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2012年2月29日 (水)

「第二百九十八話」

 朝日が昇るまで、あと2時間。それは、奴が消えるまでの時間。だが、奴って?奴って誰なんだ?俺の横で震える女は、それを語ろうとはしない。

それは、俺がリビングのソファーで、甘いチョコレートと甘いココアで、凄まじくつまらないホラー映画を観ながら寛いでいた時だった。そんなホラー映画のお陰で、あと少しで夢の世界へと旅立てた。だがそれは、叶わなかった。誰かが物凄く激しくドアを叩いたんだ。最初は、夢なのかと思ったが、テレビでは相変わらずなホラー映画が流れていたから、これは夢じゃないと分かった。なぜなら、これが夢なら、俺はもっと面白いホラー映画を俺に観せているからだ。そんな事を考えながら玄関に向かうと、俺はドアを開けた。するとそこには、見知らぬ女がずぶ濡れで立っていた。もちろん外は雨なんて降っていない。
「お願いします!助けて下さい!」
女に助けを求められて断るなんて、俺には出来なかった。

俺は女をリビングに招き入れ、タオルと洋服を手渡し、リビングを出た。甘いココアをキッチンで作り、リビングのドアの前に立ち、これで女がまだ着替え途中なら仕方ないと、ドアを開けた。するとそこには、ずぶ濡れのままの女が立っていた。俺の中に、着替えないと言う選択肢がなかっただけで、女の中にあったのなら、それはそれで仕方ない。ただ、食い入る様に、凄まじくつまらないホラー映画を観てるのは、理解出来なかった。
「これは?」
床が気になったが、床が濡れる事を気にしたって、今は仕方ない。それよりも気になるのは、女が異様に、それこそ濡れた髪の毛をタオルで拭く事や着替える事をやめてまで、凄まじくつまらないホラー映画に食い入ってる事の方だ。
「ああ、深夜によくある定番のホラー映画さ。」

そう、オーソドックスでスタンダードなそれは、広い屋敷でなぜか一人で住んでる女の元へ真っ黒なシルエットの殺人鬼が、どこからともなくやって来るってストーリーだ。なぜ、女は屋敷から出ないで、屋敷の中だけを駆け回るのか?なぜ、殺人鬼はこれ程までに女を殺したいのか?まあ、そこを掘り下げるのは逆にルール違反で、こうなるとオーソドックスでスタンダードなコメディーと同じで、展開には安心感すら覚える。その安心感でホラー映画を観ながら俺は、夢の中へと誘われた訳だが、女は違った。ガタガタと震え出したんだ。
「何で?」
女が口にする何では、同時に俺の何ででもあった。
「どうして?」
その言葉もまた、同時に俺の言葉でもあった。
「まあ、とりあえずソファーに座って、甘いココアでも飲んで落ち着くといい。」
こう言う時は、こうするのが一番だ。甘いココアは、このホラー映画同様、展開を裏切らない。
「もしかして貴方!・・・・・・いえ、何でもないわ。ごめんなさい。」
女が自分に善からぬ事をしようとしているのかを警戒してなのか?だが、存在自体が意味深な女の意味深な発言を気にする暇は、びしょ濡れのソファーを前にした俺にはなかった。
「一体、何があったんだ?どうしてずぶ濡れなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
人には誰でも、誰にも聞かれたくない話が1つや2つあるもんだ。だがそれは、礼儀とは別の話だ。いい加減、睡眠を邪魔されてまで親切にしてる俺も頭に来るってもんだ。
「朝になるまで、何も聞かないで下さい。朝日が昇るまで、お願いします。アイツが消えるまで、お願いです。」
俺は、ソファーの横の女を危うく追い出す過ちを犯す寸前だった。だったらだったで、その朝日を待つだけだ。甘いココアを飲みながら、甘いチョコレートを食べながら、凄まじくつまらないホラー映画を観ながら、その時を待つだけだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
朝日が昇るまで、あと2時間。それは、アイツが消えるまでの時間。だが、アイツって?アイツって何なんだ?俺の横で震える女は、それを語ろうとはしない。そして俺は、それを聞こうとはしない。それがさっきこのリビングで生まれたルールだからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
しかし、こうも退屈な状況は、凄まじく辛い。だから俺は、せめてホラーからコメディーにする為、チャンネルをザッピングした。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ど、どう言う事だ!」
どのチャンネルにも屋敷の中を逃げ惑う女を追い掛ける殺人鬼が映し出されていた。その時、俺は気付いた。どのチャンネルにも映し出されてる屋敷を逃げ惑う女は、俺の横で震える女と、瓜二つだと言う事を。そして、画面が屋敷の外から窓越しに女を映し出した時、外は大雨だと言う事も同時に気付いた。

第二百九十八話
「逃げて来た女」

俺はそこで考えた。朝日を待ってアイツが消えるのを、ただただじっとこうして甘いチョコレートを食べながら、甘いココアを飲みながら、待っていていいのだろうか?と。女がここに居ると言う事は、殺人鬼がここに来るって事なんじゃないか?と。だが、だからと言って、俺に何が出来る?今すぐ家を飛び出して、車に乗って女と朝日が昇るまでドライブにでも行くか?いや、それよりもこ
「ドガーン!!」
「キャッ!」
雷の音と女の悲鳴で一瞬、何が起きたのかパニックになりそうになったが、それは展開を裏切らない展開のホラー映画の展開だと、俺に抱き付き震える女を笑ってやろうと思ったが、画面に映し出された稲光に照らされた殺人鬼の素顔が俺だったのには、さすがの俺もパニックにならざるを得なかった。

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