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2011年12月28日 (水)

「第二百八十九話」

第二百八十九話
「288世界観ver.」

 大きな屋敷の2階にあるその広い部屋。
「ここは?」
「もしや?記憶を無くされたのですか?ここは、貴方の家です。」
ロッキングチェアに座るツインテールの少女が緩くなった額のタオルを取り替え様とした時、ベッドに横たわる初老の男性は目を覚ました。ツインテールの少女は、額のタオルを取り替えながら、初老の男性の質問に笑顔で答えた。
「ここが僕の家?」
ボーッとする頭の中を探りながら、初老の男性は大きな両目をキョロキョロとさせ、その広い部屋を隅々まで見ていた。
「ふふっ。」
そのほっそりとした体型から初老の男性がするその動作に何か、腹話術師が扱う人形の様なモノを重ね合わせたツインテールの少女は、思わず笑ってしまった。
「キミは?まさか!?僕の孫かい?」
「いいえ。違います。」
初老の男性がする質問に、少女はツインテールを揺らしながら、首を横に振り、答えた。
「なら、キミは?」
「殺し屋です。」
「殺し屋!?」
ツインテールの少女の口から出た予想もしなかった答えに、初老の男性は、思わずベッドから上半身を起こしていた。
「ふふっ。そんなに驚かなくても。」
初老の男性が驚いてその大きな両目を見開くその動作に、どこか南国のジャングルの中にいる小さなサルを重ね合わせたツインテールの少女は、その反動で床に落っこちた冷たいタオルを拾い、丁寧に折り畳み、ベッドの横の丸いテーブルの上に置きながら、また、思わず笑ってしまった。
「な、何が可笑しい!」
「いえ、何でもありません。」
「何でも無い訳がないだろ!祖父と孫の関係性ならまだしも!屋敷の主と殺し屋の関係性だぞ?」
「う~ん?・・・・・・・・・有りがち?」
「無いがちだ!」
広い部屋の少し高い天井を眺めた後、首を傾げながら答えたツインテールの少女に初老の男性は、一喝した。
「まあまあ、そんなに興奮しないで下さいよ。」
「さてはアレだな?」
「アレ?」
「そうだ!アレだ!」
「アレ??」
「アレに決まってる!」
「もしかすると?ミーが貴方を見て笑ったのは、こんな状態の貴方なら、いとも簡単に殺せる、から?、とか?」
「そうだ!それだ!それしか考え付かない!」
「どーして?」
「どーしてもこーしても、目の前に殺し屋だって名乗る人間がいたら!名乗られた側がまず1番に考え付く考えだからだ!」
「う~ん?・・・・・・じゃあ、アレだなぁ?」
「アレ?」
「うん、アレ。」
「何だ?アレとは?」
「アレです。だったら、アイドルとか言っちゃえば良かったなぁ?って、ね。」
「だったらだったで、僕は記憶を無くす前の僕を疑うよ!年甲斐もなく何をしてんだって、一言物申したいよ!」
「そんなぁ。アイドルを好きになるのに、年齢とか立場とか関係無いですよ。」
そう言うとツインテールの少女は、ロッキングチェアから身を乗り出して、グッと顔を初老の男性に近付けた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・殺し屋なんだよね?」
「はい!」
少女は、ツインテールを揺らしながら、首を縦に振ると、体を元の位置に戻し、ロッキングチェアを少し揺らしながら、笑みを浮かべた。初老の男性はと言うと、少しだけ頬を赤らめていた。
「か、仮にキミがアイドルだったら、それはそれで何か僕が誘拐した事になるじゃないか!」
「どーしてそう、なっちゃうかなぁ?階段みたいなとこから落っこちたミーを、貴方が命懸けで助けてくれたのかもですよ?」
「で、僕をキミが病院まで連れてってくれて、病院から家まで連れてってくれて、ずーっと今まで看病してくれてたって言うのかい?」
「はい。」
「アイドルなのにかい?毎日毎日、忙しいって言うのにかい?」
「アイドルだからとか関係無いですよ。アイドルだって目の前で困ってる人がいたら、助けたいって気持ちは、みんなと一緒でしょ?」
「って、殺し屋なんだよね?アイドルじゃなくて?」
「はい。アイドルじゃなくて、殺し屋です。」
「じゃあ、今の話を殺し屋に置き換えてだね。僕はたまたま殺し屋のキミが、階段みたいなとこから落っこちたのを助けたって事でいいのかな?」
「いくないです。だって今のアレは、あくまで私がアイドルだったらバージョンのフィクションですから。」
「ならやっぱり僕を殺すつもりなんだろ!」
「う~ん?記憶を無くす人、何人か見た事ありますけど、ここまで記憶を無くす前と無くした後とで、価値観が全く変わってないと、本当に記憶を無くしてるんだか、疑ってしまいますねぇ。」
ツインテールの少女は、腰の両脇に両手の甲を当て、首を傾げた。
「それはアレかい?」
「アレです。」
「僕って人間の記憶だけ無いバージョンってヤツかい?」
「御名答!」
ツインテールの少女は、腰に当ててた右手を胸元にもっていき、その人差し指をピーンと立てて、天井を指差した。
「なら、キミは一体?まさか僕が雇ったとでも!?」
「御名答!」
「馬鹿な!?何の為に!何の為に僕は殺し屋なんて!?しかも少女!?」
「その少女ってとこは、余計です。これでも成功率3桁に近いんですよ?」
初老の男性は、何かを必死に思い出そうと、頭を抱えていた。
「何が起きてるって言うんだ!?何が!ああーっ!果てしなく思い出せないー!」
「あのう?ミーの話、聞いてました?」
頭を抱えてうつ向くベッドの上の初老の男性を、ツインテールの少女は、ロッキングチェアから身を乗り出して下から覗き込んだ。
「なあ!」
「うわっ!?」
そんなツインテールの少女の両肩を初老の男性は両手で掴み、大きな両目を見開いた。鬼気迫るその形相から、ツインテールの少女もさすがに、それを何かに重ね合わせる事は無かった。
「お願いだ!教えてくれ!僕が記憶を無くすまでの事を!頼む!」
「分かりました。の前に、手、放してもらえると話が、易いです。」
「あっ、ああ、すまない。つい。」
初老の男性は、両手を膝元に戻すと、大きな両目でツインテールの少女を見つめた。その動作に雲霧林に生息するカエルを重ね合わせたツインテールの少女は、込み上げてくる笑いを必死に押し殺しながら、一呼吸置き、話を始めた。
「大丈夫です。貴方に依頼を受けたミーは、この屋敷に来る途中にあるいつものヌイグルミ屋さんに立ち寄って、このクマさんのヌイグルミさんを今回の報酬で絶対に買おう!って、高まりながら屋敷に来ました。」
「クマさんのヌイグルミさんって、キミ。ん?いや待てよ?いつものって事はだぞ?僕がキミを何回も何回も雇っているって事かい?」
「はい。」
「何てこった・・・・・・。」
「まあ、大金持ちには、有りがちですよ。」
「無いがちであって欲しかったもんだよ。で?」
「はい。そして、ミーが屋敷に着き、チャイムを鳴らして貴方が、インターフォン越しに受け答えをしたあと、貴方が屋敷の中から玄関のロックを遠隔で解き、ミーは屋敷の中へ。」
「ふむ。」
「大きな扉が閉まると同時に、貴方は2階の部屋から出て来て、1階のミーを見下ろしてました。」
「ちょっと待ってくれ。」
「はい。」
「僕は、何もキミが朝起きてから夜寝るまでの話を聞きたいんじゃないんだよ!肝心なのは、僕が一体何に巻き込まれて!僕が一体どんな危機的な状況下に陥って!僕がそんな緊急事態からキミと、一体どうやって屋敷まで辿り着いて!そして僕は、これから一体どうすればいいのかを聞きたいんじゃないか!」
「ですから、終わりです。」
「終わり?終わりって、キミは、やっぱり僕の命を!」
「違いますよ。命がじゃなくて、話がここで終わりって意味です。」
「ん?」
「ん??」
初老の男性が首を傾げると、一緒になってツインテールの少女も首を傾げた。
「と、言う事はアレかい?」
「アレですね。」
「やっぱり。アレなんだな?」
「アレしかないですね。」
「何かが終わったどころの話じゃないんだね?」
「それどころのじゃない話です。」
初老の男性が傾げた首を元に戻すと、一緒になってツインテールの少女も傾げた首を元に戻した。
「つまりは?」
「はい。その直後、貴方が階段を踏み外して転げ落ちちゃったんです。」
「ぎゃふん!」
「まだなーんにも始まってない!」
「な、何をしてるんだ!」
「って、事なんで!さあ!行きますよ?」
驚く初老の男性の顔をもうしばらくで何かと重ね合わせられそうな気持ちを押し殺し少女は、ツインテールを揺らしながらロッキングチェアから立ち上がると、初老の男性の右手を両手で掴んだ。
「い、行くって、一体どこへ?」
「ふふ。決まってるじゃないですか!仕事、ですよ。」
「いやでも、僕はまだ記憶が!」
「貴方がこのまま時間が過ぎても目覚めなかった時は、ミーも今回の仕事とクマさんのヌイグルミは諦めてました。でも、貴方は時間ギリギリで目を覚ましました。もうこれは行くしかありません!」
「それはアレかい?クマのヌイグルミの為にかい?」
「違いますよ!何処かで亡くした貴方の大切な想い出を取り戻しに行く!、為ですよ。」
そう言うとツインテールの少女は、初老の男性にウィンクを投げ掛け、力強くその右手を引っ張った。
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
初老の男性は、その力にベッドから引きずり出された。
「レッツゴー!」
ツインテールの少女は、初老の男性の右手から、左手は右手の甲を握ったまま右手だけを放し、その腕を高い天井に突き出した。
「・・・・・・・・・やれやれ。」
そう呟くと、まだ記憶の戻らない初老の男性は、唯一記憶にあるあのツインテールの少女の笑顔と力強く暖かな温もりと思い出せるまでの想い出を一語一句、細部に至るまで鮮明に記憶を巻き戻していた。そして、長く瞑っていた目を開けると、ツインテールの少女が眠る墓にクマのヌイグルミを捧げ、初老の男性は、泣いた。

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