« 「第二百九十六話」 | トップページ | 「第二百九十八話」 »

2012年2月22日 (水)

「第二百九十七話」

 その店は、地上の商店街と地下の商店街を繋ぐ階段の途中、くすんだ壁の1箇所に7色の扉が目印の1/2階に佇んでいた。

第二百九十七話
「ポエム屋」

「あのう?誰かいませんか?」
そして今日も1人、若い女性の客が7色の扉を開け、ポエム屋へと足を踏み入れた。
「いるよ
いるよ
いつも貴女の側にいるよ
いるよ
いるよ
いつの貴女の傍らにいるよ
いない時があると感じた日は
ほら隙間をご覧よ?
ほら隙間の方へと
闊歩
ねっ?
いるよ」
「何か恐いわ!」
店の隙間から、派手なTシャツと派手なズボン姿に派手なバンダナを頭に巻いた小柄の女性が現れた。
「って、お店の方ですか?」
「イヤァ!」
「ここって、ポエム屋さんなんですよね?」
「イヤァ!」
「凄く目がチカチカする店内には、何も置いてないですけど、詩集を売っている訳ではないんですか?」
「お姉さん?何をすっとぼけた事、抜かしちゃってんの?」
「えっ?」
「その大きな両目は、お顔のインテリアかしら?」
「てか、何か口悪くありません?」
「目の前にあるじゃない。」
「何が?」
「詩集よ!ポエムよ!」
「ってまさか!?」
「イヤァ!アタシがポエム!客の希望通りのポエムをアタシが築くの!アタシが詠うの!オーケィ?」
「表現が著しく独特だけど、ワタシがオーダーしたポエムを貴女が作ってくれるって事よね?」
「ハイファーイブ!」
「えっ?」
「ハイファーイブ!」
「こ、こう?」
客の女性は、小柄の女性が広げた両手に、同じく広げた両手を合わせた。
「イヤァ!」
「何か凄く面倒臭いわね。」
「んで?どんなポエムを欲しているのかし、ら?」
「欲してるって、でもちょっと待って?登場のあの感じからして、貴女の力量が分からないわ。」
「アタシのポエム力を疑ってんの?」
「疑うも何も、まだそのステージにすら立っていないって事よ。」
「オーケィ!なら、試詩する?」
「なぜ、わざわざ言いにくい方を選ぶの?ずっとポエム、ポエム言っておいて。」
「んで?試詩すんの?しないの?しないんだったら、最初のポエムをお買い上げになるわよ?」
「最初の恐い詩の事?そんなのボッタクリもいいとこじゃない!するわよ!試詩するわよ!」
「んで?お題は?」
「ねぇ?ねぇねぇ?まず、お客さんとお店の関係性を築けない?」
「お題がないなら、最初のポエムをお買い上げって事でオーケィね?」
「ノーサンキューに決まってるでしょ!あるわよ!お題!」
「なら、さっさとセイ!」
「気分が明るくなるポエムをお願い!」
「リスン!」
「これで変なポエム作ったりしたら、ブッ飛ばすからね!」
「昨日の疲れや嫌な事
忘れるために今日は
目覚ましよりも早く
太陽よりも早く
目を覚ましてアタシ
お気に入りのワンピを着て
お気に入りの靴を履いて
お気に入りの香水を振り撒いて
家電量販店へと
照明売り場へと
闊歩闊歩」
「確実にふざけているか?確実に才能ないかでしょ!」
「お買い上げ?」
「願い下げよ!」
「じゃあ、次!」
「ね?才能あるなら、真面目にやってよ!」
「さっさとセイ!」
「・・・・・・・・・じゃあ、あえて泣きたいって感じのポエムをお願い。」
「リスン!」
「私も暇じゃないんだからね?本当は、ブッ飛ばさないと思ったら大間違いだからね?」
「あえて泣きたい気分
そんなブルーな言い分
誰も聞いてくれない
あえて泣きたい気分
こんなブルーな身分
誰も受け入れてくれない
ネオンな街を闊歩
さ迷い闊歩なアタシ
辿り着いたの
辿り着けたの
家電量販店へと
TVコーナーへと
cry cry cry」
「丁度、コメディー映画が流れてたら泣けないじゃない!って、そこじゃないわね!何なの?家電量販店とこの店は提携しているの?」
「してないけど?何か?」
「だったら、どうしていつも闊歩して辿り着く先が、家電量販店なのよ!」
「たまたまじゃない?」
「いや、貴女のさじ加減でしょ!」
「お買い上げ?」
「こんなお怒りのお客さんを前にして、よくぞ言えたわね!」
「ハイファーイブ!」
「しないわよ!ねぇ?ちょっと自由過ぎでしょ!」
「お題が悪いのよ!」
「そーゆーシステムの店で、そーゆー事を言う!言っちゃうんだ!だったら、自由に作ってご覧なさいよ!」
「オーケィ!ラブな感じのヤツ、いくよ?リスン!」
「いいわよ。」
「胸が苦しいの
胸が苦しいの
貴方を想うと
胸が凄く苦しいの
昨日も今日も
たぶん明日もアタシは
胸が苦しいの
ほんのちょっとでいいの
勇気が欲しいの
ほんのちょっとでいいの
貴方が欲しいの
だから
闊歩、闊歩
そう
闊歩、闊歩
今からアタシは貴方の
体の1部を貰いに行きます
鋭い目付きで
闊歩、闊歩
右手にナイフ
闊歩、闊歩
出来れば右目
闊歩、闊歩
もうすぐ貴方の家に
辿り着きます」
「分かった。分かっちゃった。家電量販店よりも数倍、どうやら貴女は闊歩がお好きなようね?お気に入りなようね?」
「そう?」
「ポエムの中で闊歩させるから変な事になるんじゃない!家電量販店に行ったり、好きな相手の家に行ったりって、ラブの方向性!おかしいでしょ!」
「ラブはラブじゃん!お買い上げ?」
「貴女が良くても!ワタシが嫌なのよ!今のポエム買って、ワタシがどっかで口ずさんでみなさいよ!とんだ犯罪者じゃない!」
「税込みで」
「買わないから!買いませんから!」
「ワガママね?」
「どっちがよ!」
「貴女!」
「貴女がね!もう!癒されようと思って来たのに、イライラさせられっぱなしじゃない!」
「実は、お姉さん?アタシが1番得意とするポエムは、癒しのポエムなの!」
「ああそう。」
「とっととセイ!」
「ね?ポエム聞く前に、ブッ飛ばしてもいい?」
「リスン!」
「とことんね!とことん唯我独尊ね!」
「森森森森もーり
緑緑緑緑みーどり
せせらぎせせらぎ
心地好い風
森森森森もーり
緑緑緑緑みーどり
とどろくとどろく
滝の水しぶき
森森森森もーり
緑緑緑緑みーどり
さえずりさえずり
鳥のオーケストラ
闊歩する
闊歩する
爽やかな朝の森の中を
闊歩する
闊歩する
健やかな霧の森の中を
闊歩する
闊歩する
軽やかなリズム刻みながら」
「・・・・・・・・・。」
「どう?」
「・・・・・・・・・。」
「お買い上げ?」
「うん!そんなに悪くない!」
「イヤァ!」
その店は、地上の商店街と地下の商店街を繋ぐ階段の途中、くすんだ壁の1箇所に7色の扉が目印の1/2階に佇んでいた。

|

« 「第二百九十六話」 | トップページ | 「第二百九十八話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/44221467

この記事へのトラックバック一覧です: 「第二百九十七話」:

« 「第二百九十六話」 | トップページ | 「第二百九十八話」 »