« 「第二百八十五話」 | トップページ | 「第二百八十七話」 »

2011年12月 7日 (水)

「第二百八十六話」

「いや、何で?」
「何で、と言われましても困ります。」
ぽい部屋に、ぽい年老いた男と、ぽい年老いた男がテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
「何でと言うだろ。」
ぽい白い服に身を包んだ男は、だいぶ前からイライラしていた。
「まあ、何でと言うかもしれませんね。」
ぽい黒い服に身を包んだ男は、だいぶ前から落ち着いていた。
「ならアンタ、そりゃ冷やかしって言うんだぞ?」
「冷やかし?私は決してその様な気持ちで、この研究所に足を運んだつもりはありません。」
「だったら!アンタの超能力とやらを見せたらどうなんだ!」

第二百八十六話
「完全超能力者」

ぽい白い男は、沈黙したぽい黒い男に堪らず席を立ち、ぽい部屋をぽい髪をグシャグシャとかきむしりながらウロウロし、ぽい窓の前に立ち、ぽい景色をしばらく眺めると、深く深呼吸をし、再び席に着き、ぽい黒い男を前にし、話し出した。
「ここは、この世界の科学の最先端を行く研究所だ。で、その片隅にひっそりと存在するこの部屋は、月に数人やって来る不届き者を判定する部屋だ。やれ、自分は物体を宙に浮かす事が出来るだの。やれ、自分は念写が出来るだの。やれ、自分は透視が出来るだの。やれ、この子にはテレパシーがあるだの。念力、発火、予知、消失、瞬間移動、エトセトラ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「簡単に言うなら、超能力と言う非現実的な力が自分にはあるんだと、科学者のお墨付きをもらう為に、わざわざお粗末な宴会芸を披露しに来てくれる訳だよ。時には、いい暇潰しにはなるが、それ以上にはならない。逆に研究の邪魔になる事が多々、と言った具合だ。」
「私は、本物の超能力です。」
「それはもう、何度も聞いたよ。それに、その魔法の言葉を唱えなきゃ、ここにこうして来れなかっただろうし、私にも会う事はなかったろうからな。」
「完全超能力者。私は、自分の事をそう呼んでいます。」
「全ての超能力が使える。アンタは、私が席に着くなりそう口にした。」
「ええ。」
「で、私は手始めにカードを透視してみてくれと、頼んだ。」
「ええ。」
「そしたら、アンタはこう言った。出来ません、と。」
「ええ。」
「確かそう、部屋の時計が正確で、私の記憶が確かなら、2時間前の話じゃなかったかな?」
「ええ。」
「あれから私は、私の知る限りの超能力を見せてくれと、アンタに頼んだ。だが、アンタの答えは決まっていつも、出来ません、と来たもんだ。」
「ええ。」
「これのどこが冷やかしじゃないと言うんだっ!」
ぽい白い男は、堪らず両手でテーブルを叩いた。砂糖とミルクたっぷりのコーヒーとブラックコーヒーが、コーヒーカップから少しだけテーブルへこぼれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ぽい部屋に暫く沈黙が流れると今度は、ぽい黒い男が話し出した。
「本物の超能力者にとって、超能力と言う力が、どの様な存在だかを考えた事がありますか?」
「あいにく、本物の超能力者に出会った事がないからな。考えた事はないが、きっと便利で優越感に浸れる力なんじゃないか?それに、簡単に金儲けも出来るしな。」
「どうやら博士、貴方は超能力者の事を何も分かってはいないようですね。」
「何だって?」
「優越感に浸れる。金儲けが出来る。明るく楽しい人生を歩める。エトセトラ。」
「何が言いたい?」
「つまり、それら全ての欲望的観点からの素晴らしくハッピーな発想は、超能力を持たない人間から生まれて来るものだと言う事ですよ。」
「なに!?」
「簡単に言うなら、病気で学校を休んだクラスメイトを羨む、健康な子供の発想とよく似ている。」
「空を飛べたり、壁をすり抜けられたり、時間を止めたり、時間を戻したり、手を使わず自由に物を動かせたり、瞬時に移動出来たり、相手の考えてる事が分かったりしたら、楽しいじゃないか。」
「博士?その発想が既に、健全な人間の発想なのです。」
「すると何か?アンタ達超能力者ってのは、それが苦痛なのか?嫌で嫌で仕方無いのか?」
「ええ。」
「バカな!?」
「私達は、超能力と言う特殊な力を与えられた代わりに、とても大きなものを奪われたのです。」
「奪われた?何を奪われたと言うんだ。」
「普通に生活すると言う、在り来たりで単純な、人の一生です。」
「何を言い出すのかと思ったら、そんな事か。そんな事で、誰もが羨む力を手に出来るなら、いいじゃないか。」
「ふざけるな!」
「!?」
今度は、ぽい黒い男が両手でテーブルを叩いた。そのいきなりの出来事に、ぽい白い男は驚き、ただただ唖然としていた。
「取り乱してしまって、すいませんでした。」
「あ、ああ。」
「誰もが羨む力ですか。しかし、博士?現実は、そう簡単には我々を生かしてはくれません。本物の超能力を前に人間とは、恐怖するのです。それはもう、想像以上にです。まるで化け物を見る様な目で恐れ、超能力を妬み、腫れ物に触るかの様に遠ざかって行くのです。最終的に私達に残される道とは、社会から突き放された孤独。本当の自分を隠すと言う偽り。真実を語る事が許されない幽閉。光の下での闇の人生。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「それが、本物の超能力者が人前に現れずにいる存在理由です。」
「いやしかしだな。実際に警察の捜」
「それは、中途半端な超能力者だからです!」
「なに!?」
「本物の超能力者ならば、失踪者や行方不明者、殺人犯の発見率は100%!いや、むしろ事件すら未然に防ぐ事が可能でしょう!」
「バカな!?」
「事件にならなければ、事件を事件として認識出来ない貴方達には、理解出来ない領域です。」
「どう言う意味だ。」
「私も以前、予知夢で何度も殺人事件や放火などを未然に解決しました。もちろんそれは、個人的にです。しかしどうでしょう?事件にならないのですから、加害者も被害者もその事実を認識せずに今も普通に日常生活を送っている。事件にならないのだから、誰もその事実を信用しようとはしない。」
「当たり前だ。アンタの言ってる事は、アンタの妄想が作り出した殺人事件なんだからな!」
「なら博士?娘さんが殺されていた方が良かったと?」
「何だと!?」
「ハイスクール時代に殺されていたら、3人のお孫さんの顔も見る事は出来なかったのですよ?」
「・・・・・・ジョークだろ?」
「こうしていつもいつも、人助けがジョーク扱いになってしまう。そんな現実に堪えられる超能力者など存在しません。なぜなら、本物の超能力者と言えども、心は普通の人間と何一つ変わらないのですから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ぽい白い男は、ぽい黒い男から目線を外さず、深く深呼吸をした。いや、正確には目線を外す事も瞬きをする事すらも、出来なかった。そして、ゆっくりとぽい白い男は、話し出した。
「そこまで言うのになぜ、アンタは、私に超能力を見せようとしないんだ。」
「だから、何度も言っているじゃありませんか。出来ません、と。」
「つまりそれは、今までの話が虚言と言う事か?」
「虚言ではありません。そして私は、こうも言いました。私は完全超能力者、だと。」
「だから、全ての超能力が使えるんだろ?だったら、今すぐにでもそれを証明したらどうなんだ。」
「証明するもなにも博士?私は既に、超能力を使っています。」
「な、なに!?」
「本物の超能力者が羨む超能力。」
「超能力者が羨む超能力だと?」
「ええ。長年の独自の研究で手にする事が出来たのですよ。」
「一体その超能力とは、何なんだ。」
「超能力を消し去る超能力ですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そう言うと、ぽい黒い男は、ぽい白い男を残し、ぽい部屋を出て行った。そして一人残された、ぽい白い男は砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がり、ぽい髪をグシャグシャかきむしりながらぽい窓の所へ行き、ぽい景色を黙ってしばらく眺めると、ぽい部屋のぽい黒い男が出て行った、ぽいドアを見ながら言い放った。
「何じゃそりゃ!!」

|

« 「第二百八十五話」 | トップページ | 「第二百八十七話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/42816755

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百八十六話」:

« 「第二百八十五話」 | トップページ | 「第二百八十七話」 »