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2011年8月 3日 (水)

「第二百六十八話」

「かなかなかなかなかなかな。」
蜩が鳴く凄く暑い夏の日。私は、叔父と二人で先祖代々続く昔ながらの佇まいを守る街並みと都会では味わえない緑豊かな風景に囲まれた場所を訪れていた。気ままな旅の途中ふらっと立ち寄った宿は、小さいけど超趣で超素敵なところだった。でも「風情ある旅館に殺人事件あり!」名探偵だった母の格言が私の頭を過ったのも事実だった。母の様な名探偵になりたい。母を殺した真犯人を捕まえたい。その一心で私は叔父の探偵事務所のドアを叩いた。って、別に私の話はどうでもよくて、その時はいつも唐突にやって来た。母の格言通り、この風情ある旅館で殺人事件は起きた。露天風呂で向日葵の間のお客さんが死んだ。外傷なし、普通なら単なる心臓発作や持病を疑うけど、そうはさせない謎のメッセージと次の犯行を促すメモが置かれていた。それを目にした私と叔父を抜かした宿の関係者を含めた13人の顔色が変わった事を私は見逃さなかった。何かある。私は、そう感じた。そして、私と叔父は、予定外の客。そう、犯人からしてみれば、招かれざる客。これはもしかしたら、私が名探偵になる為の試練なのかもしれない。だったら、次の犠牲者を出す前に、必ず犯人を見付けなきゃならない。隠された過去、隠された人間関係。憎悪、怨恨、殺意、その風の流れを誰よりも早く感じ取って犯人を探し出す。母がそうであったように!朝顔の間で私は固く決意したのだった。
「暑い!暑いって言葉しかないから暑いって言ってるけど!暑いの上を指す言葉が饅頭なら!昨日も今日も明後日も饅頭!」
「明日は?」
「明日ぐらいは暑い日であって欲しい。」
「意味分かんないし!」
とまあ、何と無く格好よさげに語ってはみたものの。現実は、別に旅の途中で偶然殺人事件に巻き込まれた訳でもなく、いつもの様に叔父の気まぐれと言うか、たまたま見てた雑誌で有名なお饅頭屋さんが紹介されてて、それを食べに来たらお饅頭を食べ過ぎてお腹を壊して、この向かいの宿にお世話になる事となった訳で、何ともまあ、超恥ずかしい感じで事件へと巻き込まれた訳なんです。
「お腹?大丈夫?」
「露天風呂に入ったら、すっかり良くなったよ!さすが腹に効く温泉は違うな!」
「目!目だから!」
「目も腹も同じだろ?」
「全然違うし!てか、よく人が死んでた露天風呂に入れるね。」
「いやいや、人が死んでようが生きてようが、そこに温泉があったら入るだろ!それが温泉ってもんだろ!」
「神経疑うよ。」
「てか、人が死んでようがここまで来て!その温泉を前にして!入らなかったって方が神経を疑うだろ!」
「で?犯人は分かったの?」
「犯人?そんなの夕食食った後でいいじゃん。」
「良かないから!それまでに次の犠牲者が出たらどうするの!幸い私達が探偵だって事はまだ誰も知らないんだし!調べるなら警戒心の無い今じゃん!」
「俺ね。私達じゃなくて、探偵は俺。お前は、助手代理。」
「だ、代理ってなによ!代理って!」
「犠牲者が出たら出たで、そりゃあ、そいつの運命なんだし、仕方ないさ。」
「はあ?????」
私の人生で大きな間違いがあるとしたら、叔父の探偵事務所のドアを叩いた事。母の弟だと思って、やっぱり名探偵なんだろうって、期待を膨らましてしまった事。超面倒臭がり屋で自由気ままな叔父の助手をしてても何の勉強にもならないし、名探偵にもなれないと気付いた時には、既に遅かった。あの事件の借りさえ無ければ、私はとっくに叔父の探偵事務所なんて辞めて、もっとまともな探偵事務所に入って今ごろは母の様な名探偵になってたはず!
「さてと!」
「何々!犯人分かったの?」
「飯の時間だ!確か、用心の為に、面倒臭い事に全員一緒に囲炉裏の大広間で食うんだったよな!」
「呆れた・・・・・・てか!叔父さんお腹痛かったんじゃないの!」
「ここら辺は、米が無茶苦茶美味いからな!きっと、それだけで腹一杯になるかもなぁ。いやいや、もったいない!もったいないって!なってたまるかっつぅの!」
「ねぇ?」
「ん?」
「ハメた?」
「ハメたって?」
「最初からこの宿に泊まるつもりだったんでしょ!腹痛嘘だったんでしょ!」
「さすが姉ちゃんの娘!そして俺の姪!」
「後半よけいだから!やられたよ。おかしいと思ったんだよね。尋常じゃない痛がり方のわりには、病院も拒否するしさ。」
「だって最初から宿に泊まるって言ったら断るだろ?まあただ、予定外な事が起きた。」
「殺人事件でしょ。」
「違う!予想外に饅頭が美味かった事だ!アレはヤバかったな!明日は、絶対に土産として買って帰ろう!」
「はあ???もう、次に殺されちゃえば!」
「おおっ!それはなかなか斬新な展開!じゃあ、俺が殺されたらその時は、お前が解決してくれよな!」
「次の犠牲者が出る前に!絶対に私が犯人を見付けるから!」
「そりゃあ、心強い!でもまあ、その前に飯だな!でもって、また温泉だな!で、また温泉!」
「何回入るのよ!」
「それがルールだろ?」
「そんなルール知らないし!」
「ほらほら、そんな事より大広間で皆さんが腹を空かせて待ってるぞ?」
「こんな時にお腹が減るのは叔父さんだけだし!」
部屋を出た私は、スリッパで終始、叔父の踵を蹴ったり踏んだりしながら囲炉裏の大広間へ向かった。
「痛いっつぅの!」
「何が?着いたよ。」
「えっ?おおっ!美味そう!」
「一人で食べてれば?その間に私が犯人を見付けるから!」
「はあ、まるで何だか皆さん。お葬式の様な雰囲気だね。」
「当たり前でしょ。てか、みんな気が気じゃないんだって、次は自分かもしれないんだから。」
「こんな雰囲気じゃあ、美味い飯も美味くないっつぅの!」
「美味く食べようとする方が間違ってんだって!」
「やれやれ。あのう?女将さん!あんた、犯人なんだからさぁ。さっさと警察に自首しちゃえば?」
「ちょっと叔父さん!何言い出すの!すいません!で?何で女将さんが、犯人なの?」
「知らないよ。」
「はあ????」
「ただ、何と無く、女将さんかなぁ?ってさ。」
「それっていつもの?」
「勘!」
「勘って!犯人なら犯人で、ちゃんと犯人だって事を証明しなきゃ!」
「いやもう、どうしてかは、警察が後からいろいろ調べれば分かる事だし、犯人は犯人なんだから、それでいいじゃん!」
「証拠も何も無いのに?」
「それが一番面倒臭いつぅの!証拠がどうとかってさぁ。何々?証拠ってそんなに大事?証拠があろうがなかろうが、動機が何だろうが、人を殺した事実は変わらない。証拠なんてもんはさ。」
「やめてよ叔父さん。いつもの言わないでよ。食事時だよ。」
「ケツを拭く紙みたいなもんだよ。欲望に負けてウンコしちゃったんだからさ。」
「言っちゃたよ。最悪。」
「それでも自分の無実を証明したいんなら方法は、ここにいる全員を殺すしかないね。てか、証拠とか過去の因縁とか見付けて女将さんを追い込むまでに、少なくともあと5人は死ぬね。そんなの長ったらしくて面倒臭いっつぅの!だからほら、表に警察呼んどいたから、さっさと行きなよ。警察でいろいろ過去のここにいる連中の悪事とかを言えばいいじゃん。」
「5人。マジ!?」
「マジ!俺には、女将さんが抱えてる怨恨とか興味無い訳。俺が興味あるのは、目の前の飯だけ!冷めないうちに消えてくれるかな?」
結局、叔父の推理?通り女将さんが犯人でした。宿を巡るトラブルが原因で、母である先代の女将さんを自殺に追い込んだ関係者への復讐だったようです。叔父は、事件には本当に興味が無かったようで、その経緯を聞いてもお饅頭屋さんが次の日、休みだった事の方がショックみたいだった。そして今、車の運転を私に任せて助手席で眠る暴挙に出ています。
「殺してやろうかな。」
「ごめん。」
「えっ?今更謝ったっ・・・何だ寝言か。」
「姉ちゃん。犠牲者が出る前に解決出来なくて・・・・・・・・・。」
まさか事件の風を感じて、それで今回の旅を計画したって事?まさかね。そんなまさかだよね。
「・・・・・・・・・叔父さん?」
「だから許して・・・・・・そんなに饅頭食えないって!」
「どんな夢よ!」

第二百六十八話
「連続殺人未遂」

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