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2012年4月

2012年4月 4日 (水)

「第三百三話」

 一見、全てが怪しいこの潜水艦内。誰が、犯人なんだ?誰が、誰が・・・・・・犯人なんだ・・・一体。
「やはり!やはり潜水艦内に化け物がいるんだ!」
一見、どこからどう見てもコック。だが彼は、生粋の化け物マニアなコック。彼は、最初の事件が起きた時から、化け物、化け物と騒ぎ立て、艦内を駆け回ってかき乱していた。化け物、化け物と騒ぎ立てている化け物マニア。しかしその実態は、彼自身が化け物。有り得る!この推理は有り得るぞ!化け物が化け物と叫ぶ、すると回りはまさか化け物と叫ぶ彼自身が化け物だなんて疑うはずもない。人間の心理を上手く逆手にとった化け物らしい作戦だ。だが私は騙されない!私はそんなに馬鹿ではない!深海の悪魔の正体は、彼だ!
「いや、待てよ?」
いや、待てよ?としか言わないこの潜水艦の艦長。この一見、どこからどう見ても艦長もまた怪しい。怪しいと言うか、艦長が口にする、いや、待てよ?が、乗組員達にどれほど紛らわしい影響を及ぼす事か!分かっているのか!艦長!その口癖でよく艦長になれたな!艦長!しかし、最初の事件が起きた時、私は艦長の部屋で艦長とチェスを嗜んでいた。いや、待てよ?が39回を越えた時、事件は起きた。艦長が犯人と言うのは有り得ない。いや、待てよ?艦長がアリバイ作りの為に私とチェスを嗜んでいたのだとしたら?
「ギギギギギ!」
一見、どこからどう見ても謎のロボットに見えるこの謎のロボット。チョロチョロ、チョロチョロと、艦内を動き回っているが、何をしてるんだ?警備ロボットか?だとしたら!だとしたら何て役立たずなロボットなんだ!作ったヤツ出て来い!だが、もしもこのロボットのメインコンピューターが暴走し、自我が目覚め、人間を敵だと判断し認識し、この一連の事件を巻き起こしたのだとしたら?だとしたら、まずいんでないか?謎のロボットをこんな近くで観察しているのって、非常にまずいんでないか?でも、この大きなバケツとしか表現出来ないガラクタの産物に、果たして本当に複雑怪奇な事件が起こせるのだろうか?てか、邪魔なだけではないだろか?狭い艦内でこの大きさは?
「ガオー!」
一見、どこからどう見てもライオン。って、何でライオン?何でライオンが潜水艦に?と、最初に潜水艦に乗り込んだ時に感じた疑問は、今でも変わらずに心のド真ん中にこうして存在している。まあ、何か事情があるんだろう。例えば、食料?何か緊急的な事態に遭遇した時用の食料?なら、この緊急事態!食っても良いのか?逆に食われそうな感じすらしてやまないけど、食っても良いのか?ライオンって、美味いのか?ライオンって、生でも平気なのか?ライオンって、毒無いよな?って、まてまて、このライオンが緊急的な事態に遭遇した時用の食料でなかった場合、私はどうなる?もしかしたら、超貴重なライオンだとしたら、どうする?この世に1匹しか存在しない特別なライオンだとしたら、どうする?そのライオンをこの潜水艦が運んでいるのだとしたら?それがこの潜水艦のミッションだとしたら?それを食ってしまった私は・・・・・・・・・。ただし、だからとてこのライオンが事件の容疑者から外れた訳ではない。あまりにも残忍過ぎる事件をこのライオンが引き起こしたのだとしたら、納得がいく。とりあえず事件が解決したら、誰かにライオンの事を聞こう。気になり過ぎてたまらない!
「待てません!」
一見、どこからどう見ても副艦長に見える紅一点の女副艦長。怪しいと言えば怪しいが、怪しくないと言えば怪しくない。ただ、いや、待てよ?の艦長の後に、待てません!の副艦長の口癖が続けば良いのだが、待てません!の副艦長の後に、いや、待てよ?の艦長の口癖が続くと、もはや艦内はパニック寸前だ!しかし、怪しいと言えば怪しいが、怪しくないと言えば怪しくない。そんな人間が一番怪しいのも事実!
「風邪やね。」
一見、どこからどう見ても船医に見えるこの老人。噂では、昔、人体実験をしたとか、人造人間を作ろうとしたとか、若い女性を連れ去ったりとか、黒い噂が枚挙に暇がない。完全に犯人候補だ。いや、犯人だろ!間違いないだろ!そーだー!そーだー!ただ、噂当時ならまだしも今となっては、骨と皮だけのこの船医に、あんな奇々怪々な事件が起こせるのだろうか?結局なんだかんだで、全ての診断結果が、風邪やね。の一言で済ませる船医に、一体何が出来る!
「おす!」
一見、どこからどう見ても誰?って思えるこの男。招かれざる乗組員とでも言うべきか。雪山の山小屋に突然現れた登山家の如く、海中の潜水艦に突然現れたダイバーだ。何か、大昔に沈んだ海底都市を調査中に、海底遺跡の岩に挟まれて身動きがとれなくなっていたとこを、たまたま潜水艦が通り掛かって助けたと言うのが経緯だ。そして、目的地が同じだと言う理由で今もまだ、同乗している訳だ。招かれざる客ってヤツは、楽観的な人種と相場は決まってる。この男に一連の奇想天外な事件が起こせ・・・ちょっと待てよ?もしも、男が調査していた海底都市が、その昔、何かの呪いによって沈んだのだとしたら?男は、呪いによって、一連の事件を巻き起こしたのかもしれない!呪いなら、有り得る!呪いなら、全ての辻褄が合う!
「開かずの扉・・・・・・か。」
一見、どこからどう見ても普通の扉にしか見えない開かずの扉。私は今、誰も開けた事のない扉を開けようとしていた。全てが怪しい潜水艦内だが、その潜水艦内で、もっとも怪し過ぎるのが、この開かずの扉の向こう側だ。怪しい潜水艦内の怪しい乗組員達を隈無く調査したとこで、全ての糸が事件の一歩手前で途切れてしまう。そしてもはや私に残された事件解決への道は、ここしか残されていない!この先に必ずやこの一連の残忍な事件を解決する鍵があるはずだ!待ってろよ!絶対に事件を解決してみせるからな!潜水艦探偵の名に懸けて!

第三百三話
「犯人はまだ決まっていない」

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2012年4月11日 (水)

「第三百四話」

目覚めた朝は、何時もの朝で、ただ今朝は少し雨が降っていたぐらいでやはり、何時もの朝と他は何一つ変わらなかった。
「チン!」
トーストが焼き上がる頃にはもう、仕事へ行く準備が整っていた。テーブルに広げた新聞を読みながらトーストを口に運び、エスプレッソで流し込む。
「ゴックン!」
相変わらず記事の内容は頭の中に入って来ない。
「ジャー!」
皿とカップを流しに置き、とりあえずの洗い物は休日に持ち越す事にした。後はネクタイを絞めて上着を着れば準備万端。頭の中で忘れ物が無いかをシュミレーションをしながら鍵を手にドアを開け、心の中で行ってきますと無人の部屋へ一声掛けてからドアを締めた。
「ガチャガチャ!」
小雨の降る何時もの通勤路。マンション出入口の階段を降り右へ、小学生達と擦れ違いながら最初の信号を渡り真っ直ぐ、少し歩いて右へ、消防署の横断歩道を渡り左へ、暖かくなって来たとは言え、日陰はまだまだ寒い。ポケットの中の手は無造作に鍵とライターを弄っていた。商店街を真っ直ぐ抜けると地下鉄の入り口、階段を下り人の波に逆らいながら改札へ、また階段を下りると何のトラブルもなく何時もの時刻に何時もの車両へ乗り、2駅。
「ガタンゴトン!」
電車を降りて階段を上り改札へ、人の波の1部となって階段を上り、商店街を真っ直ぐ歩きながら、せめて明日からは新聞の天気予報欄だけは読もうと思いながら商店街を抜けて斜め左へ、三又を左へ行き突き当たりを右へ、考えたくないが今日の仕事での失敗ばかりが頭の中を巡っていた。考えても仕方の無い様な事を考えてしまうんだから、自然と笑えてくる。
「ザァァァァァァ!」
それがどしゃ降りなら尚の事、地球上で今1番惨めな生物は自分なんじゃないかと錯覚する。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
気付くと部屋のドアの前に立っていた。鍵を開けながら、今日も郵便受けを開けるのを忘れた事に気付いたが、それは明日の自分に託す事にして部屋の中へ。
「シャァァァァァァ!」
お風呂へ直行し冷えた体を暖め気持ち良く歌なんて歌いながら湯船に浸かっているとカレーの良い匂いがした。
「ゴォォォォォォォ!」
だいぶ伸びた髪をドライヤーで乾かしながら次の休日にでも切りに行くかと考えていると、カレーの良い匂いに反応して、お腹が鳴った。
「グゥ~!」
部屋着を着てテーブルにつくとそこには心を癒すカレーライスがあった。全ての感覚と全ての感情と全ての細胞が求めていたカレーライス。

第三百四話
「母のカレーライスに敬礼!!!」

「いただきます。」
その想像上のカレーライスを一気に食べそして、今日も眠りについた。

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2012年4月18日 (水)

「第三百五話」

 ベンチに座り、公園のグラウンドで小学生野球チームが、次の大会への出場を決める予選決勝戦の試合を観戦しているお爺さんがいた。
「隣、いいですかな?」
「どうぞどうぞ。」
そこへ、お爺さんがもう1人やって来て、ベンチに腰掛けた。
「よっこいしょ!」
「野球、お好きですか?」
「いえ、それほどではありませんが、こうして少年達がする野球を観るのは好きですな。」
「私もです。」
二人は、顔を見合わせて笑った。
「まだ、点数は入ってないようですな。」
「ええ、なかなかの接戦です。」
「接戦ですな。」
「出来ればどっちも大会に出場させてやりたいもんです。」
「そうですな。」
「しかし、それは出来ない。」

「ですな。」
「それにしても今日は、絶好の野球日和ですね。」
「そうですな。これ程の野球日和はこの時期滅多にないですからな。」
「ここ最近は、天気が悪かったですからね。」
「どんよりでしたな。散歩したくても雨を警戒して、結局は降らなかったなんて日ばっかりでしたからな。本当に今日は、絶好の野球日和ですな。」
「傘を持ち歩いて散歩も鬱陶しいですからね。」
「そうですな。」
「あっ!ヒットでノーアウトのランナーが出ましたよ!」
「おおっ!ヒットでノーアウトのランナーが出ましたな。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ!三振だ!」
「三振ですな。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ!また三振だ!」
「また、三振ですな。」
「あっという間にツーアウトですね。」
「あっという間でしたな。けど、野球はツーアウトからと言いますからな。」
「言いますね。」
「もしかしたら、もしかするかもしれませんな。」
「もしかしますかね?ホームランですかね?」
「かもしれませんな。」
「野球の醍醐味ですね。」
「野球の醍醐味ですな。」
「出るか!」
「出ますかな?」
「打て!えっ!?」
「なっ!?」
「頭に当たりましたか?」
「どうやら頭に直撃ですな。」
「バッターの少年、倒れちゃいましたけど、大丈夫ですかね?」
「大丈夫ですかな。」
「相手のピッチャーも心配そうに見てますね。」
「心配そうに見てますな。」
「動きませんよ?」
「動きませんな。」
「動きませんよ?」
「動きませんな。」
「ああ、たくさん人が集まってきましたよ?」
「たくさん人が集まってきましたな。」
「まだ動きませんよ?」
「まだ動きませんな。」
「これって、まさかですかね?」
「そのまさかかもしれませんな。」
「このタイミングだったんですかね?」
「タイミングだったのかもしれませんな。」
「あの少年、死んじゃったんですかね?」
「死んじゃったのかもしれませんな。」
「だったら、やっぱり可哀想ですね。」
「しかし可哀想とは、一概には言えませんな。」
「なぜです?」
「大好きな野球をしてる最中に死んだとしたら、それはもしかしたら、少年にしたら本望だったのかもしれませんですからな。どうせ死ぬなら、そんな死に方なのかもですな。」
「ポジティブですね。」
「実際には生まれて間も無く死んでしまう赤子もいますからな。」
「まあ、そうですけど、あっ!動いた!」
「生きてましたな。」
「生きてましたね。」
「こんな事もあるもんなんですな。」
「あるもんなんですね。」
「では、私はこれで失礼しますかな。ここに居てもしょうがいですからな。」
「私は、ここまで観ていたので最後まで試合を観ていきますよ。」
「野球日和ですからな。」
「ええ。絶好の野球日和ですから!」
「また、どこかで会えるといいですな。」
「きっと会えますよ。」
後から来たお爺さんは、ベンチから腰を上げると、帽子を少し浮かし、軽い会釈をすると風景に溶け込むように消えて行った。それを見届けると、少年野球を観ていたお爺さんはまた、再開された試合を観戦していた。

第三百五話

「死神達の午後」

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2012年4月25日 (水)

「第三百六話」

 気付くと俺は、目の前の人間の首を絞めていた。

第三百六話
「呪いの街に住む男」

「ここがなぜ、呪いの街と言われてるんだ?」
車を降りた俺は、サングラスを外し、街を見渡し呟いた。都市伝説にもならない都市伝説を取材するのが俺の仕事だ。都市伝説を取材してる同業の間では、そんな俺自身の事が都市伝説になってるぐらいだった。そして、今回の取材は、呪いの街に住む男、だ。何時間も車をブッ飛ばし、辿り着いたゴーストタウン。なぜか男は人口1人のこの街で、カフェを営んでた。
「注文は?」
見たところ60代に見えるやつれた男だったが、見様によったら、40代かもしれない不思議な雰囲気を醸し出してた。俺はとりあえずコーヒーとスクランブルエッグとトーストのセットを注文した。男は、黙ったまま厨房の方へと、ゆっくり歩いていった。店の真ん中にUの字型のカウンターがあり、左右に4人掛のテーブルが3つずつあり、カウンターの奥に厨房があった。厨房はガラス張りで、男が調理してる姿が見えた。店内は緑を基調とした作りで、右奥にジュークボックスが置いてあった。街並みに比べると、あまりにも不釣り合いな空間で、逆にこの生活臭が気持ち悪かった。
「お待ちどう。」
店内を見渡してた俺の目の前に、男はスクランブルエッグとトーストが乗った皿とコーヒーを置いた。
「なかなか美味そうじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
それらは、お世辞にも美味そうだなんて言えた代物じゃなかった。スクランブルエッグとトーストは焦げ付き、コーヒーからは、コーヒーの香りがしなかった。
「いや、本当に何て言うか、独創的で美味そうだよ。ここまで足を運ばなきゃ味わえない味とでも言うのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
今にも吐き出しそうだった。スクランブルエッグとトーストを逆によくぞここまでの味にしたと、誉めたいぐらいだった。口の中のこれらを流し込もうと口に含んだコーヒーがまた、何とも独創的過ぎて俺には難し過ぎる味だった。
「ケチャップあるかい?」
ここで俺は、初めて調味料の有り難みを知った。この世にケチャップと言う素晴らしい発明を生み出してくれた、どっかの誰かに俺は、個人的に何かをプレゼントしたくなった。
「はいよ。」
「これは?」
「自家製のケチャップだ。」
この世に神が本当に居ないんだと感じた瞬間だった。男が差し出したケチャップがケチャップと言うなら、俺が今まで目にして来たケチャップは、一体何だったんだ?
「自家製とはまた、随分と凝ってるじゃないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そもそもの概念として、俺にケチャップを植え付けたケチャップの発明者を俺は恨んだ。ここまで来たら、明日の心配をしてる場合じゃない。体がどうなろうが取材は俺にとって命より大事なもんだ。俺はベタベタした汚いビンの蓋を開けると、スクランブルエッグの上に得たいの知れないドロドロの紫色の物をかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
カウンターの中で男は黙って俺を見ていた。紫色のスクランブルエッグをフォークで掬い上げ、俺は奇跡ってヤツに賭けてみる事にした。見た目でクソ不味いが実際は美味い食べ物なんて、この世に腐るほど存在する。これもその中の1つなんだと、俺は紫色のスクランブルエッグを口に運んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
奇跡なんてもんは、起きた後に、どっかの誰かが口にする事で、何かが起きる前に当事者が願う代物じゃない。
「・・・・・・・・・うっうっ!」
気付くと俺は、目の前の男の首を絞めていた。こんなもんを食わされて、果たして首を絞めない奴がいるんだろうか?殺意とは違う殺意。呪いの街に住む男の取材なんて、もはや記憶の片隅にもなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
男は白眼をむいて息絶えた。俺は、男を店の裏に埋めると、また数時間掛けて自宅へと戻った。もちろん、男を埋める時に、一緒に胃袋の中にあったもんも埋めてやった。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
家に着くと、妻が熱い包容と柔らかい唇で俺の帰りを迎えてくれた。
「お疲れ様。」
「本当に今日は、疲れたよ。」
「夕御飯の用意してあるから、早く来てね。」
「ああ。」
そう言うと妻は、ダイニングの方へと小走りに去っていった。助かった。そう心の底から思った。妻の手料理を食べて、今日の日の事は全て忘れよう。
「夕食はなんだ?」
「スクランブルエッグよ!」
「えっ!?」
テーブルの上にはスクランブルエッグ。その横には、紫色のケチャップが入ったベタベタした汚いビンが置かれていた。
「・・・・・・・・・・・・
うっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
気付くと俺は、妻の首を絞めていた。

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