« 「第二百七十九話」 | トップページ | 「第二百八十一話」 »

2011年10月26日 (水)

「第二百八十話」

 俺は今、緑色のカーテンの前で正座している。別に、カーテンの色が緑色だとか、俺が正座しているとかは、特に問題じゃない。カーテンの色は何色だっていいし、俺の座り方だって自由で構わない。じゃあ、一体俺は、緑色のカーテンの前で正座して何をしているのか?
「・・・・・・・・・。」
俺は、緑色のカーテンの前に正座して、緑色のカーテンの向こう側がどうなっているのかを考えているんだ。このカーテンをこの手で開けた時、その瞬間俺は、一体どんな光景を目にするのか?それを考えているんだ。いやきっと、100%いつもの街並みを目にするんだろうが、果たしてその100%と言う真実を100%に信じていいもんなんだろうか?
「・・・・・・・・・。」
だから俺は、仮病の連絡まで入れて事務所を休み、平日のど真ん中の目が覚めてから約2時間、電気も点けずにこうしてカーテンの前に座り、考えているんだ。一体今、このカーテンの向こう側は、どうなっているんだろうか?もしかしたら、既に人類が滅亡しているのかもしれない。カーテンの向こう側には、悉く街並みは無く、果てしなく滅しているのかもしれない。地球の暴走、自然の乱舞、宇宙の偶然、或いは・・・・・・。
「人類同時死!」
いやいや、それは考え過ぎだ。あまりに突飛で、逆に所謂な発想が、所謂過ぎる。人類が滅亡するなら、俺の存在は?このマンションの存在は?だがもし、仮にもう既に俺自身が死んでいるんだとしたら?その死に気付いていないのだとしたら?どうする?
「・・・・・・・・・。」
だとしたらまず、この足で脳の専門家のいる病院へ行こう。そこで専門的な診察を受け、専門的な治療を施して貰おう。なぜなら、死んでいる事に気付いていないナンセンス程、ナンセンスなもんは、この世に存在しないからだ。そもそもまず、耳から伝わるカーテンの向こう側からのいつもと変わらぬ日常音が、何よりもの証明だ。
「うん。」
だとしたらやっぱりカーテンの向こう側には、いつもの光景が展開しているのか?学校へ向かう子供達、会社へ向かう大人達、自転車に幼子を乗せ保育園に向かう親達、そして渋滞する車達。100%真実な光景が、当たり前の様に100%展開しているってのか?だったら俺は!俺は、緑色のカーテンの前で正座して一体何をしているってんだ!おいっ!
「ちくしょーっ!!」
いや、待て!待つんだ俺!ここは一旦、冷静になるんだ!怒りまかせにカーテンを開けるには、まだ早い!その決断は命取りだ!落ち着け、落ち着くんだ俺。そうだ、そう、ゆっくりと、ゆっくりとカーテンから手を放すんだ。
「・・・・・・・・・危なかった。」
100%真実の光景が展開しているとして、本当にそれが100%なのか?カーテンの向こう側の学校へ向かう子供達、会社へ向かう大人達、自転車に幼子を乗せ保育園に向かう親達、そして渋滞する車達の車内達をよく見てみろ。見渡してみろ。そこにいるは、本当に俺と同じ人間なのか?もしかしたら、着々と地球侵略を企んでいたあの、アアアッアアアーア星人かもしれないぞ!
「って面倒臭いかっ!」
俺は、宇宙人の名前を考える事すら面倒臭いのかっ!これは、違う!この感じは、違うぞ!この状況でこの緊張感だとしたら、断じて人類は宇宙人にこっそりいつの間にか摩り替わられてなどない!
「でも飛んでるかも!」
そう、カーテンの向こう側では、人が飛んでいるのかもしれないぞ!突然変異、ミッシングリンク!だとしたら俺は!
「飛べる!」
いや、それはすぐに答えが出る。いや、もう答えが出ているじゃないか。俺は、飛べない。正直に告白しよう。これは日々、俺が寝る前と起きた後に必ず確める事だ。つまり俺は、何だかんだとカーテンの前に座る以前から既に、それは解決済みの真実と言う事だ。
「明日こそは!」
もっとこう、真面目に考えようじゃないか。でないと所長に申し訳がない。その罪悪感から来る風邪で、本当に明日は事務所を休まなければならなくなってしまう。もっとこう、リアルに!そう例えば今までの地球規模での考えを捨て去り、対象を俺個人に切り替えたら?するとどうだ?どうなるんだ?一体、カーテンの向こう側には、何が待ち受けていると言うんだ?
「・・・・・・・・・そんなまさか!?」
いや、それは有り得ない。有り得る訳がない。カーテンを開けた向こう側に、死神やホウキに乗った魔女やもう一人の俺がいるならまだしも!その考えは、あまりにも非現実的過ぎるぞ!俺!
「そ、そうだな。」
ああ、そうさ。そうだよ。それはもう、本当に思考回路がショートしたとしか考えられない突飛で、脳の専門家の専門的な診察と専門的な治療が必要不可欠な発想だ。カーテンを開けた向こう側に、アアアッアアアーア星人が立っているだなんて、そんな考えでいたら俺は、これから一体どんな顔して宅配を受け取れって言うんだ!
「・・・・・・・・・。」
やっぱり、カーテンを開けてもそこは、いつものベランダ。いつもの街並み。いつもの人間模様。だとしたら、つまりあれか?やっぱりのやっぱりで、やっぱりそこには100%真実の光景が100%展開しているって言うのか?
「はあ~。」
ああ、そうだな。だとしたら、落胆ってヤツだな。分かる。分かるぞ、俺!今、落胆せずに一体いつ落胆すればいいんだ!ってヤツだな?だがまだ、落胆には早いんじゃないのか?俺!カーテンを開けて、そこに100%いつもの光景が展開しているとして、果たしてそれが現在と決め付けるのは、あまりにも早くないか?
「まさかの・・・タイム・・・スリップ?」
そう!みんなの憧れ!夢にまで見た!まさかのタイムスリップだ!時空を越えた事に気付いた時既に人は時空を越えている!と言う俺の格言がある様に、つまり既に俺は、現在には存在していない。俺タイムスリップ独自ルールとして、人は過去へ遡れないと言うのがある様に、だからつまり俺は今、何かしらで未来にいるのかもしれないとしたら?それはもはや、今日だと思っていたのが実は、明日なのかもしれない!それはつまり何を意味するのか?
「まさか!?」
「シャアアアアア!」
ああ、そうだ。そのカーテンの向こう側は、100%真実の光景が100%展開している。と同時にそれは、100%真実の光景が100%展開していないと言う事だ。分かるか?俺!分かっているのか?俺!!
「これは!?」
そう、俺にとっての明日もまた、世の中にとっての今日と同じ様に、平日なんだ。やけに、おかしいと思っていたんだよ。この寝覚めの爽快感、電話越しの所長との会話の不一致感。
「これが、カーテンの向こう側?」
ああ、これが、カーテンの向こう側だ。疑う余地もなく紛れも無い現実世界。カーテンの向こう側だ。俺の思う100%真実だと思っていた光景はそこには存在しなかった。ただ、やはりそこには100%真実だと言う光景だけが俺の100%を100%裏切り、100%展開していた。

第二百八十話
「1日無断欠勤」

|

« 「第二百七十九話」 | トップページ | 「第二百八十一話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/42095008

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百八十話」:

« 「第二百七十九話」 | トップページ | 「第二百八十一話」 »