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2012年1月11日 (水)

「第二百九十一話」

 ここは、どこかの動物園である。そこの立派な髭を蓄えた園長と背の高い細身の飼育員の青年は、園内を歩きながら、今日の開園の準備をしていた。
「園長?」
「なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・いや、なに?」
「・・・あの・・・園長?」
「だから、なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「やっぱいいです。」
「ええーっ!嘘だろ?おい!嘘だと言ってくれよ!なあ!」
「いや、何もそんな感じにならなくても!」
「何か言いた気感たっぷりだったのに?やっぱいいですは無いだろ?ゾウじゃあるまいし、そりゃ無いだろ?サイならまだしも!」
「いや、ゾウとかサイとか、キリンとかライオンとか、バイソンとかアライグマとか、そう言うのは関係無いと思います。」
「君にとっては関係無いかもしれないが、私にとっては、とても重要な事なんだよ!ペリカンとかガゼルとかな!コンドルとかインパラとかな!」
「何ですか、その大きい鳥とそんな感じの動物の組み合わせは?」
「ゴリラみたいな事を言ってるんじゃないよ!もっとヤギを見習いなさい!ヤギを!」
「いやもう、園長!全く言ってる意味が分かりません!動物園の園長だからって、動物の名前を乱発されても困りますよ!」
「ペンギン的だな!」
「はい?」
「その態度が、ペンギン的だと言ってるんだ!もっと、コビトカバやスローロリス的な発想が出来ないのか?君は!」
「言葉を真に受けて答えるならば、出来ませんよ。そんな発想!」
「バンビだな!」
「えっ?」
「バンビだ!君は!」
「ああ、はあ、もう何かそんな感じでいいです。」
「だがね。私が君にこうして厳しく言うのは、バンビな君に、ホワイトライオンやホワイトタイガーや白イルカの様になって欲しいからなんだよ。」
「厳しく言われてた事に、厳しく言ってると言われて初めて気付きましたし、どうなって欲しいのかも動物でなく言ってもらわないと、ちょっと。アルビノになれって事ですか?いやまあ、それでも全くとして、何一つ理解不能ですけどね。」
「アルマジロ!!」
「え、園長?」
「アルマジロ!アルマジロ!」
「くしゃみとか、くしゃみでいいですから、そんな無理に動物の名前を組み込んでたら、喉が変になっちゃいますよ?」
「で?」
「はい?」
「君は、一体何を私に言い掛けたんだ?」
「いや別に、何でも無いですよ。」
「ポメラニアン!」
「園長?」
「ポメラニアン!アルマジロ!」
「せめて、一つにしましょうよ。くしゃみの種類。だいたい、ポメラニアン動物園で見た事ないし、見た事あってもそれはお客さん側だし、何かもうルールが滅茶苦茶じゃないですか。ルールを説明されたとこで、ですけども。」
「ゴリラみたいな事を言ってるんじゃないよ!いいから早く言い掛けた事を話したらどうなんだ?」
「いや、いいですよ。今さら言っても仕方無いんで。」
「クジャクか君は!」
「はい?」
「クジャクか君は!と言ったんだ!」
「いや、聞き取れなかった事での、はい?じゃないんですよね。これが。」
「気になるだろ?単純にあんな風に話し掛けられて、何でも無かったじゃ、夜も眠れないだろ!」
「いや、本当に何でも無いんですよ。気にしないで下さい。さあ、もうすぐ開園ですから、準備を急ぎましょうよ。」
「無理だろ!」
「えっ?」
「この状況でさぁ?うん!分かった!今日も、いっぱいのお客さんの、いっぱいの笑顔を見るのが楽しみだ!頑張ってこーっ!おーっ!ってならないだろ。なあ?仮にもし、君が私に同じ感じに話し掛けられたとしたら?やっぱり君も今の私同様、カピバラな気持ちになるだろ!」
「もう、どうしても何か動物の名前を入れないと死んじゃうんですか?」
「死んじゃう!!」
「なら仕方無い!だったら、しょうがない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・何ですか?」
「何ですかでなくて!言いなさいよ!ほら!プレーリードッグ的に!ほら!」
「いや、言ってもどうにもならないし、聞いてもどうにもならないですから、もういいんですよ。さっきのは、無かった事にして下さい。」
「ゴリラみたいな事を言ってるんじゃないよ!」
「そこのブレ無い感は、何なんですかね?ほら、園長?」
「ん?」
「開園まであと10分ですよ?」
「はっは~ん?」
「実際にそんな感じでジロジロ見て来る人に遭遇したの初めてですよ。」
「なるほどね。」
「何がですか?」
「そう言う事か。」
「どう言う事ですか?」
「開園時間をいい事に、君は話をはぐらかそうって、魂胆ね。ミーアキャットって事ね。」
「違います。別に、そう言う訳じゃないですよ。」
「そうは、オオカミ!ブタウシヒツジだ!」
「いやもう、本っっっっ当にっ!何を言ってるんですか?」
「今日は、君が言い掛けた話をするまでは、開園しない!モルモットに誓ってな!」
「どうぞ勝手に誓ってて下さい。」
「何だと!?」
「園長がそうなら、僕一人で開園の準備をしますから!」
「乗っ取りか!この動物園を乗っ取るつもりなんだな!なるほど、だいたい始めから君はどうもスカンクだとは思ってたが、フクロウなカンガルーだったとは、チンパンジーもフタコブラクダだーっ!今すぐカワウソからホッキョクグマしてリスリスリス!もう、ウサギ!ウサギ!ウサギだーっ!ア、ア、アルマジロ!アルマジロ!アールマジロ!ちくしょう!」
「ギュッと詰め込み過ぎでしょ!あと5分で開園です。僕は、行きますから、園長一人でそうして動物の名前をいっぱい言ってて下さい。」
「お、おい。冗談だよ。少し私も言い過ぎたよ。なっ?この通りだ!オラウータン!」
「どの通りなんですか?」
「ちょちょちょ、待ちなさい!バンドウイルカか君は!」
「意味が分かりません。」
「ちょっと早いって!歩くの早いから!するから!開園するからさぁ?なっ?話してくれいか?ヒョウジャガーチータ!ヒョウジャガーチータ!ハイエナハイエナ!」
「・・・・・・・・・もう開園1分前なんで、閉園の時に話しますよ。」
「本当だな?」
「本当です。」
「それは、モルモットに誓ってか?」
「モルモットには誓いません!」
「何でーっ!」
「何でもです!」
「まあ、それはそうと、今日は晴れてる事だし、お客さんいっぱいだと、いいな!」
「だといいですね。」
「ジンベイザメだな!」
「それは意味が分かりません!」
「アルマジロ!アルマジロ!」
「風邪ですか?」
「かもな。」
「病院行った方がいいですよ?」
「君は優しいな。フラミンゴだな。」
「意味が分かりません。」
「またまた、ゴリラみたいな事を言ってるんじゃないよ。」
「それも分かりません。」
ここは、間も無く開園するどこかの動物園である。動物は、まだいない。

第二百九十一話
「動物のいない動物園」

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