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2011年12月

2011年12月 7日 (水)

「第二百八十六話」

「いや、何で?」
「何で、と言われましても困ります。」
ぽい部屋に、ぽい年老いた男と、ぽい年老いた男がテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
「何でと言うだろ。」
ぽい白い服に身を包んだ男は、だいぶ前からイライラしていた。
「まあ、何でと言うかもしれませんね。」
ぽい黒い服に身を包んだ男は、だいぶ前から落ち着いていた。
「ならアンタ、そりゃ冷やかしって言うんだぞ?」
「冷やかし?私は決してその様な気持ちで、この研究所に足を運んだつもりはありません。」
「だったら!アンタの超能力とやらを見せたらどうなんだ!」

第二百八十六話
「完全超能力者」

ぽい白い男は、沈黙したぽい黒い男に堪らず席を立ち、ぽい部屋をぽい髪をグシャグシャとかきむしりながらウロウロし、ぽい窓の前に立ち、ぽい景色をしばらく眺めると、深く深呼吸をし、再び席に着き、ぽい黒い男を前にし、話し出した。
「ここは、この世界の科学の最先端を行く研究所だ。で、その片隅にひっそりと存在するこの部屋は、月に数人やって来る不届き者を判定する部屋だ。やれ、自分は物体を宙に浮かす事が出来るだの。やれ、自分は念写が出来るだの。やれ、自分は透視が出来るだの。やれ、この子にはテレパシーがあるだの。念力、発火、予知、消失、瞬間移動、エトセトラ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「簡単に言うなら、超能力と言う非現実的な力が自分にはあるんだと、科学者のお墨付きをもらう為に、わざわざお粗末な宴会芸を披露しに来てくれる訳だよ。時には、いい暇潰しにはなるが、それ以上にはならない。逆に研究の邪魔になる事が多々、と言った具合だ。」
「私は、本物の超能力です。」
「それはもう、何度も聞いたよ。それに、その魔法の言葉を唱えなきゃ、ここにこうして来れなかっただろうし、私にも会う事はなかったろうからな。」
「完全超能力者。私は、自分の事をそう呼んでいます。」
「全ての超能力が使える。アンタは、私が席に着くなりそう口にした。」
「ええ。」
「で、私は手始めにカードを透視してみてくれと、頼んだ。」
「ええ。」
「そしたら、アンタはこう言った。出来ません、と。」
「ええ。」
「確かそう、部屋の時計が正確で、私の記憶が確かなら、2時間前の話じゃなかったかな?」
「ええ。」
「あれから私は、私の知る限りの超能力を見せてくれと、アンタに頼んだ。だが、アンタの答えは決まっていつも、出来ません、と来たもんだ。」
「ええ。」
「これのどこが冷やかしじゃないと言うんだっ!」
ぽい白い男は、堪らず両手でテーブルを叩いた。砂糖とミルクたっぷりのコーヒーとブラックコーヒーが、コーヒーカップから少しだけテーブルへこぼれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ぽい部屋に暫く沈黙が流れると今度は、ぽい黒い男が話し出した。
「本物の超能力者にとって、超能力と言う力が、どの様な存在だかを考えた事がありますか?」
「あいにく、本物の超能力者に出会った事がないからな。考えた事はないが、きっと便利で優越感に浸れる力なんじゃないか?それに、簡単に金儲けも出来るしな。」
「どうやら博士、貴方は超能力者の事を何も分かってはいないようですね。」
「何だって?」
「優越感に浸れる。金儲けが出来る。明るく楽しい人生を歩める。エトセトラ。」
「何が言いたい?」
「つまり、それら全ての欲望的観点からの素晴らしくハッピーな発想は、超能力を持たない人間から生まれて来るものだと言う事ですよ。」
「なに!?」
「簡単に言うなら、病気で学校を休んだクラスメイトを羨む、健康な子供の発想とよく似ている。」
「空を飛べたり、壁をすり抜けられたり、時間を止めたり、時間を戻したり、手を使わず自由に物を動かせたり、瞬時に移動出来たり、相手の考えてる事が分かったりしたら、楽しいじゃないか。」
「博士?その発想が既に、健全な人間の発想なのです。」
「すると何か?アンタ達超能力者ってのは、それが苦痛なのか?嫌で嫌で仕方無いのか?」
「ええ。」
「バカな!?」
「私達は、超能力と言う特殊な力を与えられた代わりに、とても大きなものを奪われたのです。」
「奪われた?何を奪われたと言うんだ。」
「普通に生活すると言う、在り来たりで単純な、人の一生です。」
「何を言い出すのかと思ったら、そんな事か。そんな事で、誰もが羨む力を手に出来るなら、いいじゃないか。」
「ふざけるな!」
「!?」
今度は、ぽい黒い男が両手でテーブルを叩いた。そのいきなりの出来事に、ぽい白い男は驚き、ただただ唖然としていた。
「取り乱してしまって、すいませんでした。」
「あ、ああ。」
「誰もが羨む力ですか。しかし、博士?現実は、そう簡単には我々を生かしてはくれません。本物の超能力を前に人間とは、恐怖するのです。それはもう、想像以上にです。まるで化け物を見る様な目で恐れ、超能力を妬み、腫れ物に触るかの様に遠ざかって行くのです。最終的に私達に残される道とは、社会から突き放された孤独。本当の自分を隠すと言う偽り。真実を語る事が許されない幽閉。光の下での闇の人生。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「それが、本物の超能力者が人前に現れずにいる存在理由です。」
「いやしかしだな。実際に警察の捜」
「それは、中途半端な超能力者だからです!」
「なに!?」
「本物の超能力者ならば、失踪者や行方不明者、殺人犯の発見率は100%!いや、むしろ事件すら未然に防ぐ事が可能でしょう!」
「バカな!?」
「事件にならなければ、事件を事件として認識出来ない貴方達には、理解出来ない領域です。」
「どう言う意味だ。」
「私も以前、予知夢で何度も殺人事件や放火などを未然に解決しました。もちろんそれは、個人的にです。しかしどうでしょう?事件にならないのですから、加害者も被害者もその事実を認識せずに今も普通に日常生活を送っている。事件にならないのだから、誰もその事実を信用しようとはしない。」
「当たり前だ。アンタの言ってる事は、アンタの妄想が作り出した殺人事件なんだからな!」
「なら博士?娘さんが殺されていた方が良かったと?」
「何だと!?」
「ハイスクール時代に殺されていたら、3人のお孫さんの顔も見る事は出来なかったのですよ?」
「・・・・・・ジョークだろ?」
「こうしていつもいつも、人助けがジョーク扱いになってしまう。そんな現実に堪えられる超能力者など存在しません。なぜなら、本物の超能力者と言えども、心は普通の人間と何一つ変わらないのですから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ぽい白い男は、ぽい黒い男から目線を外さず、深く深呼吸をした。いや、正確には目線を外す事も瞬きをする事すらも、出来なかった。そして、ゆっくりとぽい白い男は、話し出した。
「そこまで言うのになぜ、アンタは、私に超能力を見せようとしないんだ。」
「だから、何度も言っているじゃありませんか。出来ません、と。」
「つまりそれは、今までの話が虚言と言う事か?」
「虚言ではありません。そして私は、こうも言いました。私は完全超能力者、だと。」
「だから、全ての超能力が使えるんだろ?だったら、今すぐにでもそれを証明したらどうなんだ。」
「証明するもなにも博士?私は既に、超能力を使っています。」
「な、なに!?」
「本物の超能力者が羨む超能力。」
「超能力者が羨む超能力だと?」
「ええ。長年の独自の研究で手にする事が出来たのですよ。」
「一体その超能力とは、何なんだ。」
「超能力を消し去る超能力ですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そう言うと、ぽい黒い男は、ぽい白い男を残し、ぽい部屋を出て行った。そして一人残された、ぽい白い男は砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がり、ぽい髪をグシャグシャかきむしりながらぽい窓の所へ行き、ぽい景色を黙ってしばらく眺めると、ぽい部屋のぽい黒い男が出て行った、ぽいドアを見ながら言い放った。
「何じゃそりゃ!!」

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2011年12月14日 (水)

「第二百八十七話」

「あ~??」
「だーかーらー!ミサイルだよ!ミ・サ・イ・ル!シュパ~ン!ってさ!でもしミサイルが無理なら!爆弾でもいいよ!ドガ~ン!ってさ!」
「ガキ?ここがどこだか分かってそんな無茶苦茶なオーダーしてんのか?」
「自転車屋だろ?そんなの分かってるに決まってンじゃん!ああっ!それかさ!それかさ!何か金属とかを溶かしちゃうビームとかは?無理?」
「無理に決まってんだろ!アニメか?アニメーションの観すぎか?だいたい何で自転車にそんな機能付けたいだよ。」
「クラスにいじめっ子がいてさ。」
「この世から消す気か!」
「だっていっつも僕の事、いじめてくんだぜ?」
「仕返しの発想が反比例しすぎなんだよ!たかが小学生のいじめだろ?んなもん自分の拳でやり返しゃいい事だろ!」
「ぼ、暴力!?」
「ガキに拳を否定されたかねぇよ!」
「おじさん!たかがって言うけど、今時の小学生のいじめは、そりゃもう凄まじく残酷で!かなり冷酷なんだぜ?」
「で?お前は一体どんないじめにあったんだ?」
「笛を隠されたり、ジャンケンで後出しされたり、テレビゲームで勝てなかったり、かと言って携帯ゲームでも勝てなかったり、こないだなんて!鼻かんだ後のティッシュを広げて見せてきたんだよ!どーよ!」
「どーよって、ガキ。どーでもいいよ!ほっこり感満載が否めねぇじゃねぇか!終始笑顔で見てられるじゃねぇか!むしろそれで、仕返しがミサイル発射だったら、お前が巨悪だ!」
「まっ、大人には、分からないんだよ。その辺の子供事情をさ。」
「お前、場所が場所で事が事ならその思想、国際指名手配もんだぞ?」
「嬉しい事、言ってくれるじゃんか!」
「誉めてねぇよ!これっぽっちも!」
「とにかくだよ!おじさん!この世に肉片1つ残さないような強烈なフラッシュのライトだけでもお願い!お願い!!」
「いや、今までで1番の強烈なオーダーじゃねぇか!」
「そこを何とか!」
「拒んでねぇよ!自転車屋には、無理なオーダーだって言ってんだよ!」
「何だよそれ~!じゃあ、何が出来んの?」
「何って、そりゃあ、自転車屋なんだから、パンク修理したり、タイヤに空気入れたり、それから?」
「普通じゃん!」
「おう!普通だよ?普通の何が悪い!普通に自転車売って、普通に自転車修理して、普通にお金もらって、その金で普通に飯食って、普通に寝て、そんな普通の生活して、そんな普通の自転車屋として人生の幕を下ろして何が悪い!」
「自爆は?ほら、ボタン押して自転車突っ込まして、ドガ~ン!ってさ!」
「俺の自転車屋人生の話は?ほったらかしか?てかなぁ?なぁおい!ガキよ!その独特な観点からの話は、やめにしないか?」
「どーしてだよ!どーして、いじめっ子が生きてなきゃならないんだよ!いじめっ子が生きてる限り、今もどこかで誰かがいじめられてるんだぜ?そんな奴等が、この地球上で僕等と同じ風にのうのうと生きてちゃダメなんだ!根刮ぎジェノサイド!」
「いじめられてないだろ!お前は!だいたい、いじめっ子を撲滅すんのに自転車使うんじゃねぇよ!てか、その独特な発想をまず!どうにかしやがれ!」
「だったら!自転車のブレーキは何の為に付いてんだよ!いじめを止める為にだろ!」
「いや、自転車を止める為にだろ。自転車を止める為だけにだろ。それ以外でもそれ以内でもないだろ。そんな自転車のブレーキに、社会問題をどうにかさせようとしてくれんな!」
「ああ!もう!無いの?サブマシンガンとか!」
「もはや、自転車屋関係ねぇじゃねぇか!何だ!一瞬でも俺が武器商人にでも見えたのか?んな危なっかし代物、自転車屋にある訳がねぇだろ!」
「ダイナマイトは?」
「ねぇよ!」
「刀は?」
「ねぇよ!」
「殺し屋は?」
「いねぇよ!」
「チェーンは?」
「あるよ!自転車屋だからな!絶対に盗まれないチェーンがありやがるよ!てかな?いじめっ子(仮)よりも、むしろ俺は、お前をどーにかしなきゃって考えてるよ!」
「はあ?何で!」
「何でって?そんな簡単に、人の命を奪おうとなんて考えちゃいけねぇよ。そりゃあ、いじめが好きでいじめをしてる奴もいるだろうよ。だがな?みんながみんな好きで誰かをいじめてる訳じゃねぇんだよ。いじめっ子にもいじめっ子なりの悩みってもんがあるんだよ。」
「だからって、誰かをいじめていい訳ないだろ!」
「そりゃあ、そうだ。初めていい事を言ったな。だからこそ、俺等大人がちゃんとしなきゃならねぇんだよ。お前らガキどもを!いじめから守ってやらなきゃならねぇんだよ!」
「猛毒ならある?」
「いい話感をゼロに戻すようなオーダーしてんじゃねぇよ!ある訳がねぇだろって!」
「もう!おじさんの言ってる事、さっぱり分からないよ!おじさんが何にもしてくんないんだったら!もう自分でどうにかするよ!」
「おいおいおい、一体何を仕出かすつもりなんだ?」
「決まってるだろ?背中にカエル入れてやるのさ!あと、水鉄砲でオシッコ漏らしたみたいにしてやるんだ!」
「おいおいおい、何なんだよその自力と他力の激しい落差の仕返し法は?」
「これだから大人は、困っちゃうよ。」
「何がだ?」
「いい?水鉄砲でオシッコ漏らしたみたいにするってのは、言わば核兵器に匹敵するんだぜ?んで、アイツの大嫌いなカエルを背中に入れるってのは、この宇宙が消滅するに匹敵するんだぜ?分かる?」
「さっぱり分かるかーっ!なら、始めからそうやって、和気藹々やってりゃいいだろ!」
「じゃあ!水鉄砲買ってくれよ!」
「お門違いだろ!何で俺が水鉄砲買って上げなきゃならねぇんだよ!頼む相手間違っちゃいねぇか?」
「おばさーん!」
「何でだよ!お前は、家の財政危機の根源か!火の車大暴走させる気か?んな代物、親に頼めばいいだろうが!」
「親は、そのいじめっ子に殺されました。」
「どんな独特な展開だよ!」
「なら、来週発売のゲームソフト買ってくれよ!」
「んな代物、サンタクロースにでも頼んどきゃいいだろうが!」
「じゃあ!自転車のカゴにサンタクロース付けてくれよ!」
「何がどーなっちまったら、そーなっちまうんだい!」
「ちぇっ!」
「何だ、おい?随分とはっきり声に出して舌打ちしてくれるじゃねぇか!」
「だって、自転車屋なのに何にも出来ないんだもん!」
「お前のオーダーに全て応えられる自転車屋があったなら、俺は裸で逆立ちしてこの商店街を2周してやるよ!」
「2周かよ!」
「どこにクレームをオーダーしてんだ!」
「ちぇっ!」
「とにかくだ!ほら、パンクは修理しといてやったから、これでまたおもいっきり走って、風にでもなりゃあ、んなどーでもいいような事、どーでもよくなっちまうよ!」
「ありがとう。」
「そーだよ!ガキは、そうやって、素直なのが1番だ!」
「ああ~!もう!いい子いい子とかやめろよな~!」
「いーじゃねぇか!」
「髪の毛グシャグシャじゃんかよ!もう行くよ!」
「あとなぁ?」
「何?」
「あんまし脱出装置使って遊ぶんじゃねぇぞ?サドルがぶっ壊れそうだったぞ?まあ、そりゃあ、サービスで修理しといてやったけどな!」
「う、うん分かった。ありがとう!」
「おう!じゃっ、家の自転車、大事に乗ってやってくれよ!」
「ほ~い!」
「デハ、坊ッチャン。サイクリングニデモ出発致シマショウカ。」
「うん!じゃっ!おじさん、バイバ~イ!」
「すっ転んで怪我すんじゃねぇぞ!」
「分かってるって!」
「ジェットブースター始動マデ5秒前!4、3、2」
「おいおいおい、本当に分かってんだろうな?」
「1、点火!」
「いぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!!」
その自転車屋は、商店街を見下ろす丘の上に、とても大きく店を構えて、営んでいた。
「やれやれ、あれじゃあ、すぐにまた、パンク修理に来ちまいそうだな。」

第二百八十七話
「丘の上の自転車屋」

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2011年12月21日 (水)

「第二百八十八話」

「ここは?」
「もしや?記憶を無くされたのですか?ここは、貴方の家です。」
「ここが僕の家?」
「ふふっ。」
「キミは?まさか!?僕の孫かい?」
「いいえ。違います。」
「なら、キミは?」
「殺し屋です。」
「殺し屋!?」
「ふふっ。そんなに驚かなくても。」
「な、何が可笑しい!」
「いえ、何でもありません。」
「何でも無い訳がないだろ!祖父と孫の関係性ならまだしも!屋敷の主と殺し屋の関係性だぞ?」
「う~ん?・・・・・・・・・有りがち?」
「無いがちだ!」
「まあまあ、そんなに興奮しないで下さいよ。」
「さてはアレだな?」
「アレ?」
「そうだ!アレだ!」
「アレ??」
「アレに決まってる!」
「もしかすると?ミーが貴方を見て笑ったのは、こんな状態の貴方なら、いとも簡単に殺せる、から?、とか?」
「そうだ!それだ!それしか考え付かない!」
「どーして?」
「どーしてもこーしても、目の前に殺し屋だって名乗る人間がいたら!名乗られた側がまず1番に考え付く考えだからだ!」
「う~ん?・・・・・・じゃあ、アレだなぁ?」
「アレ?」
「うん、アレ。」
「何だ?アレとは?」
「アレです。だったら、アイドルとか言っちゃえば良かったなぁ?って、ね。」
「だったらだったで、僕は記憶を無くす前の僕を疑うよ!年甲斐もなく何をしてんだって、一言物申したいよ!」
「そんなぁ。アイドルを好きになるのに、年齢とか立場とか関係無いですよ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・殺し屋なんだよね?」
「はい!」
「か、仮にキミがアイドルだったら、それはそれで何か僕が誘拐した事になるじゃないか!」
「どーしてそう、なっちゃうかなぁ?階段みたいなとこから落っこちたミーを、貴方が命懸けで助けてくれたのかもですよ?」
「で、僕をキミが病院まで連れてってくれて、病院から家まで連れてってくれて、ずーっと今まで看病してくれてたって言うのかい?」
「はい。」
「アイドルなのにかい?毎日毎日、忙しいって言うのにかい?」
「アイドルだからとか関係無いですよ。アイドルだって目の前で困ってる人がいたら、助けたいって気持ちは、みんなと一緒でしょ?」
「って、殺し屋なんだよね?アイドルじゃなくて?」
「はい。アイドルじゃなくて、殺し屋です。」
「じゃあ、今の話を殺し屋に置き換えてだね。僕はたまたま殺し屋のキミが、階段みたいなとこから落っこちたのを助けたって事でいいのかな?」
「いくないです。だって今のアレは、あくまで私がアイドルだったらバージョンのフィクションですから。」
「ならやっぱり僕を殺すつもりなんだろ!」
「う~ん?記憶を無くす人、何人か見た事ありますけど、ここまで記憶を無くす前と無くした後とで、価値観が全く変わってないと、本当に記憶を無くしてるんだか、疑ってしまいますねぇ。」
「それはアレかい?」
「アレです。」
「僕って人間の記憶だけ無いバージョンってヤツかい?」
「御名答!」
「なら、キミは一体?まさか僕が雇ったとでも!?」
「御名答!」
「馬鹿な!?何の為に!何の為に僕は殺し屋なんて!?しかも少女!?」
「その少女ってとこは、余計です。これでも成功率3桁に近いんですよ?」
「何が起きてるって言うんだ!?何が!ああーっ!果てしなく思い出せないー!」
「あのう?ミーの話、聞いてました?」
「なあ!」
「うわっ!?」
「お願いだ!教えてくれ!僕が記憶を無くすまでの事を!頼む!」
「分かりました。の前に、手、放してもらえると話が、易いです。」
「あっ、ああ、すまない。つい。」
「大丈夫です。貴方に依頼を受けたミーは、この屋敷に来る途中にあるいつものヌイグルミ屋さんに立ち寄って、このクマさんのヌイグルミさんを今回の報酬で絶対に買おう!って、高まりながら屋敷に来ました。」
「クマさんのヌイグルミさんって、キミ。ん?いや待てよ?いつものって事はだぞ?僕がキミを何回も何回も雇っているって事かい?」
「はい。」
「何てこった・・・・・・。」
「まあ、大金持ちには、有りがちですよ。」
「無いがちであって欲しかったもんだよ。で?」
「はい。そして、ミーが屋敷に着き、チャイムを鳴らして貴方が、インターフォン越しに受け答えをしたあと、貴方が屋敷の中から玄関のロックを遠隔で解き、ミーは屋敷の中へ。」
「ふむ。」
「大きな扉が閉まると同時に、貴方は2階の部屋から出て来て、1階のミーを見下ろしてました。」
「ちょっと待ってくれ。」
「はい。」
「僕は、何もキミが朝起きてから夜寝るまでの話を聞きたいんじゃないんだよ!肝心なのは、僕が一体何に巻き込まれて!僕が一体どんな危機的な状況下に陥って!僕がそんな緊急事態からキミと、一体どうやって屋敷まで辿り着いて!そして僕は、これから一体どうすればいいのかを聞きたいんじゃないか!」
「ですから、終わりです。」
「終わり?終わりって、キミは、やっぱり僕の命を!」
「違いますよ。命がじゃなくて、話がここで終わりって意味です。」
「ん?」
「ん??」
「と、言う事はアレかい?」
「アレですね。」
「やっぱり。アレなんだな?」
「アレしかないですね。」
「何かが終わったどころの話じゃないんだね?」
「それどころのじゃない話です。」
「つまりは?」
「はい。その直後、貴方が階段を踏み外して転げ落ちちゃったんです。」
「ぎゃふん!」

第二百八十八話
「まだなーんにも始まってない!」

「な、何をしてるんだ!?」
「って、事なんで!さあ!行きますよ?」
「い、行くって、一体どこへ?」
「ふふ。決まってるじゃないですか!仕事、ですよ。」
「いやでも、僕はまだ記憶が!」
「貴方がこのまま時間が過ぎても目覚めなかった時は、ミーも今回の仕事とクマさんのヌイグルミさんは諦めてました。でも、貴方は時間ギリギリで目を覚ましました。もうこれは行くしかありません!」
「それはアレかい?クマのヌイグルミの為にかい?」
「違いますよ!何処かで亡くした貴方の大切な想い出を取り戻しに行く!、為ですよ。」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
「レッツゴー!」
「・・・・・・・・・やれやれ。」

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2011年12月28日 (水)

「第二百八十九話」

第二百八十九話
「288世界観ver.」

 大きな屋敷の2階にあるその広い部屋。
「ここは?」
「もしや?記憶を無くされたのですか?ここは、貴方の家です。」
ロッキングチェアに座るツインテールの少女が緩くなった額のタオルを取り替え様とした時、ベッドに横たわる初老の男性は目を覚ました。ツインテールの少女は、額のタオルを取り替えながら、初老の男性の質問に笑顔で答えた。
「ここが僕の家?」
ボーッとする頭の中を探りながら、初老の男性は大きな両目をキョロキョロとさせ、その広い部屋を隅々まで見ていた。
「ふふっ。」
そのほっそりとした体型から初老の男性がするその動作に何か、腹話術師が扱う人形の様なモノを重ね合わせたツインテールの少女は、思わず笑ってしまった。
「キミは?まさか!?僕の孫かい?」
「いいえ。違います。」
初老の男性がする質問に、少女はツインテールを揺らしながら、首を横に振り、答えた。
「なら、キミは?」
「殺し屋です。」
「殺し屋!?」
ツインテールの少女の口から出た予想もしなかった答えに、初老の男性は、思わずベッドから上半身を起こしていた。
「ふふっ。そんなに驚かなくても。」
初老の男性が驚いてその大きな両目を見開くその動作に、どこか南国のジャングルの中にいる小さなサルを重ね合わせたツインテールの少女は、その反動で床に落っこちた冷たいタオルを拾い、丁寧に折り畳み、ベッドの横の丸いテーブルの上に置きながら、また、思わず笑ってしまった。
「な、何が可笑しい!」
「いえ、何でもありません。」
「何でも無い訳がないだろ!祖父と孫の関係性ならまだしも!屋敷の主と殺し屋の関係性だぞ?」
「う~ん?・・・・・・・・・有りがち?」
「無いがちだ!」
広い部屋の少し高い天井を眺めた後、首を傾げながら答えたツインテールの少女に初老の男性は、一喝した。
「まあまあ、そんなに興奮しないで下さいよ。」
「さてはアレだな?」
「アレ?」
「そうだ!アレだ!」
「アレ??」
「アレに決まってる!」
「もしかすると?ミーが貴方を見て笑ったのは、こんな状態の貴方なら、いとも簡単に殺せる、から?、とか?」
「そうだ!それだ!それしか考え付かない!」
「どーして?」
「どーしてもこーしても、目の前に殺し屋だって名乗る人間がいたら!名乗られた側がまず1番に考え付く考えだからだ!」
「う~ん?・・・・・・じゃあ、アレだなぁ?」
「アレ?」
「うん、アレ。」
「何だ?アレとは?」
「アレです。だったら、アイドルとか言っちゃえば良かったなぁ?って、ね。」
「だったらだったで、僕は記憶を無くす前の僕を疑うよ!年甲斐もなく何をしてんだって、一言物申したいよ!」
「そんなぁ。アイドルを好きになるのに、年齢とか立場とか関係無いですよ。」
そう言うとツインテールの少女は、ロッキングチェアから身を乗り出して、グッと顔を初老の男性に近付けた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・殺し屋なんだよね?」
「はい!」
少女は、ツインテールを揺らしながら、首を縦に振ると、体を元の位置に戻し、ロッキングチェアを少し揺らしながら、笑みを浮かべた。初老の男性はと言うと、少しだけ頬を赤らめていた。
「か、仮にキミがアイドルだったら、それはそれで何か僕が誘拐した事になるじゃないか!」
「どーしてそう、なっちゃうかなぁ?階段みたいなとこから落っこちたミーを、貴方が命懸けで助けてくれたのかもですよ?」
「で、僕をキミが病院まで連れてってくれて、病院から家まで連れてってくれて、ずーっと今まで看病してくれてたって言うのかい?」
「はい。」
「アイドルなのにかい?毎日毎日、忙しいって言うのにかい?」
「アイドルだからとか関係無いですよ。アイドルだって目の前で困ってる人がいたら、助けたいって気持ちは、みんなと一緒でしょ?」
「って、殺し屋なんだよね?アイドルじゃなくて?」
「はい。アイドルじゃなくて、殺し屋です。」
「じゃあ、今の話を殺し屋に置き換えてだね。僕はたまたま殺し屋のキミが、階段みたいなとこから落っこちたのを助けたって事でいいのかな?」
「いくないです。だって今のアレは、あくまで私がアイドルだったらバージョンのフィクションですから。」
「ならやっぱり僕を殺すつもりなんだろ!」
「う~ん?記憶を無くす人、何人か見た事ありますけど、ここまで記憶を無くす前と無くした後とで、価値観が全く変わってないと、本当に記憶を無くしてるんだか、疑ってしまいますねぇ。」
ツインテールの少女は、腰の両脇に両手の甲を当て、首を傾げた。
「それはアレかい?」
「アレです。」
「僕って人間の記憶だけ無いバージョンってヤツかい?」
「御名答!」
ツインテールの少女は、腰に当ててた右手を胸元にもっていき、その人差し指をピーンと立てて、天井を指差した。
「なら、キミは一体?まさか僕が雇ったとでも!?」
「御名答!」
「馬鹿な!?何の為に!何の為に僕は殺し屋なんて!?しかも少女!?」
「その少女ってとこは、余計です。これでも成功率3桁に近いんですよ?」
初老の男性は、何かを必死に思い出そうと、頭を抱えていた。
「何が起きてるって言うんだ!?何が!ああーっ!果てしなく思い出せないー!」
「あのう?ミーの話、聞いてました?」
頭を抱えてうつ向くベッドの上の初老の男性を、ツインテールの少女は、ロッキングチェアから身を乗り出して下から覗き込んだ。
「なあ!」
「うわっ!?」
そんなツインテールの少女の両肩を初老の男性は両手で掴み、大きな両目を見開いた。鬼気迫るその形相から、ツインテールの少女もさすがに、それを何かに重ね合わせる事は無かった。
「お願いだ!教えてくれ!僕が記憶を無くすまでの事を!頼む!」
「分かりました。の前に、手、放してもらえると話が、易いです。」
「あっ、ああ、すまない。つい。」
初老の男性は、両手を膝元に戻すと、大きな両目でツインテールの少女を見つめた。その動作に雲霧林に生息するカエルを重ね合わせたツインテールの少女は、込み上げてくる笑いを必死に押し殺しながら、一呼吸置き、話を始めた。
「大丈夫です。貴方に依頼を受けたミーは、この屋敷に来る途中にあるいつものヌイグルミ屋さんに立ち寄って、このクマさんのヌイグルミさんを今回の報酬で絶対に買おう!って、高まりながら屋敷に来ました。」
「クマさんのヌイグルミさんって、キミ。ん?いや待てよ?いつものって事はだぞ?僕がキミを何回も何回も雇っているって事かい?」
「はい。」
「何てこった・・・・・・。」
「まあ、大金持ちには、有りがちですよ。」
「無いがちであって欲しかったもんだよ。で?」
「はい。そして、ミーが屋敷に着き、チャイムを鳴らして貴方が、インターフォン越しに受け答えをしたあと、貴方が屋敷の中から玄関のロックを遠隔で解き、ミーは屋敷の中へ。」
「ふむ。」
「大きな扉が閉まると同時に、貴方は2階の部屋から出て来て、1階のミーを見下ろしてました。」
「ちょっと待ってくれ。」
「はい。」
「僕は、何もキミが朝起きてから夜寝るまでの話を聞きたいんじゃないんだよ!肝心なのは、僕が一体何に巻き込まれて!僕が一体どんな危機的な状況下に陥って!僕がそんな緊急事態からキミと、一体どうやって屋敷まで辿り着いて!そして僕は、これから一体どうすればいいのかを聞きたいんじゃないか!」
「ですから、終わりです。」
「終わり?終わりって、キミは、やっぱり僕の命を!」
「違いますよ。命がじゃなくて、話がここで終わりって意味です。」
「ん?」
「ん??」
初老の男性が首を傾げると、一緒になってツインテールの少女も首を傾げた。
「と、言う事はアレかい?」
「アレですね。」
「やっぱり。アレなんだな?」
「アレしかないですね。」
「何かが終わったどころの話じゃないんだね?」
「それどころのじゃない話です。」
初老の男性が傾げた首を元に戻すと、一緒になってツインテールの少女も傾げた首を元に戻した。
「つまりは?」
「はい。その直後、貴方が階段を踏み外して転げ落ちちゃったんです。」
「ぎゃふん!」
「まだなーんにも始まってない!」
「な、何をしてるんだ!」
「って、事なんで!さあ!行きますよ?」
驚く初老の男性の顔をもうしばらくで何かと重ね合わせられそうな気持ちを押し殺し少女は、ツインテールを揺らしながらロッキングチェアから立ち上がると、初老の男性の右手を両手で掴んだ。
「い、行くって、一体どこへ?」
「ふふ。決まってるじゃないですか!仕事、ですよ。」
「いやでも、僕はまだ記憶が!」
「貴方がこのまま時間が過ぎても目覚めなかった時は、ミーも今回の仕事とクマさんのヌイグルミは諦めてました。でも、貴方は時間ギリギリで目を覚ましました。もうこれは行くしかありません!」
「それはアレかい?クマのヌイグルミの為にかい?」
「違いますよ!何処かで亡くした貴方の大切な想い出を取り戻しに行く!、為ですよ。」
そう言うとツインテールの少女は、初老の男性にウィンクを投げ掛け、力強くその右手を引っ張った。
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
初老の男性は、その力にベッドから引きずり出された。
「レッツゴー!」
ツインテールの少女は、初老の男性の右手から、左手は右手の甲を握ったまま右手だけを放し、その腕を高い天井に突き出した。
「・・・・・・・・・やれやれ。」
そう呟くと、まだ記憶の戻らない初老の男性は、唯一記憶にあるあのツインテールの少女の笑顔と力強く暖かな温もりと思い出せるまでの想い出を一語一句、細部に至るまで鮮明に記憶を巻き戻していた。そして、長く瞑っていた目を開けると、ツインテールの少女が眠る墓にクマのヌイグルミを捧げ、初老の男性は、泣いた。

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