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2011年10月 5日 (水)

「第二百七十七話」

 事件はいつも唐突だ。唐突だから事件であり、事件だから唐突なのだ。そう、そこには例外など存在しない。この商店街の特異な地下商店街でもまた、それは唐突起きる。これは、いつもの私の小さな事件簿である。
「おいおいおい。そりゃないだろ?刑事さん。」
この見るからにマジシャンな男は、地下商店街に店を構えるこのマジシャン屋の店主であり、今回の私の小さな事件簿の犯人だ。
「いやあ、マジシャン屋さん。惚け方が唐突ですねぇ。」
「惚けてなんてないさ。そりゃあ、マジックの道具として鳩は重要だよ。」
「やはり。」
「やはりってなんだよ!そのあからさまな、やはりってのは!あのな?刑事さん?だからって何でわしが向かいの小鳩を盗まなきゃなんないの?」
「マジシャンの道具に鳩が不可欠!小鳩屋の小鳩が盗まれた!そこに何かマジシャン屋の店主!貴方を疑わない理由が唐突に存在しますか?」
「するだろ!」
「それは、唐突な自供と考えて宜しいですね?」
「いやいや、どこをどう捉えたら、反論が自供に聞こえちゃうんだい!いいか?確かに鳩はマジシャンにとって必要不可欠だ。だかな?それはあくまで鳩であってだな。まだ小さな小さな毛も生え揃ってない小鳩の事じゃないんだよ。」
「ふむふむ。」
「いや、ふむふむ、じゃなくて!分かってんのか?小鳩を盗んだのは、わしじゃない。」
「わしじゃない。ですか。何ともまあ、犯人が唐突によく言いそうな言葉ですね。いや!実際、犯人が唐突に言いそうな言葉ランキング堂々の第1位です!」
「そこだけをピックアップすりゃあ、そりゃあ、そうだろうよ!あのさ?刑事さんさ?わしも暇じゃないんだよ。アンタに店の中ウロウロされたんじゃあ、商売にならないんだよ。それに、アンタだって暇じゃないんだろ?」
「ええ、事件はいつも唐突ですからね。まるで水滴屋の水滴の様に、生き物の如くその辺に隠れて、唐突に現れる機会を狙っていますよ。」
「そんなピンと来ない例え話なんて、どうだっていいから、もう帰ってくれよ。」
「これは?」
「ん?」
「この唐突に置いてあるステッキですよ。何なんですか?」
「商品なんだから唐突に置いてある訳ないだろ。ああ、それか。ちょっと貸してみな。」
「唐突ですね。」
「何がだ?いいか?見てろよ?こうすると、このステッキが一瞬にして生きた蛇に変わるんだ。」
「おおっ!!」
「そんな驚く事じゃないだろ。ステッキが何かに変わるのとかは、何かで見た事ぐらいあるだろ?」
「ええ、でもそれってあれですよね?マジックか何かなんですよね?」
「当たり前だ!何かじゃなくて正真正銘のマジックだ!マジシャン屋でこれがマジックじゃなきゃ何なんだ!」
「これは?」
「ん?」
「この唐突に置いてあるコップは?」
「唐突じゃないけどな。ああ、それか。そのコップに水を入れてハンカチで隠すと一瞬で中味が蛇に変わるってヤツだ。」
「まさか。」
「リアクションがいちいちおかしいだろ。友達の家に遊びに来た訳じゃないんだぞ?ほら、貸してみな。」
「唐突ですね。」
「順当だろ。いいか?コップいっぱいに、こうして水を入れだろ?」
「ええ。」
「で、こうやってハンカチを被せる。」
「ふむふむ。」
「ワン、トゥ、スリー、どうだ?」
「ええ、ツーの発音が唐突に素晴らしく良いですね。」
「どこに食い付いてんだ!じゃなくて、ハンカチの中のコップの中は今、どうだ?って事だ。」
「いや、水でしょ!何を言ってるんですか!大丈夫ですか?」
「アンタが大丈夫ですか?いいか?これをこうする。」
「こ、こうするってマジシャン屋の店主!?ハンカチごとコップを持って!まさかそれを私に?ちょっと待ちましょう!落ち着きましょう!そんな事をしたら、私は唐突にびしょ濡れ」
「ほれ!」
「うわぁぁぁぁ!!ぁ?濡れてない!それどころか水が一瞬にして蛇に変わった!?」
「いいお客さん過ぎだろ。」
「どうなってるんだ?マジシャン屋の店主!」
「簡単なマジックさ。」
「この化け物め!!」
「いや、大昔の人?」
「今の人だ!!」
「切り返しもおかしいし、銃を向けるのもおかしいだろ?何で事前にマジックの流れを説明してんのに、そのリアクション出来んだ?どんだけ純粋なんだよ!例えば水が紙吹雪に変わるとかってのなら見た事ぐらいあるだろ?」
「これは?」
「いやもはやマジック見たいだけだろ?小鳩が盗まれたのとか、どうでもよくなってるだろ。」
「私の質問に答えられないと言うのは、何かそこに気まずい真実が唐突に隠されているからですね?」
「刑事さんのリアクションが、いちいち面倒臭いからだよ。それは、ギロチンだ。」
「凶器じゃん!」
「いや、マジックの道具だよ。だいたいギロチン凶器にする人なんて聞いた事ないぞ?」
「道具?こんなもんでマジックが成立するのか?こうしてマジシャン屋の商品の中に犯罪で使用した凶器を唐突に隠しているだけなんだろ!」
「もう強引加減が物凄いな。なら、貸してみな。」
「唐突ですね。」
「刑事さんさぁ?その口癖やめた方がいいよ?」
「いいから早くマジックを披露しろ!」
「そのすぐに銃を人に向ける癖もどうかと思うぞ?だったら刑事さん。この穴に人差し指を入れてみてくれ。」
「嫌だよ!何で入れなきゃなんないんだよ!そんなとこに指入れたら切り落とされるだけじゃん!分かってて入れるかよバカ!絶対嫌だよ!」
「何だろうな?何かムカムカするこの感覚?じゃあ分かったよ。わしが人差し指を入れるよ。」
「お、おい!?正気か!?そんな事をして指が切り落とされたら、もうマジックが出来なくなるかもしれないんだぞ?いや、最悪の場合!出血多量で死ぬかもしれないんだぞ?」
「アンタがだよ!正気かは!いいか?こいして人差し指を穴に入れて、ギロチンを落とすとだな。」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「刑事さん?ちょっと?手で目を隠してないで、見てみなよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なっ?指は切り落とされてないだろ?」
「・・・・・・嘘だーっ!嘘だよ!だって、指の回りの穴に入ってた蛇は、切り落とされてんじゃん!これあれでしょ?私が両目を両手で隠してる間に、唐突に指を穴から抜いたんでしょ?そう言うマジックでしょ?」
「成功率低く過ぎだろ!普通ガン見だぞ!」
「分かった!一瞬にして縫合!」
「どんなマジックだ!だいたいそんな技術があるぐらいなら、マジシャン屋なんてしてないで、そっちの道へ行くよ。」
「夢かな?」
「このマジックで、そんな感じだったら、アンタきっとそのうち心臓止まって死ぬぞ?」
「心臓止まって生きてる仏さんがいてたまるかーっ!!」
「えっ?何でわしが怒られる?」
「おやおや?おや?」
「アンタの展開の方が、よっぽど唐突だよ。」
「このシルクハットは何です?」
「いや何かもう知ってる感じだろ!シルクハットから蛇が出て来るマジック知ってる風なアプローチじゃん!」
「出て来るんですね?」
「出て来ますよ。」
「鳩が!」
「蛇が。」
「小鳩屋から盗んだ小鳩が!」
「いや、業者から仕入れた兎を入れると、業者から仕入れた蛇に変わってな。」
「それは、子兎屋から子兎を盗んだ余罪も、唐突に自供したと考えて宜しいですね?」
「唐突過ぎだろ!だいたい子兎屋って何だ!子兎屋って!」
「だったら、何で兎が蛇に変わるんだーっ!」
「そんな感じのマジックだからだーっ!」
「マジシャン屋の店主?」
「何だい!」
「そんなに怒らなくってもでしょ。」
「いや、逆に今までよくぞ怒りを押さえてたと自分で自分を誉めてやりたいぐらいだよ。あのさ?刑事さんさ?見ての通りうちに鳩はいない。なっ?それでも私が小鳩さんとこの小鳩を盗んだ犯人って証拠が出て来たなら、そん時は罪を認めるよ。だからそこんとこ頼むよ。刑事さん!」
「分かりました。そこまで言うなら、もう一度捜査を洗い直しましょう。」
こうして、小鳩屋の小鳩が盗まれると言う私の小さな事件簿は、ふりだしに戻ってしまった。しかし、私は諦めない。この街の商店街の為、どんなに小さな事件簿だろうが、必ず私が解決してみせる。
「では、失礼します。」
「なあ?刑事さん?こう言ったらあれだがな。こう言うのはあれだ。警察にでも任せといた方がいいんじゃないのか?」
「・・・・・・唐突ですね。」

第二百七十七話
「刑事屋」

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