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2011年8月24日 (水)

「第二百七十一話」

「スタ。」
「スタって!?」
「スタスタ。」
「スタスタって!?」
「何だ、お嬢さん。やたらと人のスタに対して、文句があるみたいだなぁ。」
「も、文句って言うか・・・・・・・・・。」
「いいかい?昔っからだ。昔っからそうだ。人がこうして地面に軽やかに着地するときの擬音は、スタ、と決まってんだ。」
「それを自分で口に出して言いますか!?」
「他に誰も言ってくれないんだ。自分で言うしかないだろ?」
「いやいやいやいや!てか、そんな事なんてどーでもいいんですよ!空飛んでましたよね?」
「ああ、飛んでたよ。」
「ああって!?」
「何だ、お嬢さん。さっきからやたらと、じじぃの言う言葉に突っ掛かってくるけど、孤独な老人を虐待して、そんなに楽しいかい?アレだなぁ。この国も終わったなぁ。」
「虐待なんて!ぎゃ、虐待なんてしてません!」
「じゃあ、何だってんだ?見たとこ、この辺では見ない顔だし、葬儀屋でもなさそうだが?」
「葬儀屋って!?わ、私は、どこにでもいるしがないOLです。」
「見ての通り、わしは、こんなボロアパートに住んでる。財産なんて、雀の涙ほどもないぞ?」
「あのう?」
「何だ?」
「その、人をちょくちょく犯罪者目線で見るの止めてもらっていいですか?」
「あのなぁ?お嬢さんが逆の立場ならどうする?婆さんになったある日ある午後、イケメンに家の前までつけられて声を掛けられたら、どうする?」
「怪しみます。てか、つけてたの気付いてたんですか?」
「当たり前だろ?わしを誰だと思ってんだ。ボロアパートに住む孤独な老人だぞ?孤独死寸前だぞ?」
「いやちょっとその世界観笑えません。」
「ハイレベルなジョークを笑えないとは、この国も終わったなぁ。とまあ、それはそれで、ほらみろ!逆の立場なら怪しむじゃないか!まあ、わしの場合は、美女ではなく並だけどな。それでも怪しむには十分過ぎるってもんだ。」
「すいませんでしたね!美女じゃなくて、並で!」
「怒った顔もまた、並だねぇ~。」
「ケンカ売ってます?」
「勘違いしてもらっちゃ困るよ、お嬢さん?」
「ま、まあ確かに、何を言われようが、問答無用で後をつけてたのは、私です。失礼だと思いつつも興味本位だけで後をつけてたのは私です。それはもうどうしようもなくすいませんでした。」
「並好きも世の中には、たっくさんいる!頑張ってこー!」
「な、慰められてる!?そして励まされてる!?眉毛、八の字で慰められて、力なき拳を突き上げられながら励まされてる!?って、何で顔の事をそんなに言われなきゃならないんですか!」
「生きてれば、必ずきっといい事がある!いや、必ずきっとある!」
「何を否定して同じ言葉を繰り返した?って、肩ポンポンやめーい!!何で並がそこまで言われなきゃならないのよ!じゃあ、私が並以下だったらどうするんだ!」
「銀行を強盗する!」
「そんな汚い金で整形手術が出来るかーっ!!ふざけんな!あんた何様だ!」
「すまなかった。ただ勘違いしないで欲しい。そして、これだけは分かって欲しいんだ。」
「何をですか!」
「お嬢さんのお陰で、わしは犯罪者にならずに済んだ。本当にありがとう。ありがとう、並。」
「頭を上げて歯を食いしばれーっ!!!」
「本性を現したな?」
「何の話ですか!」
「やはり老人虐待か!」
「並なら誰でも沸き上がる感情だーっ!!」
「さてと、お嬢さん?」
「何ですか!」
「わしは、そろそろ家に帰りたいんだが?」
「いやいやいやいや!まだ、本題も何もないから!ただ、侮辱されただけだから!」
「わしは、常に他人に敬意を払って生きてる。他人を侮辱した事などない!」
「並って言ったじゃん!」
「侮辱ではない!真実だ!」
「時に真実は、他人を侮辱するんだ!」
「!?」
「な、何ですか?その驚愕具合?驚愕し過ぎて入れ歯が外れかけてますよ?」
「いやまさか、この歳になって、年下のお嬢さんから大事な何かを学ぶとはな。」
「学べきれてないんじゃん!」
「時に真実は、他人を侮辱する。」
「いやそれは別に、たまたま口から出た言葉であって、こんなに両手で握手されて感謝される事じゃありませんよ。」
「すまん!本当にすまん!わしは何て、バカなんだ!何てバカな事を言ってしまったんだ!嘘でもいいから美女と言えばよかったんだ!」
「いや、そう言う事ではなくてですね?」
「大きな嘘で真実を覆い隠して、それを胸にしまい込み、孤独死して行旅死亡人としてあの世まで持って行けばよかったんだ!」
「いやだから、その世界観笑えないんですってば!」
「そうか!いやしかし、本当に申し訳ない!」
「もういいですよ。」
「それじゃあ、縁が合ったらまた会おう!」
「いや、正義の味方ですか?てか、まだ何も聞きたい事を聞けてないんですけど?」
「お嬢さん?」
「な、何ですか?急にシビアな顔して!?」
「横文字はよく分からないが、それはわしが空を飛んでた事に関係してるんだろ?」
「も、もしかして、そこには何か重要な秘密が!?聞いてはいけない機密が!?って、顔近いです。」
「口臭がキツくて、すまん!」
「想定内です。でも、できればさっきの距離感でお願いします。」
「それで?」
「はい?」
「何が聞きたいんだ?」
「えっ?聞いていいんですか?」
「当たり前だろ。」
「国家機密とか、謎の研究機関とか、突然変異とかでは?」
「お嬢さん?何かの観すぎじゃないか?そんなもんに一般の日常生活内で出会えるはずがないだろ?」
「いやでも、空飛んでたし!駅前の喫茶店を出てすぐ空飛んでたし!しかも、普通に真顔でフワッと浮かんで、そのまま直立不動でスーッと空飛んでたし!」
「だから?」
「だからって!?だからの使い方理解してます?人が空飛ぶなんて有り得ないでしょ!絶対に!」
「何で?」
「何でって!?何でもですよ!ええ、それはとことん何でもなんですよ!」
「だが、お嬢さん?飛べるもんは飛べるんだ。生まれつきな。」
「生まれつき!?」
「そう言う家系なんだよ。父も祖父も、それこそずっと昔っから、わしの一族は空を飛んでたんだよ。」
「嘘っ!?」
「親と同じ場所にホクロがある。親と同じ場所に宝毛が生える。親と同じ様に空が飛べる。」
「言いたい事は分かります!でもこれは明らかに次元が!?」
「一緒だよ。一緒なんだよ。世の中にはさぁ。これはこうなんだ、あれはああなんだって、理由や原因を追い求めるより、それはそうなんだって事で簡単に解決しちゃわないといけない事があるんだよ。でなきゃ疲れるだけだ。疲れて得な事なんてないぞ?」
「・・・・・・・・・おじいさん。」
「空を飛べちゃうもんは、飛べちゃうんだ。どうしようもなく仕方無い事だ。だろ?」
「それはそうかもしれません。並の子は並かもしれません。」
「はははっ!いいジョークだが、次に使う時には気を付けた方がいいぞ?」
「何でですか?」
「美女が口にしたんじゃ聞いてる方は、笑えないからな!」
「えっ!?」
「さあ、風邪引かないうちに帰りなさい。楽しかったよ。じゃあな。」
「でも!」
「ん?まだ何か言いたい事があるのか?」
「傘は、さした方がいいですよ!」
「傘をさすとなぁ。なぜだか空を飛べないんだ。」
「そ、そう言う事ですか。」
「そう言う事だ。じゃあな。気を付けて帰るんだぞ。」
「は、はい。・・・・・・・・・・・・・・・何で飛ぶ必要性が?」

第二百七十一話
「雨の水曜飛」

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