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2011年11月23日 (水)

「第二百八十四話」

 僕は、クイズショーの途中で流れた臨時ニュースを見終わると、まだ太陽が空の真上にあるベランダに出て、ただ何と無く、本当に本当にただただ何と無く、この高層な建築物が建ち並ぶ景色を眺めていた。
「本当かなぁ?」
そして、今さっき臨時ニュースで流れた音声と映像を思い浮かべながら、現実感の無い現実をさ迷っていた。
「だとしたら、ちょっと参ったなぁ。」
人が想像した事は、実現出来る。的な話を聞いた事があるけど、人が想像しない事もまた、実現されちゃうんだなと、思った。ニュースキャスターの慌てる様が、ちょっとだけ滑稽に見えたけど、500近くあるチャンネルのどのニュースキャスターも慌てているとそれはもう逆に、戦慄以外の何物でもなかった。そしてふと、これももしかしたら、どこかで誰かが想像した事で、それが実現されているのかも?って思った。思ったけど、こんな馬鹿げた想像する暇があるんだったら、もっと画期的な想像をして欲しかった。と同時に思った。
「どうしよう。」
と、呟いてみたものの、これは果てしなくどうしようもない事だった。仮にこの事態をもし、どうしようもなくはない状態に出来る人がいるんだったら、それはもはや人ではなく、神しかいない。
「地球消滅かぁ。」
ニュースキャスターが言うには、どうやら地球に地球と同等のサイズの隕石と思わしき物体が、間も無く地球に衝突するらしい。これはもう、氷河期とか言う問題を遥かに飛び越えた話で、地球そのものが粉々に砕け散るんだから、再生も進化も未来もあったもんじゃない。
「なにも今日じゃなくてもなぁ。」
何で今の今までその事態に気付かなかったんだ!とかで、きっとどこかの回線はパンク状態なんだろう。でも、今の今までその事態に気付いていたとして、さてと一体、我々人類に逃げ場なんてあったんだろうか?そんな愚かな抗議をしている暇があるんだったら、愛する人と出来るだけ長い時間、愛を共有する方が、よっぽど有意義ってもんじゃないかな?
「はぁ。」
しかし、どうして今日なんだ?明日とかじゃダメだったのかなぁ?いや、別に僕は、地球は死ぬ生物だし、人間なんてもっと簡単に死ぬ生物なんだって思っているから、間も無く死ぬ事に対して、あんまし興味は無い。現実味が無いのもそうだし、もしかしたら、絶対的な絶望を叩き付けられたら、人はこんな感じなのかもしれないかもだし、けどそこにもう少し興味があったんなら、たぶんベランダに出て、こんなにもぼんやりと、景色なんて眺めていないんじゃないかって思う。
「プロポーズ、言えなかったなぁ。」
今日のディナーの時、僕は彼女にプロポーズしようと決めていた。この数日間のドキドキっぷりを考えると、やっぱしプロポーズの言葉を伝えたかった。昨日の後悔を振り返るより僕は、明日の後悔を見据える気持ちの方が強かった。だって、だってそりゃあ僕の心は揺るぎなく今日のディナーで固まっていたんだから!でもまあ、今すぐ彼女と連絡が取れる手段があるなら、きっとプロポーズの言葉を伝えているとは思う。けど、その全てが断ち切られた今となってはもう、こうしてベランダで、ただただ何と無く景色を眺めている事しか出来ない。
「うーん?やっぱし伝えたかったなぁ。」
「伝えられるさ!」
「えっ?」
その低い年老いた男性の声は、下の方から聞こえて来た。
「5階さん?」
「伝えられる!」
ベランダの手摺に乗り出して、下の階を覗いて見たけど、あいにくこのマンションの構造上、覗くにはちょっと無理な構造になっていた。いやいや、こんな乗り出すとかより先に、どんな事より先に僕は、今までの呟きを全部聞かれていた事への恥ずかしさで、本当は部屋の中へ飛び込みたい気持ちだった。でもそうしないで乗り出したのは、やっぱし5階さんの言う言葉がちょっと気になったからだ。
「伝えられるってだって、ニュース観ました?」
「地球消滅だろ?」
「そうです。」
「だからどうした!」
「いや、だからどうしたって、だから地球が消えて無くなるんですよ?もう、伝えるもどうも無いじゃないですか!」
ん?どうしたんだろう?どうして僕は、ちょっとだけ熱くなっているんだろう?分かってる。分かっているんだ。きっと5階さんは、こんな僕に希望の言葉を投げ掛けてくれているんだ。絶望に絶望している訳じゃないけど、そこに希望の無い僕へ希望を投げ掛けて来てくれているんだ。それに対して僕は、一体どうなんだ?まるで正論じゃないか。諦め全開じゃないか。悟った風に装っちゃてバカか?人生最期の素敵なユーモアを投げ掛けて来てもらっているってのに、何をそんなに冷めた感じで熱くなっちゃってんだ?ってんだよ!
「あのう?すいません!」
「何を謝っているんだ?」
「いや何かせっかく5階さんが、そのう?こんな時なのに、あのう?僕に希望を持たせようとしてくれたのに、素っ気無い返事をしてしまって、本当にごめんなさい。」
「ハッハッハッ!何かと思えばそんな事で謝っていたのか!気にする事なんて無い!君が気にしなきゃいけないのは!いつ!どのタイミングで!どんなトーンで!どんなニュアンスで!どんな温度で!そのプロポーズの言葉を口にするかだろ?」
「えっ?ああ、そうです!そうでした!あっでも、それを考えたら何かちょっと、ドキドキしてきちゃいました!」
「ハッハッハッ!」
「アハハハハ!」
良かったのかもしれない。いや、良かったんだ。この人が5階さんで、この最期の時、その5階さんとこうして笑い合いながら地球と共に宇宙に散れて、この終わり方も、満更悪くはないのかもしれない。
「ハッハッハッ!」
「アハハハハ・・・・・・ん?」
そしてその時はやっぱしそれはそれで、現実感も現実味も無い現実に、無情にも訪れた。
「暗くなって来た。いよいよ終わりですね。最期に5階さんとこうして、お話が出来て良かったです。ありがとうございました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「5階さん?」
どうしたんだろう?さっきまであんなに笑っていたのに、もしかして最期の最期で5階さん、急に感傷的になっちゃったのかなぁ?まあでも、それはそれで仕方無いか。5階さんにだっていろいろ・・・・・・・・・。
「えっ!?」
ちょっと待った!?僕の真下の部屋って、誰も住んでない!そう確か、ずーっと空室だったはずだ!じゃあ?じゃあ僕は一体、今まで誰と会話してたんだ!?誰と笑い合ってたんだ!?
「あのう!って、えっ!!?」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
どうしたんだ?揺れてる!隕石の影響か!?
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
「5階さん!大丈夫ですか?」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
「5階さん!!」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
「ぷっ!」
あれ?
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
どうしたんだろう?
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
何か僕、必死にベランダの手摺にしがみつきながら、笑っているぞ?でもまあ、それもそうかなぁ?笑っちゃうか。だって何かあれだもんなぁ?僕の最期は、随分と不思議な最期だったもんなぁ。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
「必ず渾身のプロポーズの言葉を伝えるんだぞ!」
「5階さん!?」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「5階さん!!」
一体何をしているんだ?もう真っ暗闇で何も見えない。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」
ああ、終わるんだ。終わっちゃうんだ。さよな
「コノヤロォォォォォォォ!!地球なめんじゃねぇよっ!!!」
「はい?」

第二百八十四話
「地球に右腕が生えた日」

粉々に砕け散った隕石の破片が降る景色をただただ茫然と眺めながら
「・・・・・・・・・あれ?レストランって今日、営業するのかなぁ?」
僕は、呟いた。

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