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2011年9月 7日 (水)

「第二百七十三話」

「パオーン!」
昨日の夜、パパが象に乗ってご機嫌で帰って来た。
「今日から我が家の新しい家族だ!」
「パオーン!」
ボクは、まだまだ幼い。でも、分かる。象を家族にする事は無理って事。でもってきっと、簡単にパパみたいな一般人が、どっかから連れて来ちゃいけないんだって事。分かるんだ。子象にしてはでっかくて、象にしてはちっちゃい象を見てママは鬼になった。
「どーいうつもり!」
「だから!我が家の新しい家族だよ!」
「パオーン!」
「ほら!こんなに喜んでるじゃないか!」
「鳴いたからって、それが必ずしも喜んでるとは限らないでしょ?こんな所に連れて来られて凄く悲しいのかもしれないじゃない!」
「いいや!分かる!この鳴き方は、嬉しいんだ!凄く嬉しい時の鳴き方だ!分かるんだよ!」
「パオーン!」
「うんうん。そうかそうか。嬉しいのか。」
「ねぇ?」
「ん?乗る?」
「乗らないわよ!てか、降りて来なさいよ!いい加減、首痛いから!」
「しょうがないなぁ。怖いママですねぇ?」
「象、産まないから!産んだとしたら、張り裂けてアタシ、ここにいないから!」
「おいしょっと!で?」
「で?って、いろいろ聞きたい事はあるけど、まず!何?」
「象!」
「いや、知ってるから!そうじゃなくて!何で象なの?」
「新しい家族だ!」
「ペット?」
「家族!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ペット?」
「家族だって!」
「ペットを家族だって感覚の話?」
「違うよ!喪主って感覚の話だよ!」
「パオーン!」
「なぁ?そうだよなぁ?皆が死んだ時には任せたからな!」
「させるかよ!喪主!そもそも象に出来る訳がないでしょ!喪主!」
「出来るか出来ないかは!オレ達が死んだ時に分かる事だ!」
「何?じゃあ!象が葬儀の準備して!象が喪主の挨拶して!象が骨を拾って!象が香典返しして!象が納骨して!象が毎年墓参りしてくれんの!」
「するさ!全部が全部、正確かどうかとか、墓参りが毎年かどうかとかは分からないけど!するさ象は!」
「せめてお墓参りぐらいは、毎年しろよ!って、人でも大変な行事を象が出来るか!」
「象は、死を認識していると言われている。」
「だから?」
「するさ!象は!」
「いやしないでしょ!何の自信か知らないけど!しないでしょ!象は!お金の概念も電話掛ける概念も、そもそも喪服の概念もないじゃない!我が家の喪主を素っ裸でさせてたまるかよ!」
「まあまあ、それはこれからゆっくり覚えさせてけばいいじゃないか。さてと、風呂にでも入ろうかなぁ。身体中臭くて臭くて!」
「えっ?病気なの?」
「誰が?」
「パオーン!」
「こんなに元気だぞ?元気モリモリだぞ?心配しないでも、病気の疑いは無い!皆無!!」
「象じゃねぇよ!アンタだよ!」
「オレ!?いいや、腹の調子は絶好調だ!」
「何でお腹限定なのよ!頭よ頭!頭の中が病気なのって話!」
「何で?」
「もう、何でって聞き返す段階で病気よ!ねぇ?本気で象を新しい家族に出来ると思ってんの?本気で象が喪主出来ると思ってんの?てか、喪主とかって悲しい例え話やめない?」
「まあ、本格的に言えば、鼻で出来る事には限界があるだろうな。でも、本格的に新しい家族には迎え入れてやろうとは考えてるよ!」
「真面目な顔して、すっとんきょうな事、言ってんじゃないわよ!」
「すっとんきょうな事を言うのに、真面目な顔も不真面目な顔もないだろ!すっとんきょうってのは、受け止める側の感じ方であって、言ってる本人がどんな顔をしてようが!そこに、すっとんきょうは皆無!」
「何をすっとんきょうについて熱く説明しちゃってくれてんの?」
「パオーン!」
「パオーン!うるさい!」
「おいおいおい。象に当たるのは、お門違いじゃないか?」
「貴様が言ったんだろうが!パオーン!って!」
「誤魔化したんだ!何とかこの場を切り抜けようと、誤魔化したんだよ。すまない。」
「やっぱ頭の病気でしょ?何でパオーン!で、この場を切り抜けられると思った?」
「何と無くだよ。何と無く切り抜けられるかなぁ?ってさ。あれだぞ?オレだって隣に象が居なかったらパオーン!なんて言わなかったよ。居るから成立するんだろ?パオーン!は?」
「しないから!する訳がないから!」
「オマエ、随分と気難しくなったなぁ?」
「何が?」
「いいじゃないか。新しい家族だって言ってんだから、新しい家族で!」
「犬や猫とは、訳が違うのよ?しかも、何か知らないけど、マジの家族にしようとしてるじゃない!」
「大丈夫だって!心配ご無用!」
「だらけでしょ!心配だらけよ!」
「象はな。死を認識していると言われている。」
「武器、それだけ?アタシを説得する為の武器がそれだけで、よく立ち向かおうとしたわね?」
「大きな球体あるか?」
「はあ?」
「だから、凄く大きな球体だよ。無い?皆無?」
「そんな日常生活に不必要な物、ある訳ないじゃない。」
「なら、明日の朝一でホームセンターに買いに走らないとな!」
「いやだから、日常生活に不必要な物なんだから、ホームセンターに無いでしょ。」
「あそこは、日常生活に不必要な物でも売ってるからたぶんあるさ!」
「いや、それ以前に何で凄く大きな球体が必要な訳よ。」
「乗るんだよ!この象は!これがオレのリーサルウエポンだ!なっ?」
「いや、そんな芸を見たからって変わらねぇよ?凄い!新しい家族にしましょう!とか、ならねぇぞ?」
「何で。」
「もう、何でとかって問題じゃないんだなぁ?象、だからなんだなぁ?」
「なるほど!そこに引っ掛かってたのか!」
「そこ、しかないじゃん!」
「人間だ!」
「はあ?」
「オマエの目の前に居るのは、象っぽい人間だ!」
「パオーン!」
「パオーン!言っちゃってるじゃん。こんな大事な時期に。象っぽい人間にしては、象過ぎでしょ!」
「まあ、たまにはパオーン!と、言うだろう。オマエも言うだろ?パオーン!ってさ。」
「言わないわよ!今日、初めて口にしてるし!だいたい、コイツからはパオーン!以外に聞いた事が無いわよ!」
「今日はあれだな。たまにだらけな日なんだな。」
「たまにがだらけだったらそれは!常にだ!」
「ラッキーデイ!」
「誰にとっての?」
「我が家にとってに決まってるだろ!」
「決まらないでよ!てか、サーカスに返してきなさいよ。モノがモノだけに、こっそりって訳にはいかないだろうけど、大事にならない内に、ねっ?何ならアタシも一緒に行って団長さんに頭下げるから。」
「おいおいおい。オマエこそ頭の病気か?家族をサーカスに売り飛ばすって言うのか?やめてくれよ!」
「こっちが、やめてくれよ、よ!」
「乗る?」
「どのタイミングで促してんのよ!」
「足を曲げてさぁ!踏み台代わりにしてくれんだよなぁ!優しいよなぁ!」
「調教の賜物でしょ?」
「乗る?」
「乗りません!」
「こうやってさぁ!鼻にブラ~ンって遊んでくれんだよなぁ!やる?」
「やりません!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・やる?」
「やらない!」
「乗る?」
「乗らない!」
「結構な深さの川とかも渡れるんだぜ?」
「渡らない!てか、ブラ~ン、もういいわよ!目が散るからやめてよ!」
「ハイッ!」
「体操選手かよ!てか、近っ!臭っ!」
「とまあ、こんな感じかな?」
「ん?何が?何がこんな感じなの?」
「新しい家族だ!」
「パオーン!」
「ふーざーけーんーなーっ!!」
とにかく昨日の一悶着は、大変な一悶着だった。広くて大きな家でもボクの部屋まで、パパとママと象の声が聞こえて来て、眠れなかったぐらいだからね。
「ごはんよーっ!いつまで顔洗ってんのーっ!」
ママが呼んでる声で、ドジャーッて勢いよく流れ出る水の音に気付き、まあ新しい家族が増えなかったのは、少し寂しい気もするけど、それはそれで仕方無いかって感じで、よし!今日も一日元気に頑張ろう!とか、蛇口を鼻で閉めながらボクは、鏡の中のボクに向かって言ってみたりした。

第二百七十三話
「鏡の中の像」

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