しちゃうよ!!」
「ええーっ?食い気味でキレる事?」
「てか、遅くない?」
「何が?」
「アイスロイヤルミルクティーだよ!」
「ああ、言われてみれば遅いな。」
「注文してから、だいぶ待ってるぞ?」
「忘れてんじゃないか?」
「こりゃもう、文句の一つでも言ってやんなきゃダメだな!」
「お前が言える立場かっ!」

第二百六十六話
「忘れ去られたアイスロイヤルミルクティー」

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2011年7月27日 (水)

「第二百六十七話」

 私は、この街に住んで99年になる。この街の商店街の第1号店である最初屋が誕生した年に、私も産声をあげたのだ。この商店街と共に私は成長し、人生を歩んで来たと言ってもいいだろう。この商店街の歴史は、私の歴史でもある。今では、数え切れない程の店が建ち並び、私がまだ幼かったあの頃と比べたら、この商店街も実に賑やかに、そして華やかになったものだ。新しい店がこの商店街に出来る度、足を運ぶのが私の楽しみの1つでもあった。
「・・・・・・・・・。」
しかし、そんな風に商店街と共に過ごしてきた私でも、まだ1度も立ち寄った事のない店が1つだけ存在した。その店は、商店街の大きなアーチ状の入り口を潜り抜け、最初屋側の通りを真っ直ぐ歩き、3つ目の信号を右に曲がりしばらく歩くと、ひっそりと昔と変わらぬ姿で佇んでいる。

第二百六十七話
「こっち屋」

この商店街には、奇天烈な店がたくさん存在している。しかし、このこっち屋以上に奇天烈な店は、地下商店街を含めても存在しないのではないだろうか?
「・・・・・・・・・。」
こっち屋の歴史は古く、私が小学生になる前にはもう、今と変わらぬ佇まいで存在していた。あの頃の商店街に建ち並ぶ店は、最初屋とこっち屋、それと私がこれから向かう行きつけの店を除いては、時代の流れと共に、全て地下商店街へと、その場所を移していった。幼心に感じた気持ちは、90年以上経った今でも何一つ変わらない。
「・・・・・・・・・。」
果たしてこっち屋とは、一体どんな商品を売っているのだろうか?その商品を一体どのようにして使うのだろうか?こうして毎回、こっち屋の前で歩みを止め『新しいこっち入荷しました。』の貼り紙を目にしては、好奇心と恐怖心とが混じり合った感情が、今でも私の中で躍動していた。それはもちろん、今日の今現在も変わる事はなかった。
「・・・・・・・・・。」
いつものように店の前に立ち、いつか店に入ってみよう。大人になったら、30を過ぎた頃には、いや40、50、60を過ぎた頃には、いやいや70、80、90を過ぎた頃には、今日こそは、今日こそは必ず。と考えているうちに、この歳になってしまった。
「・・・・・・・・・。」
友人や知り合いに聞いても、こっち屋へ足を運んだ者はいない。何度か店の前で、こっち屋へ入る者や、こっち屋から出て来る者を待った日もある。こっち屋について何でもいいから知りたいと言う好奇心を、幼心に抱いたこっち屋に対しての恐怖心が、私のそれを阻んでいるのだろうか?それとももしかしたら、この商店街を知り尽くした自分の中で、奇天烈なこの商店街の奇天烈な部分を1つだけでも残しておきたいと言う願望のようなものが、私をそうさせているのだろうか?
「・・・・・・・・・。」
100歳になった時こそはと、こうして今日もまた私は、こっち屋の前で少しだけ歩みを止め、少しだけ佇まいを眺め、少しだけその奥にある店内を想像し、少しだけ新しく入荷した商品を手にした自分を思い浮かべ、少しだけ昔を思い出し、少しだけ歴史を振り返り、少しだけ自分を取り戻してはまた、こっち屋の隣にある行きつけのあっち屋へと歩みを進めるのだった。

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